第10話:ついに決まる「選抜隊」
「来なさい、奴隷達!」
装騎アインザムリッター――その背後の茂み。
そこから飛び出てきたのは三騎の機甲装騎だ。
ヴァルキューレ型と呼ばれるマルクト共和国軍標準装備の機甲装騎が、ストライダーライフルと呼ばれる標準的なタイプのライフルを構えている。
「あれは恐らく国軍所属の騎使ですねー」
「だろうな。色んな組織の選りすぐりが参加してるみたいだしな」
そして三騎のヴァルキューレ型が装騎アイザンムリッターを銃撃。
「くっ、更に伏兵か!」
装騎アインザムリッターは手早く回収した盾で正面からの銃撃を防ぐ。
しかし、背後には装騎カストルとポルックスも控えており、絶体絶命の状態だ。
「しゃーねーか、助けに行くぜ」
「助ける義理とかないじゃんですかー」
「見過ごすの、ダメ」
「えー」
ナっちゃんは不満を口に出しながらも、両手に華式直刀を構えもうすでにやる気十分って感じだ。
「いえいえ、さっきからずっと不意打ちしたくてソワソワしてただけですよー」
なんて笑いながら、ナっちゃんは装士イーメイレンを動かす。
二本の華式直刀を素早く投げるとヴァルキューレ型装騎の背後の地面に突き刺した。
素早くもう二本の華式直刀を背後から取り出すと今度は装騎カストルとポルックスの背後に突き立てる。
「なんですの!?」
「アーニャお姉様、て、敵襲です……っ」
「落ち着きなさいマーニャ。御覧なさい、このヘッタクソな投擲を!」
「だぁーれがヘッタクソですか! おっこりましたよ!!」
瞬間、四本の華式直刀に魔力が走り大地に陣が刻まれた。
「この輝き――まさか、魔術使ですの!?」
「重戸結界・印縛土!」
陣の中の空間が歪む。
強烈な重圧で敵の動きを抑え込むナっちゃんの結界魔術、印縛土。
「今の内に離脱しろ!」
「余計なことを……」
そう言いながらも装騎アインザムリッターはおもむろに結界内から抜け出そうと足掻く。
重圧結界の中でうまく装騎が動かせないようだ。
「アーデルハイト!」
オレは装騎スパルロヴを走らせ、装騎アインザムリッターに手を伸ばす。
「私は……」
「うるせえ! コッチは勝手についてきて勝手に助けてんだ。なら助けられとけ!」
「……っ」
装騎スパルロヴの手が装騎アインザムリッターの腕を掴んだ。
そしてそのまま、結界の範囲内から引っ張り出す!
「重たっ……」
さすがはナっちゃんの結界魔術――とても強力だ。
こんな技を食らいたくはないな。
「ていうか、お前の結界って敵味方の識別ができるんだよな?」
「そうなんですけど、ほら、なんていうの? あの人むかつくじゃないですかー!」
「おい。いらん面倒背負い込むから解除しろよ!」
「と言ってもほら、わたしの潜在意識的なアレに影響されてるんで……他の人よりは簡単に動けると思いますよ?」
「はぁ」
だが実際、どうにか動けている装騎アインザムリッターに対し、他の装騎達は指一本動かすのも辛そうだ。
「なんとかなったな」
「それでアイツらどうしますー? やっちゃいます?」
「ふざけんじゃ――ないんですわァ!!」
瞬間、装騎ポルックスの手元が光を放った。
いや違う、霊子砲スパノヴァの弾けるような一撃。
それは地面を抉り、砂埃を舞い上がらせる。
そして――地面に突き刺さった装士イーメイレンの華式直刀を弾き飛ばした。
「あっ」
華式直刀が地面から抜かれ、陣の均衡が崩れる。
重圧結界が解除されたんだ。
「急に出てきて不意打ちだなんて、とんだ不届き者ですわね!」
「それはテメーらだろうが!」
遭遇した相手を装騎カストルが仲間にならないか勧誘する。
その誘いに乗れば隙を見て倒す。
乗らなければ装騎ポルックスとの挟撃で倒す。
それでも無理なら更なる伏兵と来たもんだ。
「どう考えてもテメーらの方が不届き者じゃねーか。やり方がきたねーぞ!」
「汚い? まさか! これこそ優雅にして優美。完全な作戦です! よね、マーニャ」
「そ、その通りです。アーニャお姉様」
「ま、その完全作戦とやらもオレ達がぶち壊すんだけどな! ナっちゃん、グルル!」
「はいさ!」
「うん」
「ふふん。わたくし達にチーム戦を挑むと? いいわマーニャ、スネーク達。見せてあげましょう。わたくし達のチームワーク。完全な調和を!」
装騎ポルックスが右手を掲げる。
瞬間、装騎カストルと三騎のヴァルキューレ型が銃を構えた。
「てー!」
始まる四騎の機甲装騎による制圧射撃。
だが、コッチだってそう簡単にやられるわけがない。
「ウングスフルド」
装騎ククルクンの支援子機が宙で円陣を組むと光の壁を虚空に作る。
「まさかグっちゃんも魔術使なんですかー!?」
「魔術じゃない、これは技呪術」
「なに言ってるかわかりませーん!」
「やってる場合か! 一旦退くぞ!」
「逃がしませんわ!」
三騎のヴァルキューレ型装騎はオレ達と距離を詰めながらストライダーライフルを射撃。
「この魔術障壁モドキもさっきの奇妙な術と同じようにあの子機を基点としたものでしょう? で、あるのなら」
装騎ポルックスは霊子砲スパノヴァをグルルの光壁――いや、それを形作るウングに向けた。
「墜ちなさい!」
そして射撃!
