第8話 デイリー杯2歳ステークス―格上挑戦―
―デイリー杯2歳ステークス当日、山下は初めての重賞レースということもあり、緊張しながらタリスユーロスターとパドックを周回した。
そして、タリスもそわそわしていた。と、思いきや、ガックリとした表情を見せた。
どうやら、このレースには牝馬が出走していなかったようだ。
タリスユーロスターは12頭中2番人気2.4倍に支持された。
そして、1番人気は―――
ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
―と、大声で叫ぶ馬がいた。
急に大声を出したのでパドックにいた人たちはその馬に注目した。そして、別の意味でも注目した。
1番人気ジーニアスブレイン2.2倍
前走GⅢ新潟2歳ステークスを制し、2戦2勝でこのレース唯一の重賞ウィナー。
2番人気のタリスユーロスターは前走8馬身差で勝利し、今回も調教タイムは古馬顔負けのタイムをたたき出していたが、前々走で10着に大敗していることもあり、懸念され、本命よりは対抗・単穴候補として人気を集めていた。
「やはり俺が一番人気だぁぁ!
だが、2.2倍なのは気に入らねぇなぁぁ…。
(…チラッ)
お前かああ!!タリスユーロスターアア!!
前走、たまたま圧勝したからって、いい気になってんじゃあねえぞ!!
俺がいる時点で、お前の負けは確定してしてるんだ!!!
お前は黙って負けておけ!
ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)。
…山下、こいつ蹴ってもいい?」
「やめとけタリス。負けるよ、法的な意味で。」と、山下はタリスの肩をポンと叩いてそう言った。
「…てゆうかさ、いい気になってるのはあいつの方だろ!
たった2勝してるだけなのに、なにあれ!?」
「『あれ』とはなんだ?『あれ』とはぁあ?」とジーニアスブレインがタリスに近づいた。
(…イラッ)
「さっき、『たった2勝』とか言ってたがぁぁ、たった2勝もしていない奴が何を言ってんだぁあ?」
「(…イライラッ)
…今日勝つから別にいいだろ。」
「お前、話聞いてたか?今日!お前は!!負ける!!!」
(イライラッ!)
「なぜ?ってぇぇ顔をしているなぁぁ。
俺はスキル持ち!!お前はスキル!無し!!だからだああ!!!」
「……は?スキルって何?」
「スキ……………」と山下は言いかけたがジーニアスブレインに阻まれた。
「スキルとはぁぁ、日本で1000頭に1頭しかいない、生まれながらに持っている才能のことだぁぁ。
つまり俺は天才ってことだぁぁ。
俺のスキルは『登山下山《アップ&ダウンザヒル》』!どんな坂でも平坦な道のように走ることができる!
…ん?なんでそんなことを言うのかってぇえ?
言ったところで俺の勝ちは変わらないからだああ!!
ヒャッッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「(ブチ切れ!!)
よし!!こいつ蹴ろう!!」
「やめろよタリス!!」と山下は全力で止めた。
―さあ、間もなく京都競馬場第11レースGⅡデイリー杯2歳ステークスの発走の時間です!
実況は私!杉川 清和!!
そして解説は……………消えてなくなりました!
「いや、いるから!」
あなたは黙っていてください!
―各馬順調にゲート入りしております!
最後に12番『クラウンクラウン』が入り!
体勢完了!スタートしました!!
まず揃った綺麗なスタートを切りました!
先行争い!9番『ノーブルアース』が前に行くか!外から11番『エイショウシュウ』がかわして先頭に立った!内から3番『カヤノロッチ』も付いてくる!
4番手に1番人気6番『ジーニアスブレイン』!並んで7番『ナイトオブラウンズ』!
1馬身離れて1番『ウィンタースノー』!5番『キタコレサザナミ』!その外に10番『ギガテラ』!
後方に2番『ブルースカイ』!4番『ウォーターメロン』!12番『クラウンクラウン』がいまして!
最後方に8番『タリスユーロスター』がいます!
