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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第1部・1章『小さき復讐者』
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第二〇話 絶望と嗚咽

「ママとパパは? 一緒に来てるんでしょ?」



 お姉ちゃんのその問いに、わたしは、何と答えれば良いのか分からなかった。


 そうか、お姉ちゃんは……家族で生き残ったのがわたしだけだってことまでは、知らなかったのか……。


 ケルティも言っていた。生き残りがいることは知っていたけど、何人いるのかまでは知らないって。


 普通に考えて、ノーブリスはケルティの故郷、ティノーグよりも遠いところにあった。更に曖昧な情報が伝わっていたとしてもおかしくはない。



「どこか宿にでもいるの? だったら、すぐにでも行こうよ」

「お姉ちゃん……」


 わたしの手を取って歩き出そうとするお姉ちゃんを……引き留めた。まさかわたしが止まるとは思ってなかったのか、そんなに力がこもってなかったのか……お姉ちゃんの体だけが先に行って、手が離れた。



「どうしたの、アニュエ? ママたちも……」



 答えられない。答えたくない……。



 わたしがここに来たのは、お姉ちゃんに会うため。お姉ちゃんに会って、みんなのことを話すためだ。


 でもいざお姉ちゃんを前にすると……怖くて、何も言葉に出来なかった。


 くそ……前世で剣聖なんて名乗っててこのざまか。これじゃほんとに、ただの子供みたいじゃんか……。




「お姉ちゃん……みんなは……」




 言葉にならない音を何度か発して、お姉ちゃんはそれで何かを察して、途端に顔を青くした。



「ママたちも……生きてるん、だよね……?」

「お母さんたちは……みんなは……」



 生き残ったのはわたしとザックの二人だけで、他のみんなは死んでしまった。文字に起こせばたったそれだけなんだけど、それを言うのがこんなに難しいか。


 お姉ちゃんはよろよろと数歩後退り、膝から崩れ落ちた。


「先輩っ!」

「そんな、まさか……」



 崩れたお姉ちゃんを支えるように、ジスが走り寄る。お姉ちゃんもわたしも、内容は違うけれど、お互い、絶望の底にあった。



「……どこか、二人だけで話せる場所、あるかな」


 お姉ちゃんとジスにそう聞くと、ジスはお姉ちゃんの肩を持って立ち上がり、頷いた。


「私たちが乗ってきた馬車があります。外からは見えないので、使ってください」

「いいの?」

「はい。私たちは席を外しますので」


 そう言った彼女たちと、ケルティと共に、お姉ちゃんたちの乗ってきた馬車のもとへ向かう。元は学園への来賓者を迎えるために使うもののようで、見た目だけは高級そうな馬車だった。

 ケルティのものとは違い、完全な箱型の馬車。確かにこれなら、外からは見えないし、二人で話すのに最適だろう。


 お姉ちゃんはふらつきながら、ジスに支えられながら歩いていた。こんなお姉ちゃんに、更に追い討ちをかけるような真似はしたくない……本当に、今のお姉ちゃんは、みんなが死んだ事実を受け入れられるか?


 ケルティが馬車の扉を開けてくれる。わたしは先に入り、お姉ちゃんの手を引いて中へ誘導した。



「それでは……私たちもその辺にいますので。時間は気にせずに、ゆっくりお話しください」

「アニュエちゃん……ちゃんと、話すんだよ?」

「ありがとう、ジス、ケルティ……」


 扉をゆっくりと閉め、お姉ちゃんの向かいに座る。お姉ちゃんはさっきから一言も発することなく、ただ地面を眺めているだけだった。


「どこから……話せばいいか、分からないんだけど……」


 そう言っても、お姉ちゃんはピクリと肩を震わせるだけで、何も言わなかった。


 どこから話すべきか。そもそもの話、わたしもザックも、事の『発端』については知らない。わたしたちが裏山を下りて村に着いたのが、襲撃が始まってから少し経ってからだったからだ。どういう経緯で村を焼かれたのか。そこまでは分からない。



「あの日……わたしとザックは、村にいなかったの」



「今だから言うけど、わたしたちはもう何年も前から裏山で訓練してた」



「あの日も、二人で裏山にいた。だから、事件の始まりは知らない」



 お姉ちゃんは依然として沈黙を貫いたままだった。そんなお姉ちゃんに語りかけるように……一つ言葉が出てしまえば、続く言葉は驚くほどスラスラと口にできた。


 自分でも、あの日のことを思い出しながら。正確に、お姉ちゃんに伝えないと。



「襲撃に気付いたのは……夕方。訓練が終わって、休憩したら帰ろうかって話してた時だった」



 そう。あの日は不思議と気合が入ってしまって、ザックがヘトヘトになっていたから、一〇分ほど休憩してから山を降りようかって話になったんだ。最近は山の上の方まで登って訓練をしていたから、あの状態で降りるのは少し危険だった。



