第14話:チーム名は「復讐姫」
「霊子伝達接続正常、バッテリー状態問題なし、予備バッテリーも正常。霊子抽出開始――アズルリアクター稼働確認、魔電霊子の生成開始。出力安定。問題ありません」
「全艦、各兵装確認終了だ。問題も無い。艦長、何時でも出れる」
異界航行艦シュプルギーティスの指令室にオペレーター、リブシェとリュウガの声が響く。
「ビィ、護衛艦は?」
「問題ありません。全艦好調、技呪術感応も正常。いつでも行けますよ」
「わかった。総員に通達! 異界航行艦シュプルギーティス――発進するぞ!」
それが今から数時間前の話だ。
そして今――
「ヒマー、ちょーヒマー」
レクリエーションルームでアネシュカが机に突っ伏している。
月面侵攻作戦が発令され、オレ達の乗っている異界航行艦シュプルギーティスも中継基地から月に向けて進路を取った。
シュプルギーティス"も"とは言ったけど。
「てか、月面侵攻作戦? 「侵攻者」を一網打尽にする為の一大作戦? 他に艦はないのか?」
「無い」
ふと頭に浮かんだオレの疑問をアーデルハイトはそうばっさり言い切った。
「言っただろう。我々は選抜部隊だ。いや、我々"が"選抜部隊だ」
「それってつまり、他にはいない?」
「今はな」
「……正確には護衛艦もある」
グルルが呟くように口を開く。
「蜂の巣?」
「「侵攻者」一番の特徴はその数だ。月のコロニーでは次々と新たな「侵攻者」が製造されているという。それに対し私たち五人と異界航行艦一隻だけで手を出そうなど無謀だ」
「けれど……数で圧す。それはわたし達も得意」
「インヴェイダーズの無人兵器――ってことはプラーステフって……」
「そう、無人母艦――あなた達の言うアークサを元にしたインヴェイダーズの新造艦。そして新造兵器」
インヴェイダーズ戦争時、数で圧倒的に劣るインヴェイダーズが主力としていた無人兵器ガジャン。
そしてその運搬のための母艦アークサ。
それらをŽIŽKAの技術で発展させたのが護衛艦プラーステフとそこに搭載された無人兵器フチェラ――それがオレ達の戦いをサポートしてくれるらしい。
「兵器が、じゃない。わたし達が」
「グルル達が?」
「フチェラはわたしが、プラーステフはビィが操る。百人力」
いつもの淡々とした口調だが、親指をグッと突き出し長髪を陽気に揺らす。
「百人力ね。……千人力の間違いじゃねーの?」
「頑張る」
空いたもう片方の手もビッと突き出し、グルルは自信満々だ。
ま、相手の数に対する対策もある程度はできているってことか。
「もー、マジメな話もいーですけどこの人なんとかしてださいよー!」
ユウ・ナが焦れたような声を上げる。
そこでは暇を持て余したアネシュカに絡まれるユウ・ナの姿があった。
「なんとかっつったって」
「この人、わたしが配信者だってわかったら意味わからない絡みしてくるんですよ!? ステラーはお笑い芸人じゃないのにー!!」
「えー、札束バラ撒いたりしないのー!?」
「しません!」
「全く……コイツは」
アーデルハイトも頭を抱える。
「あ、そうだ! アタシさずっと考えてたんだけど」
「なんだよ……」
「アタシ達のチームに名前を付けない?」
『名前?』
オレ達四人の声が重なる。
「名前ならあるだろ。シュプルギーティス隊だ」
「ソレはこの船も合わせた名前ジャン」
「そこの装騎隊がオレたちだろ」
「ダッッッッ! わかってないわねー! わかってない、わかってないわぁ!」
わかってないわかってないと繰り返しながら左手をくるくると回し始めるアネシュカ。
なんでこんなにバカにされないといけないんだ?
