第二十二話 vs盗賊団
ジスの声は街道から離れた林の方から聞こえてきた。林に入って野生の獣にでも襲われたか? 穴に落っこちたとか?
何にせよ、助けを求めるってことは、一人では解決出来ないってことだろう。さっさと助けにいって先へ進まないと。
「お姉ちゃん、ジスって戦えないの?」
「ジスは頭脳派だから……言っちゃ悪いけど、あんまり強くない」
まじか。だとしたら尚更急がないと。敵だったら嫌なことになる。
林の中を走って、走って……確か、声がしたのはこの辺りのはず……。
「……お姉ちゃん、伏せて」
「むぐぉっ……」
お姉ちゃんの頭を掴んで強引に伏せる。困惑するお姉ちゃんの頭を、わたしが見た光景へと向けた。
……なるほど。獣でも落とし穴でもなく、『野盗』か。
縄で両手を縛られ、魔法を唱えさせないためか、口は布で塞がれている。助けを求めた直後にでも塞がれたか。
そんなジスの周囲にはオーディエンス……もとい野盗。見える範囲にいるのは四人。どいつも武器を持っているけど、近接武器ばかりだ。
正直、雑魚だろう。ここから魔法で狙い撃てば問題ない。ジスにさえ当てなければそれでいい。
ただ……奴ら、ほんとに四人だけか? どこかに仲間が隠れてて、隙をついてジスを攻撃されたらたまらない。少し様子を探るか、或いは駆け寄って攻撃される前にジスを回収してしまうか。
うん。後者の方が楽な気がしてきた。マナはたっぷりあるし、野盗くらいなら片手間で倒せる。これでも一応、『元』剣聖ちゃんだからね。
「お姉ちゃん。わたしが魔法で何とかするから、ここで見てて」
お姉ちゃんの耳元で小さくそう言った。直後に、お姉ちゃんの顔が驚愕で染まる。
「見ててって……危ないよ!? どこかに仲間が隠れてるかもしれないし……」
「うん。だから走りながら倒して、ジスを回収したら、魔法で守りながら離脱するよ」
やることは至極簡単。ジスのところへ向かいながら魔法で野盗四人を撃破。ジスを回収して、魔法で障壁を張りながら即時離脱。お姉ちゃんも回収して馬車へ戻る。
馬車へ戻った後は……追跡とか面倒だし、追ってくるやつがいたら全員叩きのめす。こうだ。オーケー、理解した。
そんな風に説明したら、思いっきり呆れられた。なんで?
「そんな簡単に……無茶なこと言ってるって分かってる?」
「無茶なんかじゃないよ。わたし、これでも強いから」
「強いって、それはザック君と比べてでしょ……?」
まさか。ザックなんて比較にも入ってないよ。まあわたしの足下くらいにはいるだろうけど。踵くらいかな。
……違う、そうじゃない。どうやって説明したらいいかな。多分、お姉ちゃんが行くよりわたしが行く方が安全だと思うんだけど。火の魔法なんて使ったらこの辺一帯大火事だ。
そうだなぁ……じゃあ、お姉ちゃんには後方支援をやってもらうってことで。もし他に敵がいたら、魔法で倒してもらおう。『火の魔法以外』で。
「どう?」
「どうって、それでも危ないって……」
そんな風に問答している間に、野盗の一人が痺れを切らしてナタをジスに向けた。おっと、物騒な。嫁入り前の女の子にそんなもの向けちゃダメだろ。
「ほら、あんまり時間ないみたい。頼んだよ、お姉ちゃん!」
「ちょっ、アニュエ!?」
お姉ちゃんの答えも聞かずに『跳び』出した。
そのまま空中で構築するのは……比較的林には無害な風の魔法。ジスには危害を加えずに、けれど正確に四人の野盗を撃破するやつ。
「風の精霊よ、切り裂け!」
大きな風の刃が一つ、放たれた。そいつは空中で四つに分裂すると、狂いなく正確に、四人の野盗を襲撃した。
そのままわたしは空中を数歩散歩して、ジスの眼前へと着地した。
「ほら、大丈夫?」
「んーんーんー!」