……そうだ。その後だった。その後、襲撃があったんだ。



「突然、村の方で爆発音が聞こえて……急いで山を降りて……」



 今でも鮮明に覚えている。二回だ。二回、大きな爆発音が聞こえた。一回目でわたしが飛び起きて、二回目でザックが飛び上がった。


 何の前触れもなく……そいつはやってきたんだ。それまで何ともなかったのに、突然。



「……けど、山を降りた頃には、村のみんなはもうダメだった」



「その後、ザックと二人で家の方に向かって……」



 家に向かう途中、色んなところで死体を見た。山に入る前は元気だったはずのみんなが、みんな……倒れてた。


 あの時、わたしの頭の中には……お母さんたちのことしかなかった。まだ無事でいて、どうか何事もなくわたしを出迎えて、って。


 けど……家に着いた時、真っ先に飛び込んできたのは、赤いフードのあいつに殺される、お父さんの姿だった。





「そこで……目の前でお父さんを殺された」





 そこまで話したところで、お姉ちゃんの顔色を窺った。青い顔はまだ青いままで、唇は震えていた。何かを言いたいようで、言えない……そんな風に見えた。



「その後、犯人と戦って、そいつはわたしたちを殺さずに消えちゃって……」



 あの時、冷静になって戦っていれば、もしかするとあいつを倒せたのかもしれない。あの時のわたしは少し……いや、かなり平静さを欠いていた。だからあいつの顔を見ることもなく、取り逃がしてしまった。


 ザックはあいつの最後の反撃で負傷して、わたしがそれを治している間に、あいつは逃げた。なんで逃げたのかは分からない。殺す必要もないと判断したのか、若しくは他に理由があったのか。今となっては、どちらでも関係ない。




 ここまで話して、お姉ちゃんは漸く、その口を開いた。


「生き残りは……いなかったんだよね……」

「……うん。村の中にはいなかった。もしかすると、村の外に逃げた人もいるかもしれないけど……少なくとも、お父さんとお母さんは違うと思う」


 目の前で殺されたお父さんと、家の中にあった死体から考えて、二人が生き残っている可能性は無い。そう判断していい。



「その後、村の跡地にお墓を建てて……お姉ちゃんにこのことを話すために、ノーブリスまで向かおうとした」

「それで偶然、私もここまで来てたから出会えた、ってこと……」



 これで、村で起きたことは全て話した。何も隠さず、全て。


 しかし、お姉ちゃんは満足がいかないのか、首を小さく横に振った。



「一つ……聞いてないことがある」

「……何?」

「その犯人は……どんな奴だったの……?」


……そうか。犯人がどんな奴なのか、お姉ちゃんは知らないんだ。それも話しておくべきだった。


「顔は分からないけど……赤いフードを被って、大きな鎌を持ってた」


 それを聞いた瞬間、お姉ちゃんの顔がさらに青ざめる。


「……赤いフードに、鎌?」

「……何か知ってるの?」

「……いや、そんな、まさか……」


 何か考え込むように黙り込むお姉ちゃん。まさしく、何か知っている風な様子だった。


 その肩を掴んで、軽く揺する。


「お姉ちゃん。わたしはあいつを探してる。何か知ってるなら、教えてよ」

「ダメ……確信が持てないし、何より……」


 やっぱりだ。お姉ちゃんはあいつについて何か知ってる。今は何の手掛かりもないんだ。お姉ちゃんの持つ情報だけが頼りなんだ。




「わたしは……みんなの仇を討ちたいの……お願い。教えて、お姉ちゃん」

「アニュエ……」




 我ながら、苦しいはずのお姉ちゃんに、こういう迫り方しか出来ないというのが嫌になる。情を誘っている、って言えばいいのか。他にやり方があるなら、こんな言い方しなかった。


 お姉ちゃんは静かに目を閉じて、深く息を吸う。わたしは掴んでいた肩を離して、お姉ちゃんから距離をとった。


 すぅ、はぁ。何度も大きく息を吸って、吐いて。気持ちを落ち着かせるためか、或いは気持ちを昂らせるためか。


 やがて、肩の震えが収まり、わたしを真っすぐと見られるようになって、お姉ちゃんは再び口を開いた。



「……私と一緒に、学園まで来て。そこで全部話すから」



 学園、というのは当然、お姉ちゃんの通うリットモール統一魔法学園のことだろう。


 しかし、また急に何故……?



