表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
79/136

side:オリビア 第六十九話

 私は、ずっと悩んでいた。私は本当に、アニュエの力になれているのか。私がもっと強ければ、あの時、ママは死なずに……ううん、結末が変わらなかったとしても、もっと綺麗に終わりを迎えられたのではないか、と。


 終わったことを嘆いても仕方がない。過去は変えられない。過去を変えられるとすれば、それは神様くらいだろう。人である私たちは、勝手に進んでいくこの世界で、必死に生きていくしかない。


 だから……強くなろうと決めた。ママの仇を取るため。それもある。だけど、もう二度と誰も失わないように……アニュエやケルティさん、アシュレイさん、ゴルゴスさんにバリーさん。大切な人が沢山できた。でもその陰で、お父さんとお母さんがいなくなってしまった。これ以上、家族や友達を失いたくない。


 弱いままじゃ、何も守れない。上を向いて、真っ直ぐ未来へと歩いていくためには、『力』が必要なんだ。皆を守れるくらいの力が。



 そういう意味で言えば、アニュエは妹でありながら、良き師匠だ。世界中どこを探しても、これ以上を望むことは難しいほど、優秀な。アニュエと一緒に旅を続ければ、私はもっと強くなれる。


 そうしていく中で、自らの課題点も見えてきた。私は今まで、学園内ではそこそこ優秀な成績を収めてきた方だと思っている。だけどそれは、あくまで他の学生や手加減をしてくれている先生を相手にしてのこと。言い換えれば、『私に対して殺意を抱いていない人』を相手にするならば、そこそこ上手く立ち回れる。


 だけど、学園から一歩外へと出れば、それじゃ通用しないことを痛感した。外の世界では、戦いに負けるということは、それ即ち『死』を意味することが殆どだ。迷宮の魔物だってそう。奴らは私たちを殺す気でかかってくる。そういう敵が相手だと、私はまだ、混乱してどう戦えばいいのかが分からなくなってしまう。


 課題点の一つはまさにそこだ。ここまでの相手は、実力差が大きく開いていることもあって、比較的落ち着いて戦うことができた。でも、これから先はどうだか分からない。あの時戦った黒いスライムのような敵や、クレインという帝国の騎士、それに調停者。私よりも遥かに強い敵を相手にした時に、いかに落ち着いて対処するか。


 もう一つは、多数を相手にした戦闘だ。学園でも多数戦闘の訓練は行うが、大抵は味方もいて、複数対複数を想定して進めることが多い。今回のように、一対複数を想定して戦うのは、もう少し学年が上がってからだ。本番では敵も待ってはくれない。もう少し、複数の敵を同時に相手取れるような戦い方を考えていかなければ。


 これが、今現在で見えてきた、私の主な課題点。一つ目は、戦いに慣れる他ない。戦いに慣れ、そして自分の実力を高めることで、自ずと落ち着いて戦うことができるだろう。


 今考えるのは後者。複数を相手にした戦闘だ。これにしたって、何も考えがないわけではない。だからこうして、周囲のゴブリンの相手を買って出たのだ。



(複数の敵を相手にしたいなら……まずは、複数を相手取れるような技を考えないと)



 私が主に扱うのは火属性魔法。その中でも最も得意なのが、剣に火を纏わせて戦う『ブレイズエッジ』という魔法。名称こそママの使っていたものと同じ魔法だけど、中身は違う。


 ママの使っていた火の魔法は、魔法で作り出した火の花弁を起点として発動していた。しかし、今の私には、そこまで精密な魔法を操作する技量がない。だから、名称だけを借りて、自分の使いやすい魔法にアレンジしたんだ。


 私が使う魔法で最も広範囲に及ぶのが、『ファイアトーネード』。業火の渦を生み出す魔法だけど、これはそう連発できない。見た目と威力の割には魔力の消費が激しい。大軍を一掃するにはもってこいの技だけど、あまり敵の数が多いと息切れしてしまう。


 だから……そう。新しい魔法を考えないと。できれば、ブレイズエッジのようにある程度自分の意思で操ることができ、魔力の消費が少なく、且つ複数の敵を同時に攻撃できるような魔法を。


(レッドレギオン……ママの使っていたアレが使えればいいんだけど……)


 レッドレギオンは、ママの使う魔法の中でも一、二を争うほど性能の良い魔法だ。周囲に展開した花弁を剣や槍、弓に変え、一斉に攻撃する魔法。威力も高く、範囲も広い。昔聞いた話だと、魔力の消費量も見た目以上に多くはないらしい。


