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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
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第八十二話 デュラハン

 首のない騎士、デュラハン。広間の中央で奴が放った殺気が、入り口に立つわたしたちの髪を揺らした。


 ビリビリと、震えた空気が肌を打つ。なるほど確かに。クレインと同格、とまでは言わないけど、アランよりは間違いなく強い。遺跡の迷宮のホブゴブリンなんかとは比べものにならないほどの殺気だ。


 いや、この感じ、迷宮膨張(スタンピード)で現れたサイクロプスより格上かもしれない。一番最初のボスでこれか。思っていたよりも厄介だな、大迷宮。


「二人とも、安心して。今の私たちなら、落ち着いて戦えば負ける相手じゃない」


 わたしたちの中で一番冷静だったのはアシュレイだ。大迷宮に一番詳しいのも同じ。そんなアシュレイが言うんだから、三人で力を合わせれば、きっと勝てるはず。


「ほ、本当ですか……?」

「アシュレイがそう言うんだから、信じよう」


 お姉ちゃんは少し不安そうだった。無理もない。わたしだって、予想してたより強そうな奴が出てきてびっくりしてるんだ。


「いい、お姉ちゃん? 作戦通りにやれば大丈夫。ピンチになったら、わたしも加勢するから」

「う、うん……私、頑張るねっ」

「その意気その意気」


 さて。デュラハンにまだ動きはない。が、ここから一歩でも先へ進めば、恐らく戦闘が始まる。



 お姉ちゃんの魔力が尽きるより前に、わたしとアシュレイでデュラハンを倒す。それができなければ、戦況はより厳しくなるだろう。あんまりのんびりと戦っている時間もない。ボスエリアは、ボスを倒した後はその手前にある安全地帯と同じく、魔物の出現が止まる。最悪、ここで全力を出し尽くしてしまっても、それを回復するだけの余裕はあるんだ。



「……行くよ、みんな」


 ごくりと、誰かが唾を飲み込んだ音がした。それを合図に、一斉に駆け出した。



 わたしたちが動き出したのとほぼ同じタイミングで、デュラハンも動き出す。既に抜いていた剣を頭上で回転させ、もう一度地面に突き刺す。


 すると、奴の周囲に黒い雷が落ち、その痕から、複数のリビングアーマーが現れた。



 数が多い。アシュレイの話だと、召喚されるリビングアーマーの数はランダムらしいけど、今まで戦った中で一番少なかったのが六体。今回は……十二体。予想よりも数が多かった。



「お姉ちゃん、やれる!?」

「任せてっっ!!」



 お姉ちゃんは一足先に駆け抜けながら、詠唱を開始した。



「レッドレギオンッ!」



 右手に剣、左手には剣を模した炎。そして、背後に浮かぶ二本の炎剣。お姉ちゃんは両手を広げると、まだ距離があるリビングアーマーたちに向かって、剣を振り下ろすような真似をしてみせた。


 背後に浮かぶ炎剣が、その動きに合わせ飛来する。正面にいた二体のリビングアーマーを切りつけ、そして、またもやお姉ちゃんの動きに合わせ、その場で踊るように回転し始めた。


 回転する炎剣が、複数のリビングアーマーを巻き込みながら燃え上がる。そのおかげで、狙いが全てお姉ちゃんに吸い込まれていた。



「アニュエっ!」

「うんっ!」



 お姉ちゃんがデュラハンの標的になるよりも前に駆け付け、二人同時にデュラハンへと斬りかかる。しかし、わたしは奴の持つ歪な形の剣に、アシュレイは獅子を模した見た目の大盾に防がれてしまった。


「ちっ……!」


 防がれようと関係ない。そのまま二人で連続攻撃を浴びせるが、奴はその場から一歩も動くことなく、その全てをいなした。



 次の瞬間、奴の頭上に黒い球体が現れる。バチバチと音を立てながら浮かぶその球体を、本能が、危険だと言った。


 舌打ちをして、その場で風の足場を作り出し、宙返りをして離脱すると、さっきまでわたしがいた場所に、あの球体が黒い雷を放っていた。



 そうか。これがアシュレイの言っていた、デュラハンの使う雷魔法か。確かにこれは、中々厄介……だっ!