「学園に……? 何で、どうして……?」

「確かめないと、いけないことがあるから……」



 ふざけている様子はない。当たり前だけど。


 わたしとしても、あいつの情報が得られるなら……そのくらい、お安い御用だ。


「分かった。お姉ちゃんと一緒に、学園まで行くよ」

「うん……ねえ、アニュエ」

「何、お姉ちゃん?」

「もう一つお願いしても、いいかな……」


 今にも泣き出しそうなお姉ちゃんの顔を見て、その『お願い』が何なのか、すぐに察した。


 わたしはお姉ちゃんの隣の席に移動して、小さなお姉ちゃんの体を抱きしめた。お姉ちゃんはまるで赤ん坊のように、わたしに抱きついてきた。




「なんで……なんで、こうなっちゃったのかなぁっ……なんでっ……」


 なんで、か……そんなの、わたしが聞きたいよ。


 なんで、なんのために。わたしにだって分からない。


 分からないんだよ、お姉ちゃん……。





「っぅ、ぁあっ……!」





 お姉ちゃんの嗚咽にも似た泣き声が、馬車の中でひっそりと響き渡っていた。







   * * *







 扉を開けて外に出ると、離れた場所で待機していたジスとケルティが、すぐさまこちらへ駆け寄ってきた。



「……お話は済んだみたいですね」

「アニュエちゃん……大丈夫?」

「うん。わたしは……大丈夫」


 あの後、お姉ちゃんにつられて、わたしも一緒に大号泣してしまったから、二人とも目が真っ赤に腫れているだろう。みっともない。いや、こんな時くらい、みっともなくたっていいか。誰に責められるわけでもないし。


 お姉ちゃんもすっかり泣き止んで、今は元通り。後輩の前で情けない姿は見せたくなかったのかも。



 さて……じゃあ、お姉ちゃんに報告するっていう急ぎの目的は達成したわけだし。今度はノーブリスにある魔法学園まで行こう。お姉ちゃんがそこで、何かを話してくれるらしいから。


……っと、その前に。



「ケルティ……実はね」

「うん?」



 ケルティに、今後の方針を話した。ケルティとは元々、朝の段階で別れるつもりだった。それが、こんなことになって引き止めてしまった形になる。

 ここから先、無理に来てくれとはとても言えない。ここまで連れてきてくれただけでもありがたい。


 それに、ここから先は……多分、危険な旅になる。学園まで行った後は、あの赤いフードを探すために旅に出るわけだから。そんな旅にケルティを巻き込めない。



「と、いうわけなんだ」


 朝とは違って、悲しそうな表情はしていない。心配が薄れたからか。そうだろう、きっと。


「うん。お姉ちゃんにも会えたみたいだし、もう大丈夫そうだね」


 ケルティが手を差し出してくる。その手を、力強く握った。



「ほんとにありがとう、ケルティ。ここまで付き合わせちゃってごめんね」

「ナハハ、子供がそんなこと気にしないの。私が手伝いたかったから手伝っただけだよ」



 まぁたそんなこと言って……ケルティ、聖人すぎて悪い奴に騙されたりしないか心配だよ。


 握手だけじゃ飽き足らず、ケルティはそのままがばっとわたしを抱き締めると、頭を撫でた。ふぁぁぁ胸で窒息する……!


 暫くして解放されて、空気を確保して……そして、ここでお別れだ。



「全部片付いたら、絶対、遊びにいくからね」

「待ってるよ、アニュエちゃん」

「ネルソンさん。妹がお世話になりました。このお礼は、必ず」

「お礼っていうなら、姉妹揃って、元気に、仲良く遊びにきて。美味しいスープ作って待ってるから」

「……それってトマリスープ?」

「ナハハ」


 不吉な笑みを浮かべるな。




……よし。それじゃあ、いつまでもこうしていちゃキリがないし。



「またね、ケルティ」

「うん。またね、アニュエちゃん」



 お涙頂戴のお別れ。そんなシーンに横槍を入れたのは……ジス。



「あ、でも、出発は明日ですよ、アニュエさん。今から出ても夜になってしまうので」

「え、まじ?」

「あ、私も明日の朝に出発しようと思ってたんだけど……」



……え?




…………え?




「……それもっと早く言わない?」




……朝まで一緒じゃん。今お別れする必要、あった?

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