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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第1部・3章『赤の集落』
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第四十一話 星の輝き

 結論から言わせてもらおう……今日の収穫はゼロだ。日が暮れる前には切り上げたけど、なんの手掛かりもなし。人の痕跡も何もなし。あったとすれば、あの後も何度か獣に襲われたくらい。その度に死体処理するこっちの身にもなれや!


 はあ……まあ、こうなることは予想してたけど、実際に手掛かりなしってなると割とへこむな。これ、どれだけ探せば見つかるんだろ。


 隣を歩くお姉ちゃんは、そこまでへこたれてないみたい。なんでだ。


「お姉ちゃん……なんか、やる気に満ち溢れてない? なんで?」

「え? あ、あはは……そう見える?」

「めっちゃ見える」


 普通の笑いが、だんだんと乾いた笑いに。そして、しまいには声がない、口角が吊り上がっただけの笑みに。


「……まあ、手掛かりがないのには慣れたから……」

「ああ、そういう……」


 死んだような声と目で言うお姉ちゃん。そういえばこの人たち、何ヶ月も手掛かりがないまま、爆弾魔騒ぎの犯人追ってたんだっけ……そりゃメンタル鍛えられるよね。それに比べたら、お母さん絡みのことだし、まだ初日だし、全然楽って感じかなぁ。つよい。


「それに」

「それに?」


 お姉ちゃんは嬉しそうに、続けた。


「可愛い妹と一緒に何かをするって、久しぶりで、なんだか楽しいなぁって」

「お、お姉ちゃん……」


 めっちゃ楽しそうに話すところ、申し訳ないけど……。


「……あの、一応言っとくけど、危ないから油断しちゃダメだよ……?」

「分かってる分かってる。アニュエこそ、強いのは知ってるけど、油断しちゃダメだよ?」

「う、うん……」


 一緒に何かをするとは言うけど、やってることは実質『狩り』だからね。しかも、剣使ったどろっどろの狩り。そんなに満面の笑みで話すようなことでもないと思うんだ、わたし。楽しそうで何よりだけど。


 まあ、わたしも楽しいかと聞かれれば、楽しいんだけどね。お姉ちゃんと肩を並べて戦うって、なんだか新鮮で。冷静になってみれば、ここに来るまでの道のりでも、殆どわたしが一人で戦ってたし、お姉ちゃんと一緒に戦うのってこれが初めてなんだよね。こういうのって、いいな。これが、家族ってもんなのかなぁ……。


「ほら、アニュエ。村に戻ってきたよ」

「はえ? あ、ほんとだ」


 気付けば、森を抜け、村に帰ってきてた。時間が時間だから、そこかしこから良い匂いが漂ってくる。


……うおぉ、お腹空いたな……。


 それはお姉ちゃんも同じようで、隣から腹の虫の鳴く音が聞こえてきた。


「あ、あはは……お腹、空いたね」

「そうだね。早く帰ろっか。ケルティたち、ご飯作ってくれてると嬉しいんだけど」

「ケルティさんの料理、美味しいしねぇ」

「そうそう……って、そんなこと言ってたら余計にお腹空いてきた。早く帰ろっ!」

「うわぁあっ!?」


 隣を歩くお姉ちゃんの手を引いて、走り出す。笑いながら走って走って、バリーの家が見えてきたところで、袋を担いでゴミ出し中のバリーと目が合った。そんなバリーに、大きく手を振る。


