忠義のために 終
美しく微笑んだと思えば、翔は刀を振り上げた。
そして最初に美咲が斬られる。
訓練なんてしていなさそうなのに、酷く鮮やかで速やかに、返り血も浴びず美咲を斬った。慣れているようではないのに、経験がないにしてはあまりに上手い。
あぁ、斬られても、美咲はやはり可愛らしいままだ。
まるで赤子が母親の腕の中で眠っているよう。健やかで、無垢で、無邪気で愛らしい。
次は私の番だわ。
不思議と恐怖はなくて、冷静な気持ちで近付いて来る刃をただ待った。
美咲のところに行くだけ。そう思ったら、喜びの方が大きかったくらい。
なのだけれど、最後に未練を残させるのだから、翔は侮れない憎き天才軍師だ。
私の全てが終わるその瞬間、彼が泣いているように見えてしまったのだから。
”ねえ、ゆきたん、正しい道ってあったのかな。どうしたら良かったのかな”
”さあ、どうなのかしら。正しいってどういうことなのか、私には……”
”りんたんとあーたんは生きてるけど、幸せに暮らせてるかどうか”
”あんな場所じゃねぇ。私たちのために、生きていてはくれるでしょうけど”
優しい美咲はそれでも笑顔で言えるの。
”いつかあたしたちのことを忘れて、幸せになってくれたら良いね”って。