 回避するたびに、追尾するように雷が放たれる。避けてばかりで、攻撃のチャンスが生まれない。



「アニュエ、盾をっ!」

「ああ……そっか……!」



 アシュレイが叫んだ。ああ、そうだ。そういえば、作戦会議の時に言ってたな。奴の頭上に黒い球体が現れた時は、追尾する雷を放ってくる。反面、威力はそこまで高くないから、盾を作って防ぎながら距離を詰めるのがいい、って。


 まったく、人の話をちゃんと聞いてるのか、わたし。


 軽い詠唱を終え、左手に氷の盾を構築する。飛来する雷を盾で防ぐと、少しだけ抉れはしたけど、一撃で壊れるほどの威力ではなかった。この威力なら、最悪、一発か二発くらいなら生身で受けても大丈夫そうだな。



 盾で雷を弾きながら、再びデュラハンに接近する。あの球体を出している間、他の魔法は使えない。雷と、奴の剣にだけ注意していればそれでいい。


「はぁあっっ!!」


 雷を弾きながら回転し、その勢いを乗せて渾身の一撃を叩き込む。デュラハンはそれを剣で防いたけど、全体重と回転の勢いが乗った一撃は、そう簡単には防げまい。


 デュラハンの足元の床が、その衝撃に負けて砕けた。この一撃は届かなかったけれど、ほんの少しだけ、奴の姿勢が崩れたのを見て、『今だ』とでも言わんばかりに、アシュレイが動き始めた。



「シッッ……!!」



 アシュレイはいつの間にか上空にいて、氷で作った足場を用いて、まるで地上にいる獲物を狙う鳥のように、空中からデュラハンに向かって突撃した。


 デュラハンはそれを、あの大盾で防ごうとするが……遅い。アシュレイの長所は、その圧倒的なスピード。一撃一撃は軽いが、その分、速さで敵に防御する時間を与えない。


 アシュレイが狙ったのは、大盾を持つデュラハンの左腕だった。左腕を破壊することができれば、奴は盾を持てなくなり、攻撃の機会がグッと増える。




……しかし。




「っっ!!」




 デュラハンの体が突然、白い光に包まれたかと思うと、衝撃波のようななにかに弾き飛ばされてしまう。


 当然、それはアシュレイも例外ではなかった。わたしと同じように吹き飛ばされたアシュレイは、空中で一回転すると、少し姿勢を崩しながらも着地した。


「いってて……やっぱり、一筋縄じゃいかないか……」


 わたしはと言うと、思い切り尻餅をついていた。事前に聞いていた中に、こんな攻撃パターンがなかったから油断したんだ。


「アシュレイ、大丈夫? 怪我とか……アシュレイ?」


 視界の端で、上手く着地していたのは見ていたけど、念のために確認した。


 念のため、だったけれど、その心配は別の方向に向いてしまうことになる。


 アシュレイが、なにか驚いた様子で、目を丸く見開いていた。アシュレイも、あの攻撃を見るのが初めてだったのかな。不意をつかれたから、驚くのも無理はない。



……と、楽観的に思っていた。だけど、思っていたよりも、事態は深刻だったらしい。



「……アシュレイ?」

「……そんなはずはっ……」



 声が少し、震えていた。ただ見たことのない攻撃がきたからって、そこまで驚くことはないだろう。なにか、違う理由があるのか。


 一度、合流した方が良さそうだ。アシュレイはちょうど、デュラハンを挟んで反対側。わたしが向こうに行った方が、たぶん、早い。



 あの追尾してくる雷はもう消えていた。わたしは一気に加速し、アシュレイのもとへと駆け寄ると、その体を抱き寄せてデュラハンから距離を取った。


「アシュレイ、どうしたの? 大丈夫……?」

「あ、アニュエ……」


 ひどく震えるアシュレイ。どこか、怯えているようにも見える。


 いったい、どうしたっていうんだ。どうして急に、こんなに怯え出したんだ?



