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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第1部・3章『赤の集落』
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sideパーティー:第38話

 ノーブリスを出発してから、今日で五日。地図上だと、ノーブリスからバッツァまで、目測でおよそ八日程度。今日で、その半分以上の道のりを進んできたことになる。


 半分を超えたということは、このあたりから、大体疲れが溜まってくる頃。だというのに、アニュエもケルティさんも、私より元気そうに見えた。


 ケルティさんは分かる。大人だし、それに、野菜を売りに遠くの町へしょっちゅう行ってるって聞くし、長旅にも慣れてるんだろう。



 問題は……アニュエだ。



 アニュエはまだ十一歳。歳不相応の精神力を備えてはいるけれど、長旅にも慣れてないはずだし、本来なら体力だってそこまではもたないはず。


 なのに、ピンピンしてる。この三人の中では一番元気だ。むしろ、疲れてないんじゃないかと思うくらいに元気が有り余ってる。



……なんで?



「ん、お姉ちゃん? どしたの?」

「んえっ!? いや、な、なんにもないよ……?」


 じっと見ていることがバレたのか、そう思ってどきっとした。急いで視線を逸らすと、その途中、アニュエの傍に立てかけてあった剣が目に入る。


 あの剣……アクアノスさんに打ってもらったんだよね。私がお礼に行った時は、あの剣を打ってる最中だった。その後はバタバタしてて、結局挨拶にも行けなかったけど……。


 アニュエは『爆弾魔騒ぎ』の犯人と戦った際、今まで使っていた、お父さんからの誕生日プレゼントである木剣にヒビを入れてしまっている。もう一本は村で燃えてしまったらしくて、だから残りはあの一本。それはお守りとして鞄に入れているらしい。アクアノスさんの剣が、絶妙なタイミングで間に合ってくれて助かった。



……そういえば、アニュエ、アクアノスさんのことを『おじいちゃん』って呼んでたような……なんで……?



「ねえ、アニュエ……」

「うん?」

「なんで、アクアノスさんのことを『おじいちゃん』って呼んでたの?」

「ああ、それは……」



 そう言って、アニュエはその経緯を語ってくれた。


 アクアノスさんがお母さんの育ての親だったことは、私も手紙で読んだ。それまでは知らなかったけど。それから、アクアノスさんが本当に、お母さんのことを大事に思ってたんだってことも知ってる。


 だからこそ、お母さんのことを実の娘のように思っていた。そのお母さんの娘だから、アニュエは孫娘みたいなものだって、そう言われたと言った。


「なんか、そうやって呼ぶのがさ。多少なりともお礼になるかなぁと思って」

「そっか。そんな風に言ってたんだ」


 アクアノスさん……良い人だったな。アニュエにも優しくしてくれたみたいだし、手紙の件も、アニュエの剣のことも。今のこれが落ち着いたら、もう一度、挨拶に行かないと。



「あ、そうだ。忘れてた」



 アニュエは何か思い出したように、声をあげた。そして自分の鞄の中に手を突っ込むと、その中から二通の手紙を取り出す。見た感じ、まだ新しい。


「これ、バッツァの村長と、おじいちゃんの弟宛ての手紙なんだって。わたしたちを手伝ってもらえるように書いてくれてるみたい」

「手紙? そんなものも書いてもらってたの?」


 渡された手紙の宛名は、一通が『ナルジェ』、もう一通が『バリー』という人のものだった。中身を見るのは躊躇われるので、どちらが村長さんでどちらが弟さんなのかは分からないけど……アクアノスさん、わざわざこんなものまで……。


「暫くはバッツァを拠点にして、『赤の集落』を探せると思う。それでも手掛かりが得られなかったら、その時はその時に考えよう」

「うん、分かった」

「私もさんせー」


 話を聞いていたケルティさんが、御者席の方から返事をする。アクアノスさんといいケルティさんといい、会長といいモーガンといい、それからジスも……なんだか、色んな人にお世話になってる。私だけじゃ、こうもいかなかっただろう。



 アニュエだ。この子には、人を惹きつける何か(・・)がある。だから皆、この子を助けたがるんだ。



 本当に……本当に、不思議な妹だなぁ。






   * * *






 走り始めて七日目。単なる予測でしかないけど、明日明後日にはバッツァに到着できるだろう。


 この辺りには不慣れなせいか、もっと長距離を走ったこともあるジョセフにも、少し疲れが見えていた。この旅が終わったら、ちょっとの間はお休みにしてあげないと。


 疲れが見えているのはジョセフだけじゃない。アニュエちゃんは見るからに元気だけど、オリビアちゃんは少し疲れているように見える。学生ってこともあって、長旅には慣れてないんだろう。これでもまだ十四歳の女の子だ。体力も精神力も、まだ成熟しきってない。



