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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
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第七十三話 奔走

『グォォォオオ……』



 迷宮の奥底から、空気を震え上がらせるような雄叫びが聞こえた。その声を合図に、迷宮の入り口が『膨張』するように姿を変えていく。


 まるで、大きな生き物の口のようだった。と同時に、その開いた口から、無数の魔物が溢れ出してくる。



「総員——戦闘開始っ!!」



 ギルドマスターの合図で、探索者たちが一斉に魔物に飛びかかる。迷宮から湧いて出た直後の魔物を叩くもの、その撃ち漏らしを叩くもの、そして、強力な魔物だけを相手にするもの。役割は様々だった。


 わたしたちはまだ、この町に来て日が浅い。まだ他の探索者との連携は難しいだろう、ということで、二人一組で、状況に応じて自分たちで立ち回りを考えてくれ、とギルドマスターに指示されている。そういうのは得意だ。そういう立ち回りができるように鍛えてきたんだから。


「お姉ちゃん、あそこが手薄だ。行くよ」

「了解っ」


 手薄になり、魔物に押し切られそうになっていた探索者たちのもとへ向かい、包囲網から抜け出そうとしていた魔物を叩く。突然現れたわたしたちに、探索者たちは目を丸くしていた。


「加勢しにきたよ」

「お、おいっ、子供が来るところじゃないぞっ……!?」


 顎髭を生やした中年の槍使いが、わたしたちを見てそう言った。わたしたちはついさっき二級に上がったばかりだから、他の探索者たちの間ではまだ『四級』ということになっている。それに、基本的にはずっと迷宮にこもっていたから、わたしたちのことを知っている人もそう多くはない。実力のない新人だと思われても仕方がなかった。


 が、それを諌めたのは、恐らくその仲間であろう大盾使いだった。


「いや待てギズロ、そいつら、『雪鬼』と互角だったっていう例の探索者だっ!」

「なにっ!? この子供がっ!?」


 ギズロ、というのは、この槍使いの男の名前だろう。わたしたちがここに来た時よりも、今の方が驚いた顔をしている。


 『雪鬼』と互角だった、って、あれか。探索者になるために受けた試験で、アシュレイと戦った時のことを言ってるのか。あれを見てた人たちがなにか噂を流してたみたいだな。


 まあ、普段なら別に嬉しくはないけど、この状況だと利用しない手はない。わたしたちにある程度の実力があると知ったら、余計な口を挟んでくる輩も減るだろう。


「ほら、いつまでも驚いてないで、手を動かして。わたしたちは応援部隊だから、こっちが落ち着いたらまた走り回らなきゃダメなの」

「あ、ああっ……分かった、助かる!」


 この一帯は少し手薄なようだけど、強力な魔物は出現していない。数こそ少し多いものの、単体では雑魚な魔物ばかりだ。少しばかり群れを蹴散らしてやれば、あとはここにいる人間で何とかしてくれるだろう。


「お姉ちゃん、一気に蹴散らすよ!」

「うんっ!」



——事象変換、氷の槍、装填。


 魔法で生み出した氷の槍を、背後に六本、装填する。お姉ちゃんはお姉ちゃんで、レッドレギオンというあの魔法を使っていた。最初から飛ばしすぎるのも良くはないが、状況が状況だ。ボス部屋での消耗はそれほど多くなかったし、マナ残量をケチっている場合じゃない。


 それに、このくらいの相手なら、防御にマナを割かなくていい。初戦くらい、派手にやってしまっても構わないだろう。



『『はぁっっ!!』』



 二人同時に駆け出し、魔物の集団に突撃する。お姉ちゃんは四本ある剣で、わたしは剣と氷の槍で、次々と魔物を倒していく。



「お、おいおい……これじゃ、どっちが化け物なんだよっ……」

「雪鬼と互角とは聞いていたが、ここまで強いとは……」



 槍使いと大盾使いの探索者は、初めこそ呆気に取られていたものの、すぐに役目を果たすべく戦闘に参加した。前線で戦っているくらいだから、この人たちも二級以上の探索者なんだろう。いや、アシュレイがあの実力で一級探索者なことを考えれば、恐らくわたしたちと同じ二級探索者。実力はあるだろう。


 読みはまさにその通りで、わたしたちが来た時は数に押されていたけれど、少し減らしてやると、逆に押し返すようになった。迷宮膨張(スタンピード)という異常事態、そして大量の魔物の襲来。気持ちの部分で負けていた部分もあったのかもしれない。




 わたしとお姉ちゃんである程度魔物の数を減らすと、さっきのギズロという男が、少し離れた位置から声をかけてきた。


「嬢ちゃん! こっちはもう大丈夫だ、助かったっ! 他の奴らも手伝ってやってくれ、頼むっ!」

「また今度何か礼をする! 気を付けてなっ!」


 確かに、この場の勢いも落ち着いてきた。三級探索者も何人か加勢に来てくれたし、あとはもう大丈夫だろう。


 ちらりとお姉ちゃんの方を見ると、首を縦に振っていた。よし、離脱しよう。


「わかった、死なないようにね!」

「お気を付けて!」


 目の前にいた魔物をそれぞれ一体ずつ斬り伏せると、わたしたちは急いでその場を離れた。勢いが弱まりつつあるとはいえ、まだまだ迷宮膨張自体は健在だ。他のところも、早く加勢してあげないと。






   * * *






「助かったぜ! お前さんたちが来なかったら危なかった!」

「あとはやれる?」

「おう! 探索者の底力、見せつけてやるさっ!」


 ここで四箇所目。劣勢な探索者のもとへ駆け付け、加勢し、また次の場所へ向かう。もうどれくらいの時間戦っているのか分からなくなってきた。


 みんな、元気があるように振る舞っているけれど……そろそろ、疲れも溜まってきた頃だ。魔物との戦いもそうだけど、なにより、『いつ終わるのかが分からない』という点が、みんなを精神的に苦しめていた。


