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第1話:空からの「侵攻者」

「警報! 警報! 「侵攻者インヴェイジョンズ」の接近を確認しました。本日の迎撃当番はただちに出撃準備をしてください。繰り返します……」

学園に警報が鳴り響く。

「ベチュカ!」

「分かってる!」

オレはすぐに席を立つと、緊急出撃用のエレベーターに走った。

「もう、授業中に来なくたっていいのに!」

「「侵攻者」にそんなこと言ったって意味ないだろ」

「そうだけど!」

この戦いは3年前、突如として始まった。

「侵攻者」と呼ばれる空から降って来た謎の生命体。

理由は不明、目的も不明。

だけど、ヤツらは世界中を襲い、人々を襲った。

国家連合は調査組織ŽIŽKA(ジシュカ)の設立を宣言すると同時に、戦争状態へ入ったことを宣言。

オレ達の住むマルクト共和国は国民皆騎使制の施行と共に、全ての国民に「侵攻者」の不規則的な襲来に対する自由迎撃権が与えられた。

「チーム・ブローウィング、シュヴィトジット・ヴラベツ。装騎スパルロヴ、出るぜ!」

「チーム・オラシオン。アマリエ・シュピチュカはイツェナで出ます!」

身体をわずかに動かし感触を確かめる。

よし、問題ない。

絶好調だ!

身体に重圧がかかった。

装騎運搬用のリフトに運ばれ、オレの獣脚スパロー型装騎スパルロヴが地上へと押し出される。

視界が開ける。

光が差し込む。

「行くぜ!!」

地上に飛び出た全高6mの人型兵器――機甲装騎はオレのわずかな動きを増幅させ、まるで人間のように地を駆ける。

正面――来た!

昆虫のような6本脚に、人間のような上半身が伸びたどこか気持ち悪い「侵攻者」。

名前はズバリそのまま――

「ベチュカ、六本脚型ティプ・シェストノヒ!」

「分かってる! 行くぜ、両使短剣ドヴォイウジトコヴィー・ヌーシュイージーク!」

両使短剣イージークに魔電霊子アズルの蒼い輝きが灯る。

そして一閃。

良いね(ドブジェ)、ベチュカ!」

シュピチュカの装騎イツェナも霊子突撃銃アズロヴァツィー・プシュカアンドラステを構え、的確な援護射撃をしてくれている。

「シュピチュカ、先輩たちは?」

「校舎の反対側と屋内演習場の所――それと学生寮の周りで交戦中!」

「……妙だな」

オレたちがステラソフィア機甲学園に入学してから数か月。

迎撃当番として何度も「侵攻者」を撃退している。

けれど、今までははぐれ「侵攻者」とでも言うのだろうか、数の少ない単独の「侵攻者」や数が多くても降下地点を明確に定めた襲撃が多かった。

だけど――

「今回はえらく範囲が広いね。他の科からも救援要請が出てるし、自主的に迎撃してる生徒もいつもより多い」

だからと言って数が多い訳ではない。

これは――何だ?

"何か"をしている。

「何かって何」

「それは分かんねーけど……」

不意に影が差した。

「増援か!」

「うん、巨人型ティプ・オブルの「侵攻者」!」

空から降り立ったのはオレ達の乗る機甲装騎と同じような人型をした「侵攻者」。

ここ最近になって出現するようになった新種だ。

パッと見は装騎と同じ鎧騎士だけど肩部や腕部、大腿部に脈動する血管のようなものが浮き出ていてキモい。

ニュースでは機甲装騎を敵が”学習”して作り上げた強化外骨格じゃないかとか言っていたけどまぁ、敵って意味では今までのヤツとなんの変わりもない。

そうつまりは――

「斬るッ!」

これで一体。

さらに背後から巨人型が接近。

《右に旋回。接近戦による撃破をオススメします》

「チッ、うっせーな」

ディスプレイの表示に思わず舌打ちしてしまう。

ばあちゃんが装騎スパルロヴに仕込んだ支援用AIからの提言だ。

状況に合わせて最適な行動や”必殺技”の自動選出、使用補助をしてくれる。

「いちいち従うつもりは、ないけどなッ!」

オレは振り向きざまに両使短剣イージークを構えた。

その刀身が開き、隙間にアズルの輝きが走る。

「ヴラベツィー・スヴェトロ!」

瞬間放たれる魔電霊子アズル砲の鋭い一撃。

爆炎と共に巨人型の「侵攻者」は木っ端微塵だ。

《警告、警告、生体反応あり。逃げ遅れたマルクト民の可能性あり》

「生体反応……?」

いつのまに?

