友情のために 終
美しく微笑んだと思えば、翔は刀を振り上げた。
そして最初に美咲が斬られる。
訓練なんてしていなさそうなのに、美咲の綺麗な肌に、少しの傷も残しはしなかった。これほどまでに鮮やかで、流麗で、恐ろしい剣捌きを私は見たことがない。
「おや、失敗してしまったようです。これは運命のお告げということでしょうか」
確実にわざとであることは、ここにいる誰もが知ることだろう。
けれど一応はこの無駄な流れが必要なのだ。
次は私の番だわ。
不思議と恐怖はなくて、冷静な気持ちで近付いて来る刃をただ待った。
偶然、美咲は死刑執行が失敗してしまったようだが、同じように私も失敗されるとは限らない。
自信があるから自らやると申し出たのだろうが、そう簡単なことではないだろうし、きっと翔は普段から剣を握っている人ではない。
剣術は見事だったが、慣れというものは感じられない。
それに、私には特別な何かを思ってしまっているようだから、気が変わって惨く殺してしまいたくなるかもしれないわ。
何にしたって、美咲が生きてくれるならば、私は構わないわ。
なのだけれど、最後に未練を残させるのだから、翔は侮れない憎き天才軍師だ。
これまでの私が死ぬその瞬間、目を閉じたときに、チラッと見えた彼の瞳には涙が添えられていたのだから。
「ねえ、ゆきたん、正しい道ってあったのかな。どうしたら良かったのかな」
「さあ、どうなのかしら。正しいってどういうことなのか、私には……」
「りんたんとあーたんは、それに仲間たちだって、あたしのせいで死んだの」
「いいえ、美咲のせいで死んだのではないわ。美咲のことが大好きだったから、美咲のために死んだのよ。たまたま生きることが許されたけれど、死ぬ覚悟も持っていた私だから、そう確信を持って言えるわ」
優しい美咲は辛そうに、だけど笑って言えるの。
「それじゃあ、ずっと忘れないでいようね。だけど悲しくなんかなくって、あたしたちはちゃんと、幸せにならないとね」って。




