六話
しかし、余程のバカなのだろうか。
ここは大将が治める地だというのに、大将の娘である美咲のことを知らないなんてね。
大将の可愛がりっぷりは物凄いから、美咲だって結構人々の前に立たされたりしているんだけどね。
「あたしのことを知らない訳? 信じらんない。知らないんだったら教えてあげるわ」
美咲の怖いもの知らずレベルは、さすがの私だって呆れてしまうレベルかもしれないわね。
「梶原颯太の娘、梶原美咲よっ! さあ、覚悟しなさい」
カッコ良くそう名乗ると、盗賊たちを睨み付けながら美咲は剣を抜く。
「姫ちゃんかい? はっはっは、思わぬところで美味しそうな獲物が来たな」
まあ、相手が普通の姫だったらそう思うかもしれないわね。
でも美咲は違うわ。そんじょそこらの姫とは違って、物凄いバカ力と武術を持っているんだから。余り舐めて掛かると、大勢の成人男性だって負けかねないわよ。
「五月蝿いわね。笑ってないで、余裕ぶったって無駄よ。弱い者苛めして自分の弱い力に自惚れているような奴に、あたしは絶対負けたりしないんだからっ!」
走り出した美咲は、一瞬のうちに盗賊たちのことを切り殺してしまった。
「ちょっと美咲!! 何てことしているのよっ!」
達成感たっぷりの顔をしている美咲に、私は駆け寄って行って怒鳴りつけた。
「いくらと盗賊とは言え、殺したりしていい訳ないでしょ?」
どのような状態だとしても、殺すという行為は人にいい影響を与えたりしない。
「……っ。だって、だって……」
私の怒られたことに余程驚いたのか、美咲は涙目で怯えてしまっていた。
「姫様は私達を助けてくれたのです。だから、怒らないでやって下さい」
お爺さんが私にそう言って、それに続いてその場にいた村人たちは祈り始めた。