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GALLOP  作者: ジャンゴ
31/35

第28話 菊花賞―もっとも強い馬が勝つ―

―――100%コンスタントスピード!!!


「よし!抜け出した!このまま一気に行くぞ!!!」


「いや、行かないで!第3コーナー曲がったらただの全力疾走で走って!」と小牧は即注意を促し、このまま行くつもりだったタリスは了解した。


 先頭のプレタポルテがもうすぐ最後の直線に入る中、集団は第3コーナーの下り坂に入る!!大外からタリスユーロスターが大まくり!!集団の先頭にたったぁああ!!プレタポルテのスタミナについて行けないピッチングマシンとジュニアマルスをとらえる勢い!!!他の馬も仕掛けるが、タリスユーロスターのスピードについて行けない!!!


(クソッ!俺の全力+下り坂で走ってるからか、感じるぜ……。諏訪調教師(じいさん)が言ってた『絶対領域の壁』。

 じいさんの言ってた通り今は超えられないが、いずれ超えてやる!!

 今は半永久種付け権(しょうり)だけを考える!!!)


 ピッチングマシンとジュニアマルスをとらえ!最後の直線に入ったぁあああ!!!

!!!が!!!先頭のプレタポルテとの差は20馬身はあるぞぉおおおぉおおおおぉおお!!!!!これはセーフティーリードかぁあああ!!!?!


「おい小牧。何馬身差くらいだ?」


「…たぶん、20馬身差くらい。」


青葉賞(あのとき)は、30馬身からの15馬身差…だっけ?」


「うん。けど…あのときと違う。」


「ああ!いくぞ!!!全力疾走から全力維持!!!!!」タリスの怒りと末脚が爆発した。


―100%コンスタントスピード!!!!!


「来たな。タリス……!」プレタはまだ余力がありそうだ。


 残り300!!!先頭はプレタポルテ!!リードは15馬身ほど!!!なかなか差が縮まらない!!!このまま逃げ切るか!!!!!


(クッッッソ!!!全然縮まんない!!あいつ、前より速くなってやがる!!!)タリスは焦るが、コンスタントスピードによってスピードは少しも落ちない。


(夏の間にタリス対策にスピードを鍛えてよかったわ~!

!って!油断したらアカン!集中集中!)プレタがいくら体力があっても初めての3000mの長丁場。そして大逃げ。集中力をたびたび欠いているが、何とか粘っていた。


 そんな中、プレタ鞍上の田村騎手は何度も同じような経験をしているベテランだからか、冷静沈着だった。


(……ふむ。プレタとタリスの差と、ゴールまでの距離を見ると……………。

 このペースだと差されるかな?うん。

 ……このペースだと、ね。)田村は自分の股下からタリスを覗きこみ、そう判断した。


 残り100!!!プレタポルテ粘っているが!タリスユーロスターの勢いはまだ!まだ落ちない!!!後ろからはソーラーチャージやキタコレハガネが来ているが!完全に前2頭の決着になりそうだ!!!


「ハッ!」タリスは息を吐くと、田村「よし!」と気合いを入れた。そして小牧は強引にタリスの手綱を引き、タリスの首を上げた。


―――インスタントスピード!!!


(やはり何か隠していた!新しい必殺技か!!?スピードが落ちない!

 …いや、もう一度コンスタントスピードをして100%コンスタントスピードを維持した!??

 どちらにしてもこのペースだとまずい!!仕掛ける!!)田村は先ほどまで手綱をもったままで、プレタの体力をできるだけ温存する騎乗をしていたが、バタ足気味のプレタの動きに併せ、プレタに残りの体力をすべて使わせ前に進む騎乗に切り替えた。


 インスタントスピード――コンスタントスピードはスタミナを消費するが、この技は体力を消費するコンスタントスピード。ゴールまで残り200m以内でしか使えない必殺技。


(タリスは何度もコンスタントスピードを使い、自分の限界を知った。

 限界手前でコンスタントスピードを維持(コンスタントスピード)すれば限界の壁を超え、更なる高みへ行ける!

 …というのは今はいい。今は、勝つこと!

 タリスはあと150mほど。そして100 %で走り続けるのは、もって7秒ほど。普通の馬で全快時なら150mを7秒で走れるが、約3000m走った後にそのタイムを叩き出すことができるのは、タリス…お前だけじゃ!)諏訪調教師は期待を膨らませた。


(!!ああぁああ!!クッッソ!!マジ無理!!インスタントスピードとか教えやがって!!クソシジイ!!

 もうふらふらで視界がぼやけてやがる!コンスタントスピードじゃなかったら変な方向に走ってたし、インスタントスピードがなかったらとっくにくたばってやがった!!

 クソッ!勝つ見込みがあるから頑張っちゃうだろうが!!!)タリスは期待を膨らませた。もちろん、半永久種付け権の。


 プレタポルテ!!プレタポルテが粘っているが!!!リードは3馬身ほど!!タリスユーロスターは落ちる気配がない!!!


―――ペガサス・ザ・ゴールド!!!


 プレタは明らかに焦りと疲労が顔に出て、冷静だった田村もさすがに焦った。


「ちょっ!!マジかよ!!

(ペガサス・ザ・ゴールドはスピードを落とす代わりに体力を回復する必殺技。プレタの体力は確かにギリギリだが、ゴールしきれないほどじゃない!!

 俺がプレタの体力を使って走らせ、タリスがすぐそこまで迫って来ているから、プレタが焦って使っちまった!!)