……まあ、その理屈でいくとアニュエちゃんはどうなんだってなるんだけど。あの子、確かまだ十一歳なんだよね。



 私と初めて出会った時にも、大きなイノシシを狩っていた。それも、木剣でだ。木剣だよ? 刃も付いてない木剣で、頭を砕いてイノシシを狩ったんだ。とても人間業だとは思えない。いやまあ、刃が付いてても人間業とは思えないけども。


 魔法だってそうだ。あの歳で、しかも、お母さんが有名な魔法使いだとはいえ、環境も碌に揃ってない田舎村出身であの実力。正直言って……アニュエちゃんに勝てる人間を探す方が、難しいだろう。


 子供だと思ってついうっかり言っちゃったことがあるけど、私も少し、腕には自信がある。アニュエちゃんとはまた戦い方が全然違うけど、アニュエちゃんと戦って勝てるかどうかって言われたら……いや、無理だね。勝てる未来が全然見えない。


 それだけ恐ろしい子だ。これでまだ十一歳でしょ? これからの伸び代もあるし、肉体だって育ちきってない。もしこれで、あと五年六年と成長したら。それこそ、誰も手をつけられなくなるんじゃないかな。



「……ねえねえ、オリビアちゃん」

「?」



 アニュエちゃんが馬車を操縦している間に、オリビアちゃんの隣に移動して、こっそり耳打ちをした。


 この子もこの子で大概恐ろしい子だ。『煉獄の花姫』の娘で、炎の魔法に長けている。魔法学園という設備の整った場所で教育を受けているから、精度もいい。最近の若い子、本当に恐ろしいね。


「アニュエちゃんってさ。昔から強かったの?」


 直球にそう聞くと、オリビアちゃんは『うーん』と言って唸った。


「アニュエは……昔はよく、幼馴染みの子とは遊んでたんだけど、戦ってるところなんて見たことなかったから……」

「じゃあ、オリビアちゃんも、今になって初めて知ったんだ?」

「うん。家族の誰も……それこそ、その幼馴染みの子以外の人は、誰も知らなかったと思う」


 あれだけ強かったのに、誰も知らなかった? そんなことあるんだ……いやまあ、私も人のことを言えたアレではないけどさ。あんまし人に言わないし。


 けど、その『幼馴染みの子』ってのは気になるね。よく遊んでたんなら、アニュエちゃんのことをよく知ってるはず。


 それに、こういう可能性もある。強かったのはその幼馴染みの子で、アニュエちゃんはこっそり鍛えてもらってた、とか。


「それって、その幼馴染みの子が強かったってこと? 訓練してたとか?」

「ううん。鳥に突かれて泣いちゃうくらいの子」


 名探偵ばりに言ったが、即否定。違ったか。


「となると、元からアニュエちゃんが強かったってことか……」

「魔法に関しては家に教本があったけど、剣に関しては、村に剣士なんていなかったし、どこで覚えてきたかも分からないし……」


 ええ……? 剣も習ってないのに使えるって……? 嘘でしょ……あれ、独学ってこと……?



 本当に……。



「「不思議だなぁ」」



 二人して、ため息をこぼした。見事にシンクロしたなあ、感情。


 その大きなため息が聞こえたのか、御者席のアニュエちゃんが『なーに?』と、声をかけてくる。



「どしたの、二人とも。ため息なんてついて」

「別にぃ? ただ、オリビアちゃんと二人で、不思議な子のお話をしてただけだよ」

「へえ。そんなに不思議な子なの?」



 わぉ。この子、自分のことって分かってないや。君以上に不思議な子なんてそうそういないよ。多分世界中探しても数人くらいじゃないかな。


 それがちょびっと面白くて、オリビアちゃんと目を合わせて笑う。アニュエちゃんは頭の上にはてなマークを浮かべていた。


「な、なに?」

「ううん。とびっきり不思議な子だからさ。面白くて」

「……あれ、もしかしてわたしのこと?」

「さぁねぇ」


 それから暫くは、その話題で盛り上がったとか盛り上がらなかったとか。


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