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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第1部・3章『赤の集落』
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第四十八話 港町センタルタへ

「赤い十字架の旗、か……」



 バッツァに帰ってきたわたしたちは、早速、家で夕食の支度をしていたケルティたちにそのことを相談した。支度を一度中断し、バリーも交えて四人でテーブルを囲む。


「何かの施設みたいな大きな建物、だっけ?」

「うん。十字架の旗っての、どこかで聞いた気がするんだけど、思い出せなくてさ」


 確かにここ最近そんな話をした覚えがあるんだけど、いかんせん、その話を誰としたのか、どんな内容だったのかをはっきりと覚えていない。歳かな。



「帝国、だな」



 と、そこで声をあげたのはバリーだった。わたしとお姉ちゃん、二人の視線が同時にバリーへと向けられる。


……帝国?



「……あっ。そうだ、オ・ガ帝国の……!」

「ああ。帝国の軍旗には、赤い十字架と渦を巻いたドラゴンが描かれている。その片面だろう」


 そうだ。赤い十字架……わたしは確かに見たし、話した。村が滅んだあの日、行商人に混じってオ・ガ帝国の上級騎士とやらがいた。そのことをおじいちゃんに話したんだ。


 そうだ。だから覚えがあったのか……となると、お母さんが現れるのは海を越えた先にある、オ・ガ帝国どこか……?


(そうなるとまずい……帝国っていえば、グランバレーの二大国家だ……そんな広大な場所から目的地を探すのは……)


 最も小さな大陸、リットモールの中から目的地を探すだけでも骨が折れる。だと言うのに、それが数倍の規模になったグランバレーから探さなくてはならないとなると、更に困難を極めることになるだろう。


 ただ、族長の予知だと、前提として(・・・・・)わたしたちはお母さんと対峙している。何か、目的地を探すための手掛かりがあるはずだ。


「ちっ……帝国内にいくつ町があると思ってんだ……」

「その中から探すなんて……ねえ、アニュエ、どうしようっ……」


 お姉ちゃんは見るからに困惑している。そりゃあそうだ。まさかそこまで、範囲が広くなるなんて思ってなかったから。


 どうしようったって……どうしよう。今から族長のところに戻って、もう一度予知をしてもらうか? いやでも、族長のあの弱り方を見たら、同じ時期の未来を視られるとも限らないし……。



「帝国内じゃないかもよ」



……そう発したのは、ずっと黙りこくっていたケルティだった。



「え、なんで?」


 普通に考えて、帝国の施設があるなら、帝国国内なんだと考えそうなもんだけど……。


「赤い十字架の旗。住居ではない大きな施設……これは帝国側の何らかの施設だと思う。そこは間違いないはずだよ」

「じゃあ、どうして帝国内じゃないの?」


 そう問いかけると、ケルティは人差し指を横に振った。


「さっき言ってたよね。そこそこ栄えた町だって」

「うん……言ったね」


 族長基準の栄えた町だからどんなもんかとは思うけど、大きな民家や建物が立ち並ぶってんだから、少なくとも田舎村ではないだろう。


「帝国ってのは、世界で一番大きな国だからね。栄えた町なら、それこそ腕利きの騎士たちがうじゃうじゃといる。帝国の施設を破壊したって言うんなら、その騎士たちは当然、お母さんと敵対するってことになるよね?」

「そうなるね……ああ、そういうことか」


 その説明を聞いて、やっと理解した。つまり、そういうことか。


……が、どうやら、お姉ちゃんは理解できていないようだった。勉強はできるらしいんだけどな。ちょっと頭の回転が遅いな。


「え、え?」

「つまり、そんな腕利きの騎士たちがいっぱいいるはずの町中で、お母さんと対峙しているのがわたしたち『二人だけ』なのがおかしい、って話だよ」

「そういうこと」


 帝国内でそんなことをすれば、間違いなく町中は騒然とし、騎士たちはお母さんと敵対するだろう。そんな状況で、お母さんとわたしたち姉妹だけが相対しているという状況そのものが不自然だ。


 まあ、お母さんの実力なら、町一つくらい壊滅させていてもおかしくはないだろうけど……それでも騎士が全滅、っていうのはちょっとおかしな話だ。帝国は一応、世界最大規模の領地と戦力を有してる国なんだから。


 だけど、そうなると……前提がひっくり返るな。赤い十字架の旗ってのが帝国の軍旗じゃないのか、それとも『栄えた町』という前提がおかしいのか。


「それなら、族長の『栄えた町』って表現が間違ってたのかな。あの人、外の世界あんまり知らないっぽいし」

「その可能性もあるね。でもね、あるんだよ。栄えていて、帝国の施設があり、そして尚且つ、それほど大きな戦力を持たない町が」


 ケルティがそこまで言うと、何かに気付いたのか、バリーが目を見開いて言った。



「そうか、【センタルタ】か……!」



 その名称を聞いて、ケルティは満足げに頷いた。残念ながら、わたしは聞き覚えがない。お姉ちゃんの方を見たが、首を横に振っていた。知らないみたいだ。


「セ……?」

「センタルタ。リットモールの海沿いにある港町で、リットモールにある村や町の中で唯一、帝国の使節館がある町だよ」


 どうやら、センタルタ、という町の名前らしい。しかしまた、よく分からん単語が出てきた。


「使節館ってなに?」

「帝国の役人が、諸外国との外交を深めるという名目で建てた、監視塔のようなものだ。グラメルテ側が嫌がったもんだから、ノーブリスじゃなくて貿易港であるセンタルタに置かれたって話だ」


