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夕闇に染まる

今回短めです。

 キャロラインから気になる情報を入手した俺は、帰宅すると早速カルラに会いに行った。

 彼女も俺を待っていたらしく、カルラに用立てられた客間へと足を踏み入れると、立ち上がって出迎えてくれた。


「昨夜、ランドルが出掛けたそうだ。行き先は王城。誰と会っていたかまでは、残念ながら突き止められなかった」


「あぁ、やっぱりそうか」


「なんだ、キャロライン嬢から聞いていたか」


 カルラは納得したように頷くと、どかりと長椅子に腰を下ろす。


「……キャロラインが言っていたんだ。ケインさんの葬儀の前後、ランドルがよく出掛けていたって」


「ほう……キャロライン嬢も、ランドルを怪しんでいるのか?」


 カルラの問いに、俺は首を横に振る。


「違うだろうな。どちらかというと、俺の両親の死について兄が隠していたことを、悩んでいる様子だった」


「潔癖なことだな。これから先、貴族の騙し合いの世界を生きていけるのか」


 カルラは肩をすくめる。そこは俺も少し心配だけど、まぁ置いておく。


「そんなわけで、やっぱり引き続きランドルの交友関係は探るべきだろうね。それと……」


「なんだ、まだあるのか」


 カルラが身を乗り出す。俺は頷くと、口を開いた。


「レティスが言うには、ランドルがエリスさんに近々求婚するんじゃないかっていう噂があるって言ってた。それで、過激派の一部ではケインさんの事故が実は、事故じゃないんじゃないかっていう話も出てるらしい」


「……なるほど」


 カルラはそれだけ言うと、難しい顔をして腕を組んだ。


「……私も騎士団へ配属になってからは、社交界などの華やいだ場は遠ざかっていたからな。よし、その噂の出どころに関しては、私の方でも調べてみよう」


「助かるよ」


「期待はするなよ。そうだな……姉が一人、過激派の末端貴族を婿にとっている。正直研究の利権以外のうまみのない婚姻だったが、少し姉に力を貸してもらえないか聞いてみる」


「他の派閥同士での婚姻もあるんだな」


「……残念だが、あまり例はないぞ。姉とその夫の場合、何故か愛し合ってしまってな……家的には、研究の利権しかうまみのない、正直言って歓迎されない婚姻だ」


 貴族社会というのは、まだまだ俺の知らないことが多いらしい。

 いずれレギンバッシュ家を再興したい俺は、どれだけのことを学ばないといけないのか。


「その辺りのことは俺もあまりわからないから、カルラに任せるよ」


「仕方ないな。お前も少しはパイプを作る努力をするんだな」


 カルラは大袈裟な溜息をつく。それに関しては言い訳できないな。


「わかってるよ。じゃあ俺、今日はこれから孤児院へ行かなくちゃならないから」


「む、そうか。裏通りは歩かず、なるべく大きな通りを歩くんだぞ」


「わかってるよ、ありがとう」


 俺はカルラに礼を述べると、すぐ様部屋を後にした。

 今日は、次の週に誕生日を迎えるシスター・エリダの誕生日会の相談をするのだ。子供たちは、毎年ケインさんと手作りのケーキを焼いて、手紙を書いて渡していたらしい。

 それなら、と、俺とノエルも手伝うことにしたのだ。


「ノエル? 準備はできてるか?」


 ノエルの部屋をノックすると、扉が開きノエルが姿を現した。

 いつも通り、愛らしい笑顔で俺を出迎えてくれる。


「オルド! 遅いよ!」


「ごめんごめん」


 ノエルは希望の丘に通うようになり、少し大人びたような気がする。

 親がいなくても、支え合って強く逞しく生きる子供たちに、何か思うところがあったのかもしれない。

 でもそれは、虚勢というわけではなくて、自然な笑顔が見られるようになったといえばいいか。


「じゃあ、そろそろ行こうか」


 手を差し出すと、小さな手を俺に重ね合わせてくる。あたたかい。

 ここのところささくれだっていた俺の心が、ゆっくりと融解していくような。不思議な感覚だ。


「ノエルは可愛いなあ」


 思わず呟き、ノエルの頭を空いている方の手で撫でる。

 ノエルは真っ赤に頬を染め、唇を尖らせた。


「もー、すぐそうやって子供扱いする……」


「ノエルはまだまだ子供なんだから、もっと甘えていいんだよ」


「ダメなの。ノエルはね、早く一人前のレディになりたいんだから!」


 何が嬉しいのか、ニコニコと笑いながら俺を見上げるノエル。うん。天使かな?


「そうかー、レディかー」


 おっと、いけない。デレデレしている暇はない。

 希望の丘の子供たちが待ってるからな。

 俺とノエルは、連れ立ってアペンドック家の敷地を出る。


 既に夕刻が近付き、帰路につく人々の波に逆らうように歩く。

 石畳に伸びる影は、細く長く。もう少しで日の入りなのだとぼんやりと考えた。

 ノエルは上機嫌で、軽快な足取りで隣を歩いていた。俺は、そんなノエルの横顔を見て、とても満たされた気持ちになる。

 どんなに辛いことが起こっても、ノエルが笑顔でいてくれれば。俺は何度でも立ち上がれるだろう。それだけは揺るぎない真実だ。

 でも……この時の俺は知る由もなかった。俺がもう少し気をつけていれば。ノエルのこの笑顔が、曇ることもなかったのに。

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