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私と彼  作者: oyoko
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私と彼とそれからと

「ありがとう」



びくっと固まる。


あの時と同じことば。


私は結局3年前と同じことを繰り返しているだけなのだろうか。


リフレイン。なにも変わっていない、成長せず、からまわり。


私は感情で生きる。

彼は理性で生きる。

感情は理性が好きだし、理性も感情を気に入ってはいる。


それなのに、どうしてこう上手く一緒にいられないのだろう。そんな風に思った。








「ありがとう。」


でも、今は誰ともそういうことが考えられないんだ、ごめん。


飲み会の夜からちょうど2週間後に、返事がしたい、と呼び出されて聞いた、告白の返事。


わかっていた。

現実の私は苦笑した。

そして慌ててもいた。

言葉を選んで、やんわりと断わってくれて、ありがとう、こんな時期にごめんね。

彼も少し笑った。勉強に集中したいから、だから、今はちょっと。

○○さんも、これから頑張って。


そんな感じのことを言われた。


彼の言葉はそのまま、彼の気持ちだっただろう。

それはそうだ。

彼は今、人生の大事な勝負時にいる。

そんな時に私なんかに時間を割いて、顔を見て色々告げてくれるなんて、誠実じゃないか。

決まりが悪いだろうに。

別れ際、駅まで送ってくれた彼と握手をした、頑張って。

泣きそうだけど、彼を困らせないように気丈にふるまう私に気がついたろうか、そこではじめて彼の瞳が揺れた。

そのことに気がついていないふりをして私は背を向けた。

おさまりをつけた、強制終了。

心のどこかに部屋があるとするならば、扉がパタンと閉じた。


ちゃんと向き合ってくれた、それだけで十分じゃないか、この人を好きになってよかった、と後から何度も思った。


そのたびに、扉には幾重にも鍵がかかった。










それから、数か月はさすがに気まずかったが、私は図太かった。

というか、社会人になっていってなりふりかまっていなくなれず、ためらいながらも彼の知識に助けを求めた。

一度あれば、あとは何度も助けをもらい、お礼と称して何度か飲みに行った。

なにもなかった。

彼の修習中はしばらく連絡が途絶えていた。



社会人になった私は、多少の山谷を越えた。

その時、お世話になった職場の先輩に告白され、久しぶりに恋人ができた。

私が悩んでも、多少感情的になっても最終的には受け止めてくれる、いい人だ。

彼の人柄は友人たちにも好評で、大学のゼミ仲間の美人で優秀な友には、ようやく失恋から立ち直ったね、とからかわれた。


ほそぼそ製作していたアクセサリーが好評で、副業とはいえないくらいの収入になってきたのは、社会人3年目のころ。

最近は、結婚式用の装飾品をメインでつくる。

人生の晴れ舞台。

たった数時間の披露宴や二次会で、その人の人生をずっとみてきたような気持ちになれる。

ご祝儀貧乏だよ、と苦笑するが、やはり、幸せをもらえる場所でこれ以上の場所はない。

主役の花嫁はもちろんだが、思い思いに着飾るきらきらした女性たち。

私の作品が彼女たちに貢献していると思うと、ちょっと誇らしい気持ちになった。

片手間でやる仕事量ではなくなってきて、丁度身体を壊したこともあり、会社を辞め、作品の製作・販売に専念することにした。


そして、恋人にプロポーズもされた。

返事は保留にしたが、恋愛の苦楽も味わったし、短いながらも社会で組織として働いた。

私は今までの人生にそれなりに納得していたし、結婚をして家庭を作る新しいステップに踏み出すことも、まあ、潮時かな、と思っていた。

そんな時、彼から連絡がきた、久しぶりに二人で飲まないかと。私は、なにに試されているのだろうか。


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