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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第1部・2章『爆弾魔事件』
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第二十八話 手掛かり

 お姉ちゃんと二人で手紙を確認し始めてから、早二時間。手紙の束は無くなる気配を見せない。読んでも読んでも無くならない。一通当たりの文字数はそう多くはないけど、いかんせん、それをカバーするレベルで数がありすぎる。


 ただ、そんなことを言っていても仕方がないので、わたしもお姉ちゃんも、ただ黙々と手紙を読み進めていた。たまに手掛かりになりそうな情報があったりすると、これがどうだあれがこうだと話し合って。



 疲れてはいるけど……それでも手は止めない。逆に言えば、疲れる『だけ』だ。



 まあ、そんなことを言っても、やはり連続で読んでいては集中力も途切れるもので。



「……一旦休憩しよっか、アニュエ」

「そだね。これだけ数があると、どうせ時間もかかるし」


 急いだところで、時間がかかるという事実は変わらない。集中力が切れる前に休憩を挟むべきだ。


 読み終えた手紙のうち、手掛かりになりそうなものとそうでないものとで区別はしているけど、やっぱり、手掛かりになりそうなものもそう多くはない。十通読んで一通あるかないか、くらいだ。



「にしても……」

「うん?」



 読み終えた方の手紙の束を掴みながら、ぼそりと呟く。



「図書館の本で読んだこと以外にも、色々やってたんだね、お母さん」

「ああ……それは私も思ったよ。こんな事件も解決してたんだ、って」



 ここ一週間、図書館で色んな本を読んだけど……それとは別に、そこに書いていないような事件も、手紙には記されていた。


 恐らく、正体を隠して解決したか……或いは、国側がその事実を隠したか。公式に『煉獄の花姫』として解決した事件ではないってことだと思う。


 種類も色々。中には【リットモール】を飛び出して、【グランバレー】や【ミドルフォール】で解決した事件もあった。お母さんの実力は、外の世界でも十分に通用するものだったってことだろう。


 これなんかすごい。十数年前、【リットモール】の北にある小国【アーストン】で起こったある問題の解決。とある小さな村で病が流行し、その病に感染した人はみんな死んで、しかも、死んだ後にその死体が動き回るらしい。所謂『生ける屍』ってやつだ。結局、被害が拡大した【アーストン】の小さな村が壊滅することになってしまったらしいけど……。


 他にも、ドラゴンを倒したとか、自分の偽物が現れたとか、中には、事件じゃないけど、同時に複数人から求婚されたとか……お父さんもそのうちの一人だったりして。



 そりゃあもう、読んでて飽きない人生を送っていらっしゃる。波乱万丈って言葉がよく似合うね。



 でも、どれもこれも共通して言えることがある。



「……やっぱり、お母さんはお母さんだったってことかな」



 小声でそっと、そう呟いた。お姉ちゃんはそれが聞き取れなかったみたいで、ちょこんと首を傾げる。



「え? 何か言った?」

「いや、お腹空いたなぁって思って」

「お昼、食べてないの? 何か作ってこようか?」

「うーん……そうだなぁ。お願い、お姉ちゃん」

「よしきた、お姉ちゃんに任せなさい」



 お姉ちゃんはそう言って袖をまくると、奥の方へ消えた。ここの寮、全部屋調理場搭載ってすごいよな。お金かかってんなぁって感じするもん。

 まあ、火を付けたりするのは本人たちだから、その名の通り『調理場』ってだけだし、案外お金はかかってないのかもしれないけど。


 そういえば、食堂もあるんだっけ。行ったことないけど。




 お姉ちゃんがご飯を作ってくれてる間に、わたしは手紙の束からまた一通を手に取り、中身を取り出した。中身は二枚セット。まだ比較的風化が少ない……ということは、後期に書かれたものってことか。日にちのところは読めなくなっちゃってるけど。



「なになに……」



 手紙の冒頭は、『いよいよ決心がついた』という文章だった。そこからつらつらとこれまでの冒険や旅路のことが記され、おっちゃんたち夫婦に感謝する文章が綴られ、そこで一枚目は終わっていた。


 二枚目に突入すると、すぐに、見慣れない単語が現れた。



「……『赤の集落』?」



 『赤の集落に帰る決心がついた』……要約すると、そんな感じの文章だった。



 赤の集落……って、何だろう。地図にそんな場所、あったっけ? どこかの地名を表す隠語か?


