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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第1部・3章『赤の集落』
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第三十七話 バッツァへの旅路

第1部3章『赤の集落』、開幕。

「……あづい……」



 そうこぼしたのは、荷台に避難してきたケルティだった。おでこや頬に汗が滴ってちょっとエロい。わたしが男だったら、少し危ないところだっただろう。残念ながらそっちの気はない。


 わたしたちが【ノーブリス】を出発してから、早いものでもう三日目。ここまではなんの問題もなく順調に進んできた。三人全員が馬車を操縦できるのもあって、ローテーションを組んで操縦してる分、一人当たりの疲れは少ない。


 ただ……暑い。ただただ暑い。水は魔法で作れるからいいけど、取り敢えず暑い。なんでこんなに暑いのかと聞いたら、そういう地域だから仕方ないって。まじかよ。


「ほんっと暑いね……冷たい風でも出そうか?」

「う゛ん……ちょっとお願い……」


 避難してきたケルティに向けて冷風を出す。魔法で風を作って、それを冷やせばあら完成。魔法でこういうことができるから、魔法使いは長旅に強いのだ。旅人のパーティーに魔法使いが絶対に一人以上いるのは、戦闘面で役立つというのもあるし、旅の必需品をある程度賄えるからというのもある。水系の魔法使いなら水を出せるし、氷を作れば食料を長持ちさせられる。火の魔法使いならわざわざ火起こしをしなくて済むからね。魔法剣士なんてまじで優良物件。


 ケルティを冷やすと、今度はジョセフとお姉ちゃんも冷やしてあげる。ジョセフだって疲れてるだろうし、暑いだろうし。時折こうやって癒してあげないと、いつ歩くのを嫌がるかも分からない。


「あぁ〜涼しい……やっぱり、属性が偏ってないって便利だなぁ……」


 お姉ちゃんが、冷やしている間にそんなことを言う。


 お姉ちゃんはお母さんの血が濃く出ているのか知らないけど、ほんとに火の魔法以外は苦手だからな……特に、反属性である水の魔法は。


 あ、そうそう。魔法使いにも色々と種類がいて、わたしみたいに全属性に偏りがない代わりに、特化した属性がないタイプや、一つに特化した代わりに、他の属性がからっきしなタイプ。天才気質だと複数の属性に特化したタイプとか、ほんと色々。


 お姉ちゃんは火の魔法に特化していて、次点で風。その代わりに、火の反属性である水・氷系魔法と、風の反属性である土属性が苦手。治癒魔法は絶賛練習中って言ってたっけな。あれ、確かに理屈が違うから難しいし。


 でもでも、お姉ちゃんの場合は、その苦手をカバーできるほど火の魔法に特化してる。流石にわたしと同等かって言われたら微妙なところだけど、お母さんの血を受け継いでるだけあって、凄まじいよ。比較対象がいなくて分からないけど。


「あはは。お姉ちゃんはその分、火に特化してるじゃん」

「今、役に立つと思う?」

「まったく」


 二人して笑う。まあ、確かに。こんだけ暑けりゃ、火の魔法が得意でも役には立たないね。


 そんなやり取りをしていると、後ろでケルティがぶーぶーと口を尖らせた。


「いいじゃんいいじゃん。お姉さんなんて、そもそも魔法が使えないんだもん」

「ご、ごめんごめん。そんなつもりで言ってたわけじゃなくてさ?」

「そ、そうだよケルティさん。魔法が使えない分、良いところが沢山あるって」

「たとえば?」


 突然例を求められて、考え込む。えっと、ケルティの良いところ……。


「や、優しくて、野菜を売ってて……」

「……馬車を、持ってる?」


 次の瞬間、ケルティが『ずぅーん』という効果音が聞こえてきそうな勢いで、膝を組んで俯いてしまった。


「い、いや、他にも良いところはあって……でも突然言われると難しいってか……」


 弁明しつつ、謝ろうとして……その時、どこかでお腹の虫が鳴いた。方向的に、お姉ちゃんだ。


 その音がツボに入ったのか、ケルティは俯いたままで、ぷっと吹き出してしまう。ばっと上げた顔には、別に、落ち込んでいる様子だとかはなかった。



「冗談だよ。別に気にしてないし。それより、ご飯にしよっか」



 ケルティの提案で、お昼をすることになった。本気で落ち込んでなくて、よかった。


 あ、でも、お姉ちゃん。流石に良いところを聞かれて『馬車を持ってる』はダメだよ。金持ちにたかるクソガキの思考だよそれ。







 お昼を終え、再び馬車を走らせる。まだ交代したばかりなので、操縦はお姉ちゃん。とは言っても、わたしとケルティも後ろでただ休んでいるだけじゃない。地図を広げて、どのルートでバッツァまで向かうかを確認しているところだ。


 わたしたちの進行方向上には大きな川。そう、間抜けな商人がダイナマイトで橋をぶっ壊したっていう、あの川。グローグに寄った時に聞いた話だと、その橋、まだ直ってないらしい。とんでもないな。


 で、もちろんわたしたちが通るのはその橋じゃない。その橋から見るともっと北側。そこにもう一本橋がかかっているんだ。それを渡って、川を越えようとしてる。


「このペースだと、明後日には川を越えられるかな」

「そうだね。今この辺りだから……」


 今はちょうど、グローグと橋の中間辺り……だと思う。ここまで二日かかってるから、倍と考えてもう二日。


 川を越えてからバッツァまでの距離もある。同じくらい走るんじゃないかな。そっちを四日と考えて……バッツァまで、約六日程度。


「……まだまだかかるなぁ」

「結構遠いからね。仕方ないよ」


 まあ、当初はこの距離を歩いていこうと思ってたんだから、それに比べたら早いけども。それにしても遠いな。


「そういえば、ケルティは、バッツァに着いたらすぐに出るの?」


 地図を眺めていて、ふとその疑問が頭によぎった。遠回りをしてはいるけど、方向的に言えば、バッツァへ行くのもティノーグへ向かうのもそう変わりはしない。そも、ケルティがバッツァへ行くと言ったのは、橋が壊れていて且つ迂回ルートが同じだったからだ。


 わたしのそんな疑問を、ケルティはさも当然かのように……否定した。


「うん? いや、暫くはアニュエちゃんたちに付いていくけど」

「え?」

「え?」


 聞き返すと、聞き返された。



 え?



