第17話:復讐姫隊の「秘密事」!?
『各員、緊急招集! 双方向通信モニターの前に集合だ』
ゲッコー艦長直々の号令に、レクリエーションルームに集まっていたオレ達ムスチテルキ隊もすぐにモニターの前へと集まる。
「艦長直々とは……重大な問題が起きたのか?」
「さぁな」
「マサカ! ついに月面攻略作戦が始まるとか!?」
ツェラはこの作戦、準備期間も含めて二ヶ月はかかると言っていた。
もう一月は経ったが、そうだとしたら早すぎるような気はする。
『各部署、集まったな。では本題だ』
オレ達の中に緊張が走った。
『艦下層部にきのこの原木を持ち込んだ者がいる。怒らないから名乗り出なさい』
「へ?」
もしかして、要件はソレ?
「おこらない?」
そう静かに声を上げたのは……グルルだった。
「もしかして、原木持ち込んだのってグルル?」
グルルは首を縦に降る。
『ムスチテルキ隊フルク・グルル。何故だ? 理由を聞きたい』
「しいたけ……食べたかった」
『あのきのこはしいたけなんだな?』
「そう」
『わかった。危害は無いというのなら問題ない。今後、原木を持ち込む場合は事前に申請するように』
「わかった」
『今回は以上だ。各員、持ち場に戻ってくれ』
ってマジでそれだけかよ!
しれっと艦長席に戻り始めるゲッコー艦長に色々突っ込みたいところはあるが、それよりも……。
「ってか、ビィは知らなかったのか? グルルが原木持ち込んでんの」
『いやぁ、姉さんの考えは弟の僕にもわからないからね』
へらへらと笑うビィ。
『たしかに、荷物がやたら大きいなとは思ったけどね』
「双子のお前が気付かないで誰が気付けるんだよ」
『あ、双子だからってビビビッと理解し合えるとか思ってる? 僕らはそういうの無いから。うん』
「ビィは、しいたけ……たべたくない?」
『食べたいね!』
この弟、姉を甘やかし過ぎじゃあなかろうか。
いや、姉が姉だから仕方ないか……。
「しっかし、しいたけの原木かぁ。予測つかな過ぎだろグルルは」
オレは笑いながら言う。
「ってかサー、他にもナンか育ててるのいるんジャン?」
「育てるねぇ……ま、面白そうだけどよ」
そうオレ、シュヴィトジット・ヴラベツは興味あるけどやってません、みたいな態度だが実はみんなには黙っていることがあった。
オレの部屋の片隅。
そこそこ大きめの容器に植えられた一つの植物を。
それはトマトだ。
オレはトマトが好物だった。
それが高じてついに栽培を始めたのだが、それを艦内に持ち込んでいた。
予めネットで調べ、キットを購入し、室内でも問題なく成長するようになっている。
技術ってすごい。
とりあえず、後で艦長に報告だけはした方がいいのか?
グルルの原木栽培と比べたら十分許容範囲だと思うけど。
「たしかに。キョーミはあるジャン! でも大変そうよねー。しかも艦内で」
そう笑うアタシ、コソヴェツ=ショウパールチーオヴァー・アネシュカだけど、実はみんなにナイショで飼っている動物がいる。
いや、飼ってるってゆーか、勝手についてきちゃったんだケド……猫が。
名前はネチュカ。
そう言えば、誰にも言ったコトは無かったケド艦長くらいには許可を取った方がいーのかなァ。
完全に事後承諾になっちゃうケド、アタシも艦が出るまで気付かなかった。
仕方ないジャン?
「この艦の中でか。夢はあるな」
平静を装っている私、バルクホルン・アーデルハイトだが、そうか――そういうことをするには許可が必要なのか。
いや、冷静に考えれば当然か……。
私はこの艦のクルーの為を思ってと努めていたのだがな。
艦内のビオトープづくりを。
数種類の植物や動物、機材を持ち込み上層部の一部を緑化した。
人工の池も設置し金魚を放流。
今はまだ立ち入り禁止にしているが、完成した暁にはこの艦の癒しとなるだろう。
とりあえず、艦長の許可だ。
しっかりとプレゼンの用意をしなくては。
「アっちゃんも生き物とか興味あるんですねー」
かく言うわたし、ユウ・ナも飼っているトカゲのサーさんを持ち込んでいた。
それと、餌用のゴキブリを。
それはいいとして、一番の問題は餌用ゴキブリの飼育容器をひっくり返してしまって何匹か逃しちゃったんですよねー。
この艦内で。
もっと動きが遅い種類を飼育しとけばよかったー!
ま、まぁ、基本的に害はないですし?
ない、ですよね?
