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剣聖ちゃんネクストステージ!  作者: クレイジーパンダ
第2部・1章『ダンジョン・ハント』
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第九十話 ダートフォート

「叔父って……じゃあっ、アシュレイとクレインは身内ってことっ……!?」

「ああ。あの男は、アシュレイの父親の弟、アシュレイから見て叔父ということになる」



 そんな……嘘だろ? そんな偶然、あり得るのか? フランジールには、わたしたちの意思で来たんだ。その先で出会った人が、クレインの身内だなんて……そんな偶然、あってたまるか。


 調停者……まさか、ここまで全部あいつの掌の上なのか……?



「でも、クレインは風の魔法剣士でしょ……?」

「アシュレイは、母方の血を濃く継いでいる。あの子の母親も、氷の魔法剣士だった」

「そんなっ……」


 お母さんの仇が、友達の叔父。調停者たちは、どれだけわたしの人生をかき回せば気が済むんだ?



 どうする。わたしたちの旅の終着点は、クレインと調停者を殺すこと。アシュレイが望むなら旅に同行してもらおうと考えていたけど、クレインがアシュレイの身内だって言うんなら話は別だ。


 アシュレイの両親は故人だ。アシュレイの目の前で、これ以上血の繋がった家族を奪うのは……。



「……アシュレイは、ギルドマスターと血が繋がってないこと、知ってるの?」

「……いや。いつか話さなければとは、思っているのだがな……」


 アシュレイがギルドマスターに引き取られたのが一歳にも満たない時。だとすると、そもそもクレインの存在自体を知らない可能性の方が高い。


 実の母親じゃないことも知らないのなら、アシュレイさえ連れて回らなければ、クレインを殺したことだって知られないだろう。



……アシュレイを今後の旅に連れていくのは、やめた方がいいかもしれない。



 たとえその事実を知らなかったとしても、きっと、今後なにかのきっかけで知ってしまった時に、わたしたちの関係に亀裂が入ってしまう。なら、アシュレイの知らないところで、ひっそりと復讐した方がいいはずだ。



「そうか、あの男が……」



 ギルドマスターは、クレインのことを、どのくらい知っているんだろう。アシュレイの両親とは仲が良かったって言ってたし、その弟だから面識があったんだろう。だけど、どの程度?


「ギルドマスターは、クレインのこと、どれくらい知ってるの?」

「何度か顔を合わせた程度だ。そうだな、無慈悲で残忍な男……だったと記憶している」


 曰く、目的のためなら友人でさえも殺してしまえるほど、残忍な男だったらしい。


 昔から、変わってないってことか。むしろ、昔の方が残忍性は高かったように思えるくらいだ。


「それでも、アシュレイからすれば、身内になる、んだよね……」


……うん。そうだよな。会ったことがないとはいえ、目の前で家族を殺すのは、さすがに可哀想だ。


「……やっぱり、アシュレイを旅に連れていくのは、やめよう。アシュレイの目の前で身内の人間を殺すなんて……わたしにはできない」


 ギルドマスターも、それに同意して頷いている。残念だけど、この町にいる残り少ない時間を、アシュレイと少しでも長く過ごして————、




————ダァァンッッ!!!




……いきなり、部屋の扉が勢いよく開かれた。見れば、扉を蹴り飛ばしている人物が一人。




……アシュレイだ。





「さっきから話を聞いてれば……」



 アシュレイは物怖じもせずわたしたちのもとへやってくると、テーブルを殴る付けた。拳で。



「私に黙って、私の話?」

「あ、アシュレイ……なんでここに……」

「アニュエが朝早くに家を出てったから。何かあると思って」


 うぐっ、わたしのせいか……起こさないように出てきたつもりだったんだけどな……。



 だけど……まずいことになったな。いったい、どこから話を聞かれてた? 初めから? それとも、最後だけ?


 初めからなら、アシュレイにとっては、かなり衝撃的なカミングアウトの部分も含まれていることになる。本当の母親じゃないなんて告白、このタイミングでするもんじゃない。



「どこから……話を聞いていたんだ?」

「最初から、全部」



……やっば〜〜〜。ギルドマスターの暴露話も全部聞かれてるじゃん。まさか、怒ってるのはそのせいか?



「アシュレイ、私はっ……」



 ギルドマスターがなにか取り繕おうと、必死に言葉を連ねる。しかし、次の瞬間アシュレイが放った言葉で、ギルドマスターの口は閉ざされることとなった。




「母さんが、私の本当の母さんでないことくらい、とうの昔に気付いてる」

「えっ……?」

「どう見ても似てないでしょ、私たち。ギルドの人に頼んで、経緯は勝手に調べさせてもらった」



……まあ、そりゃそうか。ギルドマスターがどういう言い訳をしてたのかは知らないけど、明らかに似てないもんな。勘の鋭い子なら、疑ったっておかしくはない。


 アシュレイはその辺り、割と敏感だからな。下手すると、もう何年も前から知ってたんじゃないか?