 アレが理想だ。だけど、それほどの規模の魔法を扱う技量はない。なら……規模を小さくして、これまた何かアレンジを加えてやればいい。



 槍も、弓も作れない。私が使えるのは剣だけだ。私の攻撃に合わせて、追撃をしてくれるような剣を。それに……左手だって空いている。イメージは、宙に浮かぶ炎の剣。ママの使うブレイズエッジとレッドレギオンの中間のような魔法。ママのように、千にも及ぶ炎の刃は生み出せないけど……せめて、三本くらいなら。



 剣の柄を両手で握り、切先をゴブリンたちに向けた。




「『猛き炎、剣となりて薙ぎ払え』……レッドレギオン」




 そして、両手を左右に広げ、大きく薙ぎ払った。


 右手には、ブレイズエッジと同じ要領で、炎を纏った剣が。


 左手には、剣を形取った炎が。


 そして、背後に浮かぶのは、左手に持つ炎の剣と同じもの。それが、二本。


 今の私にはこれが精一杯。そして、これが全力だ。



 敵は八体。通常よりもやや厄介なゴブリンたちが八体。フランジールに来てからこの数を相手にするのは初めてだけど、やってみせる。じゃなきゃ、私を鍛えてくれたアニュエにも失礼だから。



「——はぁっ!」



 一気に駆け抜け、ゴブリンたちとの距離を詰める。一番面倒なのは弓を持ったレッドゴブリン。まずはそいつに狙いを定め、駆けながら、右手の剣を振るった。剣が届く範囲ではない。しかし、薙ぎ払った右手の攻撃に合わせて、背後に浮かんでいた炎の剣が、まだ遠くにいたレッドゴブリン目掛けて飛来した。


 まだ制御が上手くできていないのか、はたまた距離を見誤ったのか。炎の剣が切り裂いたのは、レッドゴブリンの眼前の虚空だった。間一髪のところで両断を免れたゴブリンは大きく後方へ距離を取り、矢を番えていた。ホブゴブリンの統率下にあるゴブリンなだけあってか、事後の対応も早い。


「させないっっ!」


 今度は左手に持った炎の剣を突き出すように。背後の剣がそれと連動するようにして、真っ直ぐ、刺突の姿勢で飛んだ。


 薙ぎ払いなら距離を見誤ることもあるかもしれないが、刺突なら、ある程度狙いが逸れてもどこかには命中する。そう考えてのことだった。



『ギェッッ!』



 命中したのは、矢を番えていた右の肩。中途半端に脱力した状態で放たれた矢は、へなへなと力無いまま飛び、私には届かないまま落下した。


 そのままとどめを刺そうかとしたが……離脱。左方向へ飛んで、飛びかかってきたゴブリンの棍棒による一撃を回避した。


 続けて、別のゴブリンが放った矢が、回避した直後の私を襲う。姿勢が崩れた今、これは躱せない。だったら、躱さなければいいだけのこと。


 炎の剣は何も、両手の剣に合わせて動くだけではない。意識すれば、それ単体で動かすこともできる。矢と体の間に割り込ませてしまえば、それ自体が盾にもなる。



 矢は、炎の剣に阻まれて燃え尽きた。想像もしていなかったのか、ゴブリンの表情に驚きも見える。まるで人間みたいな反応をするんだな、魔物なのに。


 追撃による攻撃力の向上と、範囲の拡大。それに、防御面でも対応できる攻撃が増えた。これなら、今後も複数の敵を相手にして戦える。



「……やれる。私だって強くなってる。前よりずっと」


 自分に言い聞かせるように、そう呟いた。



 さあ、やろう。アニュエが待ってる。早く、こいつらを片付けてしまわないと。



 姿勢を整え、慣れないながらも二本の剣を構えた。棍棒を持って同時に襲いかかってきた三体のゴブリンのうち、二体を背後の剣で押さえ込み、正面にいた一体を斬り伏せる。


 続けて、押さえ込んでいたゴブリンたちの姿勢を崩すと、背後の炎の剣を呼び寄せ、そして、両手に持つ剣に『融合』させた。



「喰らえっ!!」



 巨大になった剣を振り回し、二体のゴブリンの胴体を両断する。これで三体。残りは五体。この調子でいけば、余裕だ。


 あとは……弓を持った通常のゴブリンが二体、槍を持ったレッドゴブリンが二体、棍棒を持ったレッドゴブリンが一体。ただ、弓ゴブリンのうち一体は肩を負傷していて、まともに矢を番えることもできない。実質四体といったところか。


