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クエスト

 城壁外周部で自然的に発生したスラム・マーケット。そこでみすぼらしい身なりの少年店主が、“市民”の集団に囲まれてリンチを受けていた。

「おい、やめろ! なにしてる!」

 偶然通りかかった柊野が声を荒げると、市民は統制された軍隊のように暴行を瞬時に止め、一列横隊に並ぶ。

 一番年かさの男が一歩前に出て、敬礼と共に答えた。

「大隊長閣下にご報告申し上げます! 我らカテドラル自警団、この子どもが先ほど、畏れ多くも聖女様を誹謗する言動を行っていたのを聞き咎め、制裁を加えておりました!」

「……」

 毎度のことながら、たじろぐ。どんなロールプレイをしているんだと問い詰めたくなるが、男の顔は真剣そのものだ。

 カテドラル周辺は短い間に数世紀も後退してしまったようだった。城塞都市に、絶対神聖君主、それを狂信し異論を認めない住民たち……まるで中世の宗教国家だ。

 答えに窮している柊野を助けるように、凜花が前に出る。

「ご苦労さま。少年の身柄はこちらへ渡してくれる?」

「勿論です!」

 市民は威勢のいい声で応えて、後ろ手に縄で拘束した少年を引き渡してくれた。敬礼で見送られながら、柊野達は歩き出す。さきほどの市民たちから見えなくなったのを見はからって、凜花が少年の縄を切った。

「ごめんね」

 言って簡単な治癒魔法をかけると、ボコボコになっていた少年の顔は元に戻った。塞いでいたその表情がぱっと明るくなる。

「すっげぇえええええー! これが《ヒーリング》ってやつか! おねーちゃん、ありが……」

 言いながら少年ははっ、となにかに気づいたような表情になり、言い直した。

「ありがとうございました。聖騎士様……」

 ぺこりと丁寧にお辞儀し、少年は駆け去って行った。柊野と凜花は顔を見合わせる。同時にため息を吐き出した。シューノはぼやく。

「こんな応対、ゲームの中にいた時だってされたことなかったぞ。なんなんだよ、大隊長って」

「シューノの役職でしょ。この間の会議で決まったじゃない」

「覚えがない……」

「ええー!? どうしてそんな重要なところで寝てるかなぁ……」

 凜花は呆れたと言わんばかりの眼で柊野を見る。しかしそれは、同級生であったときとは比べ物にならないほど親しみの籠もった反応だ。城塞都市で数週間を過ごすうち、二人の間の距離は急速に縮まっていた。

「まったく、実質シューノが騎士団のトップなんだから、もっとしゃっきりしてよね。最近のカテドラル、はっきり言ってやばい状況だよ?」

 守護騎士団とは、カテドラルを守る《プレイヤー》の集まりだ。その中でトップの実力を持っていたシューノが、自然にその長におさまったわけだが、だからといって何ができるわけでもなかった。全ての権力は、エーリエルにある。

「この間の会議で一応俺、言ったんだ。もっとカテドラルを広くしたらどうかって」

「広くって、つまり侵攻するってこと?」

「そういうと聞こえが悪いな……。安全圏を広げるってことだよ。俺達騎士団が犯罪プレイヤーを掃討して、城壁を外に広げる。こうでもしなくちゃ、どんどん生活環境が悪くなる一方だ。こんなに狭いところにこんなに人がいれば、おかしくなるのも当然だ」

「うんうん」

 わたしもそう思うよ――と凜花は頷いた。

「で、その大隊長閣下が進言あそばした侵攻作戦はどうなったの?」

「言う必要あるか?」

「だぁよね~」

 侵攻などもっての他、と聖女は切り捨てる。しかし、難民の受け入れは無限に受け入れるのだ。まっとうに考えれば、エーリエルの失策は明らかだった。普通ならば不信任決議でも起こって長の座をおろされそうなものだが、市民がエーリエルに寄せる信頼は“狂信”と言えるレベルだ。聖女が間違いを犯すわけがないと頭から信じ込んでいた。自然、憎しみはカテドラルに入ってくる難民の方へと向けられることになる。

「エーリエルさえどうにかなればな……」

「あ、不敬罪~! タイーホですよお兄さん」

「う……」

「冗談じゃなく、言葉には気をつけてよね。誰かに聞かれてたらホント、やばいよ」

「そうだな……」

 苦り切った表情で柊野は言う。いったい、どうしてこんなことになってしまったのか。 

 パンパンと凜花は手をたたく。

「はいはい。つまんないこと言ってないで、そろそろお仕事しましょうね、大隊長殿」

「俺だけサボってたみたいに……まぁいいや」

 けどその呼び方はナシだからな、と言って柊野は歩き出した。


 柊野達の任務は、ある事件の捜査だ。

 この数日、城壁内部で殺人事件が発生していた。市民、難民問わず無作為に殺すそのやり方は、市民側からは難民側のテロ行為に思われ、難民側からはその逆に、ただでさえ不穏な空気の漂う両陣営の対立を煽ってしまっていた。当然、事態を憂慮した騎士団はすぐに捜査に乗り出したのだが、犯人は相当の手練れらしい。捜査にあたった聖騎士は皆返り討ちにあってしまい、とうとう柊野のところまで仕事が回ってきたのだった。

