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あおいちゃん、見参す

朝、ベッドの上で見知らぬ女の子が見えたとしたら一夜の過ちを想像するだろうか。

悲しいかなこれまで守りたくもない童貞を守ってきた身としては憧れるシチュエーションではある。

だが、現実というのは時として想像の範囲を軽々と越える出来事を運んでくるらしい。

彼女はベッドの上、具体的には天井にヤモリみたいに張り付いて俺を見下ろしていた。

え、マジでどうやって張り付いてんだあれ。

「おはようございます、ご主人様!」

口元を覆面で隠していてもなおわかるほどいい笑顔で謎の女は朝の挨拶をしてきた。

ご主人様って俺のこと?え、新手のメイド?

いや、メイドは普通天井に張り付いたりしないだろ。

ってか、普通の人は天井から挨拶したりしない!

「あ、夢か!意味わからなさすぎて気付かなかったわ!」

夢ならもう一度寝れば覚めるだろうと再び目を閉じる。

するとすぐ近くからシュタッという音が聞こえ、ほぼ同時にとんでもない衝撃が俺を襲った。

まるで人が上から降ってきたみたいな衝撃が。

「ぐほぉ!」

たまらず目を開けると先ほどより大分近くに女の顔があった。

馬乗り状態である。

「ご主人様!お休みになる前にきちんとご挨拶したいのですが!」

マウントを取ったまま、ガンガン揺さぶってくる。

先ほどの落下によるダメージと相まって意識が飛びそうである。

「この痛み、もしかしなくても現実か…?」

「はい!あおいは夢なんかじゃありませんよ!」

この寝込み襲撃覆面女はどうやらあおいというらしい。

「夢じゃないなら、お前は一体何者でなぜ俺の部屋にいてなぜ俺の寝込みを襲ったんだ!?」

部屋には鍵もかかっていたはずなのだが。

「私は現代甲賀流くのいち、早乙女あおいともうします!本日より真田様のお側に仕えさせていただきたく、挨拶に伺いました!」

俺の上で堂々と胸を張るあおいという少女は忍者と名乗った。

は?忍者?

「えーと、くのいちっていうのはあの、手裏剣投げたりするあの?」

「はい!その忍者ですよ!こう見えて凄腕なのです!」

ドーン、という効果音でも入りそうなほどのどや顔でそんなこと言われてもなぁ…。

大体その自称凄腕忍者がなぜ朝っぱらから俺のベッドの上に?

「とりあえず、どいてくれないかな?そこだと落ち着いて話もできやしないだろ?」

というか女の子と密着しているこの状況が気まずい。

童貞に女性との接触耐性は皆無なのだ。

色々と問題が起きてしまう、朝だし。

「あ、ごめんなさい!私ったらはしたない…」

慌てて俺の上から退くとベッドの前にひざまづくあおい。

俺も身を起こし、ベッドに腰掛け対面する。

ぱっと見た感じ、美人に見える。

後ろで束ね、ポニーテールみたいになっている黒く長い髪。

口元は隠れているが話ぶりから明るい雰囲気が出ている。

「それで、俺に仕えるってなんだ?忍者に知り合いはいなかったと思うんだが…」

というか、未だに半信半疑なんだけど。



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