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GALLOP  作者: ジャンゴ
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第5話 勝利の報酬

――レースが終わった後、タリスユーロスターは諏訪調教師から逃げるために阪神競馬場を出て、そこから車で片道1時間15分かかる厩舎まで諏訪調教師と一緒に一時も休まず走って逃げ帰った。山下は車で厩舎に戻ったが、タリスと諏訪は山下より先に帰って、二人とも汗だくでぐったりしていた。そして、タリスの金玉は取られていなかった。

 ちなみに小牧は、このレース以外にも騎乗するレースがあったので、全レース終わった後、厩舎に戻った。


 一夜明け、昨日のレースの反省と次のレースに向けてのミーティングを行った。


「それじゃあ、まずタリス!牝馬に気を取られすぎじゃ!

 たかが一頭や二頭の牝馬気にするな!勝たなければ意味がないじゃろうが!」


「『たかが』ってなんだよ!一頭ももれなく仲良くするに決ま……

  (諏訪はアレを切るための道具を取り出した)

 ……あ、はい。すいませんでした……。」


「次に小牧じゃが…タリスが自分勝手な競馬をして何もしなかったじゃろう?

 『勝手なことをするな!』と手綱を思いっきり引っ張ったり、鞭で叩いたりしてレースに集中させろ!!

 お前は騎手なんじゃ!馬を操る側じゃろ?操られてどうするんじゃ!」


「……はぃ……。」小牧はうつむきながら答えた。


「それじゃあ次のレースじゃが、10月8日の京都芝1200mの未勝利戦に出走する。

 中1週でややきついが、まぁお前さんの体力なら大丈夫じゃろう。

 以上、昨日の疲れもあるから今日の調教は無しじゃ。解散!」




 タリスと小牧は大きくため息をついた。


「どうしたの二人とも?

 小牧さんはいつものことだからわかるけど、タリスは?」


「あ、いや、なんというか、3か月ぶりに牝馬おんなのこと話したから舞い上がっちゃって…

 世界最強馬になってたくさんの牝馬(おんなのこ)を種付けするために頑張っているのに、こんなところで足踏みしていられないと思っているんだけど、勝利ばかりこだわると牝馬(おんなのこ)と仲良くできないし…ぐぬぬ。」


(変な葛藤をしてるなぁ…。)と山下は思った。


 山下は二人ともやる気を無くしているのを心配し、どうにかしようと考えた。

 そして考えつき、諏訪に相談しに行った。

 山下は諏訪の部屋を訪ね、ノックをし返事が返ってきたのでドアを開けた。


「師匠、失礼します。」


「どうした?」


「次のレースに向けての相談なんですが、小牧さんとタリスのやる気があまりにも無いので考えたんッス。

 次のレースに勝ったら軽くでも祝勝会を上げたいのですがどうでしょう?」


「それで二人がやる気になるのか?」


「なると思うッス。

 タリスは諏訪厩舎(ここ)に来てからもうすぐ4か月、そろそろ頑張ったご褒美をあげてもいいんじゃないッスか!

 小牧さんもそうッス。

 レースでびびってばっかりで全然勝てないッスけど、裏ではいっぱいいっぱい頑張ってるんッスよ!

 だから勝ったらいっぱいいっぱい褒めるべきなんッスよ!」


「ふぅ…タリスはたぶんやる気になるじゃろうが、小牧のやつはどうじゃろうな…。

 あいつはやる気スイッチがどこにあるのかわからんからなぁ…。」


「だからたぶん、次のレースに対してはやる気にならないかもしれないッスけど、もし勝って褒められたら、さらにその次のレースに向けて、少しはやる気になるんじゃないでしょうか。

 小牧さんはここに来てから…いや、たぶん昔から褒められたことがあまりないんじゃないッスかね。

 褒められないから、どう努力すればいいのかわからないから、今のような引っ込み思案になったんじゃないッスかね。」


「…いいじゃろう。次のレースに勝ったら祝勝会じゃ。」諏訪は不安そうな顔をしながら答えた。


 山下は心の中で「やった」と思った。


「それじゃあ山下、今のことをタリスと小牧に伝えておいてくれ。」


「え?師匠が言うんじゃないんですか?」


「なぜわしが言わんといけないんじゃ?

 わしがみんなから怖がられているのは知っているぞ?

 そんなわしが言ったら…。」


「そんなことないッスよ。

 師匠が怖いのは、真面目だからッスよ。

 真面目な人って、顔がこわばっているから怖く見えるんスよ。

 それに、俺が言ったら、師匠に内緒で、俺が勝手に企画したことだと思って、後で師匠に怒られてしまうと不安がってしまう可能性が…。」


「…わかった。明日、調教を終えてから話そう。」


「ありがとうございまス!」


 次の日、その日の調教が終わり、諏訪がタリスに話しかけた。

 ちなみに、その日の調教はタリスが諏訪から逃げる調教ではなく、ごくごく普通の調教をした。


「タリス、お前さん何が欲しい?」


「え?何、急に?」


「次のレースに勝ったら、何か褒美を…軽い祝勝会でもしようかと思ってな…。

 それで何が欲しいと聞いているんじゃ。」


「……じゃあ……」


牝馬おんなが欲しいや種付けしたいなどの破廉恥なことは無しじゃ。」


 タリスは言いたいことを否定されて真顔になり、そっぽを向き、ボソッと言った。


「……キャバクラに行きたい……。」


「なんじゃと!!!」


 諏訪はタリスに襲いかかろうとしたが、山下がすぐさま止めにかかった。


「まあまあまあ、師匠落ち着いてッス!

 いいじゃないッスかキャバクラに行くぐらい。

 それが勝利の報酬となってやる気になってくれれば。」


「……はぁ~…いいじゃろう。ただし条件がある。

 次のレースのタイムを1:07.8を切り勝利したらキャバクラに行く許可を出そう。

 切らずに勝利した場合、何かうまいものでも食べさせてやろう。」


「もし負けたら何もなし?」


「もし負けたら、有無を言わさず金玉を切る!!!」


「――……!!!!!」


 タリスは何が何でも勝つ決心をした。

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