私と彼と思い出と
「なに飲む」
「レモンサワー」
約束の時間通りに集まって、お互いの職場の中間地点で飲む。
22時を回っていたが、土曜の夜の居酒屋は、混んでいる。お互いの近況を話して、あっという間に2時間が経過した。
「そろそろ、お開きにしようか、送ってくよ。」
会計は割り勘にしようといったが、男ですから、と伝票をさらわれてしまった。
「目上の人か彼氏にしか奢ってもらわないことにしているんですー」
「でた」
彼はくすくす笑う。
「彼氏いるんだ」
「一応」
「うまくいってるんだ」
「いちおう。この前プロポーズしてもらいましたー」
そんなことじゃないかと思った、と彼は苦笑した。
夜道を駅まであるきながら久しぶりに並んで歩く。
少し酔っているのか、踊るようにとは言わないけれど、少し左右に揺れながら歩く。
待ち合わせ場所でこちらに歩いてくる真っ直ぐな足取りに、ああ、社会人なんだなお互いに、と思ったが、こういう様子をみると急にあの頃に戻ったような気持ちになる。
「終電微妙だな、タクシー拾って、そのまま俺も乗ってくわ」
そう言って、スマートにタクシーを止める。
「慣れているのね、タクシー」
「だいたい、いつも午前さまだからね。タクシー使ってでも、早く帰って寝たい」
「大変だね、弁護士さまは」
「そちらも、大変でしょう。働いて、作品つくって。寝る暇もないんじゃない」
「睡眠だけは、しっかりとっております」
「睡眠欲だけは人一倍だもんね」
「その節は、ご迷惑を」
ははあ、と、土下座の真似をすると、彼はくすりと笑った
「別に。寝顔見ているのも楽しかったし」
「みてたの。」
びっくりした。
「ちょっとだけ」
「うわあ」
「ゼミ合宿の宴会でも寝てたよね」
「うわあ」
また、びっくりした。
「覚えてるの」
「隣にいたから。毛布がわりに、座布団かけといた」
「え、あれ、○○くんだったんだ。はるかかと思っていた。」
「佐藤氏は酔っ払って、後輩に絡んでた」
「ああ…」
「結局、そのまま俺もその場でしばらく寝ちゃったけど」
「うそ」
「3時くらいまでは起きてたから。数時間だけど、ゼミの奴らも何人かその辺に転がっていたし。」
「あちゃあ」
「いびきかいてたよ」
「嘘だ」
「うん、嘘。でも、○○さんに服つかまれて部屋に戻れなかったのは本当」
「ええ、それって」
「隣に内野がいたから、あいつは気付いてたかも」
「なんてこと…ごめん」
「なんとなく放っておけない気分になった」
「申し訳ない」
「昔の話だし。いいんじゃない、べつに。いつも隙がなくて真面目なのとギャップがあって、面白かった」
面白かった、か。
うん、私はこんなにタイミングで知らされて、恥ずかしい思いをすることになるとは思わなかったよ。
とほほ。