強烈な魔電霊子砲の一撃は一基のウングを融解させる。
力の均衡が崩れ、光壁に明らかな揺らぎが見えた。
まだその防御力は健在だが、突破されるのにそう長くはかかるまい。
「弱点……バレてる」
「チッ、そうそうバカじゃあありませんってか!」
「バカだったらよかったのにー!」
「一先ず木々に紛れろ。その方がマシだろう」
「んじゃ、各自散開!」
「諒解」
「りょーかい!」
「ああ」
「隠れても無駄ですわ。スネーク隊!」
木々に紛れて一先ず逃げ切れた――かと思ったがそんなことはなかったぜ。
装騎ポルックス率いる装騎チームは的確にオレ達へと近づいて来ている。
確かにコッチだってこのまま逃げ切ろうなんて思ってはいない。
反撃の機会を伺うつもり――だったのだが、相手の動きが的確過ぎた。
「振り切れない!?」
「当然ですわ! トーシロが姑息に逃げ回った跡は一目瞭然。そしてわたくし達の本分は追跡と殲滅! こういう戦い、得意ですわよ!」
「くっ、ヴラベツー・ジェザチュカ!!」
装騎ポルックスが霊子砲スパノヴァを霊子剣状態で振りかざす。
その一撃をオレも両使短剣イージークの霊子剣状態で受け止めた。
「中でもアナタの動きが一番トーシロ臭いのですわ! そういえば、会場に生意気そうな学生がいたと思ったけれど……まさか、ねぇ?」
「チッ、そーだよ! ステラソフィア機甲科一年、シュヴィトジット・ヴラベツだ!」
「やっぱりアナタが! では、学生のお遊びは――お仕舞にしましょう」
激しい一撃で装騎スパルロヴがよろめく。
「チッ、しまった!」
体勢を立て直す僅か一瞬の隙。
それだけあれば装騎ポルックスには十分だった。
「終わりなさい」
霊子砲スパノヴァの砲口にアズルの光が集まり――
「生憎だが――スペシャリストもいるんだ。忘れてもらっては困る」
「っ!!」
木々の隙間を掻い潜り、一陣の風が吹き込む。
両肩の加速用ブースターに光を灯し、右手に構えた片手剣で装騎ポルックスに突きの一撃を加えたのは装騎アインザムリッター。
その素早さは、まさに神速。
「アーデルハイト!」
「少々浅かったか。口だけではなさそうだ」
装騎アインザムリッターの一撃は良いところを突いた――はずだった。
だけど装騎ポルックスは咄嗟の判断で身をかわし、機能停止は免れていた。
「運の、よろしいことで……ッ!」
「運? いや、これは必然だ。相手が学生だからと舐め過ぎたなジェミニのアーニャ」
「必然、ですって!?」
「ああ。彼女達の多くが素人だと言うことを逆手に取らせてもらった」
つまりはだ。
オレはとにかく闇雲に逃げる。
となると、その痕跡から装騎ポルックスやカストル、スネーク隊は追跡をしてくるはずだ。
そして、オレがピンチに――と見せかけてアーデルハイトが背後を突く。
それが今回の作戦だった。
「スネーク隊!」
「向こうでも同じ手を使わせて貰っている。反応がないと言うことは――上手くいったのかな」
意外だったのは、追跡者を撒くような技術をナっちゃんも持ってたことだ。
いや、もしかしたら当然なのかもしれない。
華國の情勢は色々と問題がありそうだしな。
ついでに装騎アインザムリッターと装士イーメイレンが姿を隠したことを悟らせないために装騎ククルカンのウングを利用した誤魔化しもしていたのだが、役に立ったのか立たなかったのか。
グルルなら
「無いよりマシ」
とか少し拗ねた表情で言うだろうか。
「この、アマァ!」
装騎ポルックスが霊子砲スパノヴァにアズルの刃を伸ばす。
そして一気に装騎アインザムリッターの元へと飛び込んだ。
「直情的だな。そんな無意味な――いや」
一見、衝動に任せた無闇な斬撃。
だが違う。
地面に突き立った霊子刃を軸に、装騎ポルックスは宙を舞った。
つまりは走り棒高跳びの容量だ。
それで、装騎ポルックスはアインザムリッターの頭上を飛び越えた。
「アーデルハイト、助けるぜ!」
オレは両使短剣イージークを構える。
全身の追加装甲に加速の光を灯して――駆けた。
「まて、ヴラベチュカ!」
「マーニャ!」
瞬間、背後から襲いくる銃撃。
これは、シャワー短機関銃……装騎カストルか!