何言ってるかさっぱり分からん。口抑えられてるからな。布で。今すぐ取ってやりたい気持ちもあるけど、今はここを離脱するのが先だ。
周りに敵は……いや、いるなぁ。何人かいるような感じするなぁ、これ。やっぱり仲間が隠れてたか。
じゃあ、また風の魔法で障壁でも張りながら、お姉ちゃんも回収して逃げるか……。
「……っ、やばっ……!?」
——その直後、わたしは、突如斬りかかってきた男の攻撃を防ぐことで精一杯だった。
突然のことすぎて完全には防御が間に合わなかった。ダメージがあるってわけじゃないが、右手が痺れる。
思わず放り投げてしまったジスは……無事か。良かった良かった。
けど、この状況は……あまり、よろしくないかなぁ。
不意打ちを防がれた野盗らしき男は、そのまま後方へ離脱すると、わたしの体よりも大きいんじゃないかってほど大きな剣の切っ先を、地面に突き刺した。
「……オレの攻撃を防ぐガキがいるとはな……世界は広い、ってやつか?」
細身で、けれど筋肉質な長身の男。裸体をさらけ出す様に、上半身はジャケットだけ。左目には縦に大きな傷が入っていて、瞑ったままだ。
くっそ、こんなやつがいるなら最初から出しとけよ野盗ども。不意打ちとか野党がやることか、あぁん!? やることか、そうか。分かった。
なんて……ふざけてる場合でも無さそうだね。
「びっくりしたぁ……不意打ちするならそう言ってよ」
「それだと不意打ちにならねぇだろうがよ。馬鹿かお前」
「馬鹿じゃないし。馬鹿枠はザックで埋まってんの」
これ以上馬鹿枠を増やしてたまるか。
と、そんな風なじゃれあいは時間稼ぎのため。お姉ちゃんの準備が整うまでの。
流石に、こんなアホみたいにでっかい剣振り回すやつと、ジスをかばいながらは戦えない。周りにも敵がいるし。今は手を出してきてないけど、いつ攻撃してくるか分からない。後ろにいたら全力出せないしなぁ……。
まあ、そっちの方は心配ない。後ろにお姉ちゃんがいるしね。準備が整ったら始めてくれるでしょ、多分。
「アニュエっ!」
ほうら、きたきた。
お姉ちゃんは周りにいた敵を、何人かは斬り伏せ、何人かは魔法で制圧して、わたしのところへやってきた。そして、わたしごと含めて、三人の周りに風の障壁を張った。
……いや、わたし入れちゃダメじゃん。
「逃げるよ、アニュエ」
風の障壁を展開したお姉ちゃんは、転がっていたジスを抱えると、そう言い放った。
「え、なんで?」
「なんで? じゃないよ。あの男……強いよ」
声が少し震えている。額に汗も。なるほど、普通はそうなるんだ。そうなるくらい強い、ってことだよね。
強者が出すオーラ、みたいなもの。そういうのって実際にあるもので、やっぱりどう頑張っても手の届かないような強者を前にすると、体が異常反応を起こしてしまうんだ。わたしも、昔は何度か経験した。
けどまあ、あれだけどね。邪神とかに比べたら虫けら以下だしね。ダニみたいなもんだし。今更恐れる必要もない。
「でも、倒さなきゃ追ってくるよ。そうでしょ?」
「……まあ、金目のもん持ってそうだからな」
野盗に聞いたらそう答えてくれた。答えてくれるんだ。
「ほら。だから、あいつ、倒しとかないと」
「でもっ……」
でもとかだけどとか、そういうことを言い出す前に指で口を塞いでしまった。ほら、こうすれば何も言えない。
「すぐ戻るから。馬車で待ってて、お姉ちゃん」
首を小刻みに横に振るお姉ちゃん。うぅん……分かってくれないなぁ。ケルティの時みたいにイノシシでも倒してくれば分かってくれるのかな。そんなこと言ってられる状況じゃないけど。
「……おいおい。そういうのいいからよ、さっさと倒されてくれや」
……あぁ?
お前……感動的な姉妹の決意の場面でそういう横槍入れるか、普通?
