第八章「水滴」
「あの……ひなた? ま、まさか手錠もかけられて身動きできない美少女に心優しいひなたが手を出すわけないよね? ね?」
「出すわけないじゃん、でも俺の心を持て遊んだ罪は重いぞ? なぁ奏?」
この人生で一番の笑顔で奏に問いかける。
そんなはずなのに奏は身体が震え、目元は涙で潤っている。
「ひ、ひなた、あれをするつもりなの? 本当にごめん、謝るからあれだけは許して」
切羽詰まったように嘆願するが、それを無視し、俺は机の引き出しに手を伸ばし、L字型の銀色の棒、透明な液体の入った容器、目隠しを取り出す。
俺はその銀色の棒を奏の頭側のベッドの端に曲がったほうが頭に来るように取り付け、そして次に奏の頭の方まで伸びた棒に透明な液体の入った容器を取り付ける。
すると液体にはいった容器からは液体がやめてと騒がしい奏の額のあたりにぽたぽたと滴り落ちる。
最後に奏に目隠しを行なえば完成。
これは水を使った水滴拷問と呼ばれるもので、視界という感覚を奪われたまま、一定の刺激がどんなときでも変わらず与えてくるというもので、発狂させるに長ける拷問らしいが、発狂させるためには長時間行なわないといけないが、それをするわけではないので、ただの水滴を落とすだけの嫌がらせなはずだが奏は顔を濡らしたくないということで嫌っている。
「あぁあああああ冷たい冷たい、ひなた取って取ってよ、濡れる濡れる」
「もう濡れてるぞ、反省したか?」
「してるしてる、悪戯しないから早く取って」
「はいはい」
俺はすぐに目隠しとその器具を片付ける。
奏は手を使って拭くことができないから顔を振って水滴を飛ばす。
「もうっ、ひなた嫌いっ!」
そういいつつも顔には笑顔が浮かんでいた。
そのことから分かるように別にかなり嫌なことではないはずだけど、頻繁にはしないようにしている。
「ごめんごめん」
「まあ私も悪ふざけがすぎたから許すけどね、それはさておき、ひなた部員集めの件どうするつもりなの?」
手錠されているという不恰好な状態なまま尋ねる。
俺も頭の片隅でそのことを考えていた、情報を集めるとしても立ちはだかる難関が俺達の体質だ。
探すために視察だけでは時間がかかってしまうため聞き込み調査が必要だが、その聞き込み調査するためには勿論のこと人に話しかけるという動作が必要となる。
そうなる場合、俺が女子を、奏が男子を担当することになる。
だが、それでも困難が一つ。
気軽に話しかけられるほどのコミュ能力がない、ということに尽きる。
それは奏にも当てはまることであり、ほぼ聞き込みは詰んでいる。
このことを踏まえた上で奏は聞いてきたのだろう。
「どうもこうも探す義務はないから探さないと言いたいけど…」
「分かってるよひなた、助けてあげたいと思ってるでしょ」
「…あぁ、そうだな、俺も助けて欲しい立場にはあるが、同じように思ってる奴がいるなら助けたいな。 と言っても見つけたところで手段がないのは変わらないけど」
「大丈夫だよ、ひなたなら助けられるよ」
なにか確信を持っているはずもないのにそう感じさせられるような奏の言葉。
いつも奏は過剰に俺を信じるところがある。
でもそれは嫌ではないし、とてもうれしい。
「なに笑ってるの? 気持ち悪いよひなた」
「わ、笑ってないわ!」
「変なひなた」
やっと最近落ち着いたので、気が楽です。
これからも更新していくのでよろしくお願いします。