激突! ウンコマン
何だか、ウンコが漏れそうな気がする。──そう感じたときにはもう手遅れだった、私の尻から爆音と共に大量のウンコが放出されていた。唐突に響いたその轟音に、クラスメイトの視点が一点に集まる。無論、それは私だった。咳払いをした担任が、顔を赤らめて「今日はもう、帰りなさい」と呟いた。頷いた私は、大量のウンコにより茶色に染まった制服を一瞥し、そして静かに歩き出した。尻に尋常じゃない違和感を感じながら、私は一階にある窓口に向かい、「ウンコを漏らしたので帰ります。先生から許可はもらいました」と伝え、おもむろに靴を履き、学校から去って行った。歩いた先々で、「何だか臭うわね」と言われる運命を背負った私だが、しかし、満足していた。
「学校の大便器に座らなかった。故に、私の勝利だろう」
私は、学校のトイレでウンコをするという行為が、どうにも好きになれなかった。学校の便座に身を委ねるくらいならば、例に依って、私は教室内でウンコする。
古来より引き継がれるあの名言に、「ここで出したら学校生活終わるナリ」というものがあるが、しかし、これまでの高校生活で、私は教室にて八十二回ウンコをするという偉業を達成している。小学校、中学校も足せば、計八百九十四である。そんな私に、『トイレに行かないウンコマン』という二つ名が付くのは、もはや当然と言えるだろう。
「トイレに行かないウンコマン、ふふ、トイレに行かないウンコマン、ふふふ」
実は私、この二つ名を気に入っている。トイレに行かないウンコマン、何とも格好いい響きじゃないか。トイレに行かないのに、ウンコマン。矛盾が生む、圧倒的なまでの格好良さ。
ちなみに豆知識として、学校内や職場でウンコを漏らしたときは、パンツをすぐに脱ぐと良い。被害が最小限に抑えられるし、何よりパンツを履いているとかなり気持ち悪い。だが、私は敢えてパンツを履いている。もう、癖になっているのだ。この得体の知れない、ねちょり、という気持ち悪さ。気持ち悪いから、気持ちいい。
こうしてウンコマンは、ウンコを漏らす毎日を過ごしているのだった。
翌日、転校生がやって来た。いわゆるイケメンというやつで、その整った容姿には、流石の私も「トゥンク…」とときめかされた。
「名前を、雲鼓擂朧と言います。よろしくお願いいたします」
その名前は、まるで私を挑発するような響きがあった。うんこする。ウンコマンである私を、挑発しているようじゃないか。
私は考えた。喧嘩を買ってやろう、と。ウンコを漏らそう、と。ここで、この瞬間、ウンコを漏らしてやろう。トイレに行かないという、私の雄姿を見て、そして自らの名を恥ずがいい。うんこする、という大層な名前を持っておいて、ウンコをしないという、その痴態を羞恥するがいい。
と。ウンコが頂点までやって来て、あと一瞬で漏れるという瞬間──「ブリリィッッ!」と、聞き慣れた音が響いた。
「おっと、失礼。汚穢を漏洩してしまいました。しかし、ご安心を。トイレットペーパーは、自前で用意しておりますので」
そう言って彼は、バッグから大量のトイレットペーパーを取り出した。そして、ゆっくりと尻を拭いていく。
恐ろしく、腹が立った。トイレットペーパーを用意しているだと。完全に、私の負けじゃないか。考えることすらしなかった、自分でトイレットペーパーを用意するなんて。
気づけば、席を立ちあがり、彼の許へ向かっていた。
「き、貴様。何だ、貴様。私を挑発しているのか。見せびらかすような、ウンコをしやがって。クソ。クソ。私のウンコだって、すぐそこまで来ていたんだ。貴様のウンコが一瞬遅ければ、この教室に轟音を響かせるのは私だったんだぞ。少しウンコをするのが早いからって、図に乗りやがって。クソッタレ」
「ははは。挑発、ですか。何を根拠に、そんなこと。私はただ、ウンコがしたくなったから、ウンコをしただけなのですがね。まるで、ウンコをするには許可がいる、とでもいうような発言は控えていただきたい」
「貴様、ウンコに自信があるようだな」
「以前の学校では、『ウンコマン』、と呼ばれていました」
「そうか。私の二つ名は『トイレに行かないウンコマン』。この学校での、『ウンコマン』の座を巡り、勝負をしよう」
「いいでしょう。その勝負、受けます」
「この一週間、何回ウンコが出来るかで勝負しよう」
「ははは。燃えてきました。ウンコ。ウンコ。私のウンコが出たがっている。『ウンコマン』の座が欲しいと、叫んでいる」
「奇遇だな。私のウンコも叫んでいるぞ。ウンコがしたいと、私に向かって吠えている」
「「それでは、『ウンコマン』の座を巡り──勝負だ!」」