装騎カストルの姿がなかったからてっきりあっち側に行ったのかと思ってたが……当然か。
これがこの姉妹の定石なんだから。
「ヤークトイェーガー装甲が硬い……もっと、接近するっ」
近づいてくる装騎カストルの身のこなしはしなやかで手慣れている。
こいつの本分は近接射撃か!
オレは装騎アインザムリッターと背中合わせになり、二方向から攻めてくる姉妹の攻撃から身を守る。
「マーニャ、フォーメーション・ランデブー」
「わ、わかりましたっ」
瞬間、装騎ポルックスとカストルの姿が木々に消える。
「逃げた……訳じゃあなさそうだな!」
瞬間、木々の隙間からシャワー短機関銃の銃撃が。
その射撃に防御を固めた瞬間、別の方向から霊子砲スパノヴァが放たれる。
「ヴラベツィー・シュチート!」
「耐えてくれシルトっ」
その一撃は防ぐことができたものの、相手の姿はすぐに掻き消えた。
これは……二騎のコンビネーションを生かした包囲状態での時間差攻撃。
所謂、時の十字架と呼ばれる戦い方だ。
相手の動きと味方の動きをしっかりと把握していないとできない、抜群のタイミングで相手の隙をつく連携攻撃。
ジッとしてればジワジワとなぶり殺され、下手に動けば各個撃破されてしまう。
「とは言え、動かない訳にはいかねーよな……」
「そうだな。埒があかない」
「オレに一つ案があるんだが……乗るか?」
オレの案を聞いたアーデルハイトは言った。
「莫迦か?」
「うっせー! 単純明快で反撃もしやすいいい案だろ!」
「無茶苦茶な作戦だな。いや、作戦なんてものでもない。莫迦の一つ覚えだ」
「そこまで言うか!?」
「だから乗った。だがタイミングはシビアだぞ」
「神速の騎士殿なら楽勝で合わせられるだろ」
「……君もな」
「え?」
「行くぞ」
なんだ今の奇妙な感じ。
オレの力を認めたような雰囲気だった気がしたが、どういう根拠で言ったのか。
「これアレか、逆にプレッシャーかけられてんのか?」
まぁ何にせよ、ここであの姉妹を突破するのが一番の目的。
タイミングは次にあの二騎が姿を見せた時。
そして、しばらく……その時は来た。
「う、撃ちます!」
姿を見せたのは装騎カストル。
両手のシャワー短機関銃をばら撒きながら近づいてくる。
「こなくそ、ヴラベツィー・スヴェトロ!」
オレは両使短剣イージークの剣先から霊子砲の一撃を放った。
「隙ありですわ!」
次に背後から装騎ポルックスが姿を見せる。
運のいいことに丁度対角線上。
これ以上ない好機だ。
「行くぜ、スパルロヴ!」
「アインザムリッター……っ」
オレは装騎スパルロヴを跳躍させる。
それと同時に装騎アインザムリッターも宙へと飛んだ。
「なんですの!?」
オレは思いっきり装騎アインザムリッターに蹴りを放つ。
装騎アインザムリッターも装騎スパルロヴに蹴りを放つ。
互いの右足同士がぶつかり、弾けるような力を生んだ。
「行くぜ、ヴラベツィー・ジェザチュカ!」
「シュヴェルト……っ」
互いを蹴り合う力を利用して反転、そして加速。
二方向の、位置の離れた相手を攻撃する連携技。
これが、ツーウェイアタックだ!
オレの一撃は装騎カストルを――いや、コイツ、
「浅いっ!?」
装騎カストルは騎体を僅かにそらし、直撃を避けた!