 そんな風に考えていると、風を切る音と共に、デュラハンの大剣がわたしたちに向かって振り下ろされた。アシュレイを抱きかかえたまま飛び、それを躱す。そして、着地してすぐに、アシュレイがわたしの胸元を掴みながら言った。


「確かめたいことが、あるの……お願い、手伝ってっ……!」


 今まで見たことがないような様子のアシュレイに、嫌だとも言えなかった。


 耳元で囁かれたアシュレイの作戦を実行するべく、わたしはアシュレイから離れ、デュラハンとの距離をじりじりと詰めていく。



「氷の精霊よ……凍てつく大地で彼の者の自由を奪え、アイスバーンッ……!」



 『私が奴の動きを一瞬止める。その隙に、背後に回り込んで攻撃してほしい』



 アシュレイはそう言った。


 詠唱を終えたアシュレイが、両手を地面に付く。すると、両手が触れた部分が凍りつき、それがやがてデュラハンの足元まで達した。


 奴の足元から、膝の辺りまでがアシュレイの魔法で凍りつき、奴は一時的に身動きが取れなくなった。一瞬だと言っていたし、そう長くは止められないんだろう。



(ミラージュステップ……!)



 細かな爆発を駆使して、目にも止まらぬ速さで奴の背後に回り込む。そして、先ほど放ったのと同じような、回転の勢いを込めた一撃を、奴の背中に叩き込んでやろうとした。



「はぁぁっっっ!!」



 隙だらけだ。膝の辺りまでを凍らされたデュラハンは振り返ることもできず、その巨大な図体では上半身を捻ったところで、わたしの攻撃を防ぐことはできない。


 あの衝撃波のようなものを使われなければ、届く。そう思った。




……が。




「なにっっ……!?」




 デュラハンの影から、黒い触手のようなものが飛び出してくる。それはわたしの剣を受け止めると、そのまま掴んで、わたしごと全力で放り投げた。


「アニュエっっ!!」



 前方へ投げられたわたしは、そのままアシュレイ目掛けて飛んでいく。アシュレイはわたしの体を受け止めると、その勢いに負け、わたしと一緒になって吹き飛んでしまった。




 なんだ、今のは。あの妙な影は、いったい……!




 奴の影から伸びた黒い触手のようなものは、そのままデュラハンに纏わりつくと、その背後に、翼のようにも、そして、マントのようにも見えるなにかを形成した。


 デュラハンの鎧も、そいつが纏わりついたことによって、より刺々しく、より禍々しく、その姿を変貌させる。



「やっぱり……なんで、こいつがこんなところにっ……!」



 アシュレイが、ひどく怯え、震えた声でそう言った。まるで、これがなんなのかを知ってるような言い方だ。


「アシュレイさん、アニュエっ!」


 その時だった。周囲のリビングアーマーを片付けたお姉ちゃんが、わたしたちのもとへと駆け寄ってきた。


 お姉ちゃんはすぐさま、わたしに治癒魔法をかけ始める。浅い傷からどんどんと塞がっていくけれど……骨が何本かイカれているような気がする。



「アシュレイ、こいつ、いったいっ……!?」

「こいつは……こいつは、デュラハンじゃない……デュラハンなんかじゃない……」



 デュラハンじゃ、ない。アシュレイはそう言った。


 事前に聞いていた情報と、まったく違う。それは、こいつがそもそも『デュラハン』などではなかったから。



 じゃあ、いったい、こいつは?





「ナイトロード……三十層のボス、ナイトロードっ……!




 悲鳴にも似たアシュレイの言葉。それと同時に、デュラハン改め、ナイトロードが地面に剣を突き刺した。手下を召喚するときのあの動きだ。だけど、召喚されたのはリビングアーマーなどではなく……全身が鎧で覆われた馬に跨る、真っ黒な鎧を身に纏った、リビングアーマーとは比較にならないほど、強力な気配を放つ魔物。


「アニュエ、オリビア……後のことは考えずに、死ぬ気で戦って……でなきゃ、死ぬっ……!」


 この場にいる三人が、三人とも、この一瞬で……死を覚悟しただろう。


 わたしたちがデュラハンだと思って戦っていた魔物……本来は三十層に現れるはずのボス、ナイトロードは、どこかわたしたちを嘲笑うように……軍勢を、わたしたちに差し向けた。


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