 それに、『行く』ではなくて『帰る』……つまり、お母さんは元々、その『赤の集落』という場所にいたってことだ。



「『集落を飛び出し、二人に育てられ……今漸く、その時が来た……』……その時って?」



 文章の最後にはこの手紙を書いた日付。これは……十四年くらい前か?


 十四年前っていうと、お姉ちゃんが生まれる少し前か。そのタイミングで、お母さんはその『赤の集落』という場所に行っている。いや、帰っている、か。



 この文から察するに……そこはお母さんの『故郷』ってことになるんだろうか。故郷を飛び出したところをおっちゃんたちに拾われ、育てられた。

 そうだったんだ。ご近所さんとかじゃなく、二人がお母さんを育てた……『若い頃のお母さんに似てる』って言ってたのは、そういうことか。なんで『オッグフィールド』なんて他人行儀な呼び方をしていたのかは知らないけど。



 手紙にはそれ以上詳しいことは何も書かれていない。分かったことと言えば、お母さんの故郷は『赤の集落』と呼ばれていて、お母さんは長い間そこに戻っておらず、十四年ほど前に一度帰っているということ。


 何故帰ったのかは……分からん。ただ、お姉ちゃんが生まれる直前っていうのが、どうもヒントになってそう。無関係ってわけではないだろう。


 これに関して詳しそうな人は……一人しか思い浮かばない。



「明日また、おっちゃんのところに行ってみるか……」



 この手紙はおっちゃん夫婦に向けて書かれたものだ。なら、おっちゃんなら何か知っているかも。



 そこまで考えていたところで、お姉ちゃんが帰ってきた。めっちゃ良い匂いする。



「お待たせ、アニュエ」

「ありがと、お姉ちゃん」



 行儀は悪いが効率重視。床の上にトレーを置いてもらって、パンを齧った。



「何か見つけた?」

「んごっごご、ぉほ、ぇっほ……!」

「ちょっ、飲み込んでからでいいから!」


 むせた。


「……んはっ。えっとね、多分、読んだ方が早い」

「うん?」


 水を飲み干して、件の手紙をお姉ちゃんに渡す。お姉ちゃんもその中身に目を通して、怪訝そうな表情をした。


「『赤の集落』……聞いたことない場所だね」

「うん。一部の人しか知らない別称なのかも」


 お姉ちゃんも知らないか。ならやっぱり、おっちゃんに聞いてみるしかないな。





 それからまた暫くして、手紙の開封作業は一旦中止。文字ばかり読んで二人とも疲れてしまったからだ。


 お姉ちゃんは気分転換に散歩にでも出かけるとか言って、どこかへ行ってしまった。そうだなぁ、わたしも、ここ最近そういうことしてなかったし……そうだ。良い機会だし、学園散策でもしてみるか。一時間もぶらつけば集中力も回復するでしょ、多分。



 そうと決まれば即行動。読んだ手紙とそうでない手紙が混ざらないように区別だけして、わたしは部屋を飛び出した。




 空が真っ赤に染まり、少し肌寒い。いつもなら授業が終わる頃だな、今は。


 こっちに来てから何かバタバタして……思えば、この学園のこと、殆ど知らないし。行ったのなんて寮と学院会室くらい。あ、美術棟も行ったっけ。職員室も行ったかも。


 そう考えれば結構行ってるんだけど……なんかこう、事務的な場所ばかりだ。景色の良い場所とか、落ち着く場所とか、そういう所謂『スポット』的な場所へは行ったことがない。そもそもあるのか知らんけど。



「まあ、爆弾騒ぎなんて起こってるなら、下手に出歩かない方がいいのかもしれないけど……」



 と、独り言。


 わたしはお姉ちゃんの妹だってことや、爆弾騒ぎが起こってからここに来たってこともあって、誰からも疑いの目は向けられていない。だけど、普通の生徒なら、こんな時は学園内をうろついたりしないと思う。疑われたら困るしね。


 その証拠に、学園の中はやけにシンとしていた。休息日だってこともあるだろうけど、それでもこんなに静かになるもんか。


 叶うことなら早く解決してほしいとは思うけど……聞いた話だと、難航してるみたいだしなぁ。何か力になれることないのかな。



 爆弾……爆弾かぁ。お姉ちゃんが独り言みたいに言ってたけど、証拠も何も見つかってないんだっけ。爆弾を包んでるっぽいガワだけは見つかってるけど、肝心の中身はないって。


 それに、犯人の痕跡も無し……確かに難航するよね、それ。



 何か……何か良い方法ないかなぁ。こう、犯人を一発で見つけられぶはぁっ!?



