プロローグ
初投稿です。投稿しながら直接書き進めていきますので、最新の話には加筆が多くなっていきます。
フッと、意識が浮上するような感覚。
別に意識を失っていたとか、そういうわけでもない。
先程までの自分は、用意されたオモチャを前に遊ぶでもなく手にとっては並べ、それの順番を変えて並びなおしてみるという…いやこれも遊びに入るのだろうか。楽しかったわけでもないが。
さなかに、ふと思いついたのだ。そろそろだ、と。その思考に連動するように思い出す。
自分が幾度目かの転生を果たしたのだということを。
わたしの覚えている1番初めのわたしは、どこにでもいる普通の女だった。
田舎の地味な女の子。普通に勉強し、友を作り、遊び、恋をして、部活に打ち込んで。
特に美人というわけでもなく、人に特別に好かれることも嫌われることもなく、人に誇れるような特技などもなく、周囲に埋もれるような普通の女だった。
ただ、とにかく人が好かった。お人好しと言ってもいい。
そのことによって馬鹿にされ利用されることもあったが、一方で人の信頼を勝ち得ることもあった。
彼女は高校を卒業後はすぐに就職した。
小さな会社だったが、少し人見知りするところはあるものの、気が利いて愛想のよい彼女は上司や先輩たちに可愛がられた。とにかく忙しくて休みも取れないこともままあったが、充実した日々を送っていた。
そして愛想のよい彼女は、接客に割り当てられることが多かった。
ある日社長や上司と共に対応したのは、親会社の更に親会社からの視察に訪れた一行だった。
相手が相手であったので終日緊張していた。1日が終わったときには安堵から盛大な溜め息が漏れた。
後日、その視察団の代表だった男性が秘書を連れて会社を訪問した際には、棒でも飲み込んだように息が詰まってしまった。その上、自分を指名した上で案内させられたときには、必死に笑顔を取り繕ってはいたが、内心泣きそうだったのだ。
案内の最中に休日に会う約束を取り付けられ、彼女は決死の覚悟で男の指定した場所へと向かう。
そこで待っていたのは交際の申し込み。
男は改めて自己紹介をした。彼は、彼の勤める会社の創業者一族の人間らしい。身なりもよく人当たりも優しい。視察の際の様子から、仕事ができる人なのだろうなという印象を持っていた。
とても自分とは釣り合わないと思った。
彼女は申し出を断るが、彼はあきらめなかった。それから彼のアプローチが始まった。
長いときをかけてゆっくりと距離を縮めてきた彼に、彼女がほだされてきたころ。
彼女の前に立ちふさがった人がいた。たった2回しか会ったことのなかった人だったけれど、その人のことは覚えていた。
あんなふうになれたらと羨望した人物。視察の際、常に彼のそばにいた彼の秘書だった。
それからたびたび行われる嫌がらせ。
それまで人からあからさまな悪意を向けられることのなかった彼女だ。みるみる憔悴していったが、そのことを彼に告げることはなかった。彼女は彼のことが好きになっていたのだろう。
そして、そのときは訪れた。
それはほんの小さな悪意だった。
しかいいくつもの偶然が重なって、彼女は命を落とすに至った。秘書の女性も、まさか彼女が死ぬだなんて思ってもいなかっただろう。
そうして1度目の生を終えた彼女は、白い空間で目を覚ましたのだ。
初めは白い空間だった。それを認識する前に、すうっとその空間は広がりを見せ、空間の境目は溶けるようにして消え去った。
現れたのは雑然とした場所。そこにはたくさんの人と、恐らく鬼や天使や悪魔と呼ばれるだろう生き物たち。彼女のように次々とその場に現れる人間たちを、鬼たちは誘導し列をなしていく。
混乱はなかった。何故かそういうものだと理解していた。それは周囲も同様で、言われるままに列の最後尾に並んでいく。
一定の人数ごとに分けられて大きな会場に通されたあとに、今後についての説明が行われた。
転生においてのルールの説明である。
この死後の世界は、数多く存在するいくつもの世界に生まれた者たちが死後に集う場所である。この死後の世界にはそれ以外の施設や機能もなく、この世界の住民になるには特殊な条件があるため、この場にいる時点で転生を拒否することはできないこと。
この世界の住人たちは生前の世界をいつでも覗くことができ、一定の評価を得た者には特典があること。この場に集められたのは、その一定の評価を集めた者たちらしい。
