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私と彼  作者: oyoko
2/6

私と彼とカフェイン

「なんでこんなことすんの、ってなんで聞くの」


もう、こちらは自棄だ。逆ギレ状態だ。

彼は、ふうっと一息溜息を吐いて、私の手をひく。

そのままストンと二人で床に座り込む。目線が合う。

彼は片膝を立てて、私はおしりをぺたりとつけて膝の上で両のこぶしをぎゅっとにぎる。

彼は片手を私の頭にのせる。


「いって」


「やだ」


間髪いれずに私は答える。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


図書館の談話室の借用申請をしてから、二人でごそごそと資料を取り出す。


「どこまで、やってきた」


「いちおう、担当のところは。」


「なに、眠たそうだね」


「うん、まあね」


私はめったに夜更かしをしない、というか遅くまで起きていられない。

ゼミ合宿の時なんか、夜の宴会場でうたたね、のつもりが、気がついたら朝になっていたなんてこともあった。

今回、徹夜はしていないが、昨夜の資料作りのつけが、きちんときているようだ。


「みせて。なに、ここあいつらの担当じゃん」


「あ、いや、気になったところだけ参考になればな、と。それだけじゃ完成はしないし」


「ふうん」


「今日は、どうやってすすめていこうか」


「どうしましょうかね」


つまらなさそうな顔で彼はPCのデスクトップを立ち上げはじめる。

談話室は白い壁に数個のテーブルとイスのセットが置かれているだけの空間。

出入口のドアの先に書架が見えるが、亜空間に閉じ込められたような気分になる。


「とりあえず、何か参考図書もってくる」


そういって、彼は立ち上がった。


「寝ていてもいいよ」


そういって、彼はいたずらそうに笑う。


「失礼な、起きています」


そういって、強がったが、正直誰もいないこの空間はかっこうの居眠り場所だ。


「はいはい。じゃ、荷物よろしく」


そう言って、彼はふらっと空間の出口へと向かう。歩く後ろ姿も、やっぱり左右にゆれている。

そこまでは、見ていた。








カタカタカタ。キーボードをたたく音で目が覚める。ああ、やってしまった。


「おはようございます」


声がかすれる、どれだけ寝ていたんだ、私は。


「はい、おはよう」


黒縁のメガネをかけた彼の横顔が目に入る。視線はデスクトップの上のまま動かない。


「ごめん、私、どれくらい寝ていたの。」


「1時間くらいかな」


1時間、そんなに。


「申し訳ない」


目が覚めて、慌てだす。さすがに、これはまずい。

起こしてくれればよかったのに。

カタカタカタ、パタン。

彼はPCを閉じて、ちらっとこちらをみてから、鞄と図書を抱える。


「コーヒー飲みたくなったんだけど」


「はい、奢らせていただきます」


「いや、それはいいけど。あいつらも昼にはくるっていうし、席だけとっておいて、コーヒー飲んでもどったら、丁度いい時間なんじゃない」


そういって、さっさと歩き出す。

2・3歩進んで、こちらを振り返る。

いたずらっぽい瞳。

どうするまだ寝ている、とでも言うように。

私は慌てて彼を追いかけた。


彼は別に無口ではなく、普通に雑談もする。

大げさなリアクションや盛り上げようとおどけることはないが、いろんな話をふってくる。

人の噂話もけっこうする。


「あいつら、つきあってんのかね」


「ああ、あの二人ね。どうだろう」


ゼミ仲間で、たいてい一緒につるんでいる男女の2人組がいる。

二人ともゼミのムードメーカーで、イベント事などを仕切っている。飲み会とか、合宿とか。

ありがたい、存在だ。

掛け合いが漫才みたいで見ていて楽しい。