そしてシャワー短機関銃を装騎スパルロヴに突きつける。
「させるかッ! スパルロヴ、駆逐形態!」
装騎スパルロヴ全身のヤークトイェーガーにアズルが走り、その身を刃とする駆逐形態へと変化。
左腕から伸びたブレードで装騎カストルの銃撃を防ぐ。
隙あらば懐にシャワー短機関銃を突きつけ、接射を狙ってくる装騎カストル。
「こいつ……強いっ」
声を聞いてる限りはどこか控えめな感じがしたが、下手をすると――
「ねーちゃんより強ぇんじゃねえか!?」
「そ、そんなことは……っ」
オレの言葉に、一瞬だが装騎カストルの動きが鈍る。
それがあいつの弱点か。
姉という存在が枷になってる。
それを狙った訳じゃないが、相手が隙を見せてくれるなら好都合。
この一撃で、今度こそ――
「いや、後ろだカストル!」
「っ!!」
オレの叫びを装騎カストルはすぐに理解する。
素早く身を反転させると、背後から襲いかかろうとしていた一騎の装騎を機能停止させた。
「漁夫の利狙いの第三者か。きたねーな」
まぁサバイバル戦なのだから当然の手段ではあるが。
「な、なんで、わたしに、教えて……」
「別になんかもったいなかったからな」
「もったいない……」
「お前、強いからさ。ちゃんと戦いたかったっていうか」
「っ!」
装騎カストルは静かにシャワー短機関銃を装騎スパルロヴに向けた。
そして銃撃。
その一撃はオレには当たらない。
かわりに背後で一騎の機甲装騎が機能を停止した。
「まだいるか?」
「あと二騎……。お姉様達でも、あなたの仲間でもない」
「隠れてないで、出てきやがれ!」
瞬間、現れる二騎の機甲装騎。
「ヴラベツィー・ジェザチュカ!」
「っ!!」
二騎は装騎スパルロヴとカストルの一撃で、あっけなく機能停止する。
「この程度か」
「不相応、ですよね」
オレは静かに両使短剣イージークを構えた。
装騎カストルもシャワー短機関銃をリロードし、戦闘準備は万端。
「いくぜ」
「……うん」
二騎が交差するその瞬間――
『そこまで!』
サバイバル戦が終わった。
「ちぇっ、終わりか」
「……ちょっと、残念」
「でも待てよ。残ってるのがオレとお前……あと三人は?」
その疑問はすぐに解消される。
『装騎カストル、装騎スパルロヴ、装騎アインザムリッター、装騎ククルクン、装士イーメイレン。以上五騎の生存を確認。特別選抜隊はこの中から選考することとなる!』
「勝ったか……みんな」
「お姉様……」
装騎から降りたオレ達を出迎えたのはツェラだった。
「それでは、選考結果を発表する」
トーンを抑えた静かな声が逆にオレの緊張を促す。
「装騎アインザムリッター、アーデルハイト」
「はっ」
「あなたの活躍と実力は期待通り。さすがはサエズリ司令からの推薦です。選抜隊として申し分ないです」
アーデルハイトになにやら紋章のようなものが渡された。
もしかしてそれが、選抜隊である証か。
「装騎ククルクン、グルル。インヴェイダーズの技呪術はわたしたちの助けになるでしょう」
「ありがとうございます」
「装士イーメイレン、ユウ・ナ。さすがは華國の女傑ユウ家の血を継ぐ者です。その魔術の素養。ぜひ活かしてください」
「多謝でーす」
「装騎スパルロヴ、ヴラベチュカ」
「は、はい!」
なんだこの緊張!
声が上ずってるのが自分でもわかる。
「あなたの実力も技術も荒削り……ですが、未来への成長性とアーデルハイト、グルル、ユウ・ナの三人の中心となった今回の実績。期待してます」
「つまり、オレも?」
「ええ。おめでとうヴラベツ」
ふと顔を上げると、ばあちゃんの姿が見えた。
小さくだが頷く姿。
そうか、オレも選抜隊に!
「そして装騎カストル、マーニャ。状況をよく見る洞察力とヴラベツとの共闘からこの四人の更なる力を引き出してくれると考えます。よって――」
「わたしは辞退します」
「マーニャ!?」
声を上げたのはマーニャとそっくりだがどこか表情のキツい女性。
あいつがアーニャか。
「いいんですか?」
「はい」
そう言い切るマーニャにはなにか信念のようなものを感じた。
それに気付いたアーニャもそっと口を閉じる。
「では、以上四名。特別選抜隊に任命する」