つまり娯楽のないこの世界にとって、人々の人生は童話や小説、ドラマといった物語のように楽しむものであるらしい。そこで一定の評価を得るということは、あなたの人生は面白い物語でしたと言われているようなものだ。自分の人生がよい娯楽で暇つぶしであったと言われているも同義で、素直に喜べるものではなかった。
そして特典とは、今終えた人生で得た技術を1つ、次の生へと持ち越せること。この後行われる技術の希望の聴取で1度口にしたことは覆らず、転生に持ち越せる技術の対象外の場合は、何も特典が与えられないことを説明された。
それからは1人ずつ次の部屋に通されて、希望の聴取が行われていく。
彼女は特筆すべき特技や技能を持っていなかった。今までに得た技術と言われても、何も思いつかない。けれど時間は待ってくれず、自分の順番が来て部屋に入る。
部屋の中は大きな事務所のようであった。
多くの鬼が仕事に追われるようにしていて、自分の前に部屋に入った人はすでにいなかった。急かされるようにして中央の机に向かう、ひと回り大きな鬼の元へと歩み寄った彼女は迷いながらも口にしたのだ。
「記憶を…、この記憶を持ち越すことはできますか?」
ざわりと室内の空気が動いた。
それまで流れ作業のように仕事を処理していた鬼たちが手を止めて、自分に注目が集まったことがわかった。
周囲の変化に戸惑う彼女に向けて、大きな鬼はニヤリと笑うと言った。
「もちろんできるとも。歓迎するぞ、新たなフリッカーよ」
フリッカーとは、この死後の世界の記憶を持ち越して転生する者のこと。
持ち越せるものは技術のみで、持ち越せないものを口にすれば何もなくなる。その条件下で、「記憶」と口にする者は滅多にいないらしい。
また言葉のニュアンスも関わってくる。
もし口にしたのが「これまでの記憶」という言葉であれば、彼女の持ち越せたのは死ぬまでの彼女しての記憶のみ。何度転生しようとも、前世として彼女としての記憶のみが残るのだ。
「この記憶」という言葉だからこそ、死後の世界…フリーズと呼ばれているらしい世界のことが記憶に残るのだという。
実際に転生を繰り返して、覚えているのは1度目の彼女の記憶とその次の世界の記憶、そしてその間のフリーズでの記憶のみだ。
それ以外の転生時の記憶はなく、引き継いだ能力が発現したときに、その能力に関連した前世の立場をなんとなく思い出すのみだ。「この世界の記憶」とはっきり言っていれば、すべての記憶を引き継ぐことになったらしい。
しかし死後にこういったことが行われると知っているのはアドバンテージであり、またフリッカーはフリーズの住民の目につきやすいために評価が高くなりやすいらしい。歴代のわたしは今のところ失敗なく、多くの能力を引き継ぐことができている。
問題があるとすれば、転生時の記憶がないために実際に使ってみるまでは自分がどういった能力を引き継いでいるのか知らないという点であろう。
またフリッカーに対してペナルティがないわけでもない。もしフリッカーでありながら評価が低かった場合は、引き継いだ能力の中で最も頼りにしている能力が失われるということだ。
しかしわたしにしてみれば、転生時には何の能力を持っているのか忘れているので大した問題にならなかったのであるが。転生の合間のフリーズでの記憶がおぼろげにあるために、今までの自分が成功したかどうかくらいのことはわかる。
そうして今世のことに話は移るわけだ。
2度目の転生を参考にするなら、自分は2歳ほどだと思う。
今の自分の置かれている環境を思い出そうとしても、ぼんやりとした記憶しか浮かばない。せいぜいが両親であろう身近な人物の顔が浮かぶ程度だ。おそらく赤ん坊の記憶自体がまだ発達過程であることに関連するのだろう。
周囲を見渡せばとても広い部屋だった。落ち着いた雰囲気の部屋ではあるが、おそらく高級であるのだろう家具や装飾品が彩っている。
白い肌に薄めの衣服を身に着けている。
窓には薄いカーテンが引かれているためはっきりとは見えないが、空が高く晴れ渡っていることがわかる。気温が高いが過ごしにくいほどではない。おそらく湿度が低いのだろうと思われる。
壁沿いに女性が1人立っているのに気付いて、そちらに行ってみようと腰を上げた。
自分がそちらに向かおうとしているのに気付いたのだろう。
その女性はこちらに歩み寄ると、わたしの前に膝をついて話しかけてきた。
「どうかされましたでしょうか、お嬢様」
うむ。今回の転生先のわたしは随分と境遇に恵まれているらしい。
小説を書くのも何年ぶりでしょうか。
小説を書くことを楽しんでいけたらと思います。