ムカつく。
「装騎隊とかただの役職名ジャン。そうじゃなくて、もっとカッコいいのが欲しいのよ!」
「……例えば」
「例えば? うーん……ネーシャと愉快な仲間達、とか?」
「却下だ」
「あくまで一例よ一例! 大体アンタら分かってる? アーデルハイトって言ったっけ? アンタの所属はŠÁRKAっしょ」
「元はな」
「そのŠÁRKAだって元々はチーム名みたいなモンでしょ。そーゆーの欲しいの!」
そう言えば聞いたことがある。
ŠÁRKAという組織名の元になったのはオレのばあちゃんが学生時代、仲間を集めて作ったチームの名前が由来だと。
「人が集まればチームができる。チームができれば名前がつく! ってかベチュカもステラソフィア生ならわかるっしょ!?」
「まぁ、確かに機甲科にはチーム制があるけどさ……」
オレの所属するチーム・ブローウィングやシュピチュカの所属するチーム・オラシオン。
チーム名は確かにステラソフィア機甲科の伝統だ。
「装騎隊とかダッサイの。なんかイカす名前つけよージャン!」
「私はシンプルにそれくらいが丁度いいが」
「まっ、マジメでお堅いアンタならそうでしょうね。ほらほらそこのステラー様はなんかないのー?」
「えー、じゃあチーム・THEユウ・ナとかどうですかー」
「ないわー。次、グルルん!」
「絶対最強装騎隊」
「ナニ言ってるのかわかんナイ!!」
うがーと吠えるように仰ぐアネシュカ。
なにがアイツをここまで駆り立てるのやら……。
「ベチュカはナンかナイの!?」
「なんかっても……」
「もうこの際テキトーに思い付いたのでいいから!」
「テキトーに、ね……復讐者――いや、ムスチテルキ、とか?」
「復讐姫……?」
「いや、なんでもねーよ。最近見た映画が頭に残ってて……」
「なるほどね。いージャン!」
「いいのか?」
「まっ、他にいい案も浮かばないしね。十分ジャン。異論あるー?」
「私はない」
「……わるくない」
「そもそも興味ないんですがー」
「んじゃ、ムスチテルキ隊! コレで決定!」
テキトーに言ったのに決まってしまった。
まぁ、オレもさほど興味ないからどんな名前でもいいっちゃいいけどさ。
「さてと、それじゃあムスチテルキ隊としての初仕事――ゼヒほしーんだケド……」
鳴り響く警報。
悲しいことにタイミングはバッチリだ。
「発進準備だ。行くぞ」
「わぁい! ムスチテルキ隊、発進!」
アネシュカのノリノリな号令でオレ達装騎隊――ムスチテルキ隊は宇宙へ出た。
『A.S.I.B.A.システム起動します。設定はデフォルト!』
リブシェの操作で異界航行艦シュプルギーティスを中心にして擬似的に重力が再現された量子場が形成される。
「よし、どこからでもこいッ!」
『正面から来るわ! 小型の「侵攻者」――数が多いです』
「小型? 亡霊型か?」
『照合終了。あれは鳥型です!』
「鳥?」
聞いたことない名前だが、やがて見えてきたその姿は確かに鳥のようだ。
鋭い嘴に、大きく掲げた翼。
もっとも、その翼は微動だにせず鳥というかマンガやアニメに出てくる"飛行機"を思わせる。
「見たことない「侵攻者」ね。アンナンいたっけ?」
「ですねー。宇宙限定の激レア「侵攻者」とか?」
『宇宙限定というのは間違ってない。けど、レア度はノーマル』
答えたのはツェラだ。
『鳥型は主に斥候用の「侵攻者」。宇宙空間を飛び回り入植できそうな土地を探す。それと敵対生物に対しての囮が主な用途。つまりは使い捨て』
「……わたしたちの下級無人機みたいなもの、ね」
『そう』
「何にせよ、ブッ潰せばいーんでしょ! ムスチテルキ隊、DO BOJE!」
『ムスチテルキ隊……?』
「オレ達装騎隊の名前だってさ。ダメか?」
『構わない。むしろ、良い』
「そっか。じゃ、軽く片付けてくるぜ!」
『うん。気を付けて』
鳥型「侵攻者」は斥候と言われるだけあって戦闘能力は低かった。
ただ、小型なところと数が多いところ、それが……
「厄介だな」
オレは両使短剣イージークの出力を上げる。
そしてアズルを供給。
地上では滅多に使えない最大出力の霊子砲も――この宇宙なら使いやすい!
「ヴラベツィー・ヴァーニツェ!!」
嵐のようにアズルが渦巻き、怒涛の一撃が鳥型の群れを薙ぎ払う。
「やるジャン!」
「そう言うアネシュカは戦えてんのかぁ?」
「ハンッ、アタシを誰だと思ってんの?」
アネシュカの装騎イフリータが両手に構えた鎌剣ドラコビイツェを回転させた。
アズルがその刃に伝わり、霊子竜巻を巻き起こす。
その竜巻は鳥型「侵攻者」を引き寄せ、捕らえ、そして――
「切り裂く! ドラコビイツェ・トルナード!」
「派手な技もいいが、私たちを巻き込まないように気をつけるんだな」
さすがのアーデルハイト。
装騎アインザムリッターはA.S.I.B.A.システムを有効活用。
素早く的確に片手剣シュヴェルトの一撃で鳥型を片付けている。
「波塊結界・典兵嵩闘!」
ナっちゃんの装士イーメイレンが投擲した四本の華式直刀――その内側に発生した破壊の力が鳥型を飲み込み、
「花火花」
グルルの装騎ククルクンが射出する子機の放つ霊子が花火のように花開き弾け、鳥型を焼き払った。
今のところ順調!
