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第11話:さぁ振り切るぜ「重力圏」

特別選抜プログラムから1週間後。

オレ達選抜隊に選ばれた四人はステラソフィア機甲科の校舎に集められていた。

オレにとっては馴染んだはずの機甲科の一室。

それなのに、何故だろう。

どこか知らない場所にいるような気がした。

「みんな、揃ってる?」

ツェラが静かに口を開く。

オレにアーデルハイト、ナっちゃんにグルル――確かに選抜部隊に選ばれた四人全員がそこには揃っていた。

「っていうかなんでビィもいんだよ」

「姉さんのいるところにならどこにだって行くさ。それこそ空の果てだって」 

「な、まさかお前――」

「静かに。来る」

来る? 来るっていうと?

瞬間、扉が開き一人の男性が姿を見せた。

深くかぶった軍帽に、顎を覆うような髭を生やした男性だ。

「あれ……?」

オレはその人にどこか見覚えがあった。

そう、オレのばあちゃんの知り合いに似ている。

名前は確か――

「私が異界航行艦シュプルギーティスの艦長。ヒノキ・ゲッコウだ」

ヒノキ・ゲッコウ!

やっぱりだ。

インヴェイダーズ戦争時にシュプルギーティスのエースとして活躍して、終戦へのきっかけを作ったと言われる英雄の一人。

それにばあちゃんの昔馴染みらしく、オレも小さいころに何度か遊んでもらったことがある。

「君達がシュプルギーティス隊の装騎隊だな」

ゲッコーさんが静かにオレ達を見回した。

「バルクホルン・アーデルハイト、フルク・グルル、ユウ・ナ、シュヴィトジトヴァー・ヴラベチュカ……四人か。ん? ツェラくん、もう一人は?」

「もう一人いるんですかー!?」

ナっちゃんが驚きの声を上げた。

確かに最初の予定では勝ち残った五人全員が選抜隊に選ばれた。

けれど双子の妹マーニャは辞退した。

そのことが伝わってないわけじゃないと思うが……。

「もう一人は……遅刻」

ツェラの言葉から、やっぱりもう一人いるのは間違いないようだ。

「初耳……」

グルルがポツリと呟く。

「ビィは? 何か聞いてんの?」

「いや」

ビィも首を横に振った。

「確かに装騎隊は五人を予定してるとは聞いていたけどそれは特別選抜プログラムの前だったし」

「ツェラ、もう一人って誰なんだ?」

ツェラは一瞬、何かを考えるような素振りを見せる。

そして言った。

「じゃあ、秘密」

「何だよソレぇ」

「それに他の乗組員も待ってる。時間がない」

「待ってる?」

「そうだな。君達、ついて来てくれ。異界航行艦シュプルギーティス――そしてその乗組員クルーを紹介しよう」

ステラソフィア学園都市――地下中央。

そこに巨大な箱のようなものが置かれていた。

いや、それが異界航行艦シュプルギーティス。

箱というか、剣のようにも見える。

鋭く尖った先端にからなだらかなラインが走った姿がグラディウスのような両刃剣を思わせるからだ。

「オリジナルのシュプルギーティスは潜攻艦だったからな。そのデザインを踏襲とうしゅうしているのさ」

ゲッコー艦長がそう説明する。

開いたハッチから中に乗り込み、やがてオレたちは司令室へと向かった。

「思ったより広いんだな」

「言うなれば我々の家だからな。それなりに長期の作戦行動も予定をしている」

「長期というと、やはり十年二十年!?」

「そんなに長く続けなくてもいいようにサエズリ司令達が色々考えてくれてる」

茶化すようなナっちゃんの言葉にゲッコー艦長はさらっと言った。

「冗談が通じないですねー」

とか頬を膨らませているが、そういうのいらないからな。

うん。

月面攻略ムニェシーツ・シープ作戦までは数ヶ月を予定。準備期間、移動期間も含めてニヶ月はかかるけれど」

「思ったよりは短いんだな」

「行くだけなら二週間では着く。問題は――」

「遅いですよ艦長!」

どこか活発な声がツェラの言葉を遮る。

歳は――二十歳はたちくらいだろうか?