 ああ、なるほど……【オルタスフィア】にも似たようなもんがあったな。他国の動向を探り、そして牽制する目的で建てられる建物、みたいな。


 センタルタ……海沿いって言ってたけど、帝国の使節館ってのがあるくらいだし、多分グランバレー側の海沿いにあるんだろう。となると、また来た道を引き返す羽目になりそうだ。なんでこう、行ったり来たりしなくちゃならないんだか。


「あそこなら栄えた町って条件にも当てはまるし、帝国の旗が掲げられた使節館もある。それほど大きな戦力もないから、お母さんと対峙してるのがアニュエちゃんたちだけ、って状況もあり得るはず」

「そうだな。俺も一回行ったことがあるが、お前たちの言う条件に当てはまってる」


 なるほどね。正しいかどうかはさておき、二人がこう言うんだから的外れってわけでもないだろう。


 確かに、今から向かえば、わたしたちの身なりが変わらない程度の時期には到着するだろう。そう遠くない未来、という条件にも合致する。



 どうするべきか。これ以上の手掛かりはない。予知の町がセンタルタだという確証はない。だけど、もしもリットモールにある町なんだとすれば、センタルタで確定だ。もし仮に間違っていたとしても、貿易港なら、船でグランバレーに渡ることもできる。


 どちらにせよ、港を経由しなければ大陸に渡れないのなら……行ってみる価値はあるか。



「お姉ちゃん」

「うん。行く価値はあると思う」


 流石お姉ちゃん。考えてることは同じってね。


「ケルティ。センタルタからグランバレーに渡ることはできるんだよね?」

「できるよ。というか、大陸に渡るなら最短の経路だね」


 ならば、もう決まったようなものだ。


 問題は、どうやってセンタルタに行くか、だけど……あまり時間が残されていないと分かってしまった以上、今回ばかりはこちらから頼むしかない。あまりケルティに頼ってばかりなのも良くないのは分かっているけど、それでも頼らざるを得ない。


「……ねえ、ケルティ。お願いがあるんだけど」

「ナハハ、なに改まってるの? センタルタまで送ってくれ、でしょ?」


 ケルティはいつものように、わたしの言葉を笑い飛ばしてサラッと言った。サラッと。わざわざノーブリスからここまで来て、また引き返すのに、だ。それがどれだけの労力か分かっていながら、笑い飛ばすだけの寛大さを持ち合わせている。


 ここまで来ると、感謝よりも申し訳なさが前に出る。元は無関係だったケルティを、もうずっと振り回してばかりだ。ティノーグに帰れなかったのだって、わたしに付き合わせたからだったのかもしれない。ほんとは今頃、故郷で家族と過ごしていたはずなんだから。


「いやその、かなり振り回しちゃってるからさ……また引き返すことになるんだし……」

「もう、何回も同じこと言わせない。大変な時はお姉さんに頼りなさいってば。アニュエちゃんもオリビアちゃんも、自覚はないかもしれないけど、まだまだ子供なんだから」

「ケルティさん……」


 この人は……今まで出会った中で、一番と言っていいほどのお人好しだ。こんなことになっても、まだ助けてくれるのか。将来、変な男に引っかからないか心配だな。



 そんなやり取りで、暫く放置されていたバリーが、大きなため息をこぼした。


「全く……突然来たと思ったら、忙しい奴らだな」


 呆れるように。けれど、怒ったりしている雰囲気ではない。言葉遣いが荒っぽくて、最初はおじいちゃんと全然違う、なんて思ったりもしたけど……今なら分かる。この人はやっぱりおじいちゃんの弟だ。怒っているふうに見えて怒ってないし、そっけないふりをしながら心配してくれる。


「ごめんね、バリー。慌ただしくて」

「いいさ。家も片付いたしな」

「でもまた散らかすんでしょ?」

「まあな」


 肯定すんな。


「しかし、センタルタまでとなると、長旅になるな」

「うん。あの橋、直ってるといいんだけど」

「直ってる……かなぁ」


 鉱山都市グローグに納品予定だったダイナマイトを、うっかり誤爆させてしまった害悪商人。そのせいで破壊されてしまった橋は、ノーブリスからこっちに来るまでの段階では、まだ直っていなかった。


 橋が直っているならわざわざ迂回しなくてもいいから、余計な時間がかからなくて済む。魔法使いの協力があるなら、とっくに直っている頃合いだろう。



 ふと外を眺めると、もう空は薄暗かった。今からバッツァを出発したとしても、数時間もしないうちに夜になってしまう。まだ旅の準備もできていないし、今日これから出発するのは無理だな。


「今から出ても遅くなるね。アニュエちゃん、準備はどのくらいでできそう?」

「今日で終わらせるよ。食料も何とか調達する。急だけど、明日の朝には出発しよう」


 ある程度の食料なら、道中で狩りをして作ることもできる。水はわたしの魔法で作れるし、長旅にはなるけど、今から準備を始めれば、明日の朝までには完了するだろう。


「分かった。じゃあ、今日は最後の夕食だね。今更だけど、もう少し豪華にしよっか」

「おう。そいつぁ楽しみだな」

「さんせー! ……あ、だったら、お姉ちゃんはケルティを手伝ってあげて。わたし、干し肉用の獲物狩ってくるから」


 二人で狩りをするのも人数過多ってやつだ。わたし一人でも十分間に合うはずだ。


「一人で大丈夫?」

「うん。流石にそこらの獣には負けないって」

「そっか。気を付けてね、アニュエ」




 さて。そういうことなら……早速、旅支度を始めるとしますか。

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