大学を出てコーヒーショップにむかう道すがら、並んで歩きながらそういったら、


「なんか、○○さんって回答がずれてるよね」


と笑われた。彼によると、普通はここで、二人が付き合っているのかどうかという談義になり、二人の掛け合いが楽しいからいいよね、という感想は言わないものらしい。

え、変かな。


「いや、変じゃないけど。普通、女の子ってこういう噂話好きで、もっとのってくるものなんじゃないの。」


「私も、人の恋愛話嫌いじゃないけど、むしろ、楽しいけど。」


「にしては、回答に興味がない、ってかんじがする」


「変わっていてすみませんね」


なにかがツボにはまったようで、彼は笑っている。

これまた、随分失礼な言われようだ。

だが、彼が言うとなんだか嫌味に聞こえないから不思議だ。

こういうタイプを愛されキャラというのだろうか、得な奴。

自由人のくせに。


「ふむ。まあ、なに考えているのかわからないとよく言われけど、でも、それ○○くんに言われたくないなー」


「なんで」


「○○くんも、何考えているかよくわからない、って言われるタイプでしょ」


彼はこちらをちらっと見て、足元に視線を落とした。


「まあ、ね」


そうこう話しているうちに、大学から最寄りのコーヒーショップについた。

流行りのチェーンのコーヒーショップで、大学も駅も近いということでたいてい混んでいるがうまい具合に空席がみつかった。

そそくさと空席を二人分確保する。


「何にする?」


「うーん、どうしようかな。カフェラテ。」


「じゃ、俺も」


そういって、彼は私の分まで会計してしまう。


「え、いや、自分の分払うよ。」


「いいよ、べつに」


そう言って、さっとトレーを持っていってしまう。慌てて追いかける。


「新作のフラペチーノ、とか、もっと豪華なやつじゃなくてよかったの」


「そういうのが飲みたい時もあるけど、こういうのが一番落ち着くから。眠気覚ましにカフェイン取りたかったし」


カフェイン、とこれもまたツボだったようでクスクス笑う。


「合理的だね」


「それほどでも。それよりお会計。」


「だから、いいって」


「目上の人か、彼氏にしか奢ってもらわないようにしているんですー」


「いいじゃん、べつに。じゃあ、資料作り頑張ったご褒美」


「なにそれ、上から目線」


確かに、彼のほうが格段と頭のできはいいようだが。いや、国家最難関の資格試験を目指す彼はもうずっと、時間があれば図書館にこもって勉強している。私がバイトや友達と遊んでいる間にもずっと努力しているのだ。以前、課題のレポートに悩んだときにはすごく細かく添削をしてくれた。


「まあね。彼氏いるんだ」


「まあね。一応ね。」


「どんな感じの人なの」


「まじめで、優しい人。素直で誠実。考えていることとか隠さないし、色々話せるから、よくわかりあえる感じがする。」


とはいえ最近、就職活動で上手くいっていない彼とは、ギクシャクしている。わかりあえている、気がしていただけなのだろうか。


「うまくいってるんだ」


「まあ、色々あるけどね。もういいや、ごちになります。」


そういって、両手を合わせてから、カフェラテを口に含む。せっかくの好意だ、ありがたく受け取ろう。氷で冷やされたキンとした感じで、目が覚める。


「冷たくて美味しい。○○くんは、彼女いるの」


ちらっと彼に目をやると、しらっと、教えない、と言われた。なんだそれ。貴様は、ゼミ筆頭の優秀かつ美人な子といい感じだと噂になっているぞ。彼女もまんざらではないようだ。ちなみに、この彼女、美人で優秀だけどちょっと変わった私の大事な友達である。


「何それ、人に聞いておいて」


「秘密です」


そういう感じが、家で飼っている猫がプイと顔をそむける仕草とよく似ていて、なんだか笑ってしまい、突っ込む気が失せてしまった。ちょっとした仕草が豊かな所が愛される由縁なのかもしれない、と冷静に思った。