赤毛を揺らし、ŽIŽKAの制服に身を包んでいた。

「その人達が装騎隊ですね」

「そう言うお前は……」

「お前ェ? 初対面の年上相手にそんな口きくんですか? “あなた”かせめて”君”でしょ」

「あ、ああ……すまん。いや、すみません」

「まぁどうでもいいですけど」

どうでもいいのかよ!

「私はこの艦のオペレーター、ラヴィノヴァー・リブシェです。ではみなさんこちらに」

リブシェに案内されて来たのは恐らくこの艦の指令室。

複数の座席があり、そして何人かの乗組員がオレ達を待っていた。

「通信士、ネーリング・ヨロタンっす! よろしくっすー!」

右手をほいと掲げる、溌剌はつらつとした少女ヨロタン。

「オペレーター。スイセン・リュウガだ」

そう簡潔に済ませるクール風の男性リュウガ。

「医療班代表、ドヴォジャーコヴァー・ニムハよ」

優しく微笑む女性ニムハはなるほど、医療班って感じだ。

「料理班代表。ホウ・オウボク」

オレよりも更に低身長の少女オウボクがちょこんと頭を下げる。

「整備班代表っ! フニーズド・メトロチュカ!」

「フニーズド? もしかして、ロコおばさんの……」

ロコおばさんはオレのばあちゃんの幼馴染でメカニックだ。

フニーズド工房という機甲装騎関連の改造、オリジナル武装の販売店ショップを開いている。

オレの乗る装騎スパルロヴもアイデアこそばあちゃんの出したものが基礎となっているが、その実現や改良にはロコおばさんが関わっていた。

つまりは、その人がいなくては装騎スパルロヴは造れなかったと言っても過言じゃない。

「そっ、孫。そういえば会ったことなかったよね。サエズリ・スズメさんの孫娘ヴラベチュカちゃん」

「ヴラベツでいいよ」

「あら、ではあなたがチャイカ先輩の娘さんですかぁ!」

そう反応したのはニムハさんだ。

「わたしはシュヴィトジトヴァー・チャイカさんの学生時代の後輩なんです」

学生時代というとステラソフィア――いや、それより後か。

確か母さんはステラソフィアを卒業した後に軍系列の医療学校に行っていたはずだ。

「ええ。その時の先輩なんです」

「なんか身内多いな……」

「当然だろう」

オレの呟きに答えたのはゲッコー艦長だ。

「サエズリ司令の考案したŽIŽKA計画。その中でもこのシュプルギーティス隊は司令が一番信を置いているメンバーを中心に構成されているからな」

それも当然か。

オレ達選抜隊に、選りすぐりのメンバー達……。

「まぁ、その代わり軍組織としてはどうかって感じですけどね」

「アニメとかでよくあるつまはじき者部隊っす!」

リブシェとヨロタンの言葉にゲッコー艦長は頭をかいた。

「だが我々はつまはじき者ではない。司令からの信任をしっかりと受けた選抜部隊だ。そのことは各員忘れないように」

「では艦長。さっそく出発準備を?」

そう尋ねたのはビィだ。

そう言えばコイツ、宇宙までついてくるつもりみたいだがもしかして何か役職があるのか?

