第24話 平穏な日常
※注意 今回、今まで以上の下ネタがあります。
逆に言いますと、シリーズ通してこれを越える下ネタはありません。
日本ダービーから約3カ月後、タリスユーロスターが放牧から帰ってきた。
「うっ……酔った。」
馬運車からタリスユーロスターがふらふらと降りてきた。
そして、馬運車の前に山下 裕一調教厩務員が待っていた。
「…タリス…大丈夫…?」
「……………。
…大丈夫じゃない……。」タリスは、かなり顔色が悪そうだ。
「とりあえず馬房に入って休もうか。」山下はすたすたとタリスを馬房に連れて行こうとしたが、
「その大丈夫じゃない!
体調も大丈夫じゃないけど、その大丈夫じゃない!」
「え?どうしたの?」
「聞いてよ…!
あれは放牧1日目―」
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「…あ!モモちゃんとプリンちゃんだ~!久しぶり~!
あれ…?それともキタコレピンクちゃんとエイショウアキツキちゃん…て呼べばいいのかな?」
「ああ…モモとプリンでいいよ。私たちも昔の名前で呼び会おうってことにしているから!」
「ねっ!ナッツ!」
タリスは幼少期、『ナッツ』と呼ばれていた。
「そういえば、ダービー見たよ!すごかったよ~!惜しかったね~!」
「いやいや…。」タリスは少し照れた。
「いや、ホントにすごいって!
ナッツは牧場一足が速かったけど、牧場一体力がなかった馬だったのに、出走るだけでも難しいダービーで惜しい競馬をしたんだよ!すごいよ!!」
「ハハハ…いや~。」タリスはかなり照れていた。
(モモちゃんもプリンちゃんも当時子供だったからそんなに色気がなかったけど、3年ぶりに会ってこんなに可愛くなっちゃって!
も~ぅ、この!!)
「いや~この勢いだと、俺の夢が叶っちゃうかな~。」
「「?夢?」」
「そりゃ~世界中の牝馬たちを種付けすることだよ~。」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)
モモとプリンは互いを軽く見た。
「もちろん夢が叶ったらだし、仮にただの種牡馬になったとしても、モモちゃんもプリンちゃんも人間の手に汚されずにちゃんと相手をするから!」
「「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)
…あ…うん……がんばって……。」」
そして、タリスの周りから、誰もいなくなった………
3ヶ月間ずっと―――
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「!!ってことがあったんだよ!!
?!?おかしくない?!?」
と、タリスは熱心に山下に訴えた。
「…た、確かにおかしいね……」
(お前の頭が)
「!!だろ!!
恥ずかしいのはわかるけど、ずっとはないだろ?!ずっとは?!」
「…えっ!?恥ずかしいことだって自覚してるの?!」
「当たり前だろ?!
種付け…もといセックスは!互いに羞恥部分をさらけ出して、イヤイヤながらも愛を確かめ合って、最終的に気持ちよくなる……………姿が恥ずかしいだろうが!!!」
「……………。」
(と、童貞がおっしゃっております。)と童貞は思った。
「っていうか…その出来事って6月にあったんだよね?」
「…?そうだけど?」
「その仔たちが恥ずかしがって引いたのは、たぶん、今が発情期じゃないからなんじゃない??」
「発情期?あの都市伝説の??」
「!?都市伝説なの!?」
「その発情期って確か、3月~4月に牝馬たちが交尾したがる時期のことだろ?
どう考えても都市伝説だろ。
俺は年中発情しているのに!
人間共がその時期に仔作りさせるための言い訳にしか聞こえないよ。」
「…で、でも…牝馬たちもそういうことしたくない日もあると思うよ…?」山下はやや引き気味に、タリスの主張をギリギリ理解しつつ、フォローした。
「いや、そういう日があるのはわかっている。俺もあるし。」
(あるんだ…。)
「だからたぶん、その日に言ってしまったからドン引きしたんだと思う。
けど、ずっとドン引きしている理由がわからねえ!!」
「いや…どの日に言ってもドン引きだよ。」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………(一時の間)
「うわぁぁあああん!!!!!」
タリスはどこかへ走り去り、さらに体調が悪化した。
次の日―
「よし!もうすぐ秋競馬が始まるが、タリスに1つ確かめねばならないことがある!」と諏訪 隆博調教師は今日の調教(馬なり)を終わらせ、少し休んでいるタリスに聞いた。
「何?」
「春と同じようにクラシック路線…菊花賞に出走するか、それとも秋からは短距離路線…スプリンターズステークスに出走するか……。」
「菊花賞しかありえない!」
「即答か…なぜじゃ?」
「クラシックを勝てば、永久・半永久種付け権を得られるからだ!
皐月賞は見送り、ダービーは3着、もう菊花賞しかないんだよ!!
最後のチャンスなんだよ!!!」
「…だとよ…お前さんの思惑通りに。」と諏訪は後ろにいる男に振り向かずにそう言った。
「はっはっは!相変わらずだなぁ、タリス。」
「……………。
あっ…えっと……どっかで会ったことあるような……。」
「ほらほら!」男は自分に指を指し、「わかるでしょ?」と言わんばかりに期待していた。
「う~ん…と、今足首らへんまでわかってるんだけど……。」
「全然じゃねえか!!!
俺だよ俺、馬主の佐藤公平だよ!
前に『覚えておけ!』って言っただろ?!」
「『前』っていつだっけ?」
「…お前が朝日杯勝って、俺が客馬蔵に連れていったの覚えていないか??」
「ああ!!あの時か!
…て、結構前じゃね!!?」
「言われてみれば確かに……。
えー…っと、朝日杯が12月末で……今が8月末だから……約8ヶ月ぶりだな!」
「『覚えていろ!』ってほうが無理だろ!!」
「…うっ…確かに……。
俺も仕事で忙しかったんだよ…。ダービーとか行きたかった……。
ま、まぁ…俺も顔出せるときは出すからさ!菊花賞勝ったらまた客馬蔵に連れていくから!」
「マジで!!?」
「というか、GⅠ勝ったら毎回客馬蔵に連れていくし!」
「マジか!!!
うぉおおおっっしゃあああ!!!」タリスは明らかにやる気を出した。
「よし!じゃあこれから追い切りするぞ!」と諏訪もやる気を出した。
タリスはポカーンとなり、「…は?」と息を漏らした。
「菊花賞は今までと違い3000mじゃ!
お前さんは前走のダービーで残り400mのところで失速した。ダービーは2400m!なんとか走り切ることができたが…2000mまでしかまともに走ることができんかった…。
3000mを走り切るためにはもっと体力をつける必要がある!」諏訪はそう言うと、タリスは嫌がる素振りをみせた。
「全く…3ヶ月も放牧していたからかブクブクと鍛えがいのある身体になりおって…。
!!オラ走らんか!!」
「のぉおおぉおおおぉおおお!!!」
―秋競馬が始まる。




