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GALLOP  作者: ジャンゴ
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第32話 心の在り所

待っている人たちがいるかわかりませんが……お待たせしました!1ヶ月ぶりの更新です!!

 アブソリュートとロックエレクトロが仲良く(?)おしゃべりしながら併せ調教をしていた。


「テメー!!息の使い方が違うんだよ!!瞬発力鍛えたいんだったら息の数減らせ!!極端に言えば、息止めながら走れ!!!息いっぱいに吸うんじゃねえ!!!だからテメーは遅いんだよ!!!」


「……ッ!」


「しゃべる余裕があるんだよ、バーーーーーカ!!!!!テメーはそれだけ弱いんだよ!!!いいから息止めろッッッ!!!」


「……………ッ!!」

――息を止める。日本ダービーでタリスユーロスターが見せたあの時の足を思い出しながらアブソは加速した。


「なんだ…ヤればできるじゃあねえか!」


「……………ッ!!」

 アブソは確かに加速したが、ロックとの差は縮まっていなかった。そして即座に息があがった。


「ハァ…ハァ…。」


「よし、6本目イクぞ。」

 ロックの息は荒いが、まだまだ余裕がありそうだ。




 その様子を遠くから見ていた諏訪直樹は……――

「いやー…何本やる気なんだよ……。っと、まぁ…向こうは順調ということで、こっちもやるか!」

 ギラついた目で2頭を見ていたアレクサンドルアルテュールに声をかけたが、彼女は気付かなかった。


「おーい、アレックス!」

 直樹がアレックスの馬体にポンと叩くと、殺気立った目で直樹の方を見た。だが直樹はそれに全く動じなかった。


「よし、アレックス。調教始めるぞ。」

 直樹がそう言うとアレックスは落ち着きを取り戻した。それでもまだ目はギラついていた。


「………俺が出す調教は………。」

 直樹は敢えて言葉をためた。

「………1日一本の芝馬なり単走だ!」


「…意味がわからん。」

 アレックスは表情を変えずに言う。


「だと思う。」


「なぜ1日一本なんだ?」

 それでもアレックスの表情は変わらなかった。


「お前が《《常に全力を出している》》から。」


「…??待て、(おれ)の調教を調べていないのか!?休息もしかととっているぞ!」


「その休息も全力を出してるだろ?」


「どういうことだ??」


「休息…つまり筋肉の緊張をほぐすこと。それはできているんだよ。それはな。けどお前は、心の緊張のほぐし方を知らない。

 お前、いつも一歩引いて回り全体を見ているだろ。」


「そんなことはない。」

 アレックスは一歩前進した。


「…いや、物理的な話はしてねえよ…。

 じゃあ質問だ。お前が馬を見るとき、今ぐらいの近さで見たことがあるか?」


「あ……。……………無いな…。」


(「ある」と言いかけたな!よしよし。)


 アレックスは少し怒っているように話す。

「つまり『一歩引いているから心の緊張もまた弓矢の弦のように引いている』と言いたいんだな?物理的な話はしていないんだろう?諏訪直樹!」


「『体は心を表す』って言葉、聞いたことあるか?」


「正確には『名は体を表す、体は心を表す』だ。」


「じゃあ知っているんだな。

 ……何で今くらいの距離で見ないんだ?もっと近くで見たほうがより正確に見えるだろう?」


「近すぎると今のように諏訪直樹の顔しか見えん。馬全体を見るには少々距離が必要だ。」


「つまりアブソとロックを見た今は100m(これくらい)の距離が必要ってことだな!」


「…少々離れているが、まあこの距離なら造作もない。」


「じゃあどのくらいまで近くで見ることができる。」


「……………。((おれ)千年王眼(せんねんおうがん)の視界範囲を探っているな。だがまあ…いいだろう。)

 相手馬の体格にもよるが、1mだ。これ以上近づくと死角が生じ全体を見ることができない。」


「それでも部分的には見えるんだろう?」


「ああ。」


「(意外と素直だな……もう少し踏み込んでみるか。)

 お前さ……――。」


「さっきから何を探っている。諏訪直樹!」


「――……!!!」

 アレックスが急に殺気を放ったため、直樹は咄嗟に背中に隠し持っていた新聞紙を丸めて身構えた。

 直樹がそんな体勢をとってもアレックスは怒っていたため気にしなかった。


「諏訪直樹!話が脱線しているぞ!!(おれ)の質問に答えろ!!!」


「わ、わかったわかった!そう怒るなよ~!」

(アレックスの心を表に出すことが目的だからこれはこれでアリなんだけど、ヤバいな…!文字通り(キング)だからか威圧感がスゴいッッッ!!!今すぐにでもひざまずきたい!けれどそれをしてしまったら最後、俺は格下とみなされ俺の意見を聞かなくなる!!!

 耐えるんだ!愛想笑いをするんだ、俺!)


「もう一度質問するぞ。なぜ『1日一本の芝馬なり単走』なんだ。」

 アレックスがそう質問すると直樹の顔はひきつっていた。


「お、お前が……………?……!?

 お、お前…スキル……開眼してね??」


「何を言う。そうたやすく開眼するならば、とうに(おれ)のスキルはすべて開……眼……………6つ目のスキルが開眼している!?!?!」

 アレックスが千年王眼(せんねんおうがん)で自分を客観視している際、それを宿している右目を大きく見開く。それを確認した直樹は笑みをみせ、自信満々に答える。


「なぜ1日一本かというと、さっきも言った通りお前が全力を出しているからだ。心身共にな。1日一本にすることで目に見えない蓄積疲労を取り除くことが目的だ。

 意味がわからない、って顔をしているな?

 蓄積疲労の本質は心の疲労。さっき俺がお前の馬体をポンと叩いたとき心拍数上がったか?」

 アレックスは右目を大きく見開いた。


「脈拍数30から35ほどに上がったな。」


「それくらいしか上がってないのかよ………。まあその程度か…。

 本来なら走っている最中の脈拍数200~250回まで上がるはずなんだが…全然上がってないな。あの時かなり警戒した割にお前は冷静なんだよな~。」


「何を言う、諏訪直樹。(おれ)のレース中の脈拍数は60ほどだぞ?諏訪直樹の相馬眼もあてにならんな。」


「…え!?たった60しか無いの??心拍数上げて血流良くして身体全体の筋肉使わないの???」


(おれ)はそれを悩んでいるんだ。心拍数の上げ方がわからんのだ……!千年王眼(せんねんおうがん)を使ってもわからん!!」


「心拍数――つまり心。心が高ぶればおのずと心拍数も上がって100%のパフォーマンスができるようになるぞ?俺はそれを教えることができる。どうする?」


「……………。」

 直樹は悩んでいるアレックスに追い打ちをかける。


「もちろん、不要だと判断したら俺を切っちまえばいい!」


「それだと、諏訪直樹はエミリー様に仕打ちをされるのでは?」


「(大分弱ってきたな。もう一押し!)

 おうおう!俺の心配よりもまず自分じゃあないのか~?アレックス。」


「……………わかった。だが、後悔するなよ。」


「後悔?しねえよ!『する後悔としない後悔。どっちがいい?』って聞かれたら、俺は後悔しないほうを選ぶ、って答えるぜ?」


「……フン。そうか。」


(よし!第一関門突破だ!これでとりあえず一安心だぜ~~~!

 さっきアレックスが言った『6つ目のスキルが開眼した』っていうのが気になるな………。俺からしたら4つ目のスキルが開眼したようにしか見えないからな………。)

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