第八十七話 たからもの
広間を抜けた先には、小さな部屋があった。どこか……祭壇じみた雰囲気もある。あの城のような見た目をしているけれど、明らかに、他の部屋とは雰囲気が違った。
部屋の中央には、床から天井まで真っ直ぐに伸びる、青い光の柱がある。なんだ、これ?
「それが転移装置。その光に入れば、地上に戻ることができる」
「へぇ……」
これが、ねえ。
この部屋、他の部屋に比べてエーテルの濃度も高いようだし、魔法が関連してることは確かだろうけど、原理はわからん。長距離を瞬時に移動する魔法なんて、聞いたこともないし。
「ま、今は関係ないか。無視して先に進もうよ」
せっかくここまで来たのに、地上に戻っちゃ意味がない。帰る時には使うだろうから、初体験はその時まで取っておこう。
転移装置を無視して先へ進むと、またも長い通路部分が……広がって、いなかった。
「あれ?」
思わず、首を傾げてしまう。
てっきり、ここからまた、あの階段探し地獄をやらされると思って、ちょっと警戒してたんだけど……おかしいな。
そこにあったのは、ボスエリアよりも少しだけ狭めの広間。
真っ先に視界に入ったのは、宙に浮かぶ大きな青い結晶。なんだか、不思議な力を感じる。ただの結晶ではないみたいだ。
「ここは……何?」
アシュレイが、隣でボソリと呟く。ずっと迷宮に潜ってきたアシュレイでさえ知らない場所なのか?
「アシュレイにもわからないの?」
「迷宮の宝物庫に似た雰囲気はある。けど……あんな結晶は知らない」
「宝物庫か……」
わたしたちが迷宮に挑み始めたそもそもの目的は、強くなるための訓練と、それから、迷宮から出土するという宝物だった。わたしたちの装備を整えるために、剣や鎧といったものが欲しかったんだ。
見れば、部屋のあちこちに、豪華な装飾の施された宝箱が置かれてあった。わかりやすいな。
「ここが宝物庫で間違いないんじゃない? あの結晶がなんなのかはわからないけど」
二人よりも先に広間に足を踏み入れ、結晶のもとへと向かう。二人は少し遅れて、わたしのあとに付いてきた。
近くまで来ると……大きいな、この結晶。それに、不思議な力を感じる。
「ちょ、アニュエ? 危ないよ?」
「大丈夫大丈夫。害のあるものじゃなさそうだし」
そう言って、結晶に触れた。
……なんだか、懐かしい感じがする。なんだろう、この妙な感覚。この結晶……いいや、この結晶の持つ不思議な力のことを、なにか知っている気がする。
懐かしい……なんで、そんな風に感じるんだ? こんな結晶、見覚えはないはずだけど。
結晶に触れながら、物思いに耽っていた。その、次の瞬間だった。
「っ!?」
巨大な青い結晶が、突如として光り輝き始め、その光がまるで糸のようになって、わたしの中に吸収され始めた。
「アニュエっ!?」
「ちょっ……なにっ……!?」
痛みや不快感はない。ただ、その懐かしいなにかが、わたしの中へと流れ込んでくる。
わたしを結晶から引き剥がそうとするお姉ちゃんとアシュレイを、ひとまず落ち着かせ、流れ込んでくるそれを、静かに受け入れた。
これは……この力は……?
体の奥底から、力が溢れてくる。間違いなく、結晶から流れ込んでくるもののせいだろう。わたしが疑問に思ったのはそこじゃなく、この力の『正体』だ。
「これは……わたしの、力……?」
溢れてくる力は、どこか懐かしく、体に馴染みのあるものだった。それもそのはず。この感覚は、そう。この世界に転生してから失われてしまった、オルタスフィアでの——アニュエ・ストランダーとしてのわたしの力だったからだ。
それに、これはあの時……調停者と戦っていた時に突如漲ってきた、あの謎の力にも似ている。あの時は気づかなかったけれど、確かにそうだ。
光がわたしの中に吸い込まれていくにつれ、結晶の青い輝きが失われていく。そうして、すべての光が糸となって吸収されると、結晶は透明な石のように変わり果て、あの不思議な力も感じられなくなってしまった。
「力が……戻った……?」
手を握ったり、開いたり。体の底には、確かに、あの頃の力を感じる。
……いや、まだ完全じゃない。これはまだ、アニュエ・ストランダーの力の片鱗にしか過ぎない。
(どういうこと……? なんで、ここにきて前世の力が……?)