「知って……いたのか……」

「当然。母さん、昔のことを話したがらないから、最初から疑ってた。父さんは死んだって言うけど、父さんの話も全然しないし」

「うっ……」


 ギルドマスターが苦虫を噛み潰したような顔をする。ダメダメじゃん、このギルドマスター。さては嘘をつくのが苦手な人種か? 嘘をつかなくても、筋肉ですべて解決できそうな見た目してるもんな。



「アニュエ」

「は、はいっ!?」


 余裕をぶっこいていると、こっちに火が飛んできた。なんだなんだ、わたしはなにも言ってないぞ。



 思わず立ち上がって、棒切れのように真っ直ぐになる。アシュレイはわたしの目を真っ直ぐと見つめ、言った。



「私も、あなたの旅についていきたい」

「……それは……」



 やめておいた方がいい。そう返すのは簡単だけど、それで納得してくれるとも思えない。



「でも……聞いてたんならわかるでしょ? わたしの目的は……」

「クレインって男を殺すこと。復讐のために。そうでしょ?」



 話が早い。その通りだ。


 特に躊躇うこともなく、さらりとそう言ってのけるアシュレイ。


「そうだけど、そのクレインはあんたの身内で……」


 面識がないとはいえ、家族は家族。



 そう諭そうとしたわたしの肩に、アシュレイが手を置いた。身長はアシュレイの方が少し高い。わたしは上を見上げるような形で、アシュレイを見つめた。


「会ったこともないような人だもの。血が繋がっていても、何とも思わない。それが、アニュエのお母さんを手にかけた人なら、尚更」


 それはつまり……目の前でクレインが死んだとしても、自業自得だと言えるってことか?


「勿論、本当の両親には感謝してる。私を産んでくれたことも、私を守ってくれたことも。愛してるし、できるなら会いたいとは思ってる」




 アシュレイはそこまで言って、『だけど』と続けた。




「私は……私は、『アシュレイ・ラングウェー』なの。クレインなんて男は知らないし、それが敵なら戦うまで」

「アシュレイ……」




 心を許してくれてるとは思ってたけど、まさか、そこまで。


 真っ直ぐ、穢れのない瞳で、わたしを見つめるアシュレイ。ここまで言ってくれてるのに、ダメだとも、言えないなぁ。



「母さん」



 続いて、アシュレイはギルドマスターの眼前に立った。いつもよりも強気な態度に、あのギルドマスターの巨体が、少しだけ震えたように見えた。



「私は、アニュエたちに出会って、ようやく『変われる』って思ったの。アニュエたちについていけば、自分を『変えられる』って思ったの」

「……うむ」

「私は、今の私が嫌い。でも、アニュエたちといれば、私自身のことを好きになれるかもしれない」



 そう語るアシュレイの声は、力強かった。迷いは一切ないようで、だからこそ、ギルドマスターもその言葉を真剣に聞いていた。




「それに、アニュエもオリビアも、ケルティだって……もう私の友達。友達が困ってるなら、助けてあげたい」




 そこまで言って、アシュレイは数歩下がり、頭を下げた。


「お願いします、母さん」


 深々とお辞儀をするアシュレイ。この状態で、わたしがなにもしないってのは、アシュレイに失礼だろう。


 それに倣って、わたしも深々と頭を下げた。聞こえたため息は、呆れたものというよりは、笑いが混ざったような……顔は見えないけれど、ギルドマスターの笑顔が頭に浮かんだ。



「……変わったな、アシュレイ」



 ちらりと顔を上げると、やはり、ギルドマスターの顔には笑顔が浮かんでいた。今までも何度か、笑っているところは見たことがあるけど……それのどれとも違う。


 ギルドマスターではなく、母親として。そんな笑顔だ。


 ギルドマスターはアシュレイの体を優しく抱き寄せると、強く、抱きしめた。



「行っておいで。お前がそこまで言うんなら、もう、私には止められない」



 アシュレイもその背中に手を回し、ぎゅっと、抱きついた。


「けど、約束しなさい。無茶はしないこと。それから、困った時は、友達を頼ること」

「……うん。母さん、愛してる」

「私もだ、アシュレイ」



 それから暫く、その状態が続いた。ダメだ、ちょっとウルッときた。歳を取ってくると涙脆くなってきてダメだな。


 やがて二人は離れると、ギルドマスターが、わたしのことをじっと見つめた。



「アニュエ。アシュレイを、よろしく頼む」

「……はい。全て終われば、絶対、無事にこの町へ帰します」



 あんな感動的なものを見せられたんだ。なにがなんでも無事に、この町に帰さなくちゃならない。



「さてっ! そうと決まれば、ぐずぐずしていられないだろうっ!?」

「いてっ」



 パンッと大きな音を立てて手を鳴らしたかと思えば、今度は、思いきりわたしの背中を叩きつけてくる。結構痛い。


「アニュエ、出発はいつだ?」

「え? えっと、とりあえずの目的は達成したから、もう少しだけ迷宮に潜ったら、あとは準備が整い次第……かな?」


 この町に来た目的は強くなるためと、装備を整えるため。大迷宮の深部に潜れば、これ以上に強くなれる可能性も高いけど、わたしは剣を失っちまったからな。精霊石は手に入れたし、これをおじいちゃんのところに持っていって、わたしの剣も一緒に打ってもらおうと思う。


 ただまあ、すぐに、ってわけでもない。まだもう少しだけ大迷宮に挑んでからだから……まあ、一ヶ月後には確実に町にいない、って感じかな。



「なら、準備はしっかりとな。アシュレイ、初めての長旅だ。入念に準備しなさい」

「分かった」


 ギルドマスターは再び手を叩いて鳴らすと、いったい誰に向けて言っているのか、大きな声で言った。



「さあ、娘の門出だ! 私も、色々と用意するものがあるなっ!」



 アシュレイが、横で顔を赤くして、呆れている。


……やれやれ。この人、結構親バカなんだな。見た目によらず。

次回、『ダンジョン・ハント』編、完結

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