とりあえず不安ではあるので後で艦長に相談しに行きますかぁ……。
「ま、でも今の技術ならこんな艦の中でもどうとでもなりそうだよな」
「イロイロあんだっけ? 太陽光を再現できるようなライトとか」
「屋内や地下でも植物を育てられるというやつか」
「はぇ〜、そーいうのもあるんですねぇ」
「みんな、詳しい……興味あり?」
『少しは』
なんて話をしていると不意に鳴り響く警報。
「「侵攻者」か。ムスチテルキ隊、出るぞ」
『諒解!』
オレたちの装騎が宙域に出たのを見計らい、A.S.I.B.A.システムが擬似的な重力を再現させる。
それからすぐ、「侵攻者」の姿が目に入った。
「巨人型と亡霊型の混成部隊か。それと……」
A.S.I.B.A.の地面に降り立つ巨人型と、その重力にも逆らい宙を舞う亡霊型。
その背後にその姿はあった。
「騎士型か」
前回の戦闘でそれなりにダメージを与えたはずだが、傷は見えない。
まぁ、装騎だってよっぽどのダメージならパーツごと交換する。
それが騎士型もできないわけがないから当然か。
そして騎士型はどういうわけか――
「やはり来るかっ!」
アーデルハイトの装騎アインザムリッターを真っ先に狙ってくる!
「アーデルハイト、援護するぜ!」
「ああ。イーメイレンとイフリータは巨人型を。ククルクンは亡霊型。騎士型はアインザムリッターとスパルロヴで止めるぞ!」
『諒解!』
「でもなんで騎士型はアっちゃんを狙うんですかねぇー」
「さぁね。同じ騎士って見た目だしナンかあんじゃないの」
「決闘……」
「莫迦を言うな。真面目に戦え」
「ほーい」
護衛艦プラーステフからフチェラが発進し、迎撃態勢をとる。
そんな中で、オレとアーデルハイトは騎士型と対峙した。
相変わらず凄まじい速度で距離を詰めてくる騎士型「侵攻者」。
突撃剣による強烈な一撃を――装騎アインザムリッターは両手大剣で受け止める。
「ヴラベツ」
「おう!」
装騎アインザムリッターと騎士型「侵攻者」がぶつかりあい、動きを止める一瞬、オレは装騎スパルロヴを跳躍させた。
虚空にアズルの足場を作り、それを蹴る!
弾丸のように弾け飛ぶオレの装騎スパルロヴと――そしてその一撃!
「弾かれた!」
激しい圧が装騎スパルロヴを襲う。
騎士型の振り払った突撃剣が放つ重圧――その重い一撃にオレと、そしてアーデルハイトの一撃が弾かれたんだ。
「以前よりもキレが段違い。いや、この前は本気を出してなかった――とでも言いたそうだな!」
「いけすかねえよな! 今度こそ、ぶっ倒す!」
全力でアズルを燃やし、
「ヴラベツィー・ジェザチュカ!!」
霊子を纏った斬撃を繰り出す。
「行くぞ。ゲヴィッター」
装騎アインザムリッターも両肩のブースターに光を灯し、強烈な閃光となった。
だが騎士型も素早い。
背中のブースターを使い、宙を舞う。
A.S.I.B.A.システムの重圧を物ともせず、飛行した。
そう、飛行と言った方が正しいだろう。
「アイツ、慣れてるッ」
この状況での戦いに!
「A.S.I.B.A.の影響も弱そうだな……何故だ」
「わかんねーけど、疑似地上戦も宇宙空間での戦闘も手慣れてる。どこでそれだけのスキルを……」
「巨人型の戦闘データを集約された「侵攻者」――であれば説明はつくかもしれない」
アーデルハイトが冷静に分析を口にする。
「そのデータであれだけの「侵攻者」が作れるなら、他の巨人型とかだってもっと強くてもおかしくはないけど」
「量より質、今はそう判断してる可能性もなくはない。もっとも「侵攻者」の考えなど全く理解できないが」
「そりゃそーか。何にせよ今はアイツをぶっ倒すしかないしな!」
「その通りだ」
けれど高速で宙を翔る騎士型を捉えるのは至難の技だ。
特にこのA.S.I.B.A.の疑似重力に頼った戦い方では。
「ヴラベツ。たっぷり練習したんだろう? ついて来れるな?」
「ついていくさ!」
オレとアーデルハイトは疑似重力をオフにする。
装騎スパルロヴと装騎アインザムリッターが天地の無い宇宙空間に投げ出された。
いや、今までずっとここに立っていたのではあるけれど。
「だがもう立つところはない。道は自分で造れ。行くぞ」
「なんかイイこと言ったとか思ってる?」
「思ってない」
A.S.I.B.A.システムを利用し、蹴ったその場所に反発力を生み出す!
そして、宙を跳ぶ!
装騎スパルロヴと装騎アインザムリッターは宇宙空間を跳躍しながら加速――そして一気に騎士型へと迫る!