その後、ゼミの皆の進路や、卒業旅行の予定の話などしていたら、あっという間に小1時間たってしまった。


「そろそろ、行こうか」


「そうだね」


席をたつ。遅刻の二人組はそろそろ来るだろうか、図書館へ向かう道はそれなりに人がいて、人込みに苦労して構内へ入る。


「○○くんの、進路は大学院に進学だったっけ」


「いや、そのつもりだったけど、院卒業しなくても予備試験通ったから、進学しないで、今年受験する」


「え、初耳」


思わず立ち止まる。


「初めて言ったもん」


にやりと彼は笑う。


「そうなんだ、すごい」


本人からも、もちろんゼミ仲間の噂話からもきいたことがなかったから、少し驚いた。


「教授には、ちょくちょく相談していたんだけど、チャンスだから。今年の試験を受けられるようになったから、すこし気合い入れてあと半年、こっちで勉強して資格とって、受かったら1年修習かな。」


「そっか。」


「院にいかないってことは、背水の陣ってかんじで、不安で、迷っていたけど決めた。早く社会に出たいしね。」


「すごいね、色々考えているんだ、すごいね。」


「すごいね、のサンドイッチをありがとう」


茶化さないでほしい、本当にめったにできる選択じゃないのだ。


彼は、いつも悩みを外にださない。以前あまりにも自分のことを話さない彼に、相談ってしないの、と聞いたら、助言がほしい場合に目上の人にアドバイスを求めることはあるけれど、たいていは言っても仕方のないことで自分が納得できればいいことだから、あまり相談はしない、と回答がきた。自己完結型らしい。


「そんなでもないけど、もっとすごい奴はいっぱいいるし。」


「そうかな、十分すごいよ」


褒めると、ちょっと相好を崩した。それから、まずい、気をひきしめなきゃ、みたいな顔になる。意外と表情豊かだ。


「○○さんは、就職でしょ。大変そうじゃん、社会人。俺はモラトリアム続行だから。」


「うん。とりあえずやってみたいことができそうなところだから。またいっぱい勉強だよ。」


「ちょっとなら、見てあげられるかも」


「○○くんの、専門とかぶるからね。でも、試験前に迷惑はかけられないよ」


「いや、別にそれは全然。いつでもどうぞ」


グラスが汗をかいてきた。風は秋めいているが、店内はすこしあつい。


「卒業したら、ゼミの皆とも別々に進んでいくんだよね。なんか、寂しい。」


ぽつりと零す。幼い意見だったろうか。彼を見ると、彼はぼんやりと私首元をみていた。青い鳥のモチーフを眺めているようにみえる。ふと、こちらを真っ直ぐ見る。視線がまっすぐあう。


「なんだかんだ、仲良くやっていたからね。○○さんも、新しい環境で色々あるんじゃない。新しい出会いもいっぱいあるよ。お互いがんばるしかないでしょ」


「そうだね」


図書館に着く。彼が、こちらに向き直る


「さっき見たら、○○さんの担当分はだいたい終わっていたし、あとはあいつらの分をまた待って、発表準備するだけだから、今日は帰って休んだら。」


「いや、悪いよ。カフェインご馳走になって、眠気も覚めたし。頑張るよ」


カフェインって、と彼はまた笑って、左右に2・3度揺れた。


「カフェインで元気になってなにより。発表担当は○○さんじゃなくて、俺らの担当だし。

あそこまで、資料作り頑張ってくれたら十分。また、なんか集まったりはするだろうから、今日のところは休んだっていいんじゃない。色々疲れているだろうし。じゃ。」


そう言い終わるとくるりと踵を返して、歩きだす彼の後姿に、私はちいさく、うん、と返した。返事が聞こえているかは分からなかったけど、今日はお役御免で大丈夫なようだ。下手に居座っても、発表担当の彼等の高度な議論についていけそうにもないし。

彼の後姿は、いつものようにふらふらとしたような感じではなく、未来への自信で少ししっかりしたように見えた。

姿が見えなくなっても、私はしばらく入口をぼおっと眺めていた。



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