第六話 わたし、3歳になりました。
おはようございます、アニュエ・バースです。
今日は、三歳のお誕生日です。
誰のって?
わたしのに決まってんだろ。
「アニュエ、お誕生日おめでとー!」
「わーい!」
わーい(棒読み)。気付けば転生して三年も経ってたー(棒読み)。
いや、割と本気であっという間だった。最初の一年半くらいは色々と調べ物をしててあっという間に過ぎて、そこから外に出たりだとか魔法の練習だとかでやっぱりあっという間に過ぎて。気付けばもう三歳だよ。
三歳だよ。大事なことなので云々。
まず、この三年で初めと変わったことをば。
一つ……実は殆ど何も変わっておりませぬ。以上。
だって、わたしってば相変わらずただの赤ちゃんを演じているだけだし。特に何も変わってない。ちょっと体が大きくなって、マナの貯蔵量が増えたくらい。それ以外は特に何も。
お祝いをしてくれてるのはお母さんとお父さん。この二人は見た目もさほど変わってない。三年程度じゃそう変わらないよね。
そしてお姉ちゃん。今で五歳で、もうすぐ六歳になる。わたしと三歳差だからね。
お姉ちゃんの方はまだ若いこともあって、見た目も結構変わった。背は伸びたし髪も伸びた。三歳児のあの丸っこいシルエットからスリムになったってのもある。
ぶっちゃけ、一番の変化はお姉ちゃんである。相変わらず可愛い。妹っ子だし。今でも『アニュエ〜!』って抱きついてくんの。可愛くない? 可愛いよね? わかる〜!!
「アニュエ、はい、お母さんから」
「わ、ありがとー! 開けていい!?」
「もちろん」
お母さんからのプレゼントは小さな包み。このサイズは……まさかっ!
包装を破り捨て中を開けると、そこにはわたしが前々から欲しがっていた小説が入っていた。お母さん、やりおる! わたしの好みが分かっておるな!
というかお母さんのせいですっかり本の虫になっちゃった。家にある本も大体読んじゃったし。責任取ってほしい。結婚してくれ。
「父さんからはこれだ。前、じっと見てただろ?」
「え、なになに?」
お父さんからは長細い箱。この長さは……まさかっ!?
蓋を開けるとそこには丁寧に作り込まれた見事な出来の木剣があった。こ、これはっ……この前町で見かけて一目惚れした木剣っ……しかも成長した時用に少し大きいのもセットで二本だって……!? 結構な値段するはずなのにっ……!!
お父さん、腕上げたね。分かってるじゃん。
あーんもーっ! 箱推しになっちゃいそう! 推しが今日も尊い!
「お父さん、お母さん、ありがとっー! 欲しかったやつー!」
「わははっ、こら、こしょばいぞ」
「良かったわ、喜んでもらえて」
思わず二人に抱きついちゃった。やべっ、よだれ垂れる。普通に嬉し過ぎてテンション上がっちった。
そして、次に前に出たのはお姉ちゃん。お姉ちゃんはこれまた小さな……お母さんたちの手のひらほどのサイズの小箱を取り出した。
えっ、お姉ちゃんお小遣いしか貰ってないはずなのに、まさかプレゼント用意してくれたの!?
「これね……あの、私が作ったの。上手に出来たか、分からないけど……」
「作った!? 何を!?」
小箱を受け取って開けると……黒い紐のついた銀色のペンダント。なんと形容したらいいか……鳥の羽根と炎を足して二で割ったような……そんな感じだ!!
え、まじで? お姉ちゃん、これ自分で作ったの? さては錬金術師か?