「バリー! ただいまー! ご飯できてるー!?」

「できてるぞー! はよ帰ってこい!」

「はーいっ!」


 やったねお姉ちゃん。ご飯できてるってよ。ケルティのご飯は相変わらず美味しいし、楽しみだなぁ。


 お姉ちゃんの手を引いて、バリー邸に駆け込む。帰ってくるなり、目を丸くしたケルティが、リビングの方から顔を出した。


「おかえりー……どしたの、そんな慌てて?」

「お腹空いた!」

「わ、私もお腹が空いちゃって……」

「ナハハ。姉妹だねぇ。今できたとこだよ。熱々のうちに食べよっか」


 リビングの方から、盛大に良い匂いが漂ってくる。なんかスパイシーな香り。あと……肉の匂いだ。


 部屋に飛び込むと、見違えるほど綺麗になったリビングと、大きなテーブル。そしてその上には、大量の大皿に乗った料理。


「わぁ、すごい豪華……」

「初日だからねぇ。張り切っちゃった」


 お姉ちゃんもぽかんとしていた。美味しい料理を期待していたけど、期待以上だ。こんなに食べれるかな。


 というか、もう待ちきれない。こんなご馳走を前に我慢しろというほうが無茶だ。


「ケルティ!」

「はいはい。食べていいよ」

「いただきますっ!」


 スパイスの効いたトリ肉。なんの肉かは分からないけど美味しい肉団子。それから……いつかの旅で飲んだ、ケルティ特製のトマリスープ。美味しいんだよなぁ、これ。


 同じようにお腹の空いていたお姉ちゃんも、わたしほどじゃないけどがっついていて、ケルティはそれをニコニコ眺めながら、そんでもって、いつの間にか合流してたバリーは感心したように、それぞれが食事を楽しんでいた。


「ほう……大した腕だな」

「褒めても何も出ないよぉ?」

「これで十分だ。久々に美味い飯食ったぜ」


 嬉しそうにしてる辺り、ケルティも満更ではないみたいだ。


「アニュエちゃんとオリビアちゃんも、どう?」

「ほひひーひょ」

「『美味しいよ』だと思います」

「ナハハ。だろうねぇ」


 頬張りすぎて喋れん。それだけ美味しいってこと。いやほんと、ケルティの料理は犯罪級だよ。旅先で限られた設備と食材だけでも美味しいもん作れるのに、それがちゃんとしたキッチンで本気出したらどうなるかなんて、分かるじゃん。イコール最強だよ。


 わたしなんて、基本、煮る、焼く、蒸すくらいしか選択肢ないしね。ケルティと出会ってからはちょこちょこ教えてもらってるけど、精々下ごしらえをするようになったくらい。料理工程はあんまり変わらず、だ。


 それに比べて、ケルティときたら……あ、お姉ちゃんもそこそこ料理できるんだよね。納得いかんな。ずっと学食食べてたはずなのに。何故ここまで差が。


 おかしいなぁ……わたし、精神的には結構生きてるはずなんだけど……もがっっ!?


「むーっ!?」

「ちょっ、アニュエっ!?」


 く、くるしっ……肉団子が喉に詰まっ……!


