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二人の冒険者

お久しぶり更新です。中々更新が安定せずスミマセン。

 俺とレティスが「政略結婚」を決めたことで、トントン拍子に話が進むことになった。

 エリスさんの予測の通り、メリアドールがそれに対して拒否の姿勢をとることはなかった。

 対抗派閥同士での婚姻はいままでなかったことではないが、今回は二大勢力の婚姻ということで、それぞれの派閥から抗議もあったらしい。だが、いずれもエリスさんとメリアドールの手によって、それらの声も小さくなっていった。


「オルド様、明日はレギンバッシュ家主催の舞踏会、来週はヴァルキード家主催の舞踏会となっております。いずれもオルド様とレティス様のお披露目の場ですので、オルド様にはご挨拶をして頂きます」


 説明をしてくれるのは、俺の家のスチュワードだった。やっと自らの主のために働けるからなのか、すっかり老いて萎びていた彼は、今や生き生きと燕尾服を纏い働いてくれていた。

 久々に帰ってきたレギンバッシュ家は、エリスさんの伝手で新たに召使いや料理人を雇い入れ、俺とレティスが生活するための基盤が着々と整えられていた。

 長年、スチュワードが管理しているだけだった邸宅に、新たな風が吹く。それは、俺と一緒に止まっていたこの屋敷の時が、動き出した瞬間でもあった。


 具体的に結婚の日取りが決まって来れば、エリスさんとメリアドールの連名で、議会へ……というよりも、女王陛下へ「オルド・レギンバッシュを当主として認めて欲しい」という嘆願書を提出するらしい。

 だけど、俺もレティスも実績が足りない。今から何かしらの成果や武勲を上げるというのも厳しい。というか無理だろう。

 そこで俺が探したのが、俺を助けてくれたという冒険者たちだ。彼らとともに短い冒険に出て、脅威となる魔物を討伐する。少しでも名に箔をつけるなら、もう時間的にもこれしかない。


「あぁ……そうだ」


 考え事で現実逃避をしていたが、俺の目の前には黒山になった紙の束がある。机に山のようにつみあがるのは、様々な手続きや制度、誓約書といったものだ。これだけで今日中に片付けないといけない量というからうんざりしてくる。家を背負うというのは、どうやら物理的な意味合いも含まれるらしい。

 中には、さっそく繋がりを持とうという貴族からの手紙もあり、読んで返事を書くとなるととてつもなく時間がかかる。これは、代筆専門の魔術師を雇い入れるべきかもしれないな……。


「あー……終わった……」


 たっぷり数時間かかり、書類を片付け終えると、すっかり夕方になっていた。正直今すぐにでも眠ってしまいたかったが、この後カルラが手を尽くして探し出してくれた、冒険者と会うことになっていた。

 お礼も兼ねてのささやかな晩餐だ。俺の要望wpきいてくれると、嬉しいんだけどな。


「もてなしの準備はできているかな」


 さすがに時間がなく、今回は俺も料理はできなかった。かわりに、ケインさん秘伝のレシピ集を渡しておいたから、大丈夫だと信じたいものだ。


「滞りなく。お料理の確認をなさいますか?」


「そうだな……いや、任せるよ。レシピ通りに作ってあれば大丈夫だと思うんだけど」


「一応確認しておきます」


 スチュワードが退出していき、俺は溜息をついた。夢が後少しで叶うという、妙な高揚感と、それを手にする方法への良心の呵責。結局、どんな綺麗事を重ねても、俺とランドルがとった方法は同じことだ。

 そのランドルからの報復がないのも、どこか不気味だった。

 部屋の扉がノックされ、新人召使いが入ってきた。名前は確か……。


「ラキュル、どうした?」


 そうだ、ラキュル・ラズベリーという、なんともおいしそうな名前だ。身分の低い、農民の生まれで、生家はベリー農家。快活で働き者の、いい子だ。


「お、お客様がおつきになりました!」


 ナルと比べたら可哀想だが、まだまだ修行中という感じだった。まぁ、俺も似たようなものなので、ラキュルの事を厳しく言う事はできない。そこらへんの教育に関しては、正直スチュワードにお任せだ。


「ありがとう、すぐに客間へお通しして」


「は、はいっ! 畏まりました!」


 ラキュルが慌ててお辞儀をすると、ふわふわの栗毛が揺れた。子犬っぽい。


「じゃあ、俺は先に行ってるから」


「はい!」


 そんなに恐縮しなくてもいいのになと思いつつ、駆けていくラキュルの後ろ姿を見送る。あれは、後でスチュワードに叱られるだろうな。

 俺は苦笑いを浮かべつつ、客間へと向かった。自分の家なのに、なんだか落ち着かないのは……生活の殆どをアペンドック家で過ごしてきたからだろう。忙しく動き回る召使いたちとすれ違うたびに、彼女たちは恭しく頭を垂れる。少し、むず痒かった。

 客間の長椅子に座って待っていると、程なくして扉がノックされる。俺は立ち上がると、入るように伝えた。


「オルド様、お客様をご案内いたしました」


 緊張からか上ずった声のラキュルが、扉を開く。

 案内されてきたのは一組の男女だった。


 一人はつるりと剃り上げたスキンヘッドの、大男だ。丸太のように太い腕、鷹のような鋭い眼光。まさしく歴戦の戦士という風体の男。

 もう一人、側に立つ女は、尖った耳に切れ長の瞳の、目の覚めるような美女だった。それもそのはず、彼女はエルフ族だった。

 この国にもいないわけではないが、エルフの大半は異次元に住んでいると言われている。残っているのは、各地に小さな集落を作り隠れ住む、はぐれエルフと、ほんの一握りの冒険者だ。


「あ……っと、よくぞいらっしゃいました。俺……私を、あなたがたが助けて下さったとききまして」


 俺が慌てて歓迎の意思を伝えると、目の前の二人は頷いたのだった。

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