「おっと……ごめん、大丈夫?」



 しまった、前見てなかった。誰だか知らんが思いっきり体当たりかましちゃった。


 ぶつかったのは男子生徒。どことなく会長さんを彷彿とさせる肉体系の人だった。



「わたしこそ、ごめん。考え事してて」

「怪我が無いならよかったよ。ところで、君は……」


 わたしは学園の生徒じゃない。だから制服も着ていない。不審者に見えなくもないから不審がるのも当然だった。



「あ、大丈夫。怪しいものじゃないから。ほんと」

「……ああ、もしかして、バース副会長の妹さんって……」

「そうそう、わたし。アニュエ・バース。説明が省けてよかった」


 一般の生徒にも話がいってるのか……いや、もしかして、この人も学院会の人なのかな。だからわたしのこと知ってたのかも。


「お兄さんも学院会の人?」

「そうだよ。俺はレイオス・サディール。マーリン副会長の補佐役だ」


 へえ、モーガンさんの……。補佐役ってことは、ジスと同じような役回りってことか。


「そうなんだ。よろしく、サディールさん」

「レイオスでいいよ、アニュエちゃん」


 初めましての握手。うっかりぶつかったのがこの人でよかった。学院会に関係のない人なら、わたしのことを知らなかったかもしれないし。そうなると説明が厄介だ。



「ところで、こんな時間に何を? 今は物騒だから、あまり出歩かない方がいいよ」



 真剣な表情で、レイオスさんがそう言った。


 やっぱりそうか……疑われるとか以前に、危ないもんね。あまり出歩いたりしないのか、普通。



……まあ、ただの爆弾で死にかけるとも思えないし。わたしは普通に出歩くけどさ。



「うん、ちょっと散歩。わたしこう見えても強いから。爆発とか食らっても大丈夫だと思う」

「またまたぁ……ってあれか、バース副会長の妹さんだから、本当に大丈夫なのか……?」


 後半は小さな声で独り言のように呟いていた。聞こえてるから。



 そんな状況でここにいるってことは、レイオスさんは見回りかな。休息日だっていうのに大変だな、学院会の人も。早く犯人が捕まればその苦労もなくなるんだろうけど。



「レイオスさんは見回り?」

「ああ。少しでも、手掛かりを探さないといけないからさ」

「大変だね、学院会の人も」

「今は特にね。早く犯人を捕まえたいんだけど、とにかく手掛かりがなくて」



 お姉ちゃんと同じようなこと言ってるな。とにかく手掛かりがないんだって。


……でも、そんなに何度も事件を起こして、ほんとに手掛かりが何もないって、そんな完璧なことが学生に可能なのかな?


 うーん……もっと頭のキレる人、たとえば先生とか。それか外部犯……学生にしても、何か手掛かりを残さないトリックがあるように思うけど。


 後からこっそり、残った証拠を隠滅してるとかね。そうすれば手掛かりは見つからないし。



 でも、そうなると、それが出来るのって現場を好きに調査できる人だから、『学院会』の人か先生のどちらかってことにならないのかな。流石に一般の生徒が何度も証拠隠滅のために現場をうろちょろしてたら、怪しまれるもんね。学院会の人なら何をしても怪しまれないし。



「おっと。俺はそろそろ行くよ。アニュエちゃん、考え事をするのはいいけど、前は見るようにね」

「あ、うん、そうする」


 そんなことを考えていたら、レイオスさんは足早にどこかへ行ってしまった。忙しそうだなぁ。犯人、早く捕まるといいのに。



……あれ、さっきわたしが考えてたことって、学院会の人も気付いてるのかな。学院会内部に犯人がいるかもって。モーガンさんは頭良いらしいし、気付いてるかな。変に口出しして、何か作戦の途中とかだったりしたらダメだしな。言うならお姉ちゃんかモーガンさんに直接聞いた方がいいかも。



 はあ……なんか、余計に暗くなっちゃったな。帰るか。

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