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第十三話 破滅の足音。

   * * *



 みんなへ。


 前に書いた時から半年くらい空いちゃった。ごめんなさい。色々あって忙しかったので出すのが遅れました。でも苦しいとかそういうのじゃなくて、楽しくて忙しいので心配しないでください。


 というのも、実は『学院会』って呼ばれる生徒たちのまとめ役の副会長に選ばれたの。会長は三年生からじゃないとダメらしくて、私はまだ二年生だから副会長。一年生の後半くらいから声を掛けられてて……遂に折れてなっちゃいました。かなり大変なお仕事だけど、やり甲斐もあるし、楽しいし、最近は毎日大忙しです。


 そっちはどう?


 パパ、畑の調子は良い感じ? この前送った新しい農具たちは役に立ってる? だとしたら嬉しいな。


 ママ、私がいなくて寂しかったりしない? こっちは在学中のママの話を聞いて懐かしんでたりするよ。


 アニュエ、みんなを困らせてない? 背は伸びたのかな? 今はもう十一歳か。ウチは小さい家系だから、今無理ならもう諦めた方がいいよ。私も諦めた。



 とまあ……そんな感じ。次に帰るのは夏頃になると思う。また長期の休みがあるから、そのタイミングで帰るね。その時はお土産と、それからアニュエにはプレゼントがあるから。


 じゃあね。



PS.十一歳の誕生日おめでとう、アニュエ。お祝いに行けなくてごめんね。愛してる。



   * * *




「な? 心配無いって言ったじゃないか」


 手紙を読み終えると、お父さんはすぐに何でもなかったようにそう言う。


「毎回思うけど、よく言うよね。お父さんが一番心配してるくせに」

「そうね。この前なんて学校に乗り込むだとか何とか言ってたし」

「……そんなこともあったかもしれんなぁ」


 とぼけんな。そんなに前のことじゃないぞ。ほんの数ヶ月前だ。全くこのお父さんは……ちょっと手紙が来ないだけですぐこれなんだから。ちょっとはお姉ちゃんを信用しろっての。


 まあ、かく言う私も、お父さんほどじゃないにしろ心配だったのは心配だった。何か嫌なことでもあったのかなー、とか。

 それも杞憂に終わってたから良かったね。というか、『学院会』が何かは分からないけど、そこの副会長か……お姉ちゃんはまだ誕生日前だから、十三歳? その歳で役職持ちって凄いね。


 お母さんは読み終えた手紙を大事そうに畳むと、今までの手紙も全部まとめてあるケースに仕舞い込んだ。


 さて……何が楽しみって、次の長期休みにはお姉ちゃんが帰ってくるっていうのと、プレゼントがあるっていうこと。楽しみすぎるね。久し振りにお姉ちゃんに会える。前に会ったのは年末だったから……もう半年くらい前かな?


 お姉ちゃんがいなくなってから最初の半年くらいは、寂しすぎて死にそうだった。一緒に寝始めたのがいけなかった。逆効果だ。むしろ寂しさ倍増でやばかった。うん。

 でも、今はもう流石に、そんなことも言ってられない。もう十一歳だ。あと四年で十五歳。十五歳になったら前世の年齢に追いつくわけだ。もう甘えてもいられない。


 まあ、ぶっちゃけて言うと、甘える対象がお姉ちゃんからお母さんに代わっただけって説もあるけど……それは良しとしよう。



 おっと……いけない。もうこんな時間か。



「お母さん、出掛けてくるね!」

「ああ、はいはい。お婿さんと仲良くね」

「だからザックはそんなんじゃないっ!」


 誰がお婿さんか! あんなの使用人でも雇いたくないレベルなんだけど!









「……ふん、なるほどね。ちょっとは成長したじゃん」


 裏山に踏み込むなり、いつもとは違う、妙な感じを覚えた。何かがいる……でも、どこにいるのか、正確には分からない。魔法か何かで隠れてるな?


 暗殺か?


 前世ならそう考えていたことだろうけど。今は状況を理解できてるわけで、そんな思考には至らない。


 なるほど。ここ最近、妙な練習の仕方をしてると思ったら……そういうことか。考えやがったな、あいつ。馬鹿のくせに。筋肉九十九パーセントのくせに考えおる。

 だけど、だからこそ残念だなぁ。これで、相手がわたしでなければ、確実に殺せていただろうに。わたし相手にそんなもので対処できると思っているなら、ちょっと甘く見積もりすぎだよ。何せ、相手は元世界最強の剣聖ちゃんなんだ。少しの音や空気の揺らぎでも、集中すれば敏感に感じ取れるし。甘々だなぁ。



 そう思わない、ザック?