アズルを利用し何度も軌道を変えながら騎士型に一撃を放った。
けれど、騎士型も的確にオレ達の動きを見極め回避、防御をしてくる。
「ダメだ、全く歯がたたねぇ」
「……っ」
アーデルハイトも思わず黙り込んでしまうぐらい、二対一のこの状況でも戦況は思わしくなかった。
「グルル、亡霊型の数は!?」
「そこそこ……」
「アネシュカ、ナっちゃん、巨人型は――」
「待って、もう少し!」
「がんばってまぁーす」
他の援護は頼めそうにないか。
リブシェからの通信によると、増援も何度か来ているみたいだし、数がなかなか減らない。
「シュトロム……くっ」
瞬間、一撃を入れようとしていた装騎アインザムリッターの両手大剣ツヴァイヘンダーが弾き飛ばされる。
「アーデルハイト!」
装騎アインザムリッターの目の前に迫る騎士型。
「させるかよ!」
騎士型の放つ一撃を、装騎アインザムリッターに打たせはしない!
オレは全身のヤークトイェーガーに光を灯し、騎士型に向けて解放する。
つぶてのように放たれたヤークトイェーガー装甲の攻撃が騎士型「侵攻者」の攻撃の手を緩めた。
それだけじゃない。
「アーデルハイト、それを使え!」
装騎スパルロヴに搭載されたヤークトイェーガー装甲――それには持ち手が付いておりパージした後も短剣として使えるのだ。
「助かるっ」
装騎アインザムリッターはジャマダハルのような形になっている両腕用のヤークトイェーガーを掴み取ると、両手に構える。
「ヴラベツ、このまま同時に行くぞ」
「おうっ」
そして交差するオレ達の一撃!
それをバク転でもするように騎士型は回避。
けど、まだだ!
「アーデルハイト!」
オレは左手を装騎アインザムリッターに伸ばす。
装騎アインザムリッターは左手のヤークトイェーガーを放るとその手を掴んだ。
そのまま、勢いを利用して――装騎スパルロヴを反転させる。
「いけ!」
装騎アインザムリッターを軸にした遠心力で、装騎スパルロヴは騎士型を正面に方向転換。
「ヴラベツィー・シープ!」
『――――!』
オレの突撃攻撃は騎士型に傷をつけた。
「まだ浅いか!」
「だが、一撃は確かに入った」
その通りだ、この勢いで騎士型を――
「なんだ、巨人型か!?」
不意に目の前に現れた巨人型「侵攻者」。
騎士型が呼んだのか?
そうとしか思えないタイミング。
「ヴラベツィー・ジェザチュカ!」
騎士型と比べたら倒すのは造作もない――だけど、
「逃げる気か……」
アーデルハイトが呟く。
巨人型に足止めをさせたその隙に、騎士型はこの戦場から去って行った。
敵ながら見事すぎる動き。
また、仕留められなかったか……。
「だが悔やんでる場合ではない。一撃も入れられた。ならば次勝つだけだ」
「そうだな。それよりも今は巨人型か」
それからしばらくの交戦。
「侵攻者」も諦めたのか増援も途絶え、戦闘は終わった。
装騎を格納庫に戻し、オレは例のことを報告する為に指令室へ向かう。
「あれ、アネシュカ? どうしたんだ?」
「ちょっち艦長に用があってねー」
「ベっちゃんとカっちゃんもですかー」
「ナっちゃんも?」
「珍しいな。何か報告に行くのか?」
「アーデルハイトもか? そういえばいつも報告書とか出してたよな」
「それもあるが……」
「?」
「……なにしてるの」
「グルルも報告?」
「報告すること、ない。でもみんないっしょ。あやしくて」
それぞれ何か要件があるらしいオレを含めた四人と、みんないるからという理由でついてきたグルル。
どんな用があるんだ?
きっとこの場にいた誰もがそう思っていたに違いない。
「ムスチテルキ隊か。全員でどうした?」
『艦長。実は――』
オレ達四人の声が重なる。
この後、オレ達に変な連帯感が生まれたのは言うまでもないだろう。
インハリテッドメカニカル名鑑
「装騎ククルクン(Kklkn」
騎使:フルク・グルル
主武装:遠隔攻撃機ウング×14
操縦系:技呪術リンク操縦
動力:技呪術反応炉
魔力容量:わりとおおい
魔力出力:がんばりにおうじる
常態消費魔力:かるくはつかれる
装甲C 格闘D 射撃B 機動B 霊子S
グルルの乗るインヴェイダーズの持つ技呪術とマルクトの装騎技術を融合させた機甲装騎。
装騎を起動させた時や強烈な技呪術を使用する際、身体に独特の紋様が浮かぶことから紋章装騎とも呼ばれる。
白い姿に普段は翼のように背部にマウントされたウングはどこか神々しさすら覚える。
対「侵攻者」用に建造された装騎であり、グルルの完全専用騎。
ウングは"フィン"とも呼ばれるが、これは直感操作式襲撃端末(Fujavice z Instinktivního Nájezdu)という武装と性質が似ているからである。
名前の由来はマヤ神話の神でアステカのケツァルコアトルと同一視される神ククルカン。