第六話
「罠じゃありません。父上、どうしたら信じて下さりますか」
「ここから逃がしてくれたなら、信じてあげよう」
付き合ってあげる為に棒読みながらにそう言うと、父上からは少し意外な答えが返ってきた。
でもそれだったら、普通に一緒に逃げようと、そう言ってくれればいいじゃない。
そんなところも父上らしいようで、ちょっとめんどくさいなとも思ってしまったわ。
「ならば、父上に信じて頂く為に、ここからお連れ致しましょう」
どう対応していいか迷ったけれど、私は普通にそう言った。
ただ逃がしてあげるとは言っても、どうしたらここから逃がすことが出来るのだろうか。
その方法が分かっているならば、私だってとっくにそうしているわ。
「こんな檻くらい、折り曲げちゃえばいいじゃない」
檻だけに? 美咲の言葉にそう続けようと思ったんだけど、本人は全くそのつもりがなく言っているみたいだから、やめておいた。
恥ずかしくて、弁解の為に大声を出されでもしたら困るわ。
「鍵がどこにあるか、ここでご覧になっていて、ご存知だったりするのでしょうか……」
本気で言っているみたいで、美咲は檻を本当に曲げようとしている。
それは放っておいて、私は父上にそう問い掛けた。
「これくらいの時間になると、鍵を持って見張りがやってくる。もうすぐだろうから、それを倒せば良かろう。ただ、通報される訳にはいかない」
それだったら簡単じゃない。
私はそう思ったんだけれど、父上はなんだか深刻そうな表情をしていた。
通報。その言葉に何かあるのだろう。
「出来るだけ、脱走していたことは隠しておきたく思う。逃げる時間を稼ぐ為だ。それくらいのことは、雪絵だって勿論、分かっているだろう?」
試すように、父上はそう言ってくる。
でもそんなこと、当たり前よね。一日でも逃げたことを隠しておければ、結構な距離を逃げられるんじゃないかしら。
ただ、そんなことを言い出すのにはきっと意味があるのでしょう。
ここから先は自分で考えろということだろうか。
父上は、もう何を喋る気もないらしい。どういうことなのよ。
「全体に異常事態を知らせる為の機器でもお持ちなのではないでしょうか。香山の軍は技術が発展していると聞きますし、それくらいのものを持っていても、不思議ではないと思います」
首を傾げていた私に、隣で凛がそんなことを言ってきた。
どうやらこの考えが正しいかどうか、私に採点を求めているらしい。
でもダメね。凛の意見がダメって訳じゃなくて、私もダメよね……。
凛のその言葉に、私の方が感心してしまっているもの。もう弟子に抜かされちゃったみたい。




