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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
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第六十八話 ボスエリア

 第五層を進み、そして見えてきたのは……通称『ボスエリア』へと降りる階段。お姉ちゃんは緊張しているのか、額や頬に汗が浮かんでいる。


 『遺跡の迷宮』上層と呼ばれる第五層までに主に出現する魔物は、ゴブリン、レッドゴブリン、スライムの三種。今のところこれ以外の魔物は見ていない。そして、聞いた話だと、このボスエリアを境に出現する魔物に少し変化が起きるらしい。


 まあそれは考えないでもいいとして……問題はそのボス。強力な個体の魔物だ。


 遺跡の迷宮最初のボスエリアに出現するボス個体は……『ホブゴブリン』。ゴブリンが特別な力を得た存在、とも、オークとゴブリンのハーフだ、とも言われている。体格は子供サイズのゴブリンと比べると大柄で、成人男性と同じくらい。通常のゴブリンと同じくひょろっとしていて、見た目だけで言えばそれほど強そうにも見えない。


 奴らの脅威は……ゴブリンには備わっていない、高い知性。ホブゴブリンは数匹のゴブリンやレッドゴブリンを引き連れて現れるらしいが、奴が指揮権を握るだけで、ゴブリンたちの戦闘力は、数段格上の存在に跳ね上がってしまう。



「セオリーは?」

「周りの奴らには目もくれず、まずホブゴブリンを始末する。あるいは、周りの雑魚を片付けてから、ホブゴブリン一体を相手にする」

「指揮官を潰すか、雑兵を潰すか……ね」


 試験中なのにアドバイスはしていいのか。アシュレイはすんなりと答えてくれた。一般的に公開されているような情報だから、教えたところで試験に支障はない、という判断なのかもしれない。


「お姉ちゃん、どうする?」

「どうするって言われても……ねえ? アニュエはどう思う?」

「うーん……そうだなぁ……」


 頭を潰すか、手足を潰すか。あるいは、その両方(・・)か……。


「ねえ、アシュレイ。わたしたちって、二人で戦ってもいいんだよね?」

「構わない。どのみち、これからの迷宮探索は、複数人で行うのが基本だから」

「だったら……」


 頭を潰すのと、手足を潰すの。その二つの作戦に共通しているのは、敵の戦力を集中させないということ。幸い、わたしもお姉ちゃんもそれなりに戦ってきて、実力はある方だ。ならば、どちらかを選ぶと言わずに、どちらも選んでしまえばいいのかもしれない。


 早い話、どちらかがボスの相手をして、どちらかが雑魚の相手をする。たぶん、雑魚相手の方が早く終わるだろうから、そちらが片付き次第ボス攻略に合流すればいいんだ。今のわたしたちなら、最初のボス程度ならそれが可能だろう。


「お姉ちゃん、ホブゴブリンかその周りの雑魚か……どっちがいい?」

「はぁ……アニュエなら、なんとなくそう提案すると思ってたよ」

「勝てる相手なら、その方が安全だよ。お互いが、目の前の敵に集中できるからね」


 呆れたように頭を抱えるお姉ちゃん。確かに、セオリー通りだと、二人でボスか雑魚かを集中砲火して潰すのが一般的なのだろうけど、そうなるともう一方の敵をあしらいながらの戦闘になる。実力があるのなら、一人が一方を相手にすることで、不意の攻撃に備える必要がなくなる。


「お姉ちゃんは試したい技とかないの? それによっちゃ、複数相手か単独相手かが変わると思うんだけど」


 わたしがそう聞くと、お姉ちゃんは顎に手をやり、首を傾げた。


「試したい技、か。そうだね、あるにはあるよ。どちらかと言えば……複数の敵を相手に、かな」

「じゃあ、お姉ちゃんが周りの雑魚相手だ。その間、わたしがボスを引き付けておくよ」


 どうせならボス部屋さえも訓練にしたいところだし、お姉ちゃんが試したい技ってのがあるなら、そっちを優先した方がいい。わたしだって新しい技の開発はしたいけど、中々良い案が閃かないんだよね、これが。


 と思っていたけど、何やらお姉ちゃんの表情が気になる。なんだ、その呆れたような目は。


「……引き付けておくって、どうせパパッと倒しちゃうんでしょ?」

「どうせってなに、どうせって」


 わたし、そんな風に思われてたの? いや、倒しちゃってもいいんだけどさ。いいんだけど。倒しちゃっていいの?


