表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
88/136

第七十八話 漂う魂

「あれは……」


 リビングアーマーとの戦闘を終え、順調に……かはわからないが、先へと進むわたしたち。扉を開け、新たな通路へ出ると、再び魔物の気配を感じた。


 リビングアーマーではない。また別の魔物だ。少し紫がかった白いものが、宙をふわふわと漂っている。


 あれは……なんだろう。ほんとに魔物、か?


「あれは『フロートソウル』。少し厄介な魔物」

「フロートソウル?」


 聞いたことがない魔物だ。こちらの世界限定の魔物か? それとも、名前と見た目が少し違うだけで、わたしも知ってる魔物なのか。


 部屋へ入り、近付くと、フロートソウルもこちらに気が付いたようで、紫がかっていたその姿が、真っ赤に染まっていく。



 そして、そのままわたしたちに向かってくる……のではなく、なぜか、通路に飾ってあった銅像へと突っ込んでいってしまった。



「……?」



 銅像へ突っ込んだフロートソウルは、そのまま、銅像に吸い込まれるかのような形で、姿を消してしまう。


 かと思えば、今度はその銅像が赤く発光し始め、宙に浮き始めた。


 おいおいおい……似たような魔物なら知ってるぞ……名前も見た目も違うけど、こんな風に、『非生命体』に取り憑いて、自由自在に操ってしまう魔物なら知ってる。



 オルタスフィアでは、それは『ポルターガイスト』と呼ばれていた。一部の地域では、長年、『死者の呪い』だと信じ続けられていた魔物だ。



 だとすると、銅像に取り憑いて宙に浮かせた後にやってくることは……、



「避けてっ!」



 お姉ちゃんに飛びかかり、そのまま地面に押し倒す。次の瞬間、さっきまでわたしたちが立っていたところへ、あの銅像が高速で飛来した。不意を突かれたあの状態で、まともに受ければ即死だ。


「ってて……」


 急に押し倒したもんだから、防御に魔法を使う暇もなかっただろう。お姉ちゃんは手と足を少し擦りむいているようだった。


「ごめん、お姉ちゃん。こうするしかなくて」

「私なら大丈夫。それより、あれは……?」


 お姉ちゃんに治癒魔法を使いながら、一緒に立ち上がる。銅像はふよふよと、また宙に浮かんだままで、攻撃してくる素振りを見せない。


「『非生命体』に取り憑いて、自由自在に操っちゃう魔物。ちょっと厄介な相手だね。それに……」


 奥の方から、三体、新たにフロートソウルが現れる。それぞれ、壁に飾ってあった槍や、重そうな花瓶、銅像に取り憑くと、一体目と同じように、宙に浮かんで待機していた。


 なんで攻撃してこないんだ? ポルターガイストと同種の魔物なら、攻撃性は高いはず。隙があれば攻撃してきたっておかしくはない。



 ああ、いや……だから、むしろこっちの反撃を恐れてるのか。リビングアーマーは知性が低くて、考え無しに突撃してくるけど、こいつらはある程度の知性を有してるみたいだ。わたしたちが一撃目を避けた時点で、こちらの動きを警戒しているように見える。


 ちょうどいい。そのおかげで、お姉ちゃんの治療も終わったところだ。反撃開始といこう。


「フロートソウルには、物理攻撃は効かない。二人とも、魔法で応戦して」

「おっけー!」

「はいっ!」


 アシュレイからの簡潔なアドバイス。それもあっちの世界の奴と同じか。だとすると、倒し方も同じか?


 奴らは、非生命体に取り憑いてはいるけど、それが本体になるというわけではない。いくら外側のものを壊したところで、本体が違うものに取り憑けば、それまでの行為は無駄になる。


 昔はどうやって倒せばいいんだなんだと、色々と議論もあったみたいだけど……最終的に人々が行き着いた倒し方は、これだ。


 ほんとは部屋が暑くなるからしたくなかったけど……仕方ない。場合によりけり、だ。



「燃やし尽くせ、フレイム!」



 取り憑かれた銅像を包み込むように、巨大な炎を発生させる。それと同時に、別の魔法も発動させる。


「槍となりて貫け、フレイムランスッ!」


 発生した炎の槍が、銅像へ飛来し、破壊する。粉々に粉砕された銅像から、赤いフロートソウルが弾き出され、そして……事前に銅像を包んでいたフレイムの魔法で、その身を焼かれる。



 これが、最新のポルターガイスト討伐法だ。本来は二人で行うものだけど、それを省略したいがために、今回は一人で進めた。


 まずは一人、魔法使いがポルターガイスト……この世界でいうフロートソウルが宿った物体を、魔法で覆い尽くす。


 次に、もう一人がフロートソウルが宿っている物体自体を、物理攻撃や魔法で破壊する。


 するとどうなるか。フロートソウルは常に物体に宿っているため、本体を捉えることは難しい。だけど、その物体を壊せば。そこに宿っていたフロートソウルは、一度、外へ放り出されてしまう。


