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ただ前を向いて

孤児院回2。

 希望の丘へやってきた俺とノエルは、子供達とシスター・レインと共に食堂へと移動した。

 それぞれ座が決まっているらしく、子供達は大人しく着席した。

 ノエルは黒板の側に椅子を借り、そこにちょこんと腰掛けている。


「それじゃあ、一人ずつ自己紹介をしてもらおうかな」


 俺が子供達を見回すと、ジェミルが最初に立ち上がった。


「ジェミル・バースです。一応最年長で、ケイン先生の手伝いで他の子供達の勉強をみてやってました」


「ありがとう、ジェミル。他の子の苦手分野の時なんかに、俺も手伝いを頼むと思うけどよろしく」


「はい、わかりました」


 ジェミルという少年は、賢そうな顔をした金髪碧眼の少年だった。

 ケインさんの資料にも、座学に関してはかなりの秀才ぶりを発揮していると書いてある。どうやら、レイダリアの学院へ奨学生として行く算段を立てていたらしい。

 最高峰の教育を受けさせたいとケインさんが思うほどの出自なのかといえば、そうじゃない。

 両親は商人だったらしいが、交易のための旅先で不幸な事故にあって亡くなったらしい。確か、南方の島国だったか。

 島民全てが亡くなるほどの大規模な事故だったらしい。


 他の子供達も順番に自己紹介を始めた。

 双子の姉妹で、真っ白な髪に紅い瞳が特徴の少女たち。姉は魔術師を目指す勝気な少女で、妹は大人しい雰囲気でヒーラーか教会への道を希望しているらしい。

 名前はそれぞれ、テュリナとシャリナという。

 元々孤児であったらしく、この孤児院では一番の古株だ。


 次に立ち上がったのは、よく日焼けした肌が印象的な少年だった。

 ドイルと名乗った少年は、正直勉強は苦手だと笑った。

 座学より、棒切れを剣に見立てての打ち合いの方が楽しいと言い放つ。

 将来は冒険者として生きていくんだと瞳を輝かせていた。


 年齢にそぐわない眼鏡の少女は、名前をベリンダといった。

 特に苦手な教科もなく、成績はいい。ところが、彼女自身は控えめでこれといって将来の夢を語ることはなかった。


 最後は、七歳のテイルという少年と、六歳のクーリエ。

 兄と妹だ。二人ともまだ幼く、魔術の勉強はほとんどしていない。まずは公用語の読み書きを教えている最中だった。


「みんなありがとう。逆に、みんなから俺たちに質問はあるかな」


「はい、オルド先生!」


 勢いよく手を挙げたのは、テュリナだった。


「オルド先生は、魔術師なんですよね?」


「まだ見習いだけどね。この国で魔術師になるためにはいくつか方法があるんだけど、わかるかな」


「オルド先生みたいな貴族は、普通はご両親に弟子入りして学院で勉強をするんでしょ? あたしたちみたいな平民は、やっぱり学院で勉強をするしかないけど、水準は少し下がるって」


 テュリナの答えに、俺はゆっくり頷いた。


「そうなんだけどね。俺は両親が亡くなっているから、まだ見習いなんだ。普通は俺の年齢になれば家督を継いで立派な魔術師になっている……ってことも多いよ。まぁ、家督を継ぐのは女児だけどね」


「そうなんだ……」


 少なからず境遇が似ているからか、子供達の表情から徐々に緊張がとけていく。


「オルド先生」


 声を挙げたのは、ジェミルだった。


「僕たちは、レギンバッシュ家やアペンドック家の温情でこうして幸せに生活し、勉強や衣食住に困らずに今日までこれました。なぜ、ここまでして下さるんですか?」


「難しい質問だね」


 俺はジェミルの目を見つめた。ジェミルの瞳は不安げに揺れている。


「俺の両親は、魔術はもっと開かれたものであるべきだっていう考えだった。今のミリューの現状は、一部の貴族が秘術や研究を抱え込んで高い金を得ている。だから貧富の差が必要以上に生まれるし、君たちみたいに保護されるべき子達が苦労する。でも、君たちに才能があったら?」


 俺の言葉に、ジェミルの表情が驚いたように変化する。


「良くも悪くも、才能があれば王宮のお抱え魔術師も夢じゃない。この国で生きていく術になる。俺は、両親を尊敬しているんだ。だから、両親やケインさんがやりたかったことをやりたい。それだけだよ」


「でも……恩返しをしたい人は、もう……」


「そうじゃないよ」


 ジェミルの言葉を遮ったのは、ノエルだった。

 椅子から立ち上がり、真っ直ぐにジェミルの瞳を射抜く。


「パパ……ううん、お父様は、天国でみんなを心配していると思うの。お父様のために恩返しをしたいって思ってくれるなら……立派な人になってほしい」


 ふわりとノエルが笑う。ジェミルは一瞬泣きそうな顔をすると、すぐに微笑んだ。


「そう、ですよね……ありがとうございます、ノエル様」


「ノエルもね、お父様がいなくなって寂しくって泣いたけどね。お父様がたくさんの人に愛されてるってわかったから、そのお父様が心配しないようにがんばるの」


 胸を張って笑うノエルに、俺は胸が締め付けられる。そうさせたのは俺なんだ。

 本当は、もっと泣いたっていい。それでも、俺のエゴを押し付けた。笑っていてほしいというワガママを押し付けたんだ。


「僕たちも、ケイン様の教え子として恥じないように頑張ります」


 ジェミルが座り直す。他の子供達も、すっかり明るい表情で頷きあう。

 いつまでも悲しみに囚われているわけにはいかない。俺も。


「よし、それじゃあ前回のケインさんが出した宿題を提出してもらおうかな」


 俺の声が食堂に響く。

 後悔も自己嫌悪も、せめてこの子達が独り立ちしてからすればいい。

 俺もまた、越えることが困難な両親の背を越えなくてはならないんだから。

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