 プレタ!お前は結に焦っている顔を見せるために走っているのか!!」


「…………。そないなわけあらへん。

 結に………!かっこええトコ見せるために走っとるんや!!!!!」ペガサス・ザ・ゴールドによってプレタのスピードは落ちたが、体力とヤル気と集中力が回復した。


 タリスユーロスターが並びかかる!!!プレタポルテは一杯か!!?

 並んだ!!並んだ!!!並んだ!!!!!立ったぁあああ!?!?!

――ゴールイン!!!??

 ほぼ同時のゴールイン!!!タリスユーロスターは失速!!田村騎手に至っては最後の最後で立って屈伸してゴールしました!!!

 こ!これはどういうことでしょうか!解説のジャンゴ先生!!?


「…え!?あ、喋っていいの?」


 いいえ!あなたは黙っていてください!


「……………。」


 地の文で解説すると、田村はゴール直前で立って、前屈の勢いに乗せてプレタの首を無理やり地面と平行になるくらい押し付けて伸びきった状態でゴールした。そしてタリスはゴール板で失速。ゴール板手前か過ぎてから失速したか微妙だった。


―1分後。観客たちにスローモーション映像を公開。そして、歓声が湧き上がる。


「うわっ!マジかよ!」

「これ際ど過ぎ!!」

「99年の有馬記念みたいじゃん!!」

「いや!08年の天皇賞(秋)だって!!」

「どっちでもいいよ!プレタとタリスの3連単2頭軸マルチで3着が穴のキタコレハガネで万馬券確定だし!

 ……どっちかっていうとタリス来い!!」



 観客、陣営、騎手、競走馬。それぞれの期待と待望と懇願の12分―電光掲示板の1、2着の表示に数字が点滅し始めた。1着が11番、2着が14番の表示。そして歓声。


「っしゃぁああ!!!来たぁあああ!!!」

「タリスの馬券買っていなかったから危なかった~!」

「うわ~、これは名レースだわ!」

「どっちもいい競馬したな~!」

「おい!タリスユーロスター!!お前が勝っていたら3万馬券から10万馬券になってたのに!!」


 この時点で確定ではないが、ほぼ覆ることはない。

 田村はプレタからすでに降りて結果を待っていた。点滅した瞬間、涙が溢れ出し、たまらず芝の上でうずくまった。


「どないしたん?急に!?」プレタは田村の突然の行動に驚いた。


「……うぐっ!……うっ!

 騎手生活20年と半年。やっと…。やっとGⅠを勝った……!!」


「そうか……ワイ、GⅠ勝ったんや……!!」プレタも涙が溢れ、止まらなくなった。


 ―1分後、確定。


  ああああああああああああ

  あ!!田村大輔騎手!!あ

  あ!!プレタポルテ!!あ

  あ!!!!悲願の!!!あ

  あ!!!!!GⅠ!!!!あ

  あ!!!!!初!!!!!あ

  あ!!!!!制!!!!!あ

  あ!!!!!覇!!!!!あ

  あああああ!ぁああああああ



―数分後。

「―――それでは!勝利ジョッキーインタビューをいたします!

 田村騎手おめでとうございます!」


「ありがとうございます!」


「ついに!ついにですね!」内藤アナは興奮が収まりきれなかった。


「いや~永かったですね~。まあ、40過ぎる前に勝ててよかったです。」田村のコメントに場内で少し笑いが起こった。


「フフフ。先ほど電光掲示板にプレタポルテの11番が1着に点滅した際、いわゆる男泣きをしましたね!それほどまでに感極まったというところでしょうか?」


「あー…、いや、あのときは……嬉しかったというか何と言いますか……それこそ…感極まった…と言えばいいですかね……。

 今は収まりましたけど、家に帰ったらたぶん、泣きますね。はい。」田村はやや照れながらコメントをした。


「ゴール直前に屈伸運動をしたのは作戦だったのでしょうか?」


「あっ!あれは……とっさにやりましたね。何でやったかと言われましても……本能的にそうしましたね。

 …今、思い返せば学生時代に遊びでシミュレータでやっていましたね。ハハ!」


「なるほど~。

 プレタポルテも初のGⅠ勝利ですが、次のレースも期待が高まりますね!」


「はい。そうですね。

 今回勝った菊花賞は『もっとも強い馬が勝つ』と言われているレースですので、次はたぶん有馬記念ですかね?有馬で凱旋門賞を勝ったアブソリュートを倒して、プレタポルテが最強だと証明します!」田村は強気の発言に会場は沸いた。


「はい!頑張ってください!

―以上、勝利ジョッキーインタビューでした!」



 田村は第12レースを終え(6着)、プレタのもとへ向かった。そこにはプレタと喜びを分かち合っていた結の姿もあった。


「やったやった!GⅠだよ!GⅠ!!スッゴくカッコよかったよ!!!」


「いや~ハハハ!ワイもそうやけど、田村さんのおかげで勝てたようなもんやからな~!

 …っと、噂をすれば。

 おーい!田村さーん!」とプレタが声をかけ、結が田村にテクテク近寄ってささやいた。


「お父さんやっとGⅠ勝ったんだ。おっっっそ!!!」


 その天使あくまのささやきに田村は心打たれ、膝と手を地に着け、うずくまり、号泣した。

―レース後、タリス陣営は、


「はぁぁぁ~…。半永久種付け権が……。」タリス、落ち込む。


「ごめんね…タリス君……。僕も田村のような動きができていたら……。」小牧、落ち込む。


「自信のあったインスタントスピードでもギリギリ届かんかったかぁぁぁ…~。」諏訪、落ち込む。


「さ、3人とも……ね!元気出してッス!チャンスはまだまだあるんスから。ね!」山下、ハゲます。

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