「……まあいいや。とにかく、作戦はそれで決まりだね」

「うん。頑張ろう、アニュエ」

「お姉ちゃんも、張り切りすぎて怪我しないでよ?」


 拳と拳を突き合わせ、わたしたちはボスエリアへの階段を降りていく。他の階よりも少し長い階段を降りて辿り着いた先には、そんなに大きな扉はいらないだろうと思うほど、巨大なボス部屋の入り口。他の階層とは違い、ここは一度入るとボスを倒すまでは出られないみたいだ。


 部屋の中から、ここまでの層では感じたことがないような、強力な気配を感じる。それはお姉ちゃんも同じようで、顔が引き攣っていた。


「大丈夫だよ。わたしたちなら、この層のボスなら倒せるはずだから」

「ええ。二人の実力なら問題はない。それに、何かあった時のために私がいる」

「う、うん……」


 緊張は取り切れちゃいないみたいだけど……ここでまごまごしていたって時間の無駄だ。さっさと行って、さっさと終わらせちゃおう。


 こんな大きな扉をどうやって開くのかと不思議に思いながら、扉に触れる。すると、なにかの仕掛けが働いたのか、扉は一人でに開いていく。


 その先には、大きな部屋。部屋というよりは広間のよう。今までのような迷路のような構造とは違い、大きな広間が一つ、そこにあるだけ。さすがはボスエリア。


 そこへ足を一歩、また一歩と踏み入れ、部屋の中に完全に入ると、柱に備え付けられている燭台に、次々と緑色の炎が灯っていき、中が不気味にも照らし出される。


 それと同時に、背後にあった扉がゆっくりと閉じていき、わたしたちはボスエリアへと閉じ込められた。ここから出るには……目の前にいる、あの魔物たちを全滅させなくちゃいけない。もしくは、わたしたちが全滅して、魂だけでさよならしてしまうか。


「えっと……雑魚は八匹か。思ったより多いな」


 中央に大きなゴブリンと、それからその周囲には六匹のレッドゴブリンと二匹のゴブリン。てっきりこの半分くらいかと思ってたんだけど、予想が外れたな。


「周りのゴブリンは、ホブゴブリンが生きている限り、定期的に現れ続ける。気を付けて、二人とも」


 わたしたちのいる場所から一歩下がり、自らの周りに氷の防壁を張るアシュレイ。そこから静観するらしい。というか、今さらっと大事なことを言ったな。ここのゴブリン、無限に湧くのかよ。結構大事な情報だぞ。さらっと言ったけど。


「大事なことを後出しで言わないでよ……まあでも、ここまで来ちゃったしやるしかないよね、お姉ちゃん」

「うん。勝って、試験なんて早く終わらせちゃおう」


 剣を抜き、構える。わたしの相手はあそこの木偶の棒、ホブゴブリン。お姉ちゃんが試したい技とやらを終えるまで、わたしはあいつを引き付けなければならない。追加でゴブリンが現れそうなら、適当にその場に縛り付けて、お姉ちゃんの方に加勢するか。正直、ここのボス程度で訓練になるかは怪しいところだけど……お姉ちゃんとのチームプレイって意味でなら、良い練習にはなるだろう。


 よし、やるぞ。




 まず駆け出したのは、わたし。駆けながら適当な詠唱を終わらせ、ホブゴブリンに巨大な風の砲弾をぶつける。その勢いで奴を後方へ吹き飛ばし、まずは周りの雑魚たちと分断する。雑魚の相手は、お姉ちゃんに任せた。


 吹き飛ばされたホブゴブリンは吹き飛びながらも姿勢を整え、地面に長い痕を付けながらも着地した。完全にわたしを敵と見なしたのか、白目を剥きながら気味の悪い雄叫びをあげる。


「さてと……お姉ちゃんの特訓が終わるまで、付き合ってもらうよ」


 切先をホブゴブリンに向けながら、そう言った。瞬殺しすぎない程度に、ほどほどに。お姉ちゃんが合流するまでは殺さない。これを忘れないようにやっていこう。

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