第八話
「うわぉ、美咲よりも強いんじゃ……」
私の命令通り、躊躇わずに斬り殺した明を見て、大将は驚いたように呟いた。というか、驚いているのでしょうね。
当然よ。
美咲の強さだって十分に怪物だというのに、明なんて本当に異常だわ。
だって私も弱い方じゃないのよ?
それなのに、怪物二人に囲まれては、貧弱な幼子のようじゃない。
「どんな罠があるか分かりませんから、すぐに逃げましょう」
幸い鍵はこの檻のものだったらしく、呆気なく二人を救出することが出来た。
ここまで簡単だと、ちょっと物足りなさを感じてしまうくらいね。
「行くわよっ」
一番不安を感じていて、早く逃げたいと思っていたのは、美咲だったらしい。
笑顔のままだったけれど、すぐに美咲は窓から飛び降りて行ってしまった。
って、行くわよじゃないでしょうよ! 高さを考えたら、飛び降りるのは少し辛いところがあるんじゃないかしら。
少なくとも、私にはそんなこと出来ないわ。
「私が受け止めるから、皆も飛び降りちゃったら良いじゃない!」
下から大声が聞こえてきた。
受け止めるって言われてもね。そんな、飛ぶ側も受ける側も危険じゃないの。
さすがに美咲は姫、そこまでやらせる訳にはいかないわ。
「ありゃ危ない。俺も下に行くから、それでどうだろう。強さは変わらないだろうが、力だったら俺の方が強いと思うから」
それだけ言うと、明も飛び降りてしまう。
高さを考えなさいっていうのに、本当に馬鹿ばっかりで困ったものだわ。
「美咲はどいていて! じゃあ明、しっかり受け止めてよねっ!」
覚悟を決めてそう告げると、私は下で待機している明を目指して窓から飛び降りた。
怖い。それなりの高さがある、窓から飛び降りるそのことに、私は少なからず恐怖を感じていた。
それでも明のことを信じた。
「軍師殿、大丈夫でしたか?」
力強く受け止めてくれて、珍しく敬語で明はそう問い掛けてくる。
これは、なんなの? 私をキュンとさせようとしているのかしら?
でもまあ、無事に飛び降りることが出来たっていうことで良いのね。
「僕も行きます。お願いします!」
次に飛び降りてきたのは、凛だった。
彼女のことも、軽々と明は抱き留める。
「先生、僕、結構……怖かったです。戦を駆け抜けんとする身のくせして、情けないですよね」
ブルブルと震えながら、涙声で凛は私に救いの手を求めてきた。
この可愛らしさは、美咲には感じられないところよね。ああ、可愛いわ。
美咲にしか可愛さは感じないと思っていたのに。




