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第12話:遅れて来た「5人目」

ŽIŽKAの中継基地。

そこでオレ達は待っていた。

「本当にくんのか?」

「こないと困るだろう。貴重な戦力だ」

「そーなんですけどねー。ただ、遅刻するって時点で」

「……不安」

「まぁな」

これから一緒に戦う仲間になる相手だ。

それなのに遅刻どころか全然姿を見せない。

不安になるのも仕方ない。

小型運搬艇ストジェラの接近を確認。やっと来ましたよ。騎使達』

ボーっと装騎に乗り作業をする基地のスタッフを眺めていると、リブシェからの通信が入った。

リブシェの言葉から察するに、今到着したストジェラに乗っているのが……。

「五人目か」

モニターに船渠ドックの様子が表示される。

収容された、弾丸ストジェラのような形をした運搬艇。

それを見たオレは、

「げ、アレ……」

思わずそんな声を上げていた。

だって、あのストジェラに描かれたのは黒い羽の上にオレンジの羽を重ねたようなマーク。

「あれは――ピトフーイ警備保障のマークか」

「ピトフーイ?」

「あー、街でやたら目につく看板出してる会社ですっけー。ウザいですよねアレ」

あの嫌でも目に付く看板は確かにウザい。

それにオレにとっては個人的な因縁もあってあまり見たくないマークだが……。

「どうしたヴラベツ」

顔に出てたのか。

アーデルハイトがオレの顔を覗き込んでくる。

「いや、あんまり見たくないもん見ちまったなと思って」

「あの会社と何か問題でも起こしたのか?」

「問題というか、なんというか……。この前戦ったんだよ。あそこの警備員と」

「へぇ! 警備員と戦うなんて、さては相当ワルなことを……!?」

「ちげーよ。なんか頭のオカシイ警備員で、急に喧嘩を吹っかけてきやがったんだ」

「強かったんですか?」

「悔しいが、強かった。歳もオレと近そうだったのに……」

「ほう。まさかその警備員、黒いステルス騎乗りじゃないだろうな」

「そーだけど」

アーデルハイトがモニターを見ろと目で合図した。

いや、まさか……冗談だろ。

オレは恐る恐るモニターへと目を移す。

「ピトフーイ警備の装騎イフリータ!!」

モニターに映ったストジェラ。

そこから姿を現した機甲装騎は間違いなくアネシュカの装騎イフリータだった。


「ピトフーイ警備保障のコソヴェツ=ショウパールチーオヴァー・アネシュカか」

「そーだけど、何よアンタ。この隊のリーダー?」

アーデルハイトに睨まれるアネシュカは不満そうに口をとがらせる。

「いや……だが、年長者であるし軍務経験は私が一番長いからな」

というか、アーデルハイト以外は本来は軍人じゃないしな。

「はいはい、つまりは真面目ちゃんなのね」

「なんだその態度は! ヴラベツ、こういうヤツなのかコイツは?」

「前会った時もそんな感じだよ」

「お、ひさしぶりジャン、ベチュカ〜」

「ベチュ……その呼び方やめろ」

「なんで? かわいージャン」

「そんな理由は余計に嫌だ。てかお前、オレの名前――」

「ウチのおばーちゃん社長から聞いたのよ。本当はヴラベチュカっていうんでしょ? ならベチュカって呼ぶのがかわいいっしょ」

「かわいいとか求めてねーんだよ」

素なのかわざとなのか、人の神経を逆なでするのが得意なヤツだ。

というか、どっちもだろう。

「大体お前、来るのが遅いんだよ。これから大事な戦いを控えてるっていうのにさ」

「アタシは別にそういうのどーでもいいし」

「どーでもいいだと……?」

アーデルハイトがものすごい剣幕でアネシュカを睨みつけた。

「アタシはおばーちゃん社長に言われて仕事で来てるだけ。ま、最低限の仕事はするわよ。給料も貰ってるしね」

「お前、本当にわかってるのか!? この戦いがどれだけ重要かってことを!」

「わかってまーす。害虫の巣を駆除するってヤツっしょ」

「害虫だと……っ」

