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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
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第八十四話 死闘

……さて。大見得を切ったのはいいものの、どうするか。


 作戦もなにも考えちゃいない。勝てる確証もない。


 ただ、ここで勝たなきゃ、すべてが終わる。


(攻撃さえ当たれば、なんとか……)


 威力が足りずに倒せない、ってことはないと思う。攻撃が当たりさえすれば、勝機はあるはずだ。


 厄介なのは、ナイトロードの背中から生えている、翼のような、マントのような、あの黒い外套。わたしの渾身の一撃を防いだことから考えても、あれの耐久力はかなりのものだ。それも、ナイトロードの意思で自在に動かせるか、もしくは、自動で攻撃を防ぐような能力がある。


 あれをなんとかしない限り、わたしの攻撃は奴に届かない。無力化する方法か、一時的に動きを止めるか、なにか方法を考えなくちゃ。



 だけど、まずは検証から入ろう。あれがどの程度まで攻撃を防ぐのか……それを試さないことには、作戦の立てようもない。



——事象書き換え、魔法構築……アイシクルランス



——魔法複製……アイシクルランス、六連



 六本の氷の槍が、それぞれ異なる軌道を描きながら、ナイトロードを襲う。さあ、どうやって叩き落とす?



 ナイトロードはその場を一歩も動くことなく。あの黒い外套だけがひとりでに動き、飛来する氷の槍を次々と叩き落としていく。


 三本、四本、五本……。


 最後の一本。六本目の槍を、マントのようなそれが掴むと、わたしに見せつけるように、砕いてみせた。



……ダメか。ただ軌道が複雑なだけの魔法じゃ、叩き落とされるのが関の山。もっと複雑な魔法か、叩き落とすことができないような魔法を。



「グラウンド……フレイムっ」



 左手を地面につき、その左手を起点として、炎が地面を這い、覆い尽くす。本来は敵の足止め用の魔法だけど、アイスバーンからペネトレイターへ派生させたように、魔法の式を少し弄ってやれば。



——魔法変換……ボルケーノ



 お姉ちゃんの『ファイアトーネード』を、わたしなりにアレンジしたものだ。グラウンドフレイムで覆った地面から、高威力の炎の柱を発生させる。範囲はファイアトーネードよりも狭いけれど、上手く敵を包み込むことができれば、威力はあちらよりも高い。



 発生した巨大な炎の柱は、ナイトロードの体を丸ごと包み込んでしまう。並大抵の敵なら、これで燃え尽きるはずだ。



……並大抵の敵なら、だけど。




「……無敵かよ」



 魔法が終了し、炎が霧散する。柱の中から現れたのは、黒い塊。炎が消えるのと同時に、その黒い塊は例の武装に戻っていた。


 あのマントみたいなやつで、全身を覆っていたのか。あの火力にも耐えられるとか……あれを破壊する手はダメだな。これだけやって傷一つ付いていないなんて、ちょっと想定外だ。




——戯れはここまでか?




 そう言っているかのように、ナイトロードの周囲に無数の黒い球が現れる。



「ちっ……!!」



 あれはまずい。見た目からして、さっきの追尾する雷と同じ魔法だけど、数がおかしい。あれ全部から雷が発射されれば、盾で防いでいる余裕なんてない。


 かと言って、避け切れるか……? 軽く十を超えるその魔法を、避け切れるのか?



 バチバチと音を立て。黒い球が怪しく光り輝き、そして、無数にあるその球体から、同時に雷が放たれた。


 速度はそれほど速くもない。が、数が桁違いすぎる。あれが全て追尾性能を持っているっていうんなら、とてもじゃないけど避け切れない。


「アイスウォール……!」


 できる限り堅牢に。マナを多めに込めて、強固にした氷の壁を生み出した。



 放たれた雷はその氷の壁に阻まれ、消滅するが……こちらの被害も甚大だ。今の一度を防いだだけで、強固に作ったはずの氷の壁は半壊。あと一度耐えられるかどうかも怪しい。



 防御面だけでなく、魔法の威力も、数も、段違いに強くなっている。話にならない。こんなもの、どうやって倒せって言うんだ。



 せめて……せめて、前世の力をほんの少しでも使えたら。継承された記憶だけじゃなく、前世のあの力を使うことができれば、なんとかなるかもしれないのに。



(……まあ、無い物ねだりか)



 力がないなら、頭を使え。どうにかして、あいつの絶対防御を突破するんだ。


 いや、まずは。


「あれをどうにかするところからかっ……!!!」


 再びすべての球体から雷が放たれ、今度は防ぎ切ることができず、召喚した氷の壁が破壊される。その破片で、頬や腕に血が滲んだ。


 やっぱり威力がバカにならない。だけど、弱点もある。ナイトロードの召喚したあの黒い球体は、デュラハンの時と違って、連発ができないらしい。一度魔法を放つと、そのあと少しの間だけ充電期間がある。


 威力と引き換えに、連射性能を捨てたのか。だったら、その隙に色々試し……てぇっっっ!?