「甘いね」



 振り返りざまに、大きな方の木剣を振り抜く。


——ギィィン。


 振り抜いた木剣と打ち合ったのは、突如として現れたザックだ。気配を殺し、不意打ちを狙って背後から迫っていたザックの剣が、わたしの剣で防がれていた。


 鍔迫り合いは長引かない。即座に離脱したザックが簡略詠唱で魔法を唱えると、その場に濃霧が現れる。その濃霧に紛れて姿を隠そうという算段か。


「風の精霊よ、払え」


 同じく簡略詠唱ですぐさま濃霧を払う……が、既にザックの姿はない。もう姿をくらました後か。


 この後はまた不意打ちか……このままずっとやらせてるのも気にくわないな。ザックには悪いが、反撃に出るとしよう。


 ザックの作戦としては、恐らく不意打ちでわたしから一本取るというもの。失敗すれば濃霧や何かしらの方法で姿を消し、わたしが見失ったところで再び不意打ちを仕掛ける。ある意味『ヒットアンドアウェイ』とも言えなくはない。


 だが、その方法を取るためには、ザック自身がわたしのことをよく観察している必要がある。それでいて、それだけ気配を隠すことに集中しているなら……そう、まさしくそれ、『集中』していなければならない。


 不意打ちというのは、一度失敗した時点で成立しなくなる。何故なら相手に存在を知られてしまうからだ。二度目の不意打ちは『敵がいる』と知られて行うわけだから、勿論、その対策も練られてしまう。



 ならば、わたしが取るべき行動は一つ。ザックの視界を奪うか、或いはザックの集中を乱すか。もしくはその両方。今回は二つ目でいこう。


 わたしは剣を一旦鞘に納め、そして両の手のひらを静かに合わせた。



「パンパン鳴らせ、惑わせ乱し、風の歌い手!」



 句を唱え終わると同時に、合わせていた手を一度、大きく打ち鳴らした。


 ただそれだけ。それだけのはずだったが、その乾いた音は風の魔法によって歪な音となりて、周囲に響き渡った。

 なんとも形容しがたい、不快な音。この魔法自体に攻撃力は無い。皆無だ。だが、それでいい。この魔法の目的は、不快な音を出すこと、それ自体にある。



『……ぅ、ぉっ……』



 どこからか呻き声が聞こえる。今の音を聞いて、早速その効果を味わったのだろう。

 そして、そのおかげで集中が乱れて、気配を感じられるようになった。ほうほう、そこか。



 振り向き、そして、再び剣を振り抜いた。烏落とし……二連嘴撃(にれんしげき)。わたしの持つ幾つかの剣技を組み合わせた、アニュエ・バースとして新たに生み出した剣技。

 一振りで放たれた二つの斬撃が弧を描くように飛び、鳥の嘴のように、最後には敵に向かって収束する。それは、わたしが感じた気配に向かって、正確に飛来していた。



 そんでもって……更に、そこから呻き声がした。木の上から、丁度葉に隠れて下からは見えない部分から声が聞こえて、何かが落ちてくる。


 何かというより……ザック。


「惜しかったね。今までで一番」


 尻餅をついているザックに手を差し伸べると、ザックは素直にその手を取って立ち上がった。お尻にめっちゃ砂ついてる。(はた)け。


「くそっ……嫌味にしか聞こえねぇよ」

「んーん、素直にそう思ったよ。見通しが甘かったりやり方がぬるかったりしたけど、惜しいっちゃ惜しい」

「嫌味じゃねぇか」


 ザックも抜き身のままだった木剣を鞘に納めて、お尻を叩き始めた。


「はぁ……いつになったら一本取れんだ?」

「取らせないし。取れたら免許皆伝ってことで。ザックはわたしの弟子一号だしね」

「弟子になった覚えはねぇけど。いつの間にか弟子扱いされてるし。別にいいけどよ」


 いいんかい。


 しかし、弟子の成長は師として素直に嬉しい。昔は真正面から突っ込んできてただけだったのに……今じゃ不意打ちか。だんだん暗殺者の方面に成長してて将来が怖い。本当に暗殺者とかになったらどうしよう。わたし責任取れない。


