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第三話 かみさまの本

……と、思っていた時期がわたしにもありました。



「あー!」

「何だい、アニュエ」



 いや、思ってたより早かったね。動けるようになるまで暇かなって思ってたけど、ぶっちゃけ寝てる時間が殆どだったから体感的に数週間くらい。時間が流れるのが早く感じるくらい。


 ハイハイが出来るようになって……だから、多分今で八から九ヶ月くらいだと思う。わぁ、もうすぐ誕生日。やったね。



 動けるようになって、家中動き回って、分かったことが幾つか。



 まず、わたしだけで動くのは危ない。下手したら死ぬ。下手しなくても死ぬ。動く時は極力お母さんのいるところで。これ絶対。赤ちゃんなめてた。


 二つ目。どうやらお父さんの職業は『農家』らしい。お母さんに抱っこされたまま一緒に見てたから間違いない。畑で野菜とか作ってた。うーん……可もなく不可もなく……でも可愛くないから継ぎたくはないかなぁ。『農家ちゃん』はちょっとダサい。


 三つ目。ここは前世とは違う世界。お母さんが本読んでる時にこっそり覗いちゃった。


 不思議なのはこの三つ目……というか三つ目しかないんだけど、ここは確かに前の世界とは違う世界のはずなのに、何故か『言葉』も『文字』も同じってこと。わたしは意識が戻った時からお母さんたちの言葉が分かったし、本を見ればそこに書いてあることも理解できた。


 おかしくない? なんで一緒なの? 実はここ、前の世界が滅んじゃって新しくできた世界とか言わない? うわっ、そんな物騒な発想できる自分が恐ろしい。


 えー……わたしの学習能力が高すぎるっていう一縷の可能性に賭けたいけど多分ないだろうから、そのうち考えよっかなぁ。そうしよ。



 あ、しまった。お父さんのこと放置してた。



「ばー」

「仕事を見にきたのか? あんまり楽しくないだろ?」

「あうー」


 うん。


 お父さんはわたしを抱っこするお母さんの隣で、お母さんの作ったお弁当を食べていた。お昼休憩ってやつ。


「この子、やけにあなたのところに行きたがって。あなたのこと好きみたいですね」

「そ、そうかぁ?」

「あゔぁー」


 いや、そんなに。別に嫌いってわけでもないし。そりゃあ、お父さんなんだから好きだけど。わたし、今お姉ちゃん単推しだから。


 なんちゃって。お母さんも好きだしお母さんとお姉ちゃん推しだったよね。


 それにしても、お母さんのお弁当美味しそう。お料理上手な美人若妻かぁ。お父さん、そのうち誰かに寝首かかれそうだなぁ。嫉妬してる人多そう。



 暫くしてお弁当を食べ終えて、お父さんは畑に戻っていった。何やらお父さんは魔法が使えないみたい。全部人力で作業してる。大変そうだけど、今のわたしじゃ力になれないし。成長したら手伝おっと。




   * * *




 なんやかんやあって、午後。なんやかんやの部分は寝てました。失敬。


 お母さんがまた本を読んでいたので、膝の上で一緒に読んでた。絵本とかじゃなくて、普通に歴史書。お母さん、歴史の勉強をするのが好きみたい。ありえん好都合。この調子でここがどんな世界なのか覚えてやろっと。


「アニュエ、難しくて分からないでしょ? 絵本にする?」

「あ゛ぁ゛ー!」

「そんなに嫌なの? 変わってるわねぇ……」


 絵本なんて読んでてもつまらないことはないし感動するやつもあるけど今は求めておらん。どっちかと言えば歴史書やらそういう何やらをくれ。よろしい、そのまま続けろ。


 お母さんはお風呂上がりでホカホカ、膝の上はめちゃくちゃに良い温度。所々湯気が出てる女の人ってちょっとえっちぃ感じする。男の気持ちも分からんでもない。



 読み聞かせるというわけでもないので、お母さんは何か声に出すというわけでもなかった。普通の赤ちゃんなら無理だけど、ほらわたし、剣聖ちゃんじゃん。お母さんと同じくらいの速度で読めるし。丁度良いくらいのところでページめくってくれるからありがたい。全自動本めくり係かもしれん。


