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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
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第七十一話 凶報

「お疲れ様、二人とも」


 ボスエリアの攻略が終わると、すぐにアシュレイがわたしたちのもとへとやってきた。表情にこれといった変化は見られないけど……いや、心無しか、嬉しそうな顔をしている気もする。


「どうだった、アシュレイ?」

「文句の付けようもない。当然」


 少しばかり呆れたように、首を横に振りながら答えるアシュレイ。まあ、この程度なら勝って当然と思われても仕方ないか。


「これで、飛び級試験は終わりなんですか?」

「最後にギルドで軽い面接があるけど、問題ない。二人の実力は、私が保証する」

「心強いね。ありがとう、アシュレイ」


 わたしがそう言うと、アシュレイは少し頬を赤くして、そっぽを向いてしまった。


「気にしないで。私が手伝いたくて手伝ってるんだから」


 と言って、アシュレイはすたこらと、来た道へ向かって歩き出してしまった。


 お姉ちゃんと顔を見合わせ、にこりと笑う。なんだかんだ言って、アシュレイもわたしたちのことを『友達』だと思ってくれているのかもしれない。それが嬉しくて、ほんの少し早足になりながら、わたしたちはアシュレイの背中を追いかけた。






   * * *






「……まさか、これだけの短期間で試験を終えるとはな」

「あはは……」



……わたしたちの目の前には、とても、とても大きくて威圧感のある存在。フランジールギルドのギルドマスター、ネルガだ。


 試験を終えて早足で町へ帰還したわたしたちは、アシュレイの言う『軽い面接』とやらを受けるためにギルドへ向かった。アシュレイは公平性を保つためにそこで一度離脱し、町に来た時にも対応してもらったアダムさんに案内され、わたしたちはギルドマスターの部屋へ……。


 アシュレイめっ……軽い面接だとは言ってたけど、その担当がギルドマスターだなんて一言も言わなかったな……!


「ふむ……フランジールに到着してから、今日が三日目か。三日目で飛び級試験に合格し、二級探索者になるなど……前代未聞だぞ」

「あ、あは……は……すみません……」


 なぜか、謝罪の言葉が先に出る?怒られているわけではない。怒っている様子でもない。でもなぜか、謝らなければならないような気がした。そんな威圧感がある。


 ギルドマスターの目がぎろりと動き、わたしたちを睨みつける。いや、ただ単にこちらへ視線を動かしただけだ。


「責めているわけではない。優秀な若者を責める理由がどこにある」


 ギルドマスターは手元にあった資料を机に置き、椅子に背を預けて軽いため息をこぼした。


「それで、どうだ。迷宮に挑んだ感想は」


 チラリと目線だけをお姉ちゃんの方に動かす。震えまくっている。しっかりしてくれ、お姉ちゃん。


 アシュレイ曰く、これも試験の一環。面接だと言うけれど……どう、答えればいいんだろう。嘘をついた瞬間に捻り潰されそうな気配さえある。包み隠さず、本音と本心だけで話すべきだろう。


「そう、ですねぇ……『遺跡の迷宮』の上層部は、それほど難しくもなかった、って感じです」

「は、はい……私は妹ほど強くはないですけど、それでも、『困難だ』と思えるほどの難易度ではなかったです……」

「流石だな。本来、お前たちの歳であれば、たとえ遺跡の迷宮であっても苦労はするものだが」


 受け答えとしては間違ってはいない、はず。


 そうして、ギルドマスターは再び体を起こし、真剣な面持ちで口を開いた。


「一つだけ問おう。お前たちは、そうまでして、迷宮に何を望む?」


 面接とやらは、これか。



 迷宮に、なにを望むか……ね。そんなのは決まってる。わたしもお姉ちゃんも、ここに来た理由はたった一つだ。




「……わたしたちは、強くならないとダメなんです。こんなところで足踏みしてちゃ、勝てない奴らがいるんです」

「私は……もう、自分の弱さが原因で、大切な人を失いたくない。妹を、友達を……守りたいんです」

「……そうか」




 私たちの言葉を聞いたギルドマスターが、今度は天を仰ぎ、特大のため息をこぼす。これは紛れもない、そして、嘘偽りのないわたしたちの気持ち。ただ、強くなりたい。それ以上の目的は、ない。