「……感動のシーンの邪魔するなよ。無粋だぞ」
つい前世式の方で風の刃の魔法を使ってしまった。簡単に防がれたけど。これで暫く邪魔も入らないだろ。
「ああ、もうっ……じれったい!」
「えっ……?」
このままじゃキリがないし。わたしは強引にお姉ちゃんの障壁を叩っ斬って二つにした。実力差があるからこその力業。その分マナの必要量も多い。
二つに分断された障壁は、わたしの方はそのまま消滅して、お姉ちゃん側は穴が塞がって元の障壁に戻った。お姉ちゃんからマナの供給があるから、当たり前のこと。
さて、これで自由だ。
「先に行ってて……じゃなくて、戻ってて。すぐ帰る」
有無を言わさず、衝撃だけを起こしてお姉ちゃんたちを吹き飛ばした。痛かったらごめんね。でも、中々行ってくれなさそうだし。
お姉ちゃんたちはこれで良し、と……さて、お待たせお待たせ。
「もういいよ、邪魔して」
「……ちょっとイラっときたぜ」
「ちょっと? ほんとにちょっとだとしたら、あんた心広いね。なんで野盗なんてやってんの」
ブチブチと音が聞こえてきそうな勢いで、男の額に青筋が浮かんでいく。さすが煽りスキルマックスのわたし。どんな相手でも煽っていくスタイル。
「ガキ……今の状況分かってんのか、あぁ!?」
「あんたこそ、分かってる? お仲間は全員倒れちゃってあんた一人。わたしには足枷も何もない」
さっきまで『やばい』と言っていたのは、何より『ジス』を守りながら戦わないといけなかったから。こんなゴツい奴相手にしながらジスを守りながら他の敵にも気を使うとか、そりゃあちょっとやばい。
でも、それももう無いし。ジスもお姉ちゃんも……うん、ちゃんと逃げてるね。周りの敵はお姉ちゃんが倒してくれたし。後はこいつ一人だけ。
そんなの……もう、『勝ち確』でしょ。
「ぶっちゃけ、やばいのはあんたの方だよ」
マナ強化全開、剣の保護を優先して……本気はうっかり殺してしまいそうだから、三割くらいからスタートするか。
この世界の人間の基準を知る良い機会だ……お手並み拝見といこう。
「……ふっ!」
瞬連斬、五連。今のわたしの最高連撃。シンプルに上段からの斬り下ろしだ。
それを男は、大きな剣でもって防いだ。瞬連斬の弱点は、一撃目が防がれると、後ろの連斬部分も防がれるってこと。五回連続でヒットするってだけだから。衝撃は回数分あるから、体力は削れる。
お次……後方に飛んで、空中から烏落とし。珍しい技だったのか、男は目を見開いて、飛んできた斬撃を弾き飛ばした。
「まるで曲芸大会だなぁ、おい。けどよ、威力がねえよなぁ、ガキンチョ」
「木剣相手に何粋がってんの、おっさん」
「ちっ……オレぁまだ二十五だぞ!」
大振りな一撃。けど、速い。
こんなに大きな剣なのに、木の棒でも振り回すみたいに簡単に振りやがる。相当筋力あるぞ、こいつ。
流石にこれを真っ向から受けるのは……遠慮したい。体格差で吹き飛ばされる可能性がある。わたしがもう少し大人になってからなら話は別だけど。
男の大振りな攻撃を躱し……隙を突いて背後に回った。上段から下段へ、袈裟斬り。やり過ぎれば、イノシシの頭部を粉砕して且つ地面にクレーターを作るほどの威力がある。程々に抑えて相手が四散しないように、尚且つ斬り伏せられるように……したつもりだったが。
「効かんなぁっ!」
「んなっ!?」
嘘でしょっ、あんたの背中どんだけ硬いわけっ!? 鉄でも埋まってんのか!?
思い切り弾かれた。そんでもって、思いもよらぬ横薙ぎを受けた。なんとかガードは間に合ったけど……案の定、吹っ飛んだ。
いってぇ……今のでノーダメージは予想してなかったわ……こいつ結構強くね?