 もう一度打ち合いでもするのかなぁ、とか思っていたら、一旦休憩を挟むみたい。まあ、あれだけ集中してたんだから、脳が疲れるよね。動きは少なかったから身体は疲れてないにしろ。どちらか一方でも疲れたら休むべきだ。身体も脳もちゃんと機能してこその人間なんだから。


 というわけで。脳の休息には甘いものが一番。なので本日はお家でお菓子を作ってまいりました。



「ほい、食べる?」

「ん、食う」


 本日のメニューはシンプルにクッキー。ちょこっとだけイチゴのジャムを練り込んでるのでイチゴ風味。酸味と甘味が丁度良い感じで美味しいでしょう。


 ザックはバスケットからクッキーを一枚取ると、そのまま口にぽいっ。何度か咀嚼して飲み込むと、もう一枚手に取った。


「美味しい?」

「美味い。お前が作ったの?」

「うん。やっぱり女の子って料理もできないとダメだなっていう」


 なので最近はお母さんに料理を習っている。前世は基本『焼く』『煮る』『蒸す』くらいしか選択肢がなかったからね! クッキーとか異次元の存在すぎて人が作れるものとか思ってなかったよ! 案外簡単でした!


 そのまま二人でがっつり休憩をすることにして……木の幹にもたれかかって、クッキーを食べていた。今日は天気も良くてぽかぽかだなぁ。わたしは『雨』よりも『晴れ』が好きだから、毎日こんな感じでいいのに。雨とかいらないでしょ。そんなこと言ったらお父さんに怒られるけど。


 というか……お前食うスピード早いな。


「ザック……お腹空いてるの?」

「ん? なんで?」

「いや、めっちゃ食べてるし」


 そう言うと、自分の手とバスケットの中とを交互に見て……、


「あー……ごめん。食べ過ぎたか」


 少し、申し訳無さそうに。おいおい、気付いてなかったのか。太るぞ。結構砂糖入ってるんだから。


「いや、別にいいけど。そんなに気に入った?」

「ああ。また食いたい」

「そっかぁ。それならちょくちょく作ってくるよ。練習がてら」

「それだと俺が練習台みたいな言い方だな」

「違うの?」

「違わねぇけど」


 そう言って、また一枚。そんなに気に入ってくれたのなら何よりだ。




 さーてと……ちょっと長く休憩し過ぎたかな。そろそろ訓練を再開しようか。









 その日も夕方までみっちり訓練した。不意打ち戦法は練度を高めないと効かない、ということが分かってからは、ザックもいつも通りのやり方に移行。ただしそれはそれで効かないので、南無。やっぱり免許皆伝の日はまだまだ遠いな。後何年かかることやら。


「はぁっ……はっ……なんか、今日、激し、くね……?」

「え、そう?」


 ザックはいつもよりバテて見える。そんなに飛ばした感じはなかったけど。途中で甘いもの食べたから疲れが吹き飛んだのかな。その可能性はある。


 仕方ない。まだ暗くなるまで時間はあるし、ちょっと休んでから山を降りようか。


 木の幹に体を預けて休むザックの隣に、並んで座る。空は真っ赤。もうじき暗くなってしまうだろう。暗くなる前には家に帰らなきゃね。


 息は整ったようだけど、何度か大きなあくびをするザックは、まだ割と疲れてそう。あと五分……いや一〇分休んだら出るか。この感じだとそれくらいで回復するでしょ。



 ふぅ……にしても、風が気持ち良いな。汗が冷えてちょっと寒いくらい。帰ったらお風呂、入らないと。



 そんな風にして、数分が経った頃だった。






————この時のわたしは、まさか、こんな日常が、いとも容易く壊れてしまうだなんて想像もしていなくて。






……どぉぉぉん……




 ここまで聞こえてくる轟音。何かが爆発したような音……その音に、安らいでいた意識が一気に現実に引き戻されて、わたしはハッとなってその音の出所を探った。



……どぉぉぉん、どぉぉぉん……



 更に立て続けに二発。さっきと同じような音が聞こえた。流石のザックもこれには驚いたのか、慌てて立ち上がる。



 この音が何なのかは分からない。何かが爆発したのか、何かが落ちてきたのか……そんなことはどうだっていい。今はそんなことよりも大事なことがある。



 この音は……この方向は……、




「……村の方からだ」

次回、第1部0.5章『プロローグ』、完。

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