「……迷宮に挑む理由は、人それぞれだ。お前たちのように強くなりたいという者もいれば、金を稼ぎたいという者もいる。それはそれで、いいだろう」


 天を仰いだまま、ギルドマスターがそう続ける。そして、ゆっくりと首を起こし、わたしたちの目を見据えた。


「私が知りたいのは、どんな理由であれ、そこに確固たる『意志』と『覚悟』があるかどうか、だ。生半可な気持ちでは、逆に迷宮に呑まれてしまうからな」

「わたしたちはっ……」


 言葉を遮るように、首を横に振る。


「それ以上何も言うな、アニュエ。お前たちの目を見れば、その覚悟が偽物ではないことくらい、すぐに分かる」

「ギルドマスター……」


 その言葉に、目頭が熱くなった。この人は……ほんとに、良い人だ。何より、人を見る目がある。この人以上に、ギルドマスターに適任な人間も、そうそういないだろう。威厳だってあるし。



……と、思った次の瞬間。その威厳あふれる表情が、一瞬にして崩れる。なんだか、恥ずかしそうに、気まずそうに。そんな表情に。



「……それはそれとして、なんだがな」



 わたしは一瞬、なんでギルドマスターがそんな顔をするのかがわからなかった。が、その心情をズバリ言い当てた人がいる。お姉ちゃんだ。


「アシュレイさんのことですか?」

「あー……」


 なるほど。わたしたちの付き添いに来ていたのがアシュレイだってことも、当然資料で読んで知ってるんだよな。そりゃ、娘のことだから気になるよな。仕方ない。


「……どうだ、あの子は」

「どう、とは?」

「その……なんだ。お前たちとは……」


 なんだか言いづらいことのように、まごまごと口を噤むギルドマスター。言いたいことは分かるんだけどね。娘のことなんだから、そんなに恥ずかしそうにしなくていいのに。


 しかし、どう言ったもんかな。わたしはアシュレイのことを友達だと思ってるけど、アシュレイがわたしたちのことをどう思っているのかはわからない。ボスエリアで見せてくれた反応からして、嫌われているわけでもないだろうけど。それをどんな風に伝えればいいのかがわからなかった。



 先に口を開いたのはお姉ちゃんだ。お姉ちゃんは先程の震えなんて忘れ去ってしまったかのように、落ち着いた声で言った。


「……私たちは友達だと思ってます。アシュレイさん、感情表現が苦手なだけで……良い人ですから」


 うむ、さすがお姉ちゃん。わたしの言いたいことを全部言ってくれた。これ以上何も言えない。全部言われたからね。



「そう、か……そう言ってくれて、母親としては嬉しい限りだ……」



 気が抜けたのか、ギルドマスターは再びソファに背中を預け、脱力した。アシュレイのこととなると、この人、なんだか人が変わったようになってしまうな。


 それから暫く、脱力したままの状態でいたギルドマスターだったが、やがて元の雰囲気を取り戻すと、『ギルドマスター』としての言葉を紡いだ。


「……そうだな。私から、これ以上何か言うこともあるまい。そもそも、試験には合格しているのだから、これを不合格としては私が責任を問われる」


 そう言って、ギルドマスターが懐から取り出したのは、小さな箱だ。それも、二つ。何か青い革で作られたような二つの小箱を机に置くと、その蓋を、ゆっくりと開いた。



 中から出てきたのは、銀色の小さなバッジだ。どこかで見覚えがある。確か、アシュレイがこれと同じようなものを、服に付けていたはずだ。あれは銀ではなく、金色だったと思う。


 推察するに、二級探索者になった証、そして階級の証明として用意されたものだろう。アシュレイが付けていたものが金色だったから、一級探索者が金、二級探索者が銀ってところか。




「……アニュエ・バース。そして、オリビア・バース。両名を、これより『二級探索者』として————」




 そう告げたギルドマスターの言葉は……突然放たれた轟音に、中断を余儀なくされた。





「ギルドマスターッッ!!!」




 音の正体は、勢いよく開け放たれた扉の音。そして、通路から飛び込んできた男の、悲鳴にも似た叫び声だった。


 あの人は……アダムだ。ここまで案内してくれた、ギルドの職員の人。すごく慌てている様子だし、血相を変えて……一体どうしたんだ?



「どうした。騒々しいな、アダム。何があった?」



 その様子を見て只ならぬ気配を感じたのか、ギルドマスターも立ち上がって、慌てふためくアダムの元へ向かう。アダムは荒れた息を整えながら、けれど、昂った気持ちを抑え込めないように見えた。




「た、大変ですッ! 迷宮が……いえッ、迷宮の魔物がッ……!」




 わたしたちは初め、その言葉が意味するところがなんなのか、理解ができなかった。


 反面、ギルドマスターはその短い言葉で全てを理解したのか、アダムと同じように血相を変え、わなわなと震えている。




「……まさかっ……」




 アダムは顔を青くしたまま、ギルドマスターの嘆きを遮って、こう叫んだ。






「……ス、『迷宮膨張(スタンピード)』ですッ……!!」




……スタンピード。その言葉を聞いた瞬間、わたしは全てを察してしまった。

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