『お取込み中のところ申し訳ありませんが、装騎隊の皆様は格納庫までお越しください』

「呼び出しか……仕方あるまい。行くぞ」

「っていうか今のリブシェじゃなかったよな。声も違うし、なんかやたら丁寧だったし……誰だ?」

「あれ、そーですねぇ。えーっと……誰か、いましたっけぇ……」

「……通信士」

その呟きにアネシュカ以外の三人の視線がグルルに向けられる。

「そう言えば……いたな。通信士」

「通信士ってよろしくっすーのアレですよね?」

「アレだな」

「ナニナニ、ナンの話?」

一人遅れて来たアネシュカだけは話についていけてない。

「後で指令室に挨拶しに行くんだな」

全く、仕方ないとは言えアーデルハイトとアネシュカの空気が険悪だ。

こんな感じでオレ達は格納庫へとつく。

そこで待っていたのはツェラだった。

「メンバーも揃った。早速だけど、実地訓練を開始したい」

「実地訓練……」

「これからあなた達には宙域戦闘を体験してもらう」

「ちゅーいきせんとー、ですかー?」

「つまりは宇宙に出るということだ」

「へぇー、たのしそージャン! やるやるぅーアタシ一発目。おけおけ?」

「わかった。先手はアネシュカ。それと――」

「じゃあ、オレだ」

アネシュカの相手をするなら当然オレだ!

以前の雪辱を晴らす――という意味でもだ。

「なるほど。リターンマッチ」

「ああ、今度こそテメーをギッタンギッタンにしてやるぜ!」

「かかってきなさいベチュカ! 相手になってやろージャン!」

あれ、そう言えばオレってツェラにアネシュカのこと話してたっけ……?

もしかしたらこの前、ツェラに相談した時に話したのかもしれないけれど……。

「ベチュカ、装騎に乗りなさい!」

「おうっ」

まぁ、いいか。

それよりも今は――

「宇宙、か」

『今回はカタパルト発進は無し。徒歩で外まで出て』

「カタパルト?」

ツェラの言葉に首を傾げる間に、目の前にあった扉が大きく開け放たれた。

『落下防止のアズルフィールド展開終了。装騎スパルロヴは速やかに発進を』

リブシェの言葉に頷くとオレはゆっくり異界航行艦シュプルギーティスの甲板へ足を進める。

《警告。擬似重力圏を離脱します》

瞬間、装騎スパルロヴがゆっくりとだが宙に舞い上がった。

オレが踏み込んだ一歩……甲板を踏んだ力で装騎が浮かび上がったんだ。

「うっわ、なんだコレ!?」

「うっひょー! ナニコレ、たのしージャン! でもちょっと気持ち悪ッ」

すぐ横に顔を向けると、同じように宙を漂っているアネシュカの装騎イフリータの姿がある。

「うわ、これどうやって動けば良いんだ!?」

『アズルを使って。攻撃をするのと同じ要領で、動きたい方向とは逆にアズルを噴射する』

「アズルを?」

ツェラのアドバイスに、オレは両使短剣イージークに光を灯す。

一先ず、出力は低めに――そして、

「いけっ!」

両使短剣イージークの先端からアズルが放たれる。

その衝撃で装騎スパルロヴは一気に撃ったのとは逆の方向に吹き飛ばされた。

「げっ」

ものすごいスピードで加速する装騎スパルロヴ。

弱めにした筈だが、思ったよりも力を出しすぎたみたいだ。

しかも、

「止らねぇ!!」

オレは咄嗟に周囲を見回す。

障害物、ゼロ!!

《艦とは真逆に霊子砲を。それで帰還できる筈です》

「えっと、真逆ってーと」

なんてワタワタしてる間に――ガツンと衝撃。

「いっ……なんだ?」

「全く。情けないなヴラベツ」

装騎スパルロヴを受け止めたのはアーデルハイトの装騎アインザムリッター。

慣れた動きで両肩のブースターを調節。

オレを連れて異界航行艦シュプルギーティスのそばまで戻してもらった。

「おっかえりー」

「た、ただいまー」

「宇宙には大地も無いし重力、摩擦もない。目印もないからもし、私達の視界外に出てしまったら探せなくなるところだったぞ」

「しょーがねーだろ。まだ初めてだし、勝手が掴めてないんだよ」

「なに、ヴラベツならすぐ慣れる」

「お、おう」

コレが飴と鞭ってヤツなのか?