「ああ。彼はこの艦の操舵手だ」

「その通り。操舵手フルク・ビィ。改めてよろしく」

コイツが操舵手か……。

「なんか不安になってきたな」

「そう言わず、大船に乗ったつもりでいて欲しいな! 実際大船だしね」

そして出航準備が始まった。

「レクリエーションルームとかあるんですねー!」

「ま、つまりは雑に集まれる雑な部屋ってことだろ」

「違いない」

出航に関しては何もやることのないオレ達装騎隊はレクリエーションルームに集まっていた。

「後もう一人ってまだ姿見てねーけど来ないのか?」

「そう言えばそうだな。ここで合流かと思ったが……」

アーデルハイトが周囲を見回す。

もちろんそこにはオレとアーデルハイト、グルルとナっちゃんの四人しかいない。

「遅刻ですかぁー。まったく」

「……大問題」

『各員に通達。出航準備完了。今から異界航行艦シュプルギーティスは重力圏を振り切り衛星軌道上ŽIŽKAの中継基地へと向かいます』

この声はリブシェか。

「大遅刻だな。誰だかわからんがあとでしっかり躾けておかなければ」

「おお怖……っ」

『これより擬似重力システムを起動します。発射時の衝撃や重力の変化は恐らく無いと思われますが、念のため手近なものに捕まるように』

「擬似重力、ねぇ」

どうやら、アズルホログラムの応用らしい。

アズルホログラムはアズルの力である種の反発力のあるホログラムを形成する。

霊子シールドとかで攻撃を防ぐ時に出てくる衝撃――それをうまくコントロールし感覚や触覚を擬似的に再現している、と思えばいいか。

つまりこの場合は常に身体や物を抑えつけるようなアズルを発生させてるということらしい。

「意外と勉強熱心だなヴラベチュカ」

「だって暇だし」

たまたまそこに置かれてた、異界航行艦シュプルギーティスの簡易ガイドブックを読んでるオレにアーデルハイトは言った。

「なるほどー。つまりはアズルの反発力で重力を再現してる訳ですね〜。もしかしたら、私の印縛土いんぱくとでも同じようなことができたりぃ!」

「するかもしれねーけど」

「わたしの、技呪術でも……できたら。練習、してみる?」

「いいですねー!」

「これからの戦い、何が起きるか分からない。役に立ちそうなスキルは身につけておくべきだ」

なんて話をしてる間にも、状況は進む。

そして――

『それではマスドライヴァー・ダーウィーズを用いた打ち上げに入ります』

打ち上げか。

オレの読んでるガイドブックにも書かれていた。

オレ達の住むこの地上から宇宙に出るにはかなりの速度で加速して重力を振り切らないといけないらしい。

その加速を手伝うために、多数のロケットパック。

そしてこの、物資運搬用電磁誘導投射砲マスドライヴァーを使う。

その中でもダーウィーズというとステラソフィア学園都市中央にあるステラソフィアの象徴、駅前の巨大日時計に偽装されたマスドライヴァーのことだ。

ここ最近はあまり使用されてないと聞いたけど、そうか、この艦を宇宙に飛ばすために整備されていたんだ。

色々な感慨が頭をよぎる中、

『三、二……一。異界航行艦シュプルギーティス、発進!』

オレ達を乗せた異界航行艦シュプルギーティスは宇宙へと飛び出した。

「超静かですねぇ〜」

擬似重力によるお陰か、思ったよりも衝撃や振動は無かった。

「このモニター、色々表示が変えられますよー」

好奇心旺盛にあっちこっち触ってるナっちゃんが気づく。

物凄いスピードで空を、雲を突き抜ける。

オレ達のいたステラソフィアはあっという間に遥か彼方。

大地が丸くなり、そして――

「丸い……」

「くらーい!」

漆黒の大海に艦は出た。

『各員は艦体のチェックをお願いします。異常があれば司令室に!』

この艦が宇宙空間に出るのは恐らく始めて。

異常がないように乗組員達は大忙しだろう。

「なんかヒマしてて悪いですねー」

「とは言え、何かあったらオレ達だって忙しくなるんだ」

「そうだ。今の間だけだと思っておけ、ユウ・ナ」

グルルも静かに首を縦に振った。

『本艦は一旦、予定通りŽIŽKAの中継基地に着艦します』

さて、これからどんなことが起こることやら。

挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「ヒノキ・ゲッコウ(桧・月光」

ŽIŽKA所属で異界航行艦シュプルギーティスの艦長。

本来はマルクト共和国軍所属でŽIŽKAに出向している。

インヴェイダーズ戦争時、学生でありながら戦いに参加したというヴラベツとも似た経験をしている。

サエズリ・スズメに憧れており彼女の得意だった技「ムーンサルト・ストライク」を得意技とすることから、ナイフダンサーを継ぐ者とも呼ばれた。

自作小説「機甲女学園ステラソフィア」時代では3歳だった男の子が無事アラフィフになりましたよ。

髭や髪の毛を伸ばし、帽子を被っているのは若干童顔気味の顔を隠す為らしい。

名前の由来はスパロボBXの主人公ヨウタ・ヒイラギで同ゲームで使ってた主人公名が元。

陽太→太陽だから逆に月→月光

柊だから(ステラソフィア的な意味で)逆に桧ということである。

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