この調子ならすぐにでも敵を仕留め終わる――なんて甘いこと考えてはいられない。
『増援確認! 反応が大きい……これは……種子型!』
『輸送用の「侵攻者」……と、いうことは』
暗闇の中から飛翔するのは、種子型という名前の通り植物の種――というかアーモンドのような形をした「侵攻者」だ。
そのサイズは大きく、異界航行艦シュプルギーティスとも並ぶだろう。
『シュプルギーティス、艦戦準備だ。標的は種子型「侵攻者」。撃て!』
ゲッコー艦長の指示で異界航行艦シュプルギーティスが霊子砲を種子型へ放った。
霊子の光が目を焼き、種子型を焼き尽くす。
「ヤった!?」
『やってない』
そこには確かに種子型の姿。
けれど気のせいか、最初に姿を見せた時よりも大きく膨れ――
「弾けた!?」
瞬間、種子型が弾け飛んだ。
そして中から何かが散らばるように出てくる。
機甲装騎に似た人型の姿――そう、地上でも何度か戦った相手。
『種子型の反応喪失。巨人型の出現を確認! 数は十』
そう言えばツェラがさっき"輸送用"と言っていた。
あの「侵攻者」は巨人型を運ぶためのものだったのか。
「けど、巨人型なら好都合だ。やってやるぜ!」
「ああ。まずはヤツらをこちらのフィールドに引きずり込め。それがベストだ」
「A.S.I.B.A.の圏内に引きずり込むか! グルル!」
「諒解」
装騎ククルクンのウングが巨人型に攻撃を仕掛ける。
「アタシだって、敵を捕まえて引きずり込むとかは得意よ!」
「こちらだって、結界魔術でなんとかしましょー!」
「私たちは鳥型の露払いだ」
「任せろ! にしても数が多いなっ」
十体の巨人型に、凄まじい数の鳥型。
着実に数こそ減っているけれど、面倒くさいことこの上ない。
「……指令室。フチェラ、使える?」
『可能です! けど、使うつもりなんですか!?』
「使う」
『この混み合った状況で……大丈夫、なんでしょうか』
『大丈夫さ。姉さんの力、甘く見ないほうがいい』
通信からそんなやりとりが聞こえてくる。
フチェラ――支援用の兵器か。
『わかりました。技呪術リンク承認。グルルさん、お願いします』
「わかった」
瞬間、装騎ククルクンの全身に紋様が浮かび上がる。
同じような紋様が異界航行艦シュプルギーティスに随行する三隻の護衛艦プラーステフ、そして異界航行艦シュプルギーティスの艦底部に走った。
そして護衛艦プラーステフの正面、そして異界航行艦シュプルギーティスの底が開き、凄まじい数の小型無人兵器が姿をあらわす。
そう、アレがオレ達の戦力を補強するために作られた働き蜂――
「行って、フチェラ」
鳥型「侵攻者」に負けずとも劣らない数で宇宙を駆けるフチェラ。
鳥型を的確に牽制し、包囲し、撃破する。
巨人型を追い込み、オレ達のA.S.I.B.A.の力場内に引きずり込む。
グルルが一人で操作しているとは思えないくらい、それぞれは的確に動いていた。
「凄まじいな……」
アーデルハイトの感嘆の呟きが漏れる。
「いや、鳥型への対処は任せよう。A.S.I.B.A.圏内に入った巨人型の撃破を優先に。いいな?」
だが、すぐに我に返ったように声を上げた。
「うん。鳥型、任せて」
オレ達の目の前には数が減り六体の巨人型「侵攻者」。
「よし、ここまで来れば完全にオレ達のターンだ!」
「連携を密に。ムスチテルキ隊、やるぞ」
「ド・ボイェ!」
「さっきからなんですかそれー」
戦場にも関わらず一部が賑わう中、オレは脚を踏み込んだ。
インハリテッドキャラクター名鑑
「スイセン・リュウガ(水仙・流雅」(左
異界航行艦シュプルギーティスのオペレーター。
本来は極東の国、我国から西洋の技術に触れる為マルクトに来ていたが今回の選抜隊に選ばれてしまった。
これは、司令官スズメがユウ・ナの祖母ユウ・ハと繋がりがあり、ユウ・ハは我国統一を成し遂げたキクヅキ家と繋がりがあった為、そういう縁からだったりする。
実は――なんて言うまでもなく、元々は武士の家なので刀などの武器の扱いに長けており白兵戦技能はピカイチ。
名前の由来はヒガンバナ科の花スイセン。
「ホウ・オウボク(鳳・凰木」(右
異界航行艦シュプルギーティス調理班の班長。
華國出身であり様々な料理を身に着ける為エヴロパに来ていた所を選抜隊に選ばれた。
ユウ・ナの母、ユウ・ラの知り合いな為、今回調理班の代表に選ばれる。
ユウ・ナとも実は顔なじみなのだが……何か絡みがあるといいですね。
修行中とはいえ、あらゆる料理を卒なくこなす腕を持っている。
調理班代表ということからもうすうすわかると思われるが、見た目に反して歳はかなり上の方。
名前の由来はホウオウボク。