 そして、外に放り出されたフロートソウルの本体は、事前にそれを包み込んでいた範囲魔法にさらされ、自滅に近い形で消滅する。


 要は、フロートソウルが次の物体に宿る前に、範囲型魔法で滅してしまおう、という方法だ。



 このやり方は、この世界でも有効なようだった。銅像が破壊されたことで、そこに宿っていたフロートソウルが外に放り出され、銅像を覆っていた炎に焼かれて、消滅する。奴らも耐久性はそこまで高くないらしく、こんな簡単な魔法であっさりと倒せてしまった。



「お姉ちゃん、浮いてる奴ら全部を覆えるくらい、おっきな魔法を!」

「わかった!」


 残るフロートソウルは三体。お姉ちゃんもいるんだ。ここは役割を分担しよう。


「舞い踊る花……集いて渦巻く炎となれ! ファイアトーネードッ!」


 お姉ちゃんの放った巨大な炎の渦が、宙に浮かぶフロートソウルの憑依した物を覆い尽くす。これだけでもかなりの威力。放っておいても、いずれ倒せるだろうけど……、


「槍となりて貫け……フレイムランスッ」


 三本の炎の槍を構築し、それぞれ、フロートソウルに向けて放つ。既にお姉ちゃんの魔法で壊れかけだった憑依物が、その一撃で完全に崩壊した。


 それと同時に、外に弾き出されたフロートソウルの本体たちが、炎の渦で焼き尽くされる。悲鳴にも似たような音をあげながら。



 あとに残ったのは、リビングアーマーのと似たような、紫色の結晶。討伐証明部位が小さいと、あまり嵩張らなくていいね。



「どう、アシュレイ?」

「お見事。まさか、初めてでそんなに効率的な戦い方ができるなんて」


 まあ……わたしは、初めてじゃないからな。そんな無粋なことは言わないけど。


「アニュエ……今の、どういう理屈?」

「ん? えっとね、それは……」


 言われるがままに戦ったお姉ちゃんは、なにがなんだかわかっていないようだった。後学のためにも、解説をしながら、わたしたちは足を進めた。






「どっこいしょー!」



 慣れた手つきで扉を開く。大迷宮に潜ってから、それなりに時間が経ってしまったような感覚があるけど、わたしたちはいまだ第一層にいる。アシュレイ曰く、ここまで次の階層への階段が見つからないのは『運が悪い』そうだ。


 そろそろ、第二層へ進みたい。そんな風に思いながら開いた扉の先には……豪華なシャンデリアと、それから、下へ続く赤いカーペット。


「あ……やっと見つけた」

「うん。結構時間かかっちゃったね」


 第二層への階段だ。ここまで長かった。この調子で進むと、深部へたどり着けるのは一体いつになるのか。今回は運が悪すぎただけだ、って思いたいところだけど。どうなんだろうな。


「アシュレイ、第二層の注意点は?」

「第一層とそう大きくは変わらない。ただ、第一層で遭遇しなかった魔物がいるから、第二層では戦うことになるかもしれない」

「わたしたちが戦ったのって、リビングアーマーとフロートソウルと、それからシャドウマンでしょ? まだ戦ってない奴がいるわけ?」


 シャドウマンというのは、その名の通り、影のような見た目をした魔物である。影に潜むことができて、潜んでいる間はどんな攻撃も受け付けないけれど、耐久性が低いので、攻撃してくる一瞬を狙えば、簡単に倒すことができる。


「バトラーっていう魔物。カストフの大迷宮の上層に出る魔物では、一番戦闘力が高い」


 バトラー、か。そいつは知らないな。名前的に……執事、か?


「バトラー……執事、ですか?」

「みたいな見た目をしてる。執事服を着てるから、見れば分かる」


 名前のまんまらしいな。こっちはこっちで、独自に存在してる魔物もいるのか。


 てっきり、戦闘力でいえば、フロートソウルが一番厄介だと思ったんだけどな。魔法使いがいないパーティーだと倒せないし、二種類の魔法を同時に扱える魔法使いでもない限りは、二人以上必要になるわけだし。まあ、二級探索者になれるくらいなんだから、そこそこの実力はあるだろうけど。


「へえ……強いの?」


 そう聞くと、アシュレイは首を縦に振った。


「知性が高くて、執事のくせに肉弾戦闘をしてくる。フロートソウル対策で、魔法使いばかりがいるパーティーだと、このバトラー相手に全滅することもある」

「ああ、なるほど……魔法剣士って珍しいもんね」


 わたしもお姉ちゃんも、そして驚くことにアシュレイも魔法剣士ではあるけど、本来は稀有な存在である。魔法の腕が魔法使いに劣らず、なおかつ剣まで覚えようとする奴はそうそういない。やる気が無ければ器用貧乏になって、結局役に立たない場合も多いからな。


 そう。このパーティー、なぜか全員魔法剣士だけど、普通はあり得ないんだよな。実力のある魔法剣士が三人も集まることって。普通はな。



「まあ、なんとかなるでしょ。わたしは接近戦の方が得意だし」

「うん。私も、二人なら問題ないと思う」


 アシュレイがそう言うなら問題無し。オーケー、行こう。



 第二層への階段を下り始めた。次は早いうちに階段が見つかるといいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