第九話
私の思惑通り、翔は私を疑ってくれているように思う。
どれほどまで私を優秀だと思ってくれているのかしら。
それによって、翔が私に施す、見張りや対応などが違ってくるでしょう?
上手く私はそれを見極めなければいけないという訳ね。
馬鹿な賊ならば騙すのは簡単だった。書物を暗記したり、問題に答えたりすることは簡単だった。
だけれど、こうして実際に騙し合いをするのは初めてで、さすがの私でも不安を覚える。
父上に天才と称えられるほどの、超天才軍師翔様は、私にどんな策を仕掛けてくるのかしらね。
「今はそれを信じるというのも面白いかもしれませんね。美鈴様のお体が危険に晒されでもしない限り、ボクは罠ではないと信じていましょう」
余裕そうな表情を浮かべてはいるけれど、相当私のことを怪しんでいるようだわ。
すぐに動いてはこないでしょうから、私は時間を稼ぐとしましょう。
その途中に、本当に何も用意していないことを知られないように、それらしきことをするしかないわね。
何が目的だか分からない行動を、なんの目的もなく行う。そうすることにより、相手は警戒を強めることでしょう。
更に軽率な動きを取りづらくなるわ。
私は何をする必要もないの。ただ、怪しくあれば良いだけ。
楽な役割ね。体を張って皆を逃がした甲斐があったわ。
「おや? 私を檻に捕らえないのですか」
牢獄での暮らしくらいは覚悟していたのだけど、それすら必要なかったらしい。
普通に客人を受け入れるかのような、綺麗に整った部屋が私には用意されていた。
「敵の軍師を疑わない訳がありませんが、幼い少女を檻に閉じ込めるだなんて、ボクにはそのようなこと出来ません」
目的は他にあるのだろう。もしかしたら、私と同じように目的がないのかもしれないけどね。
なぜかひどく冷静な思考で、他人事のように考えながら、私は用意された部屋へと入った。
さすがに部屋の前に見張りは着いていて、自由に出入りすることなど出来ない。とはいえ、あまりに自由がある。
私ではなく、もっと強そうな男性ならば、牢屋に入れるだけでなく、手足を拘束されることだってあったろう。
それとも、その場合でも客人のような持て成しをするか?
私に情けを掛けるなんて、私がそんなことを許したくないし、翔はそんなことをするような人じゃない。
まさか翔の噂さえも私が知らないとでも思っているのかしら。
しかし私の情報網を褒め称え、買い被っている翔のことだから、侮り油断することなんてないのでは。