わたしを吹き飛ばした男は、首をゴキリと鳴らしながらこちらへ近付いてきていた。
「芸はあるが、軽いな。やっぱりガキはガキか」
「ばっか……まだ本気出してないし。予想よりちょっと強かっただけだし」
今のうちに油断しとけ。もうちょっと本気出すから。
三割でダメなら……五割だ。今の全力の半分くらい出そう。
「で、おっさんってば何でそんなに硬いわけ? 魔法?」
「さて、何でだろうな」
五割も出せば多少は剣で打ち合える。やり過ぎると圧されるが、すぐにいなせば問題無い。
右、左、上、下、左。色んな方向から迫ってくる大剣をいなし、躱して、隙を見つける。相手の剣が大きすぎて中々懐に入れんが……ここだ。
今度は脇腹への一撃。連撃でも飛ぶ斬撃でもなく……『内砕き』。敵の内部にダメージを与える技だ。
その昔。外殻がやたらと硬い敵がいて、そいつを倒すために内部によりダメージを与えやすくする技を編み出した。それがこいつだ。
この男も同じパターンなら、これが効くでしょ。
「んぐっ……ぅぉおらぁっ!」
「おっと」
明らかに痛そうな反応。やっぱ魔法か何かで防御力上げてんな? 皮膚の硬化とか? 何だっけ。こっちの世界では『命の精霊よ』から始まる詠唱なんだっけな、回復とかそういうのって。
こいつ……そうか、なるほど。見た感じは攻撃特化っぽいけど、実は防御特化だな?
「なぁるほどね。そんな剣担いで防御特化とか考えんわ、普通」
「ちっ……」
図星だな。良かろう良かろう。
そうと分かれば打つ手は簡単。最悪、その辺に落ちてある野盗の武器でも拾おうかと思ったけど、その必要も無さそうだな。
「一撃入ったくらいで喜んでんじゃねぇぞ!」
「別に喜んでないし」
急に逆上した男が、上段からかなりの大振りで剣を振り下ろしてくる。
……罠か?
まあ、分かってて突っ込む奴なんていないでしょ、そんなの。
「地の精霊よ、隆起せよ」
「んがっ!?」
男の足下の地面が隆起して、男はそのまま前のめりに態勢を崩した。
いや……ちょっと本気出すし、魔法も使うよ、そりゃあ。逆に何で使わないと思ったの。馬鹿じゃん。これ以上馬鹿枠増やすなって。
態勢を崩せば、あとは簡単。倒れ込んでくる男の、一番脆そうな部分……腹でいいか。腹部に向かって、今出していい力の全力で、剣を振り抜く。
良い機会も良い機会。丁度良いし、新しい技の練習台になってくれ。
————砕連撃!
「ご……っぁっ……!」
瞬連斬と内砕きを組み合わせた連続内臓破壊技。超極悪非道技だ。今思い付いた。
今ので、三連続。この男は今、この一瞬で、皮膚下に三連続でとんでもない衝撃を味わったんだ。何ともまあやることがどす黒い。
そのままうつ伏せに倒れ込んだ男は、腹を抑えてのたうちまわる。響き渡る叫び声が断末魔のようでこっちが怖くなってくる。
……やり過ぎたか? 内臓全破裂とかやっちゃった?
「……おーい、大丈夫?」
「ぉっ、ぐぇっ……ぉごっ……」
やばい。世に出していいレベルの音声じゃない。規制かけないといけないレベルだ。
これは……思ったよりやべぇ技を生み出してしまったかもしれん……。
……っと。そうだ。
「……ねえ、おっさん」
もがき苦しむ男のそばにしゃがみ込み、その頬にそっと触れた。
優しく、天使のように。聖母のように。母親のように。
「どうする? もうわたしたちに手を出さないって言うなら、治してあげてもいいけど」
「こ、こどわっだら……」
おお、凄い。この状況で断るっていう選択肢、あるんだ。余程死にたいんだね。自殺願望でもあるのかな。虫けらのくせに。
「殺すよ。わたしはどっちでもいい。おっさんが選びなよ」
選択は男に委ねた。
すると……断った時のことを聞いておきながら、男の決断は早かった。
「だ、だずげで、ぐれ……」
「よしきた」
わたしは男の中にあるマナを書き換えて、内臓の治療をする。うぉっ、内臓めっちゃ破裂してる。心臓が無事で良かった。ここ破裂してたら即死だった。もうちょっと威力抑えないと、とてもじゃないけど人には使えないな、これ。こういう極悪人相手ならいいけど、お姉ちゃんとかと打ち合う時に間違って使ったら大変なことになる。
治療はすぐに終わった。治す部位も多かったしそれなりに重傷だったから、マナも結構持っていかれたけど。
治癒魔法にも慣れたもんで、欠損してすぐなら復元出来るようになった。凄いねわたし。聖女とかやれるかも。
治すとすぐ、男は立ち上がった。お、やるか? とも思ったけど。
立ち上がってすぐ、その場にひれ伏す。低い。頭がすごく低いです。おでこめっちゃ地面に擦り付けてる。
「……もう二度と手出ししません」
「うわぉ頭大丈夫?」
内臓治す時に変な治し方しちまったか? どうしたこいつ?