 いや、こっちが『え?』なんだけども……おかしいな。バッツァまでって話だったと思うんだけど。


「……バッツァまで送ってくれるって話じゃなかった?」

「その後も付いていくって言わなかったっけ?」

「言ってないけど……?」


 そんな『言ったよね?』みたいなノリで言われても。言ってないし。絶対言ってないし。邪神に誓ってもいい。


 いや、言ってたのかな。なんかそんなに当たり前に言われるとわたしの聞き逃しのような気もしてきた。いや、言ってねーな?


「あ、そうだっけ。ナハハ、お父さんたちにそういう風に手紙出しちゃったよ」

「出しちゃったて……」


 そんなさらっと言われても……『バッツァまで送る』だけならまだしも、その後も暫く滞在するってなると、ティノーグへ帰るのが相当に遅くなってしまう。畑はお父さんが見てるとは言ってたけど、流石にまずいんじゃ……?


 それはお姉ちゃんも同じように思っていたようで、話を聞いていたお姉ちゃんが、御者席の方から首を突っ込んでくる。


「ケルティさん、いいの? 言っちゃ悪いけど、ケルティさんは無関係だし……」

「ここまで入れ込んでたら、もう無関係じゃないでしょ。アニュエちゃんもオリビアちゃんも、まだ子供なんだから、黙ってお姉さんに頼りなさいな」

「いや、ありがたい話だけどさ? ケルティにも都合とかあるだろうし」


 そりゃあ、いないよりはいた方が助かるのは当然だ。『赤の集落』を探すのに人手もいるし。ただ、ケルティにはケルティの予定というものが……。




「なに……私に付いてこられたら困るの?」




 なんだか背中がぞくっとするような声で、そう問われる。えめっちゃ顔怖いやめてほしい。圧がすごい。圧がすごい。取り敢えずすごい。


「こ、困らない、です……」

「付いてってもいいよね?」

「お、お願いします……」


 圧に負けて、ついうっかり口を滑らせた。困らないって言っちまった。


 ケルティは満足げに頷いた。『言質はとった』って感じか……やられた。


「オリビアちゃんは?」

「問題ありませんっ! 前方良し!」


 お姉ちゃんには関してはどこの兵士だよってくらいの返事だった。ちょっとそこ、ケルティ。操縦してるお姉ちゃんの後ろから圧かけない。お姉ちゃんの肩めっちゃ震えてるから。



 およそ一般の野菜売りが放ってはいけない圧で、二人ともに言質をとられる。ケルティはやはり満足げに、何度も頷いていた。と同時に、愚痴もこぼす。


「まったく……二人とも遠慮しちゃって。私に気なんて使わなくていいんだよ? ここでアニュエちゃんたちを手伝ったところで、この後の人生、まだ途方もないくらいには残ってるんだから」

「ものっすごい寛容な考え方だね、ケルティ……」

「そう? そのくらい適当に考えてた方が、生きるのも楽だよ?」


 一理ある。怒ったりとかしなさそうだな、ケルティ。



 まあ、お姉ちゃんを連れてる時点で、後一人二人増えたところで、守らなきゃいけないことに変わりはないし……それに、ケルティと一緒にいるのは、結構落ち着くし。


「また、甘えることになりそうだね」

「ナハ。お姉さんに任せなさいな」


 あの独特な笑い声で、胸をドンと叩いた。その時、御者席のお姉ちゃんがあっと声をあげた。


「あ、イノシシ」


 ケルティと二人で見ると、少し離れた前方に巨大なイノシシ。いやでけぇな。少なくとも『あ、イノシシ』レベルの大きさじゃない。『うわぁ! イノシシだ!』くらいの大きさ。なんか感覚おかしくなってるな、お姉ちゃん。


 自称ではそこそこ強いらしいケルティは、そのイノシシを見た瞬間、頭を掻きながら笑った。


「……甘えていい?」

「あはは。もちろん」


 最初からそのつもりだ。二人を守ると決めた以上、危険な敵はわたしが引き受けないとね、


 立ち上がって、荷台から身を乗り出す。柄に手をかけたところで、お姉ちゃんが聞いてきた。


「アニュエ、手伝いは……」

「いらない。一撃で終わらせるよ。終わったら干し肉にでもしよ」

「やったっ!」


 後ろでケルティが嬉しそうにはしゃいでる。肉、好きだもんな。こりゃあ綺麗に殺さないとガッカリされるな。


 ちょうどいい。ここまで、この剣を実戦で使ったこともなかったんだ。少々力不足気味な相手だけど、よしとしよう。


 進んで、進んで。イノシシがこちらに気付いて、前足で地面を擦って、突進の準備をしている。わたしも、剣を引き抜いた。



 そして……イノシシが射程に入った瞬間。荷台が壊れない程度に強く蹴り、イノシシの下まで一気に距離を詰めると、それをいまだ認識できていないイノシシの首を、見事、一撃で斬り落とした。


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