 わたしも、それほど強力な魔法を連発しているわけでもないし、極力魔力は抑えながら戦っているから、マナ残量や肉体的は疲労はそれほどでもない。ただ、連続して多数の魔物と戦うことで、集中力や精神力が段々とすり減ってきている。


 それはお姉ちゃんも同じだろう。顔から、少しずつ余裕がなくなってきている。



「お姉ちゃん、大丈夫?」

「うん、まだいけるよ。学園にいた頃の私なら、もう戦えなくなってたけど……アニュエに鍛えられたからね」

「なるほど、じゃあ安心だ」


 余裕がなくなってだけで、まだ限界というわけじゃないんだな。さすが、わたしがここまで鍛えてきただけのことはある。



(さて、次の応援は……っ……!)



 どこに加勢にいこうか。そんなことを考えながら戦場を駆け回っていると、迷宮内部から、一際大きな気配を感じた。この感じ……さっき聞いた雄叫びの主かもしれない。


「アニュエ、ギルドマスターが……」


 迷宮膨張直前の作戦会議では、この世界の迷宮膨張は、特定の強力な魔物を討ち取ることで収束すると言っていた。そして、そういった魔物が現れた場合、その相手を買って出たのはギルドマスターだ。


 ギルドマスターから、この強力な魔物が現れた場合は、現場に急行し、いざという時のために近くで戦闘をしておいてほしい、と言われている。万が一にもギルドマスターが敗北した際に、近くに実力者がいなければ被害が広がってしまうためだ。


「うん、行こう、お姉ちゃん」


 頷いたお姉ちゃんと、わたしはギルドマスターのいる、元迷宮入り口前に駆け付けた。


 そこにいたギルドマスターは、素手で魔物の頭部を叩き潰し、たった一発の蹴りで敵の骨を砕いていた。なんというか、もう、無茶苦茶だ。


「ギルドマスターっ!

「っ、おおっ、アニュエにオリビアかっ!」


 ギルドマスターは左手で掴んでいた魔物の頭部を握り潰すと、振り返ってこちらへ歩いてきた。


 怖い。絶対に怒らせないようにしよう。わたしたちの頭も、あんな風に握り潰されるかもしれない。


「魔物の気配を感じて。こいつが親玉でしょうか」

「恐らくな。通常であれば、これを倒せば迷宮膨張は終わる」


 ギルドマスターの読みも、わたしと同じ。この気配の持ち主が親玉だと考えているみたいだ。


 むしろ……こんな特大の殺気を放っている魔物が親玉でないのなら、親玉ってのはどれくらい強いのか想像もつかない。




「……来たな」




 迷宮の入口が一際大きく脈動し、その奥から、地響きをあげながら巨大な影が現れる。


 堅牢な鉄仮面を被った巨人。身の丈は……どれくらいあるのだろう。大柄のギルドマスターよりもさらに大きく、太い。手にはそれと同等サイズの剣を持っていて、ぎょろりと動いた赤い単眼が、わたしたちを睨み付けていた。



 一つ目の巨人……サイクロプスか。



「……図体はデカイな。私の何倍あるんだ、これ」



 ギルドマスターは呑気にそう言いながら、肩をブンブンと回している。何かするみたいだ。


「二人とも、少し離れていろ」

「は、はいぃ……」


 言われなくても離れる。巻き込まれたくないもの。わたしは前世でこそ剣聖ちゃんと呼ばれた世界最強の剣士だったけど、こっちの世界じゃなぜか大幅な弱体化を受けて、精々が『とても強い剣士』くらいなもんだ。ギルドマスターの戦いなんかに巻き込まれたら、間違いなく死ぬ。潰れる。



「奇遇だな、サイクロプスよ。私も昔は、『炎の巨人』だなんだと言われて持て囃されていたんだ」



 と、そんなことを言いながら両手を前に突き出すギルドマスター。その両手を包み込むように、巨大な炎が渦巻き始めた。


「あっつっ……!」


 飛んできた火花が素肌に当たる。結構距離を取っているのに、ここでもまだ空気が熱い。熱量だけで言えば、お母さんと同等……いや、範囲や応用性を考えないで、威力だけを見れば、お母さんよりも強力な炎……?






「来れ! キュクロスッ!」






 渦巻いていた炎が収束し始め、ギルドマスターの手の中で大きな斧のような形状を取り始める。


 いや、あの長さは斧じゃない。槍、でもない。あれは……槍斧、つまるところ、ハルバードというやつに近い。


 ギルドマスターはいまだ炎を纏ったままのそれを、頭上でぐるぐると回し、そして、地面に突き立てた。



 姿を現したそれは、炎を模したような姿のハルバードだった。槍と斧の結合部分の辺りに、真っ赤な菱形の宝石が埋め込まれている。なるほど、あれがギルドマスターの持つエレメリアルドライバってことか。


 


「炎槍炎斧キュクロス。少々扱いづらい性格をしていてな。お前たち、巻き込まれないように気を付けろ」



 気を付けろ、と言われても、これだけ距離を取っていて巻き込まれたならその時はもう諦めるよ。



 ギルドマスターを好敵手と見たのか、サイクロプスがニヤリと笑う。



『グォォォオオオオオッッッ!!!』



 耳がおかしくなるほどの轟音で雄叫びをあげるサイクロプス。巨人、対、巨人か。せめて、周りの探索者に被害が出ないことを祈っておこう。

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