いや、シンプルにそれだけ苦しかったってこと? いやまあ、中身あんだけぐちゃぐちゃなら、そりゃ苦しいだろうけど……そんなに?
「誠に、申し訳ありませんでした」
「え、やめて、キモい」
「……」
さっきまでオラオラだったのに、急にそんな言葉遣いになると気持ち悪さしか感じない。やめていただきたい。
やめろと命令すると、おでこを擦り付けるスタイルから、片膝をつくスタイルに変わった。そう変わるかぁ。そっかぁ。
「……姉さん」
「おい馬鹿」
「姉さんの男気に惚れました」
「女だわ」
「もう野盗辞めます!」
ギャグかな? ギャグだよな?
気付けば周りの野盗たちも起き上がっていた。全員、ギリ殺さない程度に留めておいたから……おい、何で全員わたしに跪いてんの?
『『姉さん!!』』
「……嘘でしょ」
* * *
馬車へ戻ると、お姉ちゃんが馬車の周りをウロウロしながら、何やら独り言を呟いていた。わたしが来たことにも気付いてない様子だ。
「お姉ちゃん」
「ふぁにゅぁっ!?」
飛び上がって剣を抜いて突き付けられた。危ない。あと三センチ進んでたら死んでた。
「えっ、ちょ……アニュエ!?」
「うん、わたし」
その切っ先を向けているのが自分の妹だと、やっと理解したのか、お姉ちゃんは慌てて剣を放り捨てるとわたしの体をペタペタと触り始めた。
「大丈夫!? 怪我は!? あいつらは!?」
「や、くすぐったいんだけど」
一旦落ち着け。
どこにも怪我がないと分かったのか、お姉ちゃんはわたしから離れると、『良かった』という意味を込めてなのか、大きなため息をこぼした。
「……無事で良かった。私、途中から、怖くなって、逃げ出して……」
「いや、わたしが逃げてって言ったんだし。気にしないでいいよ」
「でもっ!」
暗い表情で、俯きながら訴えかけてくるお姉ちゃん。しかし、『でもっ!』の辺りでやっとわたしの後ろにいた『それ』に気が付いた。
「……夢かな?」
「お姉ちゃんまでボケに走らないで」
わたしの後ろにいたのは、あの野盗の集団。いや、野盗改め『アニュエ戦士団』か。リーダーであるあの男、アラン・オルゴーンがわたしの男気(?)に惚れ込んでしまったらしく、野党辞める! とか駄々こね始めたので、じゃあ自警団的なものにでもなれよとアドバイスしたらこれだ。なんでやねん。
いや、話聞いてれば、ほんとの悪人以外は殺したことないし、金目のものも必要最低限しか盗まないし、盗んだものは貧しい人たちに分け与える、実は善良的な野盗だったことが判明したんだよ。善良的な野盗がそもそも何だよって話だけど。つまるところ義賊じゃん。
じゃああの時、ナタを突き付けてたのはなんだって、聞いたら、お腹空いたから早く切り上げたくて、早いとこジスを解放するかってなってたらしい。紛らわしいわぶっ飛ばすぞ。
ついでにわたしを不意打ちした時完全に殺す気だったじゃん、って言ったら、仲間を殺されるかと思って必死だったってさ。仲間想いやめろ。わたしじゃなかったら死んでたぞ。
まあ……野盗がいなくなって、少しでも平和になるならそれでいいけど。なんか良い話風にまとめられてムカつくな。
「え、つまりどういうことですか? 私が気絶してる間に、強面の人たちが仲間になったと?」
「うん」
因みに、ジスはあの時わたしが放った衝撃で気絶したらしい。ごめんね。
……まあ、ともあれ。事件は解決ってことで、いいかな? また、ノーブリスに向けて出発しようか。