それに、上手に出来てるか分からないって……普通に市販レベルじゃん。そんなに俯かないでよ。
「お姉ちゃん、着けていい?」
「っ、うん……」
許可をもらってから、紐を首に回して着ける。わぉ、サイズ感ぴったり。ちょっと大きいけど成長することを考えると良い感じ。
え、めっちゃいい。最推しからの手作りプレゼントとか死んでもいいですか。
「お姉ちゃん、これすっごくいい、可愛い!」
「え、ほんと!?」
「うん! お姉ちゃん、好きーっ!」
「あわわっ」
抱きついた勢いで倒れちゃった。失敬失敬。
しかし、後で聞くと、お姉ちゃんどうやら手先があり得んくらい器用でアクセサリー作りは趣味にしてたらしい。まじかよ知らんかった。
はぁ〜……さいっこう。最オブ高だ。意味は知らん。人生で一番嬉しかった誕生日かも。前世も含め。
ほんと、この家族に生まれて良かった……なんちゃって。照れ臭くって言えないけど。
* * *
はい。というわけで今日からわたしも三歳。そろそろ近所の子供たちと外で遊んでいいよという許可が降りたので、それを名目に人気のない裏山にきた。子供一人だと危ないから来ちゃダメって言われてるけど、まあ、何とかなるでしょ。
理由はもちろん、訓練だ。家の中だと魔法にしろ剣術にしろ訓練には限界がある。この三年、知識は詰め込めるだけ詰め込んだ。あとはそれをものにしていくだけだ。
とりあえず……どっちから手を付けようか。剣術の方は三年間一切手付かずだから、相当鈍ってるだろうなぁ。個人的に、剣なんて三日触らなきゃ鈍っちゃう。三年も触ってなきゃほぼ一からのスタートだ。
……さて、やるか。
三〇分でこしらえた、超簡素なお手製の鞘。そこに納められているのは二本あったうち、小さい方の木剣。残念ながらこちら鞘は付いておりません。添え木にバンド二つ付けただけの超適当仕様。そのうちちゃんとしたの作るよ、ほんと。お姉ちゃんに手伝ってもらおっと。
その木剣を抜き、片手で構える。おっも。木剣ってこんなに重かったっけ。体が小さいからか。もうちょっと筋トレしておくべきだったかな。
よし……取り敢えず素振りからだ。実体を斬るのはこいつの耐久性が不安だから、保護の魔法をマスターしてから。
感覚を研ぎ澄まして、意識を『剣を振るう』というただそれだけに集中させる。余計なことはいらない。あっ今ウサギ走ってった可愛い。
……余計なことは、いらない。
ただでさえ弱くなってるんだ。早く取り戻さなくちゃ。遊んでる場合じゃない。
あっでもそんなに急がなくても大丈夫? 別に今すぐ冒険に出たりするわけじゃないし? 実は案外のんびりでも大丈夫だったりするんじゃ。
あー、ダメダメ。それやらないやつ。いつ何が起こるか分からないんだから。さっさと強くなろう。
「ふー……」
ふー……ふー……
……ふっ。
剣をゆっくり上から下に振り下ろした。第三者から見るとただそれだけに見える。と、思う。
でも実際のところ、今の一振りで二度の斬撃が走っている。一度で二度斬れるお得技、『瞬連斬』。剣聖ちゃんと呼ばれていた(自称)頃のわたしなら一度で五度は斬れただろうけど、今はこれが限界。しかももう腕がパンパン。これってこんなに疲れる技だっけ。
けど、それでいい。負荷は大きければ大きいほど強くなれる。これ、わたしの経験上正しいはず。『強くなる方法』は分かってるんだ。あとはそれに改良を加えながらなぞるだけ。
続いて、右手に構えた剣を左の肩の上で構え、そのまま斜めに振り下ろす。所謂『飛ぶ斬撃』。名前を『烏落とし』。まあ、偶々使った時に空を飛んでた烏を落としちゃったからそういう名前にしたんだけども。もちろん手当して帰してあげた。
こちらも、前世に比べれば斬撃の大きさも威力も段違いに低性能。撃てるだけマシという感じ。
うーん……これは、他の技も一通り試しとくかなぁ……。
『鷹迎え』、『内砕き』、それから……『三日月』。使える、いや、使えた技を流れるように繋げて前世のわたしの動きを真似ていく。全く同じというわけにもいかないけど、大体同じにはなってくれる。ただし、精度は落ちる。仕方ない。こっちのわたし、バース家のアニュエは今日初めて剣を振るったんだから。
一通り試して、剣を鞘に納め、その場に座り込んだ。
はぁん、疲れた……うっわ汗びしょびしょ。何だこれ。女の子がかいていい量じゃない。動きやすい服着てきて正解だったな。
あー……でも、この調子なら案外時間はかからないかも。今でも使える技多いし。劣化版で。『最強』を一回経験してるっていうのはかなり大きい。最強になる方法を知ってるってことだからね。
……さて、ちょっと休憩したらまたやるか。
や、ちょっと待って。もうちょい。もうちょい休憩させて。もう既に筋肉痛予備軍だし。