「み、水! オリビアちゃん、水!」

「アニュエっ!」

「むがーっ!?」


 お姉ちゃんに無理やりコップを押し付けられ、大量の水が流れ込んでくる。それを思い切って腹に流し込むと、詰まっていた肉団子が丸々、ごとんと胃に落ちた。


 ぜ……は……し、死ぬかと思った……。


「あ、ありがと、お姉ちゃん……」

「まったく、もう……そんなに急いで食べるからだよ」

「まったくだ。料理が美味いのは分かるが、もちっと落ち着いて食え」

「なくなっても、まだ作れるからね。ゆっくりゆっくり」


 みんなに窘められ、涙目で頷く。






——ふと、そんなやり取りに、懐かしさを感じた。





 あれは……いつのことだったか。こんな出来事が、前にもあったような気がする。



『むぐーっ!!』

『アニュエ、水! 水っ!』



 あの時も確か、お姉ちゃんがこうやって、コップで無理やり水を流し込んでくれて。


 それで、なんとか飲み込んで息を切らしていたわたしに、お母さんたちが言ったんだ。


『まったく……母さんの料理が美味しいのは分かるが、もう少し落ち着け』

『そうそう。なくなっても、また作ってあげるから』


 机の向こう側で、ニコリと微笑むお父さんとお母さん。それから、その隣にはまだ幼いお姉ちゃん。


 色のない光景だ。白と黒だけの、鮮やかさのカケラもない世界。それは、過去の光景だから。過ぎ去ってしまったものだから。



 いつか、そんなことが……あったんだ。確かにあった。そんな幸せで、平和で、平凡な日々が、確かにあったんだ。





「……ニュエ? アニュエ?」

「……ぁっ」



 お姉ちゃんに名前を呼ばれていたのに気付いたのは、暫くしてからだった。なんだか、少し放心気味だったような気がする。


 前を向けば、そこにいたのは白と黒だけのお母さんたちじゃなくて、ちゃんと、色のついたケルティたち。


……らしく、なかったかな。こういうのはもう無しにしようって、思ってたんだけどな。


「アニュエちゃん、大丈夫? ちゃんと息、できてる?」

「う、うん。大丈夫。ちょっと、ぼうっとしてただけ……」

「それなら、いいけど……」


 その後は、また、何事もなかったかのように食事が再開された。さっきみたいにがっつくことはもうやめた。お腹もいっぱいになってきたからね。



 その間、食事が終わるまでずっと、お姉ちゃんが何か気にしたような暗い表情をしていたことに、わたしは気が付かなかった。






 その日の夜。


 食事の時によぎった光景がなんだか忘れられなくて、眠れないわたしは、こっそり部屋を抜け出して、村をぶらぶらと散歩していた。深夜ともなると、もう人通りもなくて、村はひっそりとしていた。


 別に、寂しくなったとか、辛くなったとか、そういうんじゃない。ただ、気持ちの整理がしたいだけだ。こうも動揺したままだと、眠気もやってこない。ちょっと一息入れて落ち着かないことには、ね。


「……なんだかなぁ」


 寝っ転がって星を眺める。今日も星が綺麗だ。もう見飽きた景色だけど。


 お母さん……今、どこにいるのかな。まだ生きてるとは思う。でも、どこにいるんだろう。どこでなにをしてるんだろう。


  お母さんも、こんな風に、わたしたちのことを考えてくれてたり……するのかな。


 考えてくれてたら……嬉しいな。わたしは。


「…………」


 一度こうなってしまうと、早いこと抜け出してしまわないことには、ずぶずぶと深くまでハマってしまう。学園であの絵を見た時が良い例だ。切り替えが大事。それは分かってる。



……仕方ない。どうせ眠れないし、やっぱり気持ち切り替えるには『アレ』でしょ。



 わたしは腰の剣を引き抜いた。そして、真っ直ぐに構える。気持ちが曖昧になってるなら、取り敢えず剣を振る。迷いなんてもんは、汗と一緒に流してしまえ、ってね。



「……ふっ、ふっ」



 敵はいない。いたらもう滅多斬りだろう。オーバーキルもいいところだ。いないからこそ好きにやれる。


 剣を振っていると、取り敢えずはそっちに意識が集中してくれる。余計なことを考えなくていい。だから好きなんだよね、剣って。前世でも……何度助けられたことか。


 『光剣レムエル』。家族も友達もいなかったわたしにとっては、あの剣が唯一信頼できる相棒だった。


 当然、そんな相棒も、こっちの世界にはいない。いたら今頃、とっくに世界最強になっちゃってるんだけどね。



……あ、そうだ。この剣……まだ、名前ないじゃん。


 え? ただの剣に名前をつけるのかって? そりゃあ、おもちゃの木剣ならともかく、真剣には名前くらいつけるよ。だって、『命を預ける相棒』なんだよ? 戦場でまず真っ先に頼るのは、仲間じゃなくて自分の剣なんだ。その剣に名前の一つもつけてあげないで、その信頼に応えてくれると思う?


 そうだなぁ。少し遅くなっちゃったけど、良い機会だ。今ここで名前をつけてあげよう。これから先も、長い付き合いになるだろうしね。


「お前の名前は……」


……うーん。そういえばわたしって、ネーミングセンスなかったな。光剣レムエルは元からあった名前だけど、それがなければ素っ頓狂な名前をつけるところだったし。


 うーん……うーん……?



 良い名前が思い浮かばなくて、再び寝転がった。目の前には満点の星空。どこまでも広がる光の空。




「……アーティス」




 稲妻が走ったように、頭の中に浮かんだ言葉があった。レムエルはオルタスフィアの古い言葉で『大いなる光』。アーティスは『星の輝き』を意味する言葉だ。


 パッと思い浮かんだだけなんだけど、それ以上に良い名前が思い浮かばない。刀身を空にかざすと、星と同じくらい、キラキラと銀色に輝いていた。


「決めた……お前は今日から『アーティス』だ」


 気のせいかもしれないけれど、剣が返事をしてくれたような気がした。



 気が付けば……さっきまでの自分は、どこか遠くへ消え去ってしまっていた。

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