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私と彼  作者: oyoko
4/6

私と彼と衝動と

「まあ、気持ちはしょうがないんじゃない」


しばらくたって、そんな風に彼は言った。


「そうかな」


「じゃあ、その好きな人と今、つきあっているんだ」


「いや、その人は私が好きなこと知らないと思う」


その人は、今呑気に刺身に夢中になっているから。


「そうなんだ、告白、とか、しないの?」


「どうしようかね」


「悩んでるんだ」


「○○くんが、私の状況ならどうする?」


「どういうこと」


「私と同じような状況なら、好きな人に告白する?」


ああ。

あざとい。

と、頭のどこかでもう一人の私が私を批評している。

大学に入ってからだけど、短くない付き合いの、私を本当に大事にしてくれた彼を傷つけて。


そして、それが気にならないくらい、私は彼に夢中になっている。


いつの間にか。


「どうだろう」


「ほんと、こういう話は秘密主義だよね」


「悪いね」


思っていないくせに。


「でも、気持ちが離れたのなら、はっきり言ってほしいかな。○○さんにとっても元カレさんにとっても、よかったんじゃない」


「ありがと」


残っていた、レモンサワーを流し込む。


「やけ酒ですか」


「やけ酒ですよ、悪い?」


「いや、いいけど。面白いし。でも、ま、つぶれないうちに送るよ。」


面白い、か。

なんで私はこんな人が好きなんだろう。

気がついたら、刺身盛り合わせがなくなって、お頭だけになっていた。

いや、ほんとなんでだろう。

ふと見て酒に上気した彼の楽し気な気配にドキリとする。

こちらを見た一瞬の視線が、すごく優しい。




会計を済ませて、夜道を駅まで歩く。

大学に割と近い居酒屋は繁華街なのでがやがやしているが、一本道を入ると住宅地でしんと静まり返る。駅までの近道だ。

無言で二人でならんで歩いていて、ふと、彼が自分の歩調に合わせてくれていることに気がつく。

これだけ身長が違うのだ、歩幅も違う。

彼は、私が2歩歩くと1歩歩く。

踊るように、左右に触れながら、こちらの機嫌を窺っている風でもなく、ふらりと歩く。

もう、どうしようもなく、たまらない気持ちだ。



「どうしたの」



突然止まった私を、怪訝そうに窺う



「好き」



彼は止まった。



「付き合って、もらえ、ませんか」



最後の声は彼に届かないだろう、小さすぎる。私は、小さすぎるのだ。



「ありがとう」



届いた。


彼はまだ、何も言わず、こちらを見ている。

左右に揺れてはいない。

ああ。

しっかりとした瞳をみて思った。

拒絶されてはいない、でも今じゃない。

衝動に負けた気がした。

いたたまれなくて、私は彼の服の裾をちょっと握る。

もう、この場に崩れ落ちてしまいそうだ。

なんでこんな時だけちゃんと立つのだろう、この人は。



「思ってもみなかったから。返事、時間もらえるかな。とりあえず、今日は帰ろう」


ひどい、耳鳴りがした。この後、どうやって家に帰ったか覚えていない。


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