第七話
「私たちの存在がバレる前に殺せとでも仰るのですか?」
この質問は師でもある父上に向けてではなく、弟子の凛に向けてのものだったのかもしれない。
だけど私は変に意地張っている場合でもないので、答えをくれるのなら凛でもいいからと、私は問い掛けた。
この中の誰も確実な答えを持っていない。
それくらいのことは、理解した上でよ……。
「来た」
父上が小さな声で呟く。
その呟きを聞いて、反射的に私は身を隠す場所を探した。そして、簡単な物陰へと一旦身を潜めた。
美咲が私に付いてきて、明も凛を担ぎ上げて急いで隠れた。
三人を裏に隠すと、一番前で私はその様子を覗き込んだ。
人数としては二人。この程度ならば、一斉に襲い掛かれば、確実に勝つことが出来るでしょう。
しかし、殺してしまってもいけないのだとしたら?
凛が言っていたように、異常事態を知らせる為の機器があり、奴らにしか分からない合図があるのかもしれない。
そうしたら、たとえあの二人を殺したとしても、瞬時に追っ手が沢山現れるということだ。
脱獄に成功する確率は、格段に下がってしまうでしょう。
どうしたら良いのか。
最善の手を考えようと、私は二人の男性を、目を凝らしてじっと見た。
何か、何かあるかもしれないわ。
腰元には確かに鍵がぶら下がっている。
あの鍵が、父上たちの囚われている牢屋のものとは限らない。それでも、試してみる価値はありそうね。
だとしたら、あの二人がいなくなる前に決断しないとよね。
そもそもあの二人をただ見ているだけにしろというのなら、父上は最初から、何も言わなかった筈よ。
ただ、見張りが来るから隠れろ、とだけ言ったでしょうね。
「明が適任でしょうか」
私の声を聞いて、明がこちらを見た。
「バレることがないように、背後から殺して下さい。躊躇うことはありません。あちらを向いた瞬間に、静かに素早く、お願いします」
小声で淡々と、私は告げた。
それに対して小さく頷いた明は、緊張した面持ちで刀に手を掛け、私と場所を入れ替わった。
あとは彼に全てを架けるしかないわね。
でも本当にこんなことでいいのかしら。
もしかしたら、見張りの死を察知して、凛の言う機器というのが反応してしまうかもしれないわ。
それがどんなものなのか分からない以上、どうしたら良いか分からないわよ。
何をするのが正解なのかしら。
父上は、私を試しているの?
それだったら、私が選択を誤ったときに、それを補うだけの算段があるのかしら。
慎重な父上だもの、それくらいしているのよね。