それもこんな状況でこんな場所に人が?

けれど、確かにそこに人はいた。

きっと植えられている木々に隠れていたんだろう。

1人の、小さな少女が爆風に煽られ身を伏せていた。

「ベチュカ、巨人型! 最後の一騎!!」

シュピチュカが叫ぶ。

正面から駆けてくる巨人型の「侵攻者」。

その視線が向けられたのは――地面に倒れる少女?

「させ……るかァ!!」

オレは装騎スパルロヴを跳躍させる。

そのまま、巨人型の「侵攻者」に向かって。

激しい衝撃が身体を襲う。

けどそれは、オレの放った体当たりが巨人型に命中した証だ。

「シュピチュカ!」

「アンドラステ……モドリット!」

オレは僅かに顔を逸らす。

その動きをトレースし、装騎スパルロヴも顔を逸らす。

瞬間に走る一条の煌めき。

装騎イツェナの撃った霊子突撃銃アンドラステによる狙撃が巨人型の頭をぶち抜いた。

「さすがだぜシュピチュカ!」

そして両使短剣イージークを一閃。

巨人型の機能を停止させた。

「周囲に敵は?」

「見当たらないわ。他も――確認してみる」

《周囲に敵影無し。警戒モードに移行します》

シュピチュカもスパルロヴもそう言っているし、敵はいないんだろう。

「もし増援とか来た時はよろしく頼むぜ!」

「ベチュカ!?」

オレはそれだけ言うと、素早く装騎スパルロヴから滑り降りた。

そして少女の元に駆け寄る。

「大丈夫か!?」

地面に倒れた少女は動かない。

オレは彼女を抱き上げると、髪の毛の柔らかな感覚が手を、腕をなぞった。

絹糸のような髪――とでも言うのだろうか?

そして露わになったその顔はとても端正で、白く透き通っていて――とても、

「綺麗……」

なんて見とれている場合じゃない。

彼女の身体は完全に力が抜け、そして赤い血を流していた。

息も微かで今にも消え入りそうだ。

「スパルロヴ!」

オレは額にしていたHMDヘッドマウントディスプレイを目元に持ってくる。

HMDのカメラとAIのスパルロヴが彼女の身体をスキャン、解析。

ネット検索で出た情報なども合わせ彼女の容体を診断する。

「かなり危険……」

最悪――――死ぬ。

「シュピチュカ、誰か救護班を!」

「とっくに呼んでる! すぐ来ると思う」

すぐ来るったって……!

「クソッ、オレのせいか!? オレがアズル砲なんて使うから――「侵攻者」を爆発させちまったから!?」

《否定。彼女の外傷は巨人型の爆発によるものではないと推定される。恐らくはそれ以前から――》

「うるさいッ!」

どうあれ、オレの行動が彼女の傷を広げてしまった可能性はゼロじゃない。

あの時、オレがスパルロヴの指示に従っていれば……ッ。

「あなたの、せい……じゃない、わ」

声が聞こえた。

とてもか細い。

今にもかき消されそうな声。

けれど、とても優しくて――とても綺麗な声だった。

「喋るな! 今、医者が来るからっ!」

「あなたの、名前、おしえて……?」

どうしてこの場面でオレの名前を尋ねてくる?

今にも、死にそうな状況で。

オレは感じ取っていた。

この子は助からない。

そして彼女もそれを理解している。

そんな場面で、オレの名前を?