この結晶は、いったいなんなんだ? こいつは、なんでわたしの前世の力を宿していたんだ?
わからないことだらけだ。確かなことと言えば、前世の力の一部を取り戻したことで、わたしの能力が大幅に向上したということくらい。今なら、あのナイトロードを相手にしても、もう少し楽に戦えるだろう。
……なんで今なんだよ。順番、逆だろ、普通。
(『わたしが一番望んでるもの』……まさか、それがこの力だってわけ……?)
訳がわからない。なんで調停者は、ここにこんなものがあるって知っていたんだ? それとも、わたしから力を奪った調停者が、この結晶を作ったのか? だとすれば、ここにきてその力をわたしに返した理由は?
なにもわからない。調停者や、わたしを転生させた奴がなにを考えているのか、さっぱりわからん。
「アニュエ……アニュエ?」
「へ?」
考え事をしていたからか、お姉ちゃんがわたしを呼んでいることに気がつかなかった。
「だ……大丈夫……?」
「光が吸い込まれていたようだけど……体はなんともないの?」
二人は、あの光を吸収したことで、わたしになにか影響があったのではないか、と心配しているようだった。
「う、うん……元気だよ、元気。これ、あれじゃない? ほら、体を癒してくれる結晶、的な……」
大袈裟な身振りで弁明するが、二人の視線が痛い。疑われている気がする。
「ほら、大丈夫だって。こんなに元気に動けてるんだから」
その場で飛び跳ねたり、軽くダンスをしてみたり。激し動き回って、ようやく、お姉ちゃんは引き下がった。
「だ、大丈夫そうなら、それでいいんだけど……」
……アシュレイの視線が、まだ少し、痛い。そんな目でわたしを見ないでくれ。説明したいのは山々だけど、説明できない事情があるんだ。
「そ、それより、ほら。この部屋、宝物庫でしょ? 詰め込めるだけ詰め込んで、今回の探索は終わりにしようよ。色々あったしさ」
この部屋には、あの結晶の他にも、複数の宝箱が設置されている。すべて開けて、持てるだけ持って帰れば、儲けだってそれなりに出るはず。
強引な誤魔化し方だったけど、アシュレイはため息をこぼすと、わたしの案に同意した。
「……誤魔化し方は別として、その案には賛成。あんなこともあったし、地上に戻って、ゆっくりと休んだ方がいい」
「まあ、アシュレイさんがそう言うなら……」
……よしっ。誤魔化してるのはバレてるけど、話せないことだということを察してくれたのか、それ以上突っ込んだ話をしてくることはなかった。
じゃあ、まあ、上手いこと話を変えられたところで……お宝の時間といこう。
「とりあえず、宝箱を一箇所に集めよっか」
こんなにバラバラに配置された宝箱を巡るのは面倒だ。指を鳴らし、それぞれの宝箱の下の地面から氷の柱を発生させ、それを滑らせて広間の中央に集めた。
「……風情も何もない」
「まあまあ、そう固いことを言わずに」
宝箱を開ける楽しみは残ってるんだから、風情はそこで味わってもらうことにしよう。
広間中からかき集めた宝箱は、全部で八つ。部屋の広さの割には少ないけれど、その中に一つだけ、大人が入れそうなほど大きな宝箱もあった。
箱が大きいだけで、中身はしょぼい、なんてこともよくある話だけど……期待だけはしておこう。
「先陣切りたい人っ! はぁいっ!」
いつもよりも若干高めな声で、手を挙げる。二人はドン引いていた。
「……なんで引いてるの?」
「いや、アニュエのテンションがよく分からなくて……」
なんて酷いことを。そんな文句を言いながら、わたしは一番左端にあった宝箱に手を添える。一番大きな箱は、もちろん、一番最後に取っておくつもりだ。
少し力を込め、宝箱を開く。中が光り輝く……なんて演出もなく、その中身が露わになった。
「これは……これは……なに?」
箱の大きさから考えると小さすぎる、手のひらサイズの赤くて丸い球体が、一つだけ、ちょこんと鎮座していた。
「あ、魔力玉」
「魔力玉?」
ひょこりと、二人が顔を出してきて、アシュレイがそう言った。
「うん。飲むと、少しだけ魔力が回復する不思議な丸薬。迷宮の宝箱から、たまに見つかるの」
「丸っ……え、これ飲み込むのっ……!?」
「うん」
思わず、鎮座するそいつを二度見した。箱の大きさからすると小さいけど、それでも手のひらサイズ。これを飲み込むのか……!?