なんか逆にやりづれぇ。

「ってか、アンタは相当慣れてるみたいね。見事なコントロールで……はじめてじゃあないっしょ」

「ああ。私は以前から訓練を受けていたからな」

「やっぱり」

「全員が全員初体験でも不安だろう。ある程度のことは私がフォローする。それじゃ、実地訓練を始めよう」

そして試合がはじまった。

普通の装騎戦ヴァールチュカと違うところは、大地がない、上下がない、重力もない。

「それと……」

見下ろした先、ŽIŽKAの中継基地を基準とするようにほの蒼い光が広がっている。

アレはアズルの壁だ。

『今回は重力圏付近での戦闘を想定している。あのアズルバリアに触れた場合は星の重力に捕まったという判定になる』

「つまりどーいうコト?」

『空から地面に投げ出されても、だいじょうぶ?』

「だいじょばない」

『だから負け』

アネシュカに合わせたんだろう。

かなりざっくりした説明だがそういうことだ。

本当なら、空から投げ出されたとかそんなレベルじゃないこともな。

理論上の機甲装騎の耐久性ならそれこそ空から投げ出されても無事なレベルだ。

騎使パイロットは確実に死ぬけど。

この場合――そう、大気圏突入の場合はそんな機甲装騎だって最悪熱と衝撃で木っ端微塵ガラクタだろうな。

それ以前に騎使はバーベキューか燻製か、はたまた点心か……。

「考えたくねーぜ」

「そうならないようにバリアは貼ってるし、私もいる」

「わかってる。スパルロヴ、行くぜ!」

「よーっし、やったロージャン!」

全身の追加装甲ヤークトイェーガーについている補助ブースターに光を灯し、走る!

スピードは大過ぎないようにだ。

まだまだ慣れていないし、こんなところで自滅なんて嫌だからな!

「そーいえばアンタの装騎、ブースター付きだったわね」

「そーいうこった。機動性ならコッチが上かな?」

「ま、それは元からっしょ!」

装騎イフリータも光を灯す。

冷却用のアズル排出口を利用した疑似的ブースト。

それを危なげなくやって見せるアネシュカは、やっぱりすごいヤツだとちょっと思った。

「けどなっ」

コッチだってこの前の借りを返したくて色々特訓しなおしたりしたんだ。

ちょっと普段のバトルとは勝手が違うが、それはアネシュカも同じ。

「行くぜ、ヴラベツィー・ジェザチュカ!」

一気に接近し、両使短剣イージークを振り払う。

「うわっ、イキナリやるねェ!」

アネシュカは両手に持った鎌剣ハルペードラコビイツェでオレの一撃を防ぎながら笑い声をあげた。

弾き飛ばされるように装騎スパルロヴと装騎イフリータの距離が離れる。

作用反作用とか言ったか?

多分、そんな感じだろう。

「踏ん張れる場所がねーから、やり辛ぇ!」

「ソレに関しては禿同はげどう! でも――行って、ドラコビイツェ……」

装騎イフリータが両手の鎌剣ドラコビイツェを振り払った。

一見、ただ振りかぶっただけ。

でも違う――あの武器は刃の部分だけ飛ばすことができるんだ!

ワイヤーの先についた刃がオレを――装騎スパルロヴに襲い掛かる。

それはまるで獲物を狙い牙を剥く毒蛇!

「パジャート!」

「くっ」

襲いくる鉤爪パジャートを両使短剣イージークで弾き飛ばす。

「まだまだ!」

装騎イフリータは身を捻らせ、アズルを放出し、その騎体を回転させた。

その動きで二振りの鎌剣ドラコビイツェは渦を巻く。

一振りを両使短剣イージークで受け止めようとしたその瞬間、ワイヤーが刃に巻きついた。

「まずっ」

完全に締め上げられる――その前にオレは両使短剣イージークを咄嗟に引き抜く。

「アレに巻き込まれたら、ヤバいか」

ワイヤーに絡め取られて動きがとれなくなったら最悪だ。

そのままトドメを刺されるだろう。

「けど、動きは平面的――なら、ヤークトイェーガー!」

一気に全身にアズルを灯し、一気に装騎スパルロヴを上の方へ走らせた。

地面が無いからやり辛い反面、立体的に動きやすいのは宙域戦闘の利点か。

それにコントロールも慣れて来た。

このまま、上から"台風の目"を狙って、

「一撃を入れるっ」

「上からッ。やるジャン!」

両使短剣イージークを両手で握り、霊子剣モードに。

さらにアズルを注ぎ込み――

「ヴラベツィー・エクスカリブル!」

巨大な霊子の刃を振りかざす。

「甘いッ」

装騎イフリータが両腕を振り上げた。

その動きに誘導され、鎌剣ドラコビイツェがオレを狙う。

けど、ワイヤーはかなり伸ばしているし、オレの一撃にアネシュカの一撃は間に合わない。

つまりこのまま一撃を叩き込めば勝ち!