 でもほら、やっぱりわたしって勉強苦手だから。読むのは読めるけど理解は遅い。これがこうなって、ほうほう、だからこうなって、ほうほう、つまりこう、は? みたいな。よくあるやつ。


 これが算数とかじゃなくて幸いした。歴史書だから小説みたいでまだ分かる。算数は死ぬ。



 しっかし……こうして読んでると、やっぱり前とは全く別の世界だなぁ、ここ。


 前の世界は【オルタスフィア】って名前だった。国とかじゃなくて、世界をひとまとめにした総称ね。地形の形なんかは昔死ぬほど見たから忘れるはずもない。


 一方で、この世界は【ネヴェルカナン】というらしい。ぶっちゃけ言いづらいと思う。誰だこんな名前考えたやつ。お前か?


……はい、話逸れがち。


 で、このネヴェルカナンには遥か昔、『大いなる神』とかいうのが二柱いたらしい。


 大いなる光の神、『イヴ』


 大いなる闇の神、『アダム』


 別に闇の神さまだから悪いやつとかいうわけじゃなく、要は光と闇、昼と夜、太陽と月とか、そういうものを司るものだって書いてた。ぶっちゃけ難しくてよく分からん。


 そんな神さまは人とかこの世界に存在する自然とかを創ると、どこかに消えたらしい。じゃあ実在したか分かんないじゃんっていう神さま論争は無しで。



 前世……オルタスフィアで生きていた時は、そんな話、聞いたことなかった。ここが実は名前が違うだけで同じ世界だった説は否定されたわけね。



 お母さんは一通り満足がいったのか、そこで一旦本を閉じた。おっと晩御飯の準備か?


「今はここまでね。お夕飯の支度しなくちゃ」



 ビンゴ。


 お母さんの料理、美味しそうだからわたしも早く食べたいなぁ。残念ながらまだミルクだからね。固形物っていつから解禁? 明日?


 なんちゃって。





……うーん。



(……光の神、『イヴ』か……)



……まあ、気になるわ。一番気になるのそこだわ。他のところは正直そんな良さげな情報なかったし。

 ただ、こいつだけ。光の神さまの名前だけ気になった。だって……似てない? わたしの倒した邪神の名前と。



 あ、覚えてない? ちょっと戻れ。



 わたしが二年前……毒キノコで死んだ段階から二年前に倒した邪神と呼ばれるやつの名前は、『イヴリース』。若干似てると思わない? 考え過ぎかな? どっちも神さまだし。邪神は完全に悪神だけども。


 どうなんだろ。言語が同じことといい、わたしの名前が同じことといい、少し似た名前の神さまがいることといい……なーんか、全くの無関係だとは思えないなぁ。



……お母さん、今いないよね? こっそり読んでもバレないかな?



 そーっと、そーっと……。



 床に置き去りにされたままの本に手を伸ばし、そっと、そっと……。


 

 ほら、もうすぐ指の先に……。




「あー。アニュエ、だめだよー。あぶないあぶない」




……まじか。


 突如現れたお姉ちゃんによって、指の先の距離にあった本は没収された。


 お姉ちゃんめ。ここぞとばかりに出番を作ってくる。あと少しで勝手に読めたものを。

 まあよい。お姉ちゃんはわたしと三歳差。この前お母さんと話してたのを聞いた。今三歳なんだって。

 三歳児の赤ちゃんがしまえる場所など限られておるわ! しめた!


 お姉ちゃんは本を小さな棚の扉を開けてその奥にしまう。そんな簡単な引き戸、わたしが開けられないとでも? 剣聖ちゃんだぞ。


 お姉ちゃんが料理中のお母さんのもとに駆け寄っていったあと、その棚を開けるべく、再びこっそりと行動を開始した。

 ふっふっふ……このわたしから知識を奪うことなんてできないってことだよ。勉強は無理。あくまで知識って話ね。



 そっと手を伸ばし、棚の取っ手を持ち、そして……。



「ただいまー……あれ、アニュエ。危ないぞー、そんなことしてたら」





——◯◯ッ◯!!!! 父!!!!

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