「高く売れるものでもないけど、持っておいて損はない。アタリかハズレかって言われると……ハズレだけど」
「幸先悪いな……」
宝物庫の宝箱からしか出ないわけでもなく、迷宮内に点在する宝箱の中から、比較的高い確率で出るものらしい。要は『ハズレ枠』だ。
スタートとしては最悪。というか、ほんとにこれを飲み込むのか……ほんとに? 喉破裂しない?
「じゃあ次……お姉ちゃん、開けていいよ」
「えっ、私?」
お姉ちゃんが恐る恐る宝箱に近づき、開く。次はなにか良いものが入っていてほしい。
そう願いながら中を覗き込むと……空。
「……あれ?」
「迷宮の宝箱は、中に何も入ってないこともある」
「なんっでだっ!?」
宝箱なんだからせめて中になにか入れとけよっ! さっきの丸薬よりランクダウンしちゃってるじゃんっ!
これは……なんというか、中身に全然期待できないな……。
「次は私?」
「うん……なんか、良さそうなの引き当ててよ……」
アシュレイが慣れた手つきで、宝箱を開ける。もはや期待などできやしなかったけれど、少しのワクワク感を抱きながら中を覗いた。
「……お?」
空、ではなかった。中には、小さな赤い宝石があしらわれた短剣が入っていた。
短剣……いや、剣なのか? 刃もなくて、豪華な装飾ばかりがされている。実用というよりは、観賞用の武器、みたいな。
「これは……なに?」
「さあ……」
わたしとお姉ちゃんはさっぱりわからん。アシュレイはそれがなにか見当が付いたのか、短剣を手に取ると、わたしたちから少しだけ距離を取った。
「これは多分……」
アシュレイがそう言って念じると、短剣の先から、小さな炎が現れた。両手で包み込めるくらいの大きさだ。
「それ……まさか、精霊石ですか?」
「ううん、そこまで強力なものじゃない。武器としてじゃなく、点火するための道具みたい」
ああ、なるほど。あの赤い宝石、精霊石の下位互換のようなものなのか。武器として使うには出力が足りないから、火を灯せる道具にした、と。
考えようによっては、かなり有用な道具だ。わたしとお姉ちゃんは炎の魔法が使えるから必要ないけど、アシュレイのように、水や氷の魔法に特化した人からすれば、魔力を注ぐだけで火を灯せるから、火起こしができないような場面でかなり重宝するはず。
「アシュレイ、それ、いる?」
なんてことない口調で、そう聞いた。アシュレイは、目を丸く見開いて、驚いているようだった。
「え? いや、ギルドに売れば、それなりの高値がつくと思うけど……」
アシュレイの言いたいことはわかる。たぶん、
『生き残れたのはアニュエがボスを倒したから。私に宝物を貰う資格はあるのか?』
とか、そんなところだろう。
まあ、わたしからすれば、二人がいなければナイトロードだけに集中できなかったわけだし、あのボス戦はみんなの協力あっての勝利だと思ってるから、宝物だって欲しいものが出たら欲しい人が持って帰ればいいんじゃないかな、と思ってるわけだけど。
「いやでも、アシュレイって炎の魔法が使えないでしょ? あったら便利じゃない?」
「そりゃあ、あったら便利なのは間違いないけど……」
「持っておきなよ。お金に困ってるわけでもないのに、有用な道具を手放すのはもったいないし」
誰も使わないような道具なら売りに出すけど、必要な道具まで売りに出すほど、お金には困ってないし。今手放して後悔するくらいなら、いらなくなってから売る方がきっといい。
「……いいの?」
「いいよ。ね、お姉ちゃん」
「うん。アシュレイさんにはお世話になってますし」
お姉ちゃんだって、そこでケチをつけるような人間じゃない。はい満場一致。これはアシュレイのもの。
「なら……ありがたく、いただく」
はにかみながら、アシュレイが短剣を胸元で抱きしめた。ま、大事に使ってくれると嬉しいってもんだね。別にわたしがあげたものじゃないんだけど。
さて。宝箱三つ目にして、ようやく有用な道具が出てきたね。この調子で、残る五つの宝箱からも、凄い装備とか出てきてほしいところだ。
……と、そんな風に希望を抱いていたわたしも、確かにおりました。
「……ほっとんどハズレじゃんっっ!!」
「よくある」
四つ目の宝箱はまたあの丸薬。五つ目の宝箱は魔力を込めると弱く発光するだけの腕輪、六つ目の宝箱は空……なんっだこれ! 宝物庫とかいう名前やめちまえよ!