 厄介なのは、槍と弓を持ったゴブリンだ。棍棒を持ったゴブリンは、ある程度距離を保てば危険はないが、リーチのある槍と、突然放たれる弓のゴブリンは危険だ。


 まずは、槍を仕留める。見れば、向こうもこちらへ向かって距離を詰めているところだった。


 そもそも、ここまでで槍を持ったゴブリンなんてものには遭遇したことはなかったけど……これも、ホブゴブリンの統率下にあるゴブリンだからこそ可能なのだろうか。他の個体に比べ、明らかに知性が高い。


 人間基準で言えば、槍の一閃を目で見てから回避することはまず不可能に近い。それこそ、アニュエやアシュレイさんくらいの実力者ならば可能だろうけど、私にはとても無理だ。腕の立つ人間が放つ槍の一撃は、とても目で追えるような速度ではない。それがゴブリンにもある程度適用されるのだとすれば、先手を取られるのは賢いとは言えない。




……以前、アニュエが言っていた。相手の攻撃を避けたいなら、攻撃そのものを見てはいけないんだ、と。


 相手の筋肉や表情の動き、目線の移動や予備動作、それら全てを総合的に見て、攻撃を見るのではなく、攻撃を予測する。そうすれば、理屈上はあらゆる攻撃を避けられるのだ、と。


 言葉にすれば簡単だし、実際にアニュエはそれができているんだろうけど……。



「全く、簡単に言うよ、アニュエは……」



 ゴブリンは服を着ていない。ならば、相手としてちょうど良い。


 槍を持つゴブリンが、槍が届く範囲内に到達する。観察していると、槍を持つ手に少し青筋が浮かび、肩がピクリと動いたのが分かった。


(来……るっ……!?)


 そう思った。しかしながら、私を先に襲ったのは槍ではなく、いつの間にか接近していた矢だった。


 すんでのところでそれを躱し、一旦距離を取る。槍ゴブリンも、一度動きを止めた。



(あっぶなかったぁ……槍に集中しすぎて、他の敵のこと忘れてたっ……!)



 これこそが複数戦闘の恐ろしいところだろう。一体の敵に集中しすぎて、別の敵から致命傷を受ける。今のは典型的な『悪い例』だ。



 落ち着け、私。落ち着いてやれば負ける相手じゃない。私は、あの黒いスライム相手に負けなかったんだ。こんな上層に出てくる魔物なんかに負けてたまるか。



 視野を広く持て。一体に集中しすぎるな。



「はっっ!」



 今度は私から距離を詰める。ゴブリンの顔や肩がぴくりと動き、槍を握る手に力がこもる。そして、僅かに槍の根元が動くのが見えた。


 それと同時に、視界の端に、矢を番えまさに発射する直前の弓ゴブリンと、棍棒を振り上げるゴブリンの姿を捉えた。


 この場合の対処方法は……!


「こうっ!」


 私はその場で、槍ゴブリンを軸にするように、飛んだ。上手くいくかは分からないけど、上手くいけばこれで何体か仕留められる。


 放たれた矢も、振り下ろされた棍棒も、さっきまで私がいた場所へ降り注ぐ。それを上空で眺めながら、こちらを仰ぎ見る弓ゴブリンと棍棒ゴブリンに背後の剣を飛ばし、それと同時に、右手の剣を槍ゴブリンへ振り下ろした。左手の剣も投げれば、全ての敵を一掃できたけど、残念ながらこちらは背後の剣を飛ばす補助になっている。利き腕じゃない左側の剣を意識して飛ばすのは、まだ難しいのだ。


 飛ばした剣は、弓ゴブリンの頭部と、棍棒ゴブリンの胴体ど真ん中に命中。見事これを絶命させ、そして、振り下ろした剣は槍ゴブリンの頭を真っ二つにしてしまった。



 そのまま空中で一回転して着地すると、噴き出したゴブリンたちの血で滑り、転びそうになる。これは……靴の素材を考えた方がいいな。いざというときに転んじゃどうしようもない。



「さて……」



 あとは、一体。既に負傷した、恐ろしくも何ともないゴブリンだ。


 心無しか、ゴブリンの表情に恐怖が見え、震えているようにも見える。魔物にも、感情というものはあるのだろうか。あったとして、どうすることもないけれど。




 弓を取りこぼし、震えるゴブリンに向け、私は、静かに剣を振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