「おねがい……わたしのはじめてであった人。名前を、おしえて」

翡翠のような瞳がオレを見つめる。

まるで一生に一度のお願いとでも言うように彼女は言う。

まるで――じゃない。

これが彼女の、一生に一度のお願いなんだ。

「ヴラベツ。シュヴィトジット・ヴラベツ。キミの名前は?」

「ツェラ……」

その一言を残し――彼女、ツェラは目を閉じた。

「チクショォォオオオオオオ!!!!」


「ベチュカ、あれ以来全然元気ないじゃん!」

「うっさい……」

シュピチュカがいつものようにしつこく付きまとってくる。

大体、人一人の死を目の当たりにしてそうそうすぐに元気になれる訳ない。

「まぁ、ベチュカは結構繊細で優しいところあるものね」

「は?」

別に繊細だとか、優しいだとかそーいうんじゃない。

人として普通というか、何と言うか。

「ベチュカ?」

不意に一人の少女の姿がオレの目に入った。

深めの金髪、風に揺れる長髪、まるで絹糸のようなその髪に透き通るような白い肌。

翡翠のような瞳は遠目にも輝いて見える。

「あの女の子!」

気付けばオレは走り出していた。

「ちょっとベチュカ!?」

後ろからシュピチュカの声が聞こえる。

だけどシュピチュカは後だ。

「すぐ戻る!」

とりあえず一言くらいは添えておく。

そうしないと後でまた文句を言われることになるからな。

そして――――見つけた!

「なぁ、キミ! そこのキミ!」

オレの声に彼女が振り向く。

「なに?」

その姿、その声、何もかもあの少女――ツェラだった。

「ツェラ、だよな?」

「あなた、だれ?」

あの子と瓜二つの姿。

その口から放たれた言葉に、なぜかオレはショックだった。

「ツェラ、じゃないのか……?」

「わたしはツェラ。だけど、どうしてあなたはわたしの名前を知っているの?」

「キミが――キミが教えてくれたから」

「わたしが?」

だけどやっぱり彼女は身に覚えがないようだった。

こんなに見た目も、声も、何もかもがそっくりなのに。

「なぁ、キミは――」

「ツェラ、休憩時間は終わりよ」

突如オレ達の会話を遮った声。

見るとそこに立っていたのは1人の女性だ。

なんだかキッチリした制服に身を包んでいるけれど――ステラソフィアじゃない。

というかアレは軍……いや、

ŽIŽKA(ジシュカ)の人か……?」

ツェラが静かに頷いた。

ŽIŽKA……Živelně Invazní Živočich Katastrofa Analytičky。

必然的な侵略的生命体災害の調査者組織。

つまりはまぁ、「侵攻者」への調査、対策を進めている組織のことだ。

ツェラはその女性の元へと足を進める。

「わざわざありがとう、アーデルハイト」

「仕事ですから」

そして去り際、ツェラがオレの方を振り向き、言った。

「あなたとは、また会えそうな気がする」

「オレは機甲科1年シュヴィトジット・ヴラベツだ! また!!」

「ヴラベツ……」

最後、ツェラがそうつぶやいたのが聞こえた。

何でだろう。

それだけでオレはとても嬉しかった。


挿絵(By みてみん)

インハリテッドキャラクター名鑑

「シュヴィトジット・ヴラベツ(Švitořit Vrabec)」

ステラソフィア機甲学園機甲科チーム・ブローウィング1年。

今作の主人公。

男勝りで強気な少女。

本名はシュヴィトジトヴァー・ヴラベチュカ(Švitořitová Vrabečka)だが本人は男性名のヴラベツを自称している。

愛称は「ベチュカ」だが本人はあまり快く思っておらず、肉親や幼馴染であるシュピチュカ以外にはそう呼ばせない。

名前の由来はŠvitořit(さえずる、お喋りする)とVrabec(すずめ)。

デザインモチーフは自作小説「機甲女学園ステラソフィア」の主人公サエズリ・スズメ。

向かって左の髪の付き方だけは同作に登場するフニーズド・ロコヴィシュカを意識している。

性格モチーフもスズメだが、男勝りな要素と熱血要素が強め。

イメージしてる曲はThis love never ends

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