第八話
そう、翔の”せい”なのよね。
私は別に、翔の”おかげ”だなんて決して思っていないわ。
だってそれは、私を否定してしまうことになってしまうもの。
誇りの高い私は、自分で自分を否定するような真似、絶対にしないのよ。
それはたとえ、どんな状況であったとしてもね。
むしろ苦境であればあるほど、私だけは私を褒めてあげないと思うから。
「そうですかね。こうも考えられますよ? 何かの罠を成功させる為、わざとボクに捕まった。なんてね」
わざと捕まるだなんて、何を言っているのかしら。
この私がそんなことをするとでも?
その作戦自体は考える可能性もあるけれど、あそこには父上だっていたのよ。まさか、そんな勝手な行動をする訳がないじゃない。
父上の名前に傷を付けるような真似だけは、したくないもの……。
作戦を実行するにしても、相談くらいはする筈だわ。
あの状況じゃ相談をすることも出来なかった。だけど私は、凛に時間を稼いで貰ってでも、父上に一旦は相談するでしょう。
そして忍び込むにしても、私は一人で行きはしないでしょうね。
不安にならないように、美咲と一緒に行きましょうか。それとも彼女が姫という立場にあることを考え、単なる護衛として明を連れて行くか。
何にしても、たった一人で来たりはしないと思うの。
自信はあるわ。賢いだけじゃなくて、私はそれなりに力もあると思っているわ。
だけどあの怪物どもに比べたら、それなりに過ぎない力では、戦おうとも思えないわね。
まあ、私の性格が分かっていたら、一人で潜入なんてありえないと思えるでしょうけれど、翔にはそこまでの情報がないのでしょう。
彼の情報網は凄まじいわ。
知らないことなんて、何一つとしてないのではないかと思わせる。
だけれど、どんなに情報があったところで、初対面の私の性格なんて知らないに決まっている。
私ならどうするか。それは、情報では推測出来ないことよ。
「そんなことはしませんよ。軍師役の少女が、自ら、たった一人で罠を仕掛けるでしょうか? そのような危険を買う行為は致しません」
翔が私を疑ってくれているのなら、それを利用するというのも手よね。
とりあえずは、皆を逃がすことに成功した。
しかし皆は私を助ける為に、ここに戻って来る筈だわ。
それは私の独り善がりではなく、確信を持って言い切れる絶対的なことよ。
そのときまで耐えれば良いだけね。
私がいなくても、父上がいる。父上と大将がいる。
もう軍があるようなものだわ。
私を捕らえる為だけに、他の全員を逃がしてしまうなんて、翔にも残念なところはあるのね。
確かに私は優秀だけれど、少し買い被り過ぎじゃあないかしら。