くそっ、これは想定外だ……ここでお姉ちゃんの装備を少しでも更新できたらと思ってたんだけど、残る二つの宝箱にそれを望むのは高望みか……? せめて、剣だけでも……お姉ちゃんの使えそうな剣だけでも入っててくれ……。
七つ目の宝箱に触れ、開く。今までは光ったりだとか、そんなサプライズはなかったけれど……今回のは、少し、違った。
「あっつっ!?」
宝箱を開いた瞬間、その隙間から、真っ赤な炎が溢れてくる。思わず手を離して、宝箱が閉じてしまったけど……なんだ、今の?
「あ、アニュエ、大丈夫……?」
「だ、大丈夫……ちょっとびっくりしただけ……」
今度は手を水で覆い、宝箱の背面から開くことにした。二人には離れてもらって、驚いて離さないよう、勢いよく開け放った。
天高く、炎が上がる。なかなかの火力だ。中になにが入っているのか、炎が邪魔で全く見えない。
だけど、ここまでの炎の柱が上がるなんて……ただの道具じゃないみたいだ。
炎が少しずつ弱まっていき、その中身が徐々に露わになっていく。
武器、ではない。防具でもない。もっと小さななにかだ。あれは……石? 宝石か?
「まさかっ……」
思い当たるものがある。長い時間をかけ、魔力やエーテルに晒された結果、その性質が変異した石。お母さんやクレイン、ギルドマスターの持つ武器にもあしらわれていた、あの宝石たち。
「……精霊石?」
エレメリアルドライバの核となる、特殊な石。オルタスフィアではレアストーンと呼ばれていた、国宝級に近い価値を有する石だ。
炎が完全に収まり、石を手にすると……炎に包まれていたというのに、想像よりも優しい温かさだった。
透き通った、真っ赤な宝石。光に照らすと、また違った色に見えて面白い。精霊石でなかったとしても、かなり高値で売れそうな石だけど……。
わたしたちは、あまり精霊石に詳しくない。だから、その道のプロであるアシュレイ先生に鑑定をお願いすることにした。
アシュレイは真剣な眼差しでその石を観察し、やがて、感嘆したような声を出した。
「間違いない……アニュエ、これはかなり純度の高い精霊石」
やっぱり……しかも、純度が高いときた。
「じゃあ……エレメリアルドライバが作れるってこと?」
「ええ。それも、高性能なものが」
エレメリアルドライバ。お母さんたちの使っていたような特殊で高性能な武器が、これを用いれば作れる。
「……大当たりじゃん」
「うん。迷宮で精霊石が出たなんて話、ここ何年も聞いてない」
そこまで貴重なものなのか。運が良かった……いや、ただ単に運が良かったってだけなのか……? ここまでくると、これも調停者の仕掛けたことなんじゃないかって疑ってしまうな……。
「じゃあ、あとはこれを核として武器を作ってもらうだけ、か……」
お姉ちゃん用の武器か、わたし用の武器か。それはおいおい考えるとして……剣を打ってもらうなら、おじいちゃんだな。また、ノーブリスに戻らないといけないかもしれない。おじいちゃんの打った剣なら、安心して命を預けられるし。
「お姉ちゃん……これは、おじいちゃんに任せようと思う。それでいい?」
「うん、勿論。できれば、それはアニュエに使ってほしいけど……」
「わたしはお姉ちゃんに使ってほしいけどね。ま、そこはグラメルテに帰ってから考えてもいいかも」
これはまた、どっちが使うって話で一悶着ありそう。それはあとで考えるとしよう。
「じゃあ……最後の一つだね。これは、三人で一緒に開けようよ」
「分かった」
「なら、アニュエが真ん中ね」
お姉ちゃんに言われ、わたしは二人に挟まれる形で、宝箱に手をかけた。二人が同じように手をかけたのを確認して、わたしは号令をかける。
「せー、のっ!」
——ガタァン……
今までのよりも遥かに大きな音が鳴って、宝箱が開く。他の箱の何倍もの大きさがあるからか、中には複数の道具が入っていた。
マントや指輪、杖……確かに便利な道具ではあるけれど、特別有用な道具かと言われると微妙な品々が続き、そして、一番最後に残ったのは、古びた木箱だった。
「これは……」
蓋を開くと、中には同じ見た目の腕輪が四本、並んでいた。白を基調として、所々に金細工が施された、派手すぎず、ほどほどに洒落た腕輪だ。
試しに腕に嵌めてみるけれど、特にこれといって不思議な力を感じるわけでもない。ここに入ってるくらいだから、なんにもないただの腕輪ってことはないだろうけど……。
「なんだろ、これ。ただのおしゃれアイテム?」
「さあ……」
お姉ちゃんとアシュレイが、同じようにそれを腕に嵌めた。
次の瞬間。なんの力も感じなかった腕輪から、妙な感覚が流れ込んできた。
『うわっ、なにっ……?』
『え……?』
『え、ちょ……うん……?』
頭の中に声が響く。二人の声だ。二人も同じように、妙な感覚に襲われたのか、顔をしかめていた。
……ん、なんかおかしいな。頭の中に、声が響いた?