 しかし手がかりという手がかりもなく、あてどもなくカテドラル内を歩きまわっているというのが偽らざる現状だ。その代わり、先ほどのような小さないさかいは数え切れないくらい解決できているといえばいるのだが……。

「情報持ってる奴は頭の上に『!』出してほしいよな……」

「あはは、ゲーム脳だなぁ……ま、同感だけどさ」

 ぼやきつつ、凜花は「すいませーん」と聴きこみに走る。初めは二人で一緒に聴きこみをしていたのだが、柊野の全身真っ黒のいでたちと愛想のない喋り方は相手を警戒させてしまうらしく、すぐに凜花から戦力外通告を言い渡されてしまった。柊野としては、自分と凜花の聴きこみにあまり差はないと思うのだが……。

 ――やっぱり女っていうのが大きいよな……。

 凜花から離れたところで難しい顔をして立ち尽くしていると、柊野の周囲にいた人々はそそくさと立ち去った。機嫌の悪そうな偉い人には近づかない、という実に合理的な判断だった。

 しかし、人が消えた途端、近づく影がある。

 柊野はコートが引っ張られているのを感じた。

「ん?」

「聖騎士様は、こーちゃんがいってたやさしい聖騎士様ですか?」

 見たところ小学校高学年くらいの女児が、柊野の服を引っ張っていた。

「あ……えーと」

「黒い聖騎士様はやさしいって……きいたんですけど……」

 対応に迷っていると、女児はうつむいてしまった。今にも泣き出しそうだ。

「あーその」柊野は慌てて声を出す。「こーちゃんっていうのがわからないけど、俺は優しい……かどうかはちょっと言い切れないな。でも、黒い聖騎士っていったら俺のことだと思う」

「やさしくないの?」

 不安げな瞳で見上げられていた。

「や、優し……くありたいとは思う」

「いまはやさしくないっていうこと?」

「う……」

 鋭い、と思った。この子は将来偉くなる。

 少女の前でたじろいでいると、どん! と急に横から突き飛ばされた。

「はいはーい! どーも優しい聖騎士屋でーす! おじょうちゃんは優しい聖騎士様になにか御用かなー?」

 凜花によるひどくぞんざいな攻守交代スイッチだった。しかし助かったとも思ってしまっていることが情けない。そうか、子どもと話すときはああやって目線を合わせるといいのか……。

「あのね、シスイ気になるの。この間シスイとお話しした聖騎士様、ぜんぜん見なくなっちゃったの」

「ぜんぜん見なくなっちゃった? ……その聖騎士様のお名前とかわかるかな?」

「お名前は教えてもらえなかったけど……」

 少女が語る騎士の特徴は、つい先日遺体となって発見された男とことごとく当てはまった。

「シスイ、心配なの。聖騎士様悪いやつを探してるっていうから、特別に“悪い魔女”のすみ家を教えちゃったんだ。あの聖騎士様がつかまって、シスイが“悪い魔女”のすみ家を知ってるってこと魔女に喋っちゃったら、シスイ、殺されちゃう……」

 柊野と凜花は思わず顔を見合わせた。ここにきて、やっと例の殺人犯らしき人物の情報を掴んだのだ。

 震える少女の手を取って、凜花は言った。

「じゃあ、お姉ちゃん達が様子を見に行ってあげるよ。シスイちゃん、お姉ちゃんたちにも場所を教えてくれる?」

「でも……」

 ちら、とシスイは二人を見て言った。

「あぶないよ……前のおっきい聖騎士様もやられちゃったかもしれないんだし」

「だーいじょうぶ」

 凜花はシスイの目をまっすぐに見つめて言った。

「人はね、何かが苦手なら必ずその代わりになる得意なものも持ってるものなの。このお兄ちゃんの場合は、すっごく年下の女の子ともまともにお話できないコミュ力の代わりに、誰にも負けない力を持ってるんだよ」

「真面目な顔で何言ってるんだ」

 思わず突っ込んでしまうも、シスイは何かに打たれたようにはっ、とした表情をしていた。そして言う。

「ついてきてね」

「……」

お読み頂き感謝です♪

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