「って楽にいけばいいけどよ」

そうはいかない。

「行くわよ、イフリータ!」

瞬間、装騎イフリータが正面にアズルを放つ。

その反動で装騎イフリータは下に沈んだ。

さらに、

「ステルスか!」

地上の戦闘では不可能な、下方への高速回避とステルス機能による透明化。

その二つの合わせ技で――

「チッ、間合いがはかれねぇ」

オレの一撃は空ぶった。

さらに背後から襲う二振りの鎌剣ドラコビイツェ!

「まだだっ」

両使短剣イージークにアズルを溜める。

そして少しずつ、断続的に放出しながら装騎スパルロヴの態勢を調整。

半円を描くようなイメージで装騎を動かし、背後からくるドラコビイツェを回避した。

そして――

「そこか、ヴラベツィー・スヴェトロ!」

鎌剣ドラコビイツェの姿が消えた瞬間、そこ目掛けて霊子砲を撃つ!

「キャッ!」

「大当たりだ!」

装騎イフリータのステルス機能が解けた。

「でも、まだまだコレからっしょ!」

「そうかな? オレは――決めるつもりだぜ。イージーク!」

「ドラコビイツェ!!」

両使短剣イージークにアズルを溜める。

対する装騎イフリータの鎌剣ドラコビイツェもアズルの光が灯った。

「ヴラベツィー……」

「ドラコビイツェッ」

「レータヴィツェ!」

「コピー!」

二人のアズルがぶつかり合う。

オレの流星とアネシュカの槍。

「いや、コピーってなんだよ!」

「ドラコビイツェが刃――そしてアタシ自身が柄となるってコトよ!」

なるほどな、全く理解できない。

なんて軽口を叩きながらもオレ達はいたって本気だ。

少しでも気を抜けば相手のアズルに飲み込まれそうな状態。

霊子光が弾け飛ぶ中で互いに一歩も譲らない。

「コレでダメってなら……」

押してダメなら、引けってな!

全身のヤークトイェーガーに光を灯す。

思いっきり加速をつけ、相手を正面から押し切るつもりで全力を!

こんなんでどこがどう引いてるかって?

引くならその前に押しまくった方がいいってのがオレの持論なわけだ!

「パージ!」

全身のヤークトイェーガーを騎体から切り離す。

けれど加速はそのまま、装騎イフリータの放つ竜殺しの槍ドラコビイツェ・コピーと正面からぶつかり合った。

そして両使短剣イージークも、加速はそのまま手を離し、装騎イフリータとぶつかり合わせる。

そしてもちろん、その全力はフェイク。

オレはそのままアズルの光とヤークトイェーガー、両使短剣イージークの力に隠れて装騎イフリータの足元へと潜り込んだ。

「ッ! 軽い!?」

オレがヤークトイェーガーと両使短剣イージークを囮に奇襲を仕掛けようとしていたことはすぐバレた。

だが、その一瞬があれば――

「ヴラベツィー……」

右拳にアズルを溜める。

装騎イフリータのカメラアイが装騎スパルロヴを正面に合わせた。

だが、遅い。

「インパクト!!」

その一撃で装騎イフリータは機能を停止した。

挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「ラヴィノヴァー・リブシェ(Lavinová Libuše」(左

異界航行艦シュプルギーティスのオペレーター。

本来はマルクト共和国軍所属の少尉。

シュプルギーティス隊では(意外と)数の少ない正式な軍人の一人。

それ故に生真面目な所や自由な他メンバーに思う所があるらしい。

オペレーターとしての仕事は主に全般的な作業の補佐がメイン。

有事の際には艦長を代行できるよう訓練されているが、さてそのスキルが活かされるのか。

ゲッコー艦長を尊敬している。

名前の由来は雪崩ラヴィナとチェコの伝説に登場する女性リブシェから。


「ネーリング・ヨロタン(Nehring Jorotan」(右

異界航行艦シュプルギーティスの通信士。

元々はスカウトされた一般人。

普段の砕けた口調は特徴的だが、通信士として雇われているだけあって仕事中の口調はいたって普通。

また、ハッキングの腕も相当だとか。

名前の由来は、とりあえず通信士なのでメンバーの多くの出身であるマルクト共和国出身にしよう。

ということでドイツ系の名前にしようとした(マルクトは元々ドイツモデルの国だった)結果、なんだかよくわからなくなったもの。

ネーリングはドイツ軍人ヴォルター・ネーリング、ヨロタンはアリスギアの比良坂夜露がふと頭に過ったから。

よろしくっすーもソレ。


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