各馬第3コーナーの坂の頂上に差し掛かります!
(この第3コーナーは高低差約4mの坂だが、俺のスキルで平坦に感じるから俺は余裕だが、他の奴らもまだ余裕そうだなぁぁ。まだ800mしか走っていないからだろうなぁぁ。
まぁ、最後の直線で息切れするだろうから気にしなくてもいいか。)とジーニアスブレインは思い、タリスの方をチラッと見た。
(俺のスキルは登り坂は平坦に感じるが、下り坂も平坦に感じるだよなぁぁ。
タリスユーロスターはもうすぐ頂上か。奴は最後方で足をためているから、もしかするとこの下り坂で一気に加速してゴールするかもしれないなぁぁ。
奴は新馬戦はともかく、前走の未勝利戦で粘り強く、速い足を持っていることがわかった。
もしあの足を出されたら、今、7,8馬身差のリードをあっさり差されてしまいそうだなぁぁ。
だとすると、ここでゆっくりと仕掛け、最後の直線で一気に仕掛けるとするかぁぁ。
もし俺が今ここで仕掛けずに最後の直線で仕掛けたら、俺の足では差されそうだなぁぁ。
ヒャッハァァ!)
ジーニアスブレインはゆっくりと仕掛け始めた。
タリスは坂の頂上に到達し、思った。
(そういえば、あのヒャッハー野郎が言ってたけど、坂が得意なんだっけ?
今、坂上り切って下り坂だし、この下り利用してゴールまで一気に行ってみようかな。)
と、タリスが仕掛けようとした時、小牧は手綱を引っ張った。
「……………。
…は?
…てめぇ何やってんの?」とタリスは低いトーンで苛立ちながら小牧に言った。
「………!
ご、ごめんなさぃ………。」と小牧は手綱を緩め、タリスは加速し始めた。
600mの標識を通過!先頭はノーブルアース!半馬身後ろにエイショウシュウ!外からジーニアスブレインが追い上げてきた!!
「ヒャァッッハアアアアアアアアアアアア!!!」
第4コーナーから直線に入りました!!先頭はジーニアスブレインに変わった!!
ジーニアスブレイン先頭!!後ろから物凄い勢いでタリスユーロスターが追い上げる!!
残り100m!!!先頭はジーニアスブレイン!!!3馬身離れてタリスユーロスター!!!2馬身!!!1馬身!!!並んだぁああぁあああ!!!!!
――ゴールイン!!!
ほぼ同時にゴールイン!!!ジーニアスブレインが逃げ切ったか?!タリスユーロスターが差したか?!
写真判定です!!!
お手元の勝馬投票券は確定するまでお持ちください!
写真判定の結果を待っている間、ジーニアスブレインはタリスを見ながら、ニヤニヤしていた。
それに対して、タリスはイラついている表情をみせた。
約8分後、1着6番、2着8番の数字が電光掲示板に点滅し、確定ランプが点いた。
確定した瞬間、タリスは小牧に怒りの表情をみせた。
「お…お前のせいで………―――――!!」
「ヒャァアッッハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
タリスはブチ切れ、ジーニアスブレインの方へ向かった。
「ちょちょっ…ちょっと待ってタリス!!!」と山下はタリスに急いで向かい、全力で止めにかかった。
「こいつウザいから蹴っていいよな!!!」
「だからダメだってタリス!!」
「たかがハナ差であの喜びようはマジでウザい!」
ジーニアスブレイン方からタリスに近づいてきた。
「ん~~~~~?何言ってんだお前はぁぁ?
着差ではない!!着順だぁあ!!
ハナ差でも勝ちは勝ちだぁぁ。
ヒャッッハアアアアアアアアアア!!!!!」
「……山下、今こいつにつば飛ばされたんだけどさ、正当防衛ってことで蹴っていいよな!?」
「だからやめとけタリス。負けるよ、プライド的な意味で。」と山下は言い、タリスユーロスター陣営は京都競馬場を後にした。