『……あれ、なにこれ。どうなってんの……?』
『頭の中に、アニュエの声が……聞こえる……?』
『ど、どういうこと……? アニュエもアシュレイさんも口が動いてないのに、声だけが聞こえる……?』
どうなってるんだ? なんで突然、頭の中に二人の声が?
……いや、まさかな。
心当たりと言えば、これしかない。腕輪を外し、集中してみるが、今度はなにも聞こえない。嵌め直してみると、再び、二人の声が聞こえ始めた。
『これ……同じ腕輪を嵌めてる人と、頭の中で会話できるようになるってこと……?』
『ええ……? そんなまさか……』
『いや、多分……それだけじゃないと思う』
そう言って……言って? アシュレイがものすごい勢いで、わたしたちから遠ざかっていく。広間の端まで行くと、遠目ではそれがアシュレイだとはわからない。
『声、聞こえる?』
『え、うん。聞こえるよ?』
『聞こえますね』
なに当たり前のことを聞いてるんだ?
と、思ったが、次のアシュレイの一言で、考えが変わる。
『こんなに離れてるのに?』
『……あ、なるほど』
そうか。これだけ離れてたら、普通は声なんて聞こえないよな。ということは、この腕輪……頭の中で、しかも、遠く離れている相手とも話ができる道具ってことか?
どれくらい離れていても話ができるか、とか、その辺りの検証は必要だけど……これ、今まで見たことがないタイプの道具だな、どういう原理だ?
アシュレイは、再び走ってわたしたちのもとへと戻ってくると、腕輪を一旦外して口頭で話し始める。
「これは……私も、見たことも聞いたこともない。もし売りに出せば、値段も付けられないと思う」
「私も、学園にはお金を持ってる人も沢山いたから、色んなアイテムを持ってる人がいたけど、こんなの、見たことないよ」
「相当珍しいってことか……」
わたしも、前世では色んなものを見てきたけど、こういうのは初めて見たな。ほんとに原理がなんにもわからないけど、使ってて害がある感じでもないし……マナを大量に消費するってわけでもない。
それに、わたしたちのために用意したみたいに、ちょうど、四つ入り。三人で分けて、残り一つはケルティへ。驚くほどぴったりだ。
「……よし。じゃあ、これは三人で一つずつ持っておこう。で、残り一つは、ケルティに渡しちゃおう」
「うん。私も、そうするのがいいと思う」
お姉ちゃんはすぐに賛成した。アシュレイは、少し申し訳なさそうな表情をしている。
「……私で、いいの? 四つしかないのに……」
「アシュレイがいいの。そういう能力抜きにしても、おしゃれだし。それに、お揃いだよ?」
出会った記念に、お揃いのアクセサリー。そういうのも、悪くはないと思う。
アシュレイは少し照れ臭ったように笑うと、『ありがとう』と呟いた。
「大事にする。一生の宝物にするから」
この笑顔、百億点満点。完璧。
随分と心を開いてくれたアシュレイを見て、わたしとお姉ちゃんも、釣られて笑ってしまう。
宝箱の中身は、これで全部。使えるものは少なかったけど……最後にアシュレイの可愛い笑顔も見られたし、満足だ。
「……お腹空いたね。帰ろっか、二人とも」
ケルティの作るご飯が恋しくなってきた。あの優しい味の料理が、無性に食べたくなってくる。
意識すると、三人同時にお腹の虫が鳴く。さあ、町へ帰ろう。今夜は宴だ。みんなで、疲れて寝ちゃうまで、はしゃぎ倒そう。