「っっぶなっ!?」



 その場に倒れ込むようにして、飛んできた雷を回避する。続け様に三発、同じく雷が飛来した。今度は一斉にではなく、個々に制御して撃ってきてる。



 くっそ……そりゃそうか。別に、全部一度に使う必要はないもんな。威力が上がって連射速度が下がったのを、数を増やして誤魔化してるってわけか。ちくしょうめ。



……とにかく、こっちから仕掛けないことにはなにも変わらない。多少のダメージは覚悟の上だ。死ななけりゃ、治癒魔法である程度は治る。ギルドマスターだってダメージ受けながら倒したみたいだし、無傷で、なんて都合良くはいかないだろう。


 剣を強く握り締め、駆け抜ける。装填が終わった球体から、次々に雷が放たれるが、それを必要最低限の防御と回避で対処していく。


「アイスシールドっ!」


 頭上から迫っていた雷を、氷の盾を上空に展開することで防ごうとした。一発目は防げたが、その直後に迫っていた二発目に気づけず、半壊した盾で防げなかった雷が、わたしを直撃した。



「ぐぁっ……くぅぅっっ……!!!」



 痛い。剣で斬られたり、骨を折られたり、そういう痛みとはまた別の痛み。全身が痙攣しそうなほどの激痛に悶え苦しみそうになって、その場に伏しそうになるのを、気力だけで堪えた。



 倒れちゃダメだ。二人が雑魚たちを抑えてくれてる。わたしがこいつを倒して、二人を守らなきゃダメなんだ。こんなところで倒れたら……お母さんに、なんて言われるかわかんないだろ。


 耐えろ、わたし。痛みには慣れてる。今までだって、散々戦ってきただろ。強敵とも、難敵とも戦ってきた。今回は少し、相手が悪いだけ。ただ、それだけだろう。


「まだ……まだぁっ……!」


 地面を蹴って駆け抜ける。ナイトロードはもう目の前にいる。一撃でもいい。一撃でも与えられれば、なにかが変わるはず。




 剣を大きく振りかぶり、奴の足を薙ぎ払った。姿勢を崩せ。膝をつけ。せめて、せめてこの一撃だけでも。




——キィン……




 薙ぎ払った剣は……またもや、あの黒いなにかに掴まれていた。押しても、引いても、動かない。剣を手放さねば、一歩たりとも動けそうになかった。


「くっ……そっ!!」




 刹那の逡巡。わたしは剣を……おじいちゃんに貰った最初のプレゼントである『アーティス』を、手放した。




 すぐさま距離を取ると、そこへ無数の雷が押し寄せた。回避も防御も間に合わない。数を減らせば、生身で受けても死にはしない。


 自分を丸く包み込むように、分厚い氷の壁を作り出す。雷が着弾するたびにヒビが走り、何発か着弾したところで、完全に砕け散ってしまった。


 残った雷は二発。もうなにをしても間に合わず、眼前に迫るそれを、わたしはこの身で受け止めた。



「ぐっ、ぅぅうっっっ……!!!」



 痛みに加え、全身が焼かれるような感覚もあった。皮膚がボロボロになり、空気が触れるたびに全身に激痛が走る。



「はっ……はぁっ……」



 肺が焼けているのか、息をするたびに体の内側がズキズキと痛んだ。急いで治癒魔法をかけないと、ほんとに、死ぬっ……!


 全力で治癒魔法を行使し、とにかく内臓系の再生を急いだ。外の痛みは耐えればいいけど、内臓の痛みは戦闘に支障が出る。


 息を切らしながら見上げると、ナイトロードが、こちらを見下ろしていた。やはり、頭はないのに……わたしを、弱い者だと、嘲笑っているように見えた。




 そして、その手にはアーティスがある。奴の手に収まれば、アーティスはとても小さな、おもちゃのように見える。




「ま、待ってよ……なに、するつもりっ……!?」




 奴はそれを、ゆっくりと握り締め……そして、手に雷を纏って。




「やめっっ……!!」






————思い切り、握り潰した。






 開いた手から、ぱらぱらと、アーティス『だった』ものがこぼれ落ちていく。ここまで旅を共にしてきた相棒が、その魂まで、完全に砕かれた瞬間だった。



「あっ……あぁっ……」



 おじいちゃんに、初めて貰ったプレゼントだった。せっかく、おじいちゃんが打ってくれた剣だった。


 奴の足元に転がった、見るも無惨な姿になったアーティスに、追い討ちをかけるように、奴は踏み締めた。虫を踏み潰すように足を動かし、再び姿を見せたアーティスは……もう、ただのチリと化していた。



「おま、えは……!」



 魔法で作り出した氷の杖を頼りに、立ち上がる。まだ体中が痛む。油断すれば気を失ってしまいそうだった。



 だけど、こいつを倒さなくちゃならない理由が、一つ増えた。




「どこまで、人を嘲笑えば気が済むんだっっ……!!」




 こいつは、わたしの宝物を壊したんだ。その罪は、こいつ自身の